三十話
その日は警察官たちもピリピリしていた。オリンピック開催を控え、コロナ禍でいるというのに警備計画のために警察幹部はオンライン会議を余儀なくされ、特危獣への対策で批判も起きており、風当たりも強くなっていたからだ。
神奈川県知事、白石による緊急事態宣言もコロナウイルスによって連発されたせいもあってか人通りは減ることなく、学校への登校は急遽、取り止めとなったが所謂、エッセンシャルワーカーと呼ばれる者以外の人達も出勤を余儀なくされていた。
昨夜から続く、幕山迷宮に関する警戒だが、日本にある迷宮は幕山迷宮だけではない。そして、経済活動をお願いベースで止められるはずも無く、コロナウイルスへの感染と特危獣に襲われるリスクを抱えながら各々が仕事をしていた。
経済連も宛にならない政府を見放し始めており、また第一波の時に導入されたテレワークも解除され満員電車の中、出勤している者も多い。それは単に昭和の価値観を持った上司と監視していないと従業員がサボるという経営陣の固定概念からくるものだが、簡単に変えることはできていない。
それよりも可哀想なのは学生だ。一生の思い出になるはずの修学旅行が中止となり、日帰り旅行に変更されたり、部活動の大会が延期されたり、中止されている。そして、甲子園を目指した球児の為に高野連が甲子園の土をプレゼントしたが、フリマサイトなどで販売される事態となっており、大人達は子供の心情を理解しているとは言い難い。
大学生はもっと悲惨だ。入学金を支払い、施設使用料を払っているのに実際に登校できる日は少ない。コロナ禍による理不尽を受け入れるのも大人になれば幾らでも理不尽なことがあるのだから必要とも言えるが、それでも勉学に励もうと進学した者にはあまりな仕打ちだろう。
結局の所、現行法下では自粛する人は自粛するし、遊び回る人はどこまでも身勝手に行動し、罹患して医療機関に駆け込むことになるのだ。日本の中等症状は海外の重症に分類されることも理解しなくてはならないだろう。
肺炎になれば長距離を走った直後の様な息苦しさを感じ、医師の中には肺炎だけにはなりたくないと言う者も多い。人工呼吸器を着け血中酸素濃度を管理するためには入院する必要があり、そして病気はコロナウィルス罹患だけでなく、事故による怪我や他の病気もある。
罹らないことが第一であり、重症化しやすい基礎疾患を持つ者や高齢者は注意が必要なのだ。そして、定年を七十歳にする動きがあるがそれ以上の年齢もしくは早期退職をして悠々自適な生活をしている者に医療ソースを割当てる余裕はない。
酷かもしれないが海外では、命を選択することも行われており、耐えきれず医療従事者を辞める者もいる。ただでさえ、医師や看護師の長時間労働は問題視されてきた。
医療費を抑えるために日本は公立病院の数を減らしていたり、薬価や診察料を下げることで調整しようとしてきたために昔の様に医者になれば儲かるというものではない。
院の経営が上手くいかず、自営業を辞める者もおり、院の経営に必要な費用を借金して賄っていたりするとその医師は地獄を見ることになる。そして、様々な問題から医局制度が問題視され若手の医師が所属しないこともある。
奨学金を貰っていたことによって離島医療や過疎地医療に携わる医師はその地域に住む者にとって欠かすことのできない人材なのだ。閉鎖的な環境から余所者を嫌う傾向も強いが、医師がいなければ困るのは自分たちなのだ。
少しでも熱の症状があると診療を断る個人医院もある。罹患者から感染することによってその医院を閉鎖せざるおえないために死活問題であり、そして地域の医療を担う医院が閉鎖されることによって医療を受けられなくなるのは確かに問題だ。
日本は公立病院よりも私立病院の方が多く、感染症認定医でなくともコロナウイルスに感染したくないという気持ちは理解できるが、医師の応召義務に反するのでないかと言う議論がある。
発熱だけで拒否することは義務違反となる可能性を孕んでいるが、適切な機関へと引継ぐことによって診療をしなくとも義務違反でないという政府方針が示された。
医師や看護師は専門的知識と技術を要する職で簡単に増やしたり減らしたりすることはできない。コンビニよりも多いと揶揄される歯科医院であっても当時の情勢では患者よりも医師の数が少なくて社会問題になっており、現代では数が多くとも歯科医が高齢化し、これから引退する者を考えれば過剰すぎるということもなく適正化されるだろう。
緊急事態宣言やまん延防止宣言によって二十時以降に居酒屋が酒類の提供ができなくなったことによってコンビニやスーパーで購入し、路上飲みをする者が増えたことは頭が痛い問題だ。
煙草であれば受動喫煙防止の観念から路上喫煙は禁止されており、市区町村が定めた喫煙所以外の喫煙は迷惑防止条例違反となるが、飲酒運転による死亡事故が問題視される世の中になっても路上で飲酒を禁止する法的根拠がないのだ。
それは余程の理由がない限りは成人の夜の外出を制限できないということでもある。コロナ禍となってから若者やサラリーマンとの諍いが増え、自宅に居る様になったことから近隣トラブルも増えているが、警察官は減っている。
それに署内でクラスターが発生してしまえば警察権を執行し、治安を維持する警察官が職務に就けないことになる。犯罪率の上昇は初動捜査においてミスを誘発し、冤罪や犯罪者を逮捕できない事態になりかねない危険を孕んでいるのだ。
そして、魔物の出現によって給料と労働が見合わないと見切ったものから辞めていく。警察官を退官した後に警備会社の顧問として務められるのはキャリアくらいで一般の警察官は現場で働くことになるだろうが、懲戒解雇でもない限り警察官を務めていたという信用は大きいのだ。
密にならないように警備をするのは難しくマスクをしているのが辛い季節もやってくる。まだ気候が安定しているから良いが、夏の日本でオリンピックをやるなど正気の沙汰ではない。
通行止めにし町の防災無線を通して周知しているが、この町には小田原警察の派出所があり駅前に分署があるだけで基本的には小田原警察の管轄なのだ。県を跨げば更に厄介だ。神奈川県警と静岡県警の仲が悪いということではないが、下っ端の警察官は地方公務員である。
そのために原則的には県内での異動はあっても県外へと異動することはない。警視正となり国家公務員として扱われるキャリアなら別だが、大半の警察官にとって無関係な話であり、そこには縄張り意識というものがあるからだ。高速が県外を跨いで走っていると更に厄介で、緊急走行をしているパトカーを他県のパトカーが検挙し、有罪判決を受けることもある。
それに国道一三五が走っているせいか東京方面へ向かうもの静岡方面に向かうものなど湯河原町を経由していく。幕山に通じる道のみの規制ではあるが、鍛冶屋でも中央よりなのか幕山寄りなのかによって家から出入りしにくくなるという事態が起こる。
住民に関しては免許証の住所によって通行が許可されているが温泉街であり年寄りの多い湯河原町から大勢を避難させるというのは現実的ではないのだ。それに避難先でクラスターが発生していしまえば目も当てられないことになる。
コロナ禍が浮き彫りにしたのは知事や政治家達の危機管理能力だろう。白石はビジネスには強く顔が知られているのかもしれないが、有事の際には置物の方が役に立つだろう。
神奈川県が迷宮対策のテストケースにされているのは確かに不運なことかもしれないが、神奈川県でなくとも日本全国に迷宮は現れており、寧ろ神奈川県は攻略難易度は低い方であるとされている。富士迷宮の様な例外もあるが、世界的にみれば首都に現れる迷宮は国内では難易度が高い傾向にある。
まだ迷宮が成熟していないために覚醒者になったばかりの自衛官が迷宮を攻略できたという側面は強い。逆説的には時間が経つほどに迷宮は成長するために生活圏にある迷宮はなるべく早めに攻略しておきたいというのが政府関係者の本音だろう。
正直に言えば夜勤が終わりかけてさあ寝るかとなった時に勤務が延長になり、疲労と精神的な余裕がない。自衛隊の特警隊が指揮を執り、警察は規制線の外側で頑張るだけだからこそまだ何とかなっているのだ。
非殺傷兵器の使用は警察庁から出向してきている明石警視が判断することだが、DTuberがカメラ片手に規制線の内側に入ろうとするのを阻止するのは容易いことではないのだ。
彼等は幸運なのか冒険者資格を持った覚醒者だ。警察官も任意で覚醒者になるための研修を受ける事ができ、覚醒だけはしたが、実力は最低限のものでしかない。それに非覚醒者の警察官も勿論おり、町内に散らばって巡邏をしているが、警察官が犯罪者を制圧できないという事象も現実に起きている。
その際にはSATが出動し、特警隊が出動待機してたために事なきを得たが、日本人のモラルは昔ほど良いものでなくなってきているというのが事実だろう。そうでなければ山北で過去に起きたBBQ中の集団が増水によって流され死亡する事件も起きなければ車に放置され熱中症で子供が亡くなる痛ましい事件も起きていないだろう。
クラクションを鳴らされまた文句を言われる。説明をしなくてはならないのは現場の警察官であり、何かあると税金泥棒と言われる。階級としては巡査長で巡査長は正式な階級ではない。
巡査として長年、貢献してきた者を巡査長としており、昇進するためには昇任試験を受けて合格しなくてはならないのだ。そして、司法巡査と司法警察員では法的に分類がなされており、特に逮捕状の請求は警部以上に限定されており、現場の判断は尊重されるものの現行犯でも逮捕の判断は上司が行うことになる。
税金泥棒という人に限って失礼かもしれないが、それほど税金を納めているとは思えない輩が多い。それに給料の原資は確かに税金かもしれないが公務員だって税金を納めているし、仕事の対価として給料を貰っているに過ぎないのだ。
厳密に言えばクラクションを無闇矢鱈と鳴らす行為は道交法違反となり、脅迫罪や強要罪または公務執行妨害にあたる可能性がある。それに封鎖を決めたのは知事であってそれも法律に則って行政手続きがされている。
現場の警察官に文句を言っても詮無きことであるし、何なら被害が出ても賠償を請求しないと誓約した上で好き勝手にして貰えば封鎖をしなくて済むのだ。喉元過ぎれば熱さを忘れるというが魔物によって被害が出たことを忘れたのだろうか。
利益を得たい企業が冒険者になることを推奨しそれに、忖度したテレビや情報誌が迷宮熱を過熱させているが、現時点で三十代の者はアスリートでも迷宮に潜るのは危険だし、実際に経験豊富な警察官や自衛官でも負傷している。
覚醒することである程度は誤魔化すことはできるが人生の一発逆転を狙って冒険者になるのは遅すぎて高卒の十八歳では経験がないために危うい。そうなると二十~二十代後半が冒険者に適した年齢となるがその年代はこれからの社会を担っていく人材であり、簡単に失って良い年齢層ではないのだ。
高齢者を迷宮に放り込んで処理するのも現実的ではないが、国が管理することには一定の合理性があるように感じる。そして、文部科学省は迷宮利権には直接は関われていないが、冒険者学校への認可を出すことによって天下り先を増やそうと画策しているらしい。
高校は義務教育ではないが、高校を卒業していないものは就く職業が著しく制限されるのが日本だ。そして、十五~十八歳の若者を冒険者にするのが目的として商業高校や工業高校の立ち位置を狙っているらしい。それと並列して専門学校を設立させることも官僚たちの思惑の一つになっていると噂されている。
十八になれば選挙権が認められ喫煙や飲酒こそ十八歳ではできないが、親から独立して権利の行使を認められる年齢となる。社会の悪意から守るのは大人の務めであり、十八歳では大人であるとは言いきれない。
かと言って二十歳になれば自動的に大人になれるかと言えば疑問が残り、そうでなければアダルトチルドレンなど生まれないからであり自覚を促していくことしかできることはないのだ。それに短期間・高収入を謳う闇バイト問題もコロナ禍で顕著となったように感じる。
援交の名を変えたパパ活は自己責任でやってもらえば良いが詐欺の片棒を担がされスケープゴートにされる闇バイトを大学生が行い逮捕されるのは親御さんの心中を察すればあんまりだし、こんなことをしている様な世代に冒険者は果たして務まるのだろうかということになる。
現役時代ばかりが割を食うのもどうかと思うが具体的な解決策を提案できない以上は現状に甘んじるしかないのだろうなと警察官は思った。
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「そろそろ合流ポイントだ。各員、誤射に留意せよ」
藤堂指揮下の隊員達は機敏に行動しており、山頂へ向かう道を確保しながら合流ポイントへ急いでいた。春日隊が全滅するとは考えにくいが最悪を想定して動くのもまた必要なことなのだ。
オフロードバイクで隊員を先行させようかとも考えたが、小田原警察署から手配するのには時間がかかり、自衛隊は基本的に徒歩での作戦行動を前提としていたために準備不足だったのだ。戦車を公道で移動させるには制約が付きまとう
また、現実的に考えると装甲車が限界だったのだ。重火器を備えた隊が後方待機していることは心強いが臨時休校となった高校や運動公園を押さえるにしても戦闘機を派遣することは難しく、輸送機が限界であった。
市街地に向けて空対地ミサイルを撃つ訳にもいかず、大暴走が起きたとしても対処法は限定されてしまう。火炎瓶ですら延焼に気を使い使用しなくてはならない状況で現代戦は基本的には町中での戦いに航空機を使用することは想定していないのだ。
それに加えて災害出動に比べて治安出動は国民の理解を得にくいというのもある。自衛官達は警察官職務執行法に基づいて警察権を行使するが、国民の反発を受けかねないという欠点がある。
規律訓練を受けた自衛官でも暴走してしまう隊員が出てしまうことは否定ができない事実であり、それが自衛隊に対するイメージを損なうことで災害派遣がされにくくなる事態に陥る可能性は否定できないのだ。
「金井は防壁の作成。他は撤退援護だ」
魔力を消耗している金井士長には悪いが、戦闘後に十分な休息を与えることで報いることにする。今は春日達を無事に撤退させることが優先され、援護部隊が負傷するなどしては助けに来たどころか足を引っ張ることになるために防壁の作成を命じた。
魔法に習熟すれば発動速度は早くなり、威力も上がる様だが、自衛隊というよりはまだ人類にそこまでの練度はない。ジェラルミンの盾を持った隊員が金井を護りその間に魔力を練り上げて発動するのだ。
「藤堂だ。春日分隊と合流した。そちらは手順通りに指揮を執れ」
本来であれば同じ特警隊でも指揮権争いというのはある。だが、階級よりも有事にどれだけ迅速かつ的確に動けるのかが重視され、第三部隊が指揮を執ることになった。
そして、所属は同じでも各隊は独立した部隊なために藤堂に不測の事態が起きた際には、第三部隊の指揮系統に従って指揮権が継承される手筈となっている。
県知事の要請によって行われている治安出動だが、政府では最後まで災害出動で良いのではないかという議論があった。彼等は縦割り社会で長く生活しており、警察権を自衛官が行使することに反対の立場を示す者が多く、平時には自衛官が武力行使する必要はないと考えているのだ。
その考え自体がズレていると言わざるおえない。高位の冒険者が誕生し、SATでも対応ができない犯罪者が現れるのは既に有事であると認識すべきなのだ。それに治安出動待機命令を受ける自衛官も本来の任務は国防であり、迷宮への対処も本来であれば任務外であるのだ。
クリスマスの惨劇によって自衛隊の治安出動という前例ができた。前例主義、ことなかれ主義の官僚達にとっては責任を取らなくても良い建前になり、自衛官たちには有事の際に出動できるようになったとは言え、被害者の事を思えば喜べないのだ。
日本全国で起きたために中央に深いパイプを持つ県や政令指定都市がある様な人口が集中する都や府が優先された。それは他地域に住む国民を見捨てる行為になり、人が動くことはコロナ禍では推奨されていないために基地や駐屯地のある都道府県では相対的に被害を受けにくかったというのはその後の議会でも与党は野党に批判されている。
日本の縮図の様に高齢化している自衛隊で若者を取りたくとも予算の関係で採用できないこともある。そして、お世辞でも新社会人がなりたい職業ではないために自衛隊は苦慮しながらも運営しているというのが実情なのだ。
「三佐。規制線で冒険者の国民と警察官が騒動になっている様です」
「冒険者法に基づいて冒険者資格の停止および剥奪を示唆しろ。県、防衛省、警察庁の連名で政府へと働きかけるように田上一佐へと意見具申しろ」
「了解いたしました」
実際に被害が出ておらず野次馬に労力を割くほど余裕はない。戦力の逐次投入は愚かだが、今は田上一佐が上層部を説得してくれることを待つしかなく、現場の指揮官としては最善を尽くすだけだ。
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「春日分隊は後退しろ。負傷者はそのままで良いこちらで回収する」
藤堂の声が聞こえた時にまだ完全には助かった訳ではないが、安心感を与えられたのは事実だった。指揮スキルによる強化がかかっているとかは問題では無い。頼りになる指揮官が助けに来てくれたという事実が重要なのだ。
応急処置をしたとは言え、足に弾を受けた隊員の自立歩行は難しいだろう。神経や血管を傷付けていても回復薬によって無理矢理、出血を止めただけで失った血液が補完されるわけではなく、後方の安全な病院での輸血が必要になり静養も必要となるだろう。
荷物を抱えての疾走など慣れたものだ。覚醒者になったことによって身体能力が上がり、更に重い荷物を担がせて訓練しようと提案したときには殺意を覚えたが訓練でできないことは本番でもできない。
春日分隊が後退すれば藤堂隊も下がる。それを繰り返すことにより、後退するわけだが、こちらには寺尾二曹がいる。中腹から山頂へ向けて角度がつくために難しい狙撃となるが、無線には敵部隊を補足したと連絡が来ている。
そして、射線を遮らないように要請があり、それを守らない命知らずは第三特警隊にはいない。寺尾が撃てると言えば実際に当てるのだ。観測手は着いていくことにも体力を消耗し観測結果を誤れば仲間が傷付くこともあるプレッシャーを押しのけて迷宮に潜ってきた。
観測手は道具さえあれば基本的には誰がやっても正しい観測結果を出せる。勘に頼る部分もあるが、それは正しい距離を計測した上で風の強さや湿度を計算し狙撃手に伝えるのだ。
狙撃手は伝えられた情報を元に経験で狙う。微かなブレが数km先になると大きな差となり、標的を外すことになるのだ。その一撃が時に部隊を救うことになり、また部隊を危険に晒すことになる。その重圧に耐えられる者だけが狙撃手を名乗れるのだ。
春日も後ろで指揮を執っていると見られる個体を把握していた。普通のオークよりも頑強そうな体をしており、また武器も銃ではなく、大剣を所持していた。
現代戦であれば接近される前に射撃で撃ち倒されるのだろうが腕を捉えた筈の銃弾は衝撃こそ伝えていたみたいだが、皮膚を突き破り出血を強いることはできなかったのだ。
この時のために対物狙撃銃が用意されていることは知っていたが、他の迷宮では射線を確保しにくいために使用されることはなく、地球と迷宮内での重力の誤差を視野に入れて狙撃しなくてはならないために難易度は高い。
だが、期待をしてしまう。ベテランであり、隊を平時では上手く纏めてくれる寺尾二曹はここぞと言う時にはきちんと決めてくれるのではないかと。そして、情報を受け取った寺尾は装填し、引金に指をかけた。




