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冒険者からの成り上がり~迷宮経営も楽じゃない~  作者: 浩志
コンビニ店員、冒険者になる
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二十八話

 樹は藤堂の命令を聞きながらどのように隊員たちに強化(バフ)がかかっているのかを確認しようとしていた。これは藤堂の許可を得ており、スキルを解析する上で重要なことだった。


 魔力とオーラによる強化とは別系統の強化であり、指揮官(コマンダー)兵士(ソルジャー)を指揮下に入れて初めて真価を発揮するタイプの(ジョブ)だからだ。


 指揮のスキルレベルに依存するのか、その資質があったからスキルとして発現したのかは分からない。BPを使用すれば才能がなくともスキルを取得できるが、人によって取得できるスキルに違いがあることも分かっている。


 スキルツリーと言うべきなのかはまだ分からないがその人が取得できないスキルもある。鑑定士のジョブを得た自衛官達も鑑定眼のスキルを得ようとしてもできなかった。


 スキルツリーに鑑定眼が現れないのであれば取得はスキルに習熟したうえで進化させるしかないが樹、自身もスキルを進化させた事例を知らないし自衛隊でも現状ではBPに頼るか自然取得を目指すしかないのだ。


 基礎スキル・上位スキルの関係にあればそのうちスキルが進化するだろうと予測はつくが、樹が初期に確認していた魔眼シリーズというべきスキル群はいつの間にか消えていた。


 取得制限のあるスキルも当然あるだろうとは考えていたが異世界物の定番である鑑定スキル以外にも取得したいと思っていたスキルは多かった。


 特に魔法を無効化させる魔眼は手に入れておきたいところであった。魔眼の特性として効果を発揮させるには視界に入れないといけないという制限はあるが消費に見合った効果はあると思うのだ。


 金剛もいずれは自力取得が可能かと思われたが、ジョブによっては習得できないことを考えればBPで取得したのは間違いではないと樹は考えている。どんなに強くとも死んでしまえば意味はない。


 レベルが上がれば安全なのかと言えばそうでもないと思う。確かに雑魚に殺される可能性は低くはなるがゴブリンに殺される可能性はゼロにはならないのだ。


 鑑定でどんなに体力があると思っていても心臓を損傷した状態でそう長くは生きられないしHPもあくまでも目安でしかないということを理解しなくてはならない。


 HP=オーラの防壁の強度と考えた方が良いのかも知れない。頭部へのダメージはHPが少なくなっていなくとも積極的に受けたいものではない。昏倒すれば反撃の糸口を掴めずに死ぬことになるだろうし実験をしたくとも被検体となって協力してくれる人はいないだろう。


 基本方針は中腹で防御陣地を築いて迎撃し、山頂を目指すというものらしい。自衛官の中にも鑑定士はおり、後方支援要員として中腹に駐在するらしいが、その鑑定能力は樹ほどはないというのが実情らしい。


 迷宮内で素材を手に入れて先ず確認しなくてはならないことは毒の有無である。未知の魔物と遭遇したときもそうだが、物理攻撃持ちなのか毒持ちなのかまたは魔法攻撃持ちなのかによって対処は変わる。


 毒キノコや毒草のように毒のない食用に似た物も多くあるために注意が必要だ。そして回復魔法や解毒魔法を使うにしてもどのような症状なのかを把握することは必要不可欠となる。


 医師であれば膨大な知識と経験の中から症状を割り出し治療にあたることになるだろう。ただ魔法に関しては現象を起こせるという事実はあっても何故、魔力によって魔法が扱えるのかは判明していないのだ。


 魔法薬に関してもどの様な作用で回復しているのかを研究はしているが覚醒者に効果があって非覚醒者に効果が薄いのかはまだ分かっていないのだ。当然、毒も特殊なものでない限りは毒から血清を作ることは可能であるとされている。


 魔物化した蛇や蜘蛛の毒をサンプルとして集めているし解析も行っている。その中には覚醒者には効果があって非覚醒者には効果のない毒、魔法毒とも呼べるものもあり鑑定士も微力ながら解析に尽力している。


 銃を使用して安全に倒した後の魔物の死体を鑑定するのも彼等の仕事だった。死体から得られる情報はそう多くはないが、それでも何もないよりかはマシであり、そして自衛官だけでなく他の冒険者が倒す時の難易度の設定に使われる。


 ホブゴブリンであれば十レベルもあれば倒すこと自体はできるそして連戦や複数同時に戦う時の脅威度を予め冒険者に示すことは迷宮での死傷者を減らすためには必要な仕事だった。


「白井は防衛陣地の指揮。武田は春日分隊を迎えに行く着いてこい」


 武田が率いるのは経験の浅い一般部隊である。ただ、それでも覚醒者だけを選抜して連れてきており、特警隊の隊員よりは頼りにはならないがそれでも十分に戦える部隊だ。


 特警隊の任務は迷宮攻略だけでなく一般部隊の教導もある。銃術を得るまでは使えないが、それでも根気よく戦力を増やしておくことで有事の際に迅速に動ける様にするのが目的である。


 一般部隊の隊員たちは曹以上の階級のもので編成されており彼らは部隊に戻った後にノウハウを伝える役目もある。そして、曹であるが故にある程度の経験を積んだ自衛官であり、銃の取り扱いに習熟している。


 事故の可能性は低いと自衛隊の中では判断されていた。人型を撃つことによる心理的影響を自衛隊は軽視していないがサポートするためのノウハウが少ないこともまた事実である。


 戦争を経験した者は多くが鬼籍に入っており、日本でも知識と経験の継承がされにくくなっている。平和を愛することを否定する気持ちはない。


 ただ手段を選ばない敵に対して話し合おうとしても徒労に終わることが多く、憲法もまた時代に合わせて変化していかなくてはならない段階にあるというだけなのだ。


 日本は被害者保護よりも加害者が保護される国であり、自動車事故や詐欺について厳罰化がされているとは言い難い。飲酒運転をしていても危険運転と見なされず被害者が涙をのみ詐欺被害に遭った被害者に被害金額が戻ってくることは稀なのだ。


 裁判員制度も導入しアメリカの陪審員制度を日本にも取り入れた形となったが本当に形だけである。裁判員に選ばれ民意を反映した判決が出ても控訴されれば裁判所の前例に従った判決で覆されるケースが散見されるのだ。


 自衛官としては政治的判断でなく法律的にも軍として認めるべきだという主張がある。国民の盾となることに異存はないが尊敬される存在であるべきなのだ。アメリカでは義務を果たした元軍人に対して敬意を払う。


 戦争をし、また犠牲を多く払ってきたからでもあるが日本は自衛官というだけで貶めるような言論が多すぎるのだ。田舎であれば野戦服で通勤する自衛官もいるだろう。


 ただ都内で見かけることはほとんどなく自衛官たちはスーツで通勤しているはずだ。警察官であれば勤務中にコンビニやスーパーに寄ることも容認されるが自衛官や消防官であるのなら親切な市民がわざわざサボっていると通報してくるほどなのだ。


 熱中症対策のための水分補給でトイレに行きたくなっても気軽にコンビニにすら寄れないのは健全だと言えるのだろうか。そのことが矢面に立つことになる自衛官の退官が警察官よりも多かったのに少なくない影響を与えていると樹は思う。


 コンビニ店員をしていた経験から無意識なのか意識的なのか高齢の男性になるほどクレーマーは多かった気がする。それも社会的な地位を築いているような男性で定年前には多くの部下がいたのだろうと思える人が多かった。


 ただ勘違いしてはいけないのは部下たちは肩書きに従っていたのであってその人、個人には従っていないということだろう。役職定年や再雇用された社員はそこを弁えていないと明るい未来はない。


 仕事だけしかして来なかった人ほど家にも社会にも居場所がなくなって自分たちよりも下に思える者にしか当たれなくなるのだ。それが正当な苦情なら真摯に対応するするべきだが昔は今どきの若者はと言われており今では今どきの高齢者はと思える人は多い。


 人によって対応が変わるのは店員が人間である以上は仕方がなく自衛官だって守るべき対象である国民に守る価値を求めて何が悪いと言うのだ。自衛官の中には今の政府に失望して退官したものもいるだろう。


 危険を押し付けるだけで活動に対して報いてこなかったからこそ自衛官のなり手は減少しているのだ。土魔法で壁を作り土嚢を積んでいる自衛官を樹は眺めることしかできていない。


 装甲車が臨時前線指揮所となり藤堂は無線で細かく部下に命令している。樹だって迷宮帰還者(ダンジョンサバイバー)であり冒険者だ。事実として近接格闘に限れば自衛官に劣るものではない。そうでなければ自衛隊も迷宮に連れてくることはなかった。


 政府として樹の能力を把握したいという思惑があって樹としては迷宮の経営を政府に認めさせたいからこそ参加しておりどちらが上という話ではないのだ。協力できるラインを探り妥協することが求められている。

 自衛隊としては戦力の確保こそが国防に必要だと判断したからこそ機密費の一部を樹に払ってでも知識を得ようとしているに過ぎないのだ。


「各自、誤射には留意しろ」


 幕山攻略はまだ始まったばかりであった。


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「幕山迷宮の攻略を強く進言します」


 衛は幹部自衛官としての責務を果たそうとしていた。幕山迷宮の攻略を足がかりとして東京駅迷宮の解放が現場で働く自衛官に求められていた。特警隊を預かる隊長たちは総意として衛に進言しており、衛もその必要性を認めていた。


 食料品の買占めによってコンビニやスーパーから商品が払拭された。それはトイレットペーパーのようなデマではなく、国民に危機感を覚えた人がそれだけ多かったということでもある。


 食料自給率の低い日本では輸入に頼り過ぎている。そしてコロナ禍もあり輸入量は減少傾向にある。自国に余裕がなければ他国に輸出している余裕などなくそれでも手に入れたければ普段よりも多くの金を出すしかない。それにオリンピックの問題もある。


 ただでさえコロナ禍で人の動きが制限されるべきであり、変異型が猛威を奮っているのだ。日本は高い衛生観念から死亡するものが少ないのは行幸であったがどの年代にも罹患する可能性があり、また死亡する可能性があるのは無視できない存在なのだ。


 そして、政府は自衛隊に早急な東京駅迷宮の攻略を命令している。命令する方は楽で良いかもしれないが命令される方は堪ったものではない。迷宮を攻略した実績はあってもそれが低等級だからという側面は強い。


 現状の戦力で攻略は不可能ではないだろうがそのために多大な犠牲を許容しなくてはならないだろう。物であれば必要な犠牲だと言うことはできるだろう。だが、それが隊員の命であるのであれば許容することはできないのだ。


 迷宮の攻略はオリンピック関係者や政府のための利益にはなるのかもしれない。一度は延期しているのだから再度、延期にすれば良いし違約金を払ってでも中止にするのが民意である。


 当初、誘致の際に言われていた災害からの復興はいつの間にかコロナウイルスにうち克ったオリンピックへと変質していた。そんなにしたいのなら国税を使わずに利権関係者が自分たちでお金を出して開催すれば良いとすら思う。


 スポーツの祭典に政治を持ち出す隣国もおり、オリンピック利権で私腹を肥やす者たちのために日本国民が犠牲になる必要はどこにもないのだ。そもそも高温多湿である日本で夏期にオリンピックを開催しようとすること自体が自殺行為である。


 初めての東京オリンピックの時とは違い台風被害や熱中症で倒れる人が多くなった日本は夏は過ごしやすいとは言い難い環境になっているのだ。


 それに東京オリンピックのために東京駅迷宮の攻略が必要なのであって不便を国民に強いる形となっているが心臓部となっている東京駅が使えなくなったことでコロナウイルスの感染者数は減少傾向にある。


 また秋になれば流行しインフルエンザと同等の扱いとなるためにはまだ時間が必要ではあるが、それでも人類はいずれ克服するだろう。


 衛は現場の意見として国民に被害が出るならばそれを最小限にするための労力は惜しむつもりはない。政府が決断しないからこそ現状で投入されている戦力は第三と第二特警隊と一部の一般部隊のみなのだ。


 警察には交通規制のための人員が動員され付近に住居のある住民には避難勧告がされているが迷宮にも慣れつつある国民の中には避難に反対するものも出ている。そして、魔物の被害に遭った時には避難勧告を無視していたことを棚に上げて騒ぐのだろう。


 自衛官も人間である以上はミスもする。ただ命に直結するミスは許されるものではないためにチェックを厳重にすることでミスを少なくするように努力しているに過ぎないのだ。そう自衛隊は最善を尽くしている。


 政府が責任を負いたくないがために決断できないだけなのだ。また初期の様な大暴走(スタンピード)の発生を看過することはできない。


 日本は世界的にみれば確かに被害は少なかった。それは警察から自衛隊へのバトンタッチが上手く行ったからであり災害支援を通じて自衛隊に対する関心が強まり国民の理解と信頼を積み上げてきたからだ。


 自衛隊は戦争に使用することはないが多くの技術を学び習得してきた。だが、忘れて欲しくないのは自衛隊は災害救助が本来の仕事ではないのだ。


 他国の侵略に備えるべく警察予備隊からアメリカの都合もあって組織された専守防衛のための戦力であるのだ。無論、知事の要請が遅れたことによって多くの国民を救えなかったことは恥ずべきことだ。


 出動待機をしていても命令が下らなかった当時の自衛官達のことを思えば確かに広報が足りていない部分もあったのだろう。


 だが、自衛隊が広告を出せば国民の血税を浪費していると騒ぐ連中がいることも事実だ。警察が良くて自衛隊が駄目な理由は何なのだろうか。


 警察で侵略してきた部隊を撃退することができるのであれば自衛隊は必要ないし、有事の際の戦力が活躍しないことを願っているのは自衛官も同じだ。


 中には本物の銃を日本で撃ちたいからという理由で入隊する者や他の職業に就けなかったからという理由の者もいるだろう。だが、入隊してしまえば訓練の過程で矯正され国民の役に立つ自衛官が生まれることになる。


 そして、収入のために自衛官になる者がいても役に立つのであれば理由はそこまで重要ではない。寧ろ人を救いたいという理由で入隊した自衛官ほど理想と現実のギャップで離職することになる。


 税金の無駄だと騒ぐもの達に言ってやりたい。自衛官が活躍するということは国が国民が危機に晒されているということであり、本当に活躍して良いんですかと。そして、政治家や国民は本当に自衛隊が必要ないのかをよく考えて欲しいとも思う。


 中国や韓国は日本に対して領土的野心を持っているし、ロシアも北方領土を返還しないと法律を制定した。ロシアの場合は実効支配をしており、大戦終盤のゴタゴタによってなし崩し的に奪われたという事情はあるが、ロシアは日本以外に対しても領土的な野心を持っているのだ。


 島国であるために自衛隊がなくなれば海上保安庁の役割は大きくなるが、密猟や領海侵犯を自衛隊がいても防げないのにより脆弱な装備しか持たない海上保安庁で防げると思っているのだろうか。


 巡視船に積める装備は護衛艦に比べれば脆弱なものにならざるおえないし、密猟者や密輸者を取り締まるためには大袈裟な戦力は必要ないということでもあるが、それで独立を守れると本気で考えているのだろうか。


 犯罪を取り締まる警察が自衛官の代役を務めることになり強力化した武器が国民に向かわないと断言できる者が果たしてどれだけいるのだろうか。ただでさえコロナウイルスによって死亡したり後遺症に悩まされる者がいて若者、特に女性の自殺者が増えているのは事実だ。


 病死するのか経済死するのかはどちらが良いとは断言できないが変異する前であれば経済を回すために高齢者が自粛するというのは有効な手段であった筈だ。


 そもそも病気や怪我でもないのに取り敢えず病院に行くという高齢者が多いことによって日本の医療費は逼迫されており、コロナによって亡くなった人のことを思えば公言はできないがそれがその人の本来の寿命だったとも言える。


 肺炎によって死亡した者の多くを占めていた高齢者が肺炎にかからないことによって高齢者の死亡率が下がったとの報告があるくらいだ。


 それに日本の多くの問題は口は悪いが高齢者がいなくなれば解決するものも多い。代表的なものは年金制度だろう。現役世代が高齢者を支えるのには限界がある。特に少子高齢化が進んでいる日本であれば尚更だ。


 日本の発展に貢献してきた高齢者を悪く言いたくは無いが悪質なクレーマーとなるのは退職前に一定以上の地位に居た男性であることが多く、優先して行われたワクチン摂取によって感染対策をしないで出歩く高齢者の姿を見かける頻度は高くなったように感じる。


 出歩くのであればコロナウイルス感染によって死亡することを覚悟して出歩くべきだとすら思う。政府が高齢者を優遇する政策を採るのは人数が多く与党を支持するものが多いからだろう。


 そして、コロナウイルスの脅威度を下げ受診しやすい環境を作らないのは個人で医院を経営する医師会を敵に回したくないからだと思う。感染症に関する法律で変異前のコロナウイルスは有効な治療法が確立されていない点を除けば季節性のインフルエンザと脅威度はそこまで変わらない筈だ。


 エクモが使用できる施設が必要という条件はあるがそれは軽症者以外であって感染対策さえ十分にできていれば街中にある内科でも対応はできるのだ。


 入院できるベット数が確保できないという問題もあるかもしれないがそのための緊急事態宣言がただ感染者数が増えていることを国民に周知するだけの宣言に成り下がったのは政府の失策によるものだ。


 コロナ対策と同じで国の支援さえあれば自衛隊は任務を完遂する覚悟を持って困難に立ち向かう準備がある。そのために日々、辛い訓練を続けており、外国にも驚かれるような練度を維持しているのだ。


 迷宮対策、特危獣対策も同じだ。政府が決断しないからこそ攻略できるのにされていない迷宮があり、利権のために冒険者制度が導入された。


 国民を脅威から護るために自衛隊という組織があるのに国民を危険に晒そうとしているのだ。そして、そのツケは国民の中でも経済的に困窮している弱者が負担することになり、富裕層は利益を貪ることになるのだ。


 だからこそ自衛隊による積極的な迷宮の攻略という前例を作る必要性を衛は感じており、上層部に進言しているのだ。


 幸いなことに田上家は裕福な家系であり、土地を手放してきてはいるが資産的には妻と子を養うのには問題がない。そして、軍人の家系ではないが幹部自衛官を多く輩出してきた家系であり、日本には馴染みのない民間軍事会社(PMC)を設立すれば賛同する自衛官たちも多く集まるだろう。


 実際、特危獣対策に不安を募らせた藤堂から自衛官を退官し、会社を設立して欲しいという要望もあった。これからの事を思えば自衛官でいることに疑問を抱くのは当然ではあるが、残される仲間たちはどうなるのだと説き伏せ翻意させたが限界も近いというのが衛の実感だった。


 衛は現場の意見を決して無視しない。実戦に赴かないで会議室から命令だけをする者の意見よりも遥かに命の危険に晒されることになった現場指揮官たちの方が現実を正確に把握しているからだ。今、必要なのは机上の空論などではなく、現実に即した堅実な意見なのだ。


 そして、階級的に考えても二佐や三佐である特警隊の隊長よりも後方支援という形ではあるが関わっている一佐である衛が現場の意見として具申するのが道理であるからだ。徒に戦力を失えば自衛隊は国を国民を護る手段を失う。


 発展途上国の混乱をみればそれは不愉快なことだろう。国家主権を失ったことのある日本の記憶は薄れつつあるが、それでも好んで戦争をしたいとは思っていなかったはずだ。


 何かしらの利益がある国の上層部は違ったのかもしれないが国民にとって失ったものは大きかった。父が兄が弟が戦況が悪化する度に紙一枚で召集され死んでいく。


 女性だって軍需工場で働き、飢えに耐えながらも国の方針に従ったのに工場と共に焼かれた者もいる。そして、本土決戦へ時間を稼ぐために行われた沖縄戦は悲惨の一言に尽きる。米兵に捕まると人としての尊厳が奪われると喧伝され、集団自決をおこなった。


 戦争を指導した者はA級戦犯として処刑されたが、もし日本が勝っていたら今の世界も変わっていただろう。真珠湾攻撃によってアメリカの参戦を許してしまったために望み薄ではあったが、戦争による技術革新によって世界を二分した戦いであれほどの死者が出るとも思わなかったはずなのだ。


 だからこそ過去を教訓として戦いを避けなくてはならない。避けられない戦いも確かにあるだろうが、特危獣に国民を蹂躙されることを許す訳にはいかないのだ。そして、東京駅迷宮の攻略が避けられないものであっても主導権は自衛隊が握らなくてはならないのだ。


 懐に辞表を携えながら衛は陸幕長へ進言を続けていた。

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