二十三話
「笠原一士は運転に集中してくれれば良い。できるな?」
「はい」
白井は助手席に座り少し緊張している笠原を落ち着かせようと声をかけた。特危獣対策警備隊【特警隊】は基幹部隊員の多くはレンジャー徽章を持っているが後方支援要員に関しては選抜はされているが普通の陸自隊員である。何も戦うだけが自衛官の役割ではない。
補給がなければ戦えないし人間だから腹も減る。新設部隊であるために練度と規模がまだ追いついていない状態なのだ。育成をしながら臨機応変に対応することが求められている。
戦闘職だけでなく支援職も開拓していかなくては今後の迷宮攻略に支障が出るというのが藤堂の考えであり今は一人でも多くの鑑定士を確保したいというのが方針である。装備や食料を持って探索すれば必然的に持ち帰れる素材は少なくなる。
その時に価値の高い物を持ち帰りたいと思うのは当然であり、迷宮の構造を把握するのも特警隊の役割だからだ。迷宮の外であれば通常の部隊でも対処はできる。
銃の火力があれば余程の特異体でもない限りは貫通する威力があると考えられているからだ。拳銃で駄目なら小銃でそれでも駄目なら対物ライフル銃を使えば良く場合によっては対戦車弾や戦車による砲撃も使って敵を殲滅する防衛計画が練られている。だが、その威力のある武器も迷宮では制限されてしまうのだ。
人間のオーラの様に魔物にも対物障壁があると考えられているのだが考えるだけ無駄とも思われている。警察官や自衛官が銃術のスキルに目覚めやすいのは事実であり、経験のあるものの方がスキルを取得する時間が短縮される結果が出ているが詳しい検証はし辛い結果となっている。
国営迷宮ではレベルを上げるために必要なDPが圧倒的に不足している。スモールマウスやスモールラビットは覚醒には便利な魔物であるがレベリングには適さないからである。そして、官僚や研究者が迷宮主となっているがその者が国を裏切らないとは限らないために警護兼監視が二十四時間つくのである。
生物学者や物理学者の多くは迷宮に関心を寄せたがそれは権威を持っていない若い研究者が実際には研究に携わっていた。中継地点としては土魔法も使って作った塹壕が指定されている。トラックの荷台にいる隊員も周囲の警戒を行いながら中腹への道を走行していた。
迷宮にも車が入ることは可能であるが装甲車・戦車は機能の制限があるみたいだった。ここに運転系のジョブ持ちがいれば変わるのかもしれないが検証は進んでいない。一定以上の文明の利器が使えなくなるのは確認されていたが車が良くて装甲車が駄目な理由ははっきりとはしていないのだ。
戦闘機や爆撃機で迷宮の上空から攻撃しようとしても無駄なことは米軍の攻撃で既に判明していた。となると困るのは海が迷宮化した場合である。水の中では動きが著しく制限される。攻撃手段もなく、移動手段も制限されるのであれば物資の輸送に甚大な影響を与えるのである。
空輸では一度に運べる量は海運に比べて少なくなる。特に食料自給率の低い日本は工業製品に必要なレアメタルや原油などを輸入に頼っているために価格の高騰が起きた。それはトイレットペーパー騒動の再来であり、在庫を店舗から一掃する原因となった。
ただでさえレトルト食品やカップラーメンなどの需要が高くなっていたのだ。テレワークの実施率はお世辞にも高いとは言えなかったがそれでも外出を自粛している人達の味方であった。一次産業の衰退が国の衰退を招いていたが欧米式に追随する日本では儲けのでやすい三次産業へと傾倒しすぎており、その三次産業でも人件費の高騰からロボットに徐々に仕事が奪われているのだ。
「停車。散開しろ」
中腹へと辿りついた白井はシートベルトを外して笠原のみを運転席に残してトラックの周囲の警戒を命令した。逃げるにしろ迎撃するにしろ移動の足を確保しておいた方が良い。ここにも塹壕を作る予定だが寺尾に伏射体勢で周囲の警戒を厳命している。
「寺尾二曹。任意での狙撃を許可する。オークを優先的に狙え」
分隊支援火器を持った明石をつけて魔物の動きを探るのがここでの仕事であった。このまま何もないのであればそれを報告して撤退するだけである。トラックには回復薬も弾薬も積まれておりある程度の対処はできるはずだが早く応援部隊が到着しないかなとも思う。
周辺の指揮権は応援部隊の指揮官へと移譲されることになるが迷宮内においては特警隊が優先指揮権を持っている。国際的には特別な権限を持たない自衛官でしかないが、国内では形式的には分隊長たちは特尉となり特別な指揮権が認められるようになっているのだ。
今のところは陸自にしか特尉は存在していない。空や海でも魔物は確認されているが迷宮の外と同じ扱いで通常兵器が使えるからである。自衛隊では迷宮の中をよく知らない指揮官に任せて失敗するよりも特性を理解した指揮官に任せた方が効率が良いと判断しているからだ。
散発的に現れる魔物を倒していく。オークに魔法を扱う個体は確認されていないが今後も現れないとは断言できないために気を抜くことはできない。同じ人型でもゴブリンは使えてオークは使えないのは疑問だがそういうものだと納得しているのだ。
一時間経って塹壕が完成しても本格的な攻撃はない。迷宮主が過剰に反応する原因があるはずだが銃撃を恐れて戦力を投入することに戸惑っているのではないかと考えている。死体を積み上げるだけなら強襲する意味がない。代えが効きやすい戦力とはいえ無闇矢鱈と損耗できるものではないはずだ。
一番、考えやすいのは他の迷宮主が侵入した場合だ。会合で集まった九人の迷宮主たちは勘のようなものらしいのだが、相手が迷宮主であるかどうか分かるらしいのだ。国民には公開していないが省の上層部と国会議員の一部は誰が迷宮主であるかを把握している。迷宮主となった人物には大臣クラスの護衛がつけられておりテロ対策も行っている。
護衛がつくということは警護課によって行動を把握されているということであり、自衛隊なら三幕の幕僚長が迷宮主なのでないかと噂されているが真相は不明である。
「フタサンマルマルから順次、休息をとれ」
規模からしてみれば山頂にいてもおかしくない時間は経過したが、迷宮主を刺激して大暴走が起こっては元も子もないのであくまでも調査に徹することになっている。
「こちら白井分隊。対策本部、応答願う」
「対策本部。どうぞ」
「中腹に塹壕を築き防御陣形をとっているが動きなし。部隊の展開状況はどうなっている」
「厚木基地からの応援部隊が到着している。座間の部隊はもう少し時間がかかる」
「了解した」
各地にある特殊部隊のなかから選抜されたのが特警隊の隊長である。藤堂が率いるのは首都圏をメインに活動する第三特警隊である。第三隊はそのなかでも特に神奈川県を中心に活動しており座間駐屯地に間借りしている。交代するのにも時間はかかるだろうし先ずは一般の部隊を送り込んで交代の特警隊の分隊がくるのだろう。
ローテーションでは春日一尉が率いる春日分隊がくることになるだろう。分隊長としては先任にあたるために気が抜けないところだ。レンジャー訓練では藤堂と一緒に助教として参加しており、死ぬかと思ったのだ。部隊を拡充することが決定しており、後期訓練を終えた自衛官が入ってくることになるがその教育もしなくてはならないのだ。
自衛官として最低限の訓練しか積んでいないために使い物になるのかという疑問があるが藤堂にやれと言われれば断ることなどできるわけがない。笠原は自衛官になったばかりであるが教育隊から藤堂に引き抜かれた人材である。残念なことにレンジャー訓練を共にしていないために部隊員の一人として活動はするがあくまでも後方支援に専念するのが役割である。
笠原に求められているのは鑑定の取得である。基幹隊員が戦闘科でありほかの隊員たちは支援に回される。施設科として塹壕を作ったり、輸送科として迷宮までの運転を担当したりと様々だが戦うだけでは迷宮の中では生き残ることは難しくなるのだ。
オークが寺尾の狙撃によって沈黙させられる。何時でも逃げられるようにしており、魔法の脅威がないだけで肉体的・精神的な負担はかなり少なくなっている。基本的に迷宮に夜間は留まらないために緊張感はあるがそれでも障害となる敵を排除するだけなら問題はなかった。これ以上の動きは見られないと判断したために中腹から下山することにした。
確かに普段より多くのオークがいるのかもしれないが魔物であるために迷宮の入口に近付くこともあるのだろう。そして、気を抜いた瞬間こそが一番、危ないのだ。何かが破裂する音とともに隣にいた笠原が倒れる。肩には銃創ができており、塹壕から身を投げ出していないのにも関わらず何者かに狙撃された。
「笠原一士、負傷。寺尾二曹は対カウンタースナイプ。明石三曹はその援護だ」
慌ただしく動き始める白井分隊。小田原城迷宮でもないのに魔物が銃を使用してくるとは想定外も良いところだ。遠距離攻撃は魔法か弓矢による攻撃だという先入観を突かれた。
「金井士長は圧迫止血を試みてくれ。止血できない場合は回復薬の使用を許可する」
「明石三曹、信号弾と通信を頼む」
----
「信号弾を確認。緊急事態です」
生活安全課で働いてきたときと違って迷宮対策課は危険に満ち溢れていた。紬は少し転属命令を受け入れたことを後悔しているのだ。機動隊あがりの隊長の下で訓練を積んだが勝手が違いすぎる。少年犯罪や万引きなどどちらかと言われると軽犯罪をメインとしてきた紬にとって魔物の命を奪うというのは精神的にくるものがあった。
だが、誰かが市民の安全を守らなくてはならない。それが警察官の使命であり、犯罪に重いも軽いもなく事情があったとしても犯罪を犯したのであれば逮捕しなくてはならない。そうでないと安心して暮らすことなどできないのだから使命感もあって時代に対応するためにも受け入れたのだ。
本部に詰めていたが周囲は慌ただしく動いている。自衛官と言っても空自の隊員たちは迷宮に不慣れである。迷宮の探索にあたるのは陸自隊員であり彼等は普段は領空侵犯に目を光らせているのだから基本的な銃の扱いはできても覚醒の時以外に魔物を倒した隊員は少ないのだ。
そして、警察官も殆ど似たようなものだ。通常の犯罪者だけでなく、覚醒者の犯罪者を制圧するために迷宮でも訓練をしているが陸自隊員ほどの練度があるのは極一部だけだ。紬も銃術を獲得し銃士のジョブを得たが本質的には犯罪者を逮捕する警察官であるのだ。
入口の警護任務に就くときは緊張する。自衛官もいるのだが交代制であり、基本的には単独での歩哨とならなくてはならないのだから経済界は余計なことをしてくれたと思ったものだ。誰かが探索をして脅威度を正確に把握し魔物が溢れださないようにしなくてはならない意義は理解できるが納得できるかはまた別の話だ。
警察庁は迷宮利権から外される形となったが、警察権を執行するのは基本的に警察であるために完全には外せれずババを引かされた形となっているがそれは現場の警察官には関係のないことだ。
「県警本部に連絡。明石警視にも情報を送れ」
----
「明石警視、幕山迷宮で緊急事態が発生しました」
「少し待ってくれ。本部で詳しく事情を聞く」
藤堂から事前の警告は聞いていた。要監視対象者が迷宮に入れば混乱が起こるかもしれないこともだ。迷宮帰還者を非難するのは間違っていると思いつつも厄介なことを引き起こしてくれる樹を忌々しく思う。
「済まないが報告を頼む」
眠気覚ましのためのコーヒーを片手に報告を聞く昇。
「はい。異変が確認されたのは・・・」
「分かった。迷宮対策課の実働部隊は現地にいるのだな?」
「はい。C装備を持って現在は入口を固めています」
人を制圧することがメインために全体的に火力は弱い。C装備は小銃を装備した重装備である。
「東雲課長はどうしている?」
「課長は上層部と県側との折衝に動いています」
東雲警視正は出世争いに負けはしたが優秀な警察官である。寧ろ責任を取りたくないと迷宮対策課の課長職を押し付け合うなかで火中の栗を拾いに行った人物である。部下に仕事を押し付ける悪癖はあるが、責任だけは譲らない。
功績を自分のものにし失敗は部下の責任にする上司が多いなかで部下としては着いて行きたいと思わせる懐の深い人物である。昇も迷宮に入ったがそれは本当に入っただけだ。銃の取り扱いの訓練を受けており魔物に撃つことを躊躇いはしなかったがレベルは低い。
部下を統率するうえで迷宮を知らないのは話にならないと思い行動に移したが後悔もしている。初動が早ければ助けられた命は多かった。官僚と言っても警視でしかない昇にできることはあの時点ではなかった。警察庁所属の警察官は現場を管理監督するのが仕事で現場に立つことは殆どないからだ。
出世に役立ちそうというのもあったが魔物の被害者を少しでも減らしたいという気持ちはあった。そして、また市民が魔物の脅威に晒されようとしている。
「悪いが現場まで車を出してくれ。指揮はそこで執る」
----
「田上です」
「一佐。防衛大臣による治安出動命令が下った。君は現地の隊員のために輜重部隊の指揮を頼む」
「分かりました」
「第二特警隊に緊急動員を頼む。藤堂にはこちらから伝えておく」
夜遅くなのにも関わらず招集命令が各部隊に通達される。防衛省は国民の批判を避けたいという思惑もあるが人類以外とは交渉もないと考えていた。人類同士でも血を血で洗う戦争が起こるのだ。言葉の通じない魔物に停戦をしましょう。会話をしましょうと伝えても無駄なだけだ。
大火力による殲滅作戦が行えるのならまだ良かった。迷宮の外におびき寄せることも不可能ではないが討ち漏らしがあれば国民の生命・財産を守れない。避難誘導をするのにもこの時間帯だ。起きている住民は少なくお年寄りは移動に時間がかかる。
「町民体育館と海浜公園を押さえてくれ。隊の備品から天幕を出しておくことを忘れるな。避難住民のために食糧の配給の手配も頼む。大型バスの手配を忘れるな駄目なら輸送機を手配する」
----
どこに隠れていたんだと恨みたくなるような敵の数だ。寺尾の狙撃は指揮官と思われる個体を優先させ亘は魔物を近づけさせないために牽制射撃を行っている。塹壕から笠原を引きづり出すのに時間がかかり金井が脱出のために運転するのとになった。
「金井士長、出してくれ」
「了解」
白井は幹部自衛官であるが今回の任務は自分には荷が重いと思っていた。可能な限りの対処はするがそれでも指揮を執る経験が浅い白井にはできないことの方がまだ多い。オーク達はミディアムボアに跨りトラックに追随しようとしている。味方からの誤射を喜ぶ者などいないために対策本部に情報を送っているが警察で阻止するのは難しいように思えた。
揺れるトラックの荷台からの狙撃を諦め寺尾は小銃を片手に撃ち続けた。オークを狙うよりも脚となっているミディアムボアを狙う様にしている。先ずは生還しなくてはならない。そうでなければ情報を持ち帰る事ができないからだ。そして、侵入が決まった時に既に入口の防護を固めている。
「オーク共を近づけるな。足を失えば押し切られるぞ」
普段は温厚な白井も笠原の様子を見ながら銃を撃つ。刺激したからなのかは分からない。どの迷宮でも銃を使えば低層の魔物ならば倒せた。そして、次回からは警戒して近付いてこないはずだった。
銃を持つ個体が少ないのと単発式であることは救いであった。銃を扱えるなら何故、今まで使ってこなかったのかという疑問もあるが攻略してきた迷宮で全ての薬莢を回収できたわけではなく魔物に追い立てられる形で撤退を余儀なくされたこともあったために迷宮に取り込まれたものもあったのだろうと推測する。
ゴブリンなどは物を扱う知能があり、まだ未知の部分が多い魔法を扱う個体もいるのだ。想定されていた範囲ではあるが進化が早すぎるというのが問題だった。入口を出たところで待機していた自衛官と警察官が土嚢を積んで行く。射撃によって追いかけていた魔物は殲滅されたが気を緩めるわけにはいかないのだ。
「指揮官に報告がある。寺尾二曹、ここの指揮権を任せた」
「了解」
「自衛隊東部方面隊第三特警隊所属第五分隊隊長白井二尉、入ります」
「先ずは良くやった報告を頼む」
嫌な予感がした藤堂は通常部隊とともに現地入りをしており最前線である幕山迷宮で指揮を執ることにしていたのだ。この勘というのは馬鹿にできない。
各地で騒動が起こると予想されていたが一番の問題は樹の潜った迷宮に変化が起こるのでないかとされていたことでこれは防衛省のトップを始めとした自衛隊の総意であった。そうでなければここまで迅速に治安出動待機命令が下されることはない。
「藤堂三佐。情報権限を持っていない者はこの場にいませんか」
「大丈夫だ。樹くんのことだな。報告しろ」
藤堂は悩んでいた。一佐への進言でも職責から考えれば違法とは言わないがグレーゾーンである。民間人である冒険者に国防に協力しろと命令することは簡単だが、規律の守れないものが一人でもいれば部隊を危険に晒すことになる。
「樹くんは明日、ここに来る。まずは迷宮の外に魔物を出さないことからだ」
笠原の傷は、深くはない銃弾は貫通して抜けているように思えたし回復薬で止血はできた。ただ、それまでに失った血を考えれば安静にするしかなく救急車を呼んで自衛隊病院まで搬送することになった。
「白井分隊は藤堂三佐の指揮下に入ります」
分隊長には現場での指揮権が認められているが第三特警隊の隊長である藤堂がいるのならその命令に従うのは当然である。迷宮外から迷宮内に対しての攻撃は有効であり逆も同じである。
ただ、外から内に対しての攻撃にはスキルを取得していないと魔物にダメージを与えられない種類があるのには留意する必要がある。閉鎖を決めて実行に移すまでは迅速だったがそれは根回しが済んでいたからだ。
現状では樹を拘束する法的根拠がないために身柄を押さえていないが幹部自衛官の息子であっても制圧命令が下れば実行する練度と覚悟があった。それなりにレベルが高いと予想されているが一度しか迷宮に潜ったことのない素人とこの一ヶ月間、レンジャー訓練と称して迷宮に放り込まれた自分たちでは銃がなくとも制圧できるという自負があった。
長期戦になるかもしれないと思いつつ部下を集め防衛計画に沿って白井分隊は警備することになった。
----
中国共産党の党員である黄は日本で諜報活動を行う大学生である。そして、幸運にも党に選ばれて迷宮主になった。在日二世であり、日本生まれ日本育ちであるが中国人であることには間違いはない。そして、日本で迷宮の実験を行うのは中国が世界でリードするためである。
冒険者資格を取得し幕山迷宮にも侵入した。DPを得るために魔物を狩るのもそうだが中国本土ですでにある程度のレベリングは済ませているのだ。ステータスカードの偽造は明確な違法行為だが同姓同名の人物を確保することなど党の力を借りれば容易いことだ。日本での免許証は有効なものであるしそもそも日本のチェックは甘い。
諜報大国と呼ばれているのは事実であり機密情報にアクセスすることは難しいが不可能ではない。金や女で身を破滅させるのは典型例だろう。そして、幕山迷宮の迷宮核の支配権は既に黄が得ている。迷宮ランクが低くともDPさえあればオークを召喚することは可能で迷宮の中に入ればどこにいても迷宮核にアクセスすることは可能である。
そして分解した銃を搬入して迷宮核に取り込ませた。誤算だったのはアイテムに関しては等級の影響を強く受けることだった。改造空気銃くらいの威力しかない粗悪品であったがAK四十七を日本国内に持ち込むのは難しく治外法権のある在日中国大使館に置くとしても日本の警察の目を誤魔化さなくてはならない。
実験場を失うのは痛いが日本にそれ以上の打撃を与えれば良いのだ。それに元はGランク迷宮であり武器は秘密裏に運んでいるので発覚はしないだろう。警備員を買収するのは大変だったがちょうど借金で首が回らなくなっている警察官がいて助かった。
カメラによる監視も本部にデータが随時送られるタイプでなく録画だけを行うタイプだったのも幸運だった。帰化した中国人が警察や政府のポストを押さえ始めているのも大きい。
新興国に押される形で市場のシェアを奪われてきたが中国市場そのものが巨大な利権の塊なのだ。完全に排除をすることは難しく影響力を各国に持っているからこそできることもある。
黄にとって想定外であったのは他の迷宮主に侵入されたことである。日本政府が公認で抱え込んでいる迷宮主は九人であるはずだった。そして、自衛官や警察官の護衛がつくために接触することすら難しい。そして、冒険者でも支配権を奪うことは可能だが迷宮主に支配された核に取り込まれると元にあった核は消滅する。それが問題なのだ。
世界で確認された迷宮の数には限度がある。迷宮は金を産む卵であり、迷宮の数が国力になりかねないのだ。そして取り込むことを選択するか迷宮をそのまま利用するかは迷宮主の選択次第になる。迷宮核にも属性があり変異種を生み出すためにはこの属性も重要となるのだ。
党からの指示はなく自衛隊への対処に困る黄の姿がそこにはあった。




