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冒険者からの成り上がり~迷宮経営も楽じゃない~  作者: 浩志
コンビニ店員、冒険者になる
2/33

一話

 樹は鞄からパンを取り出して食べ始めた。ゴブリンの死体を極力、視界に入れない様に努力しながらである。ここが迷宮であることが確定的になった今では迷宮を知ることこそが生き残ることに直結するからである。


 休憩を挟み三十分くらい経った今でもゴブリンは迷宮に取り込まれることなく横たわっている。取り込まれる時間が休憩中であればというのが本音である。迷宮に取り込まれるのが一時間であれば大したロスではないと考えることも出来るが時間は有限である。


 そして、生活魔法を取らなかったのは不可実性が高かったのもあるが先ずは魔物に殺されないこと生存が優先されるべきであったからだ。はぐれゴブリンが出てくれば先程よりかは楽に倒せるはずだし、複数が一度に現れても倒せる可能性も高くなるからであった。


 時々、現れるゴブリンを格闘戦で制しカッターで止めを刺すのがルーチンワークとなり始めた頃に頭のなかでまた声が聞こえた。それはレベルアップを知らせるものであり、またスキル獲得を知らせるものであった。得られたスキルは【精神耐性】と【格闘術】であった。


 人型のゴブリンを殺すことに抵抗が無くなったから取得したのか取得したからこそ恐怖が和らいだのかは分からないが有難いことである。自身を鑑定する事によって情報を得ることは出来るが得られる情報はまだ少ない。


 最初に倒したゴブリンはまだ冷たい通路に横たわっているのだろうか。樹の足下に現れた名刺サイズのカードは持ってステータスオープンと唱えると各種ステータスが表示される逸品であったが、鑑定できるようになっていなければ回収しても使い道は分からなかった可能性は高い。


「ステータスオープン」


 Name

  田上樹

 Age

  二十五

 Status

 HP G

 MP H

 STR H

 VIT H

 INT G

 RES G

 DEX G

 AGI F

 LUK H

 BP 0


 ステータスの更新には入口にある端末に置く必要があるらしいが今の所は不要の長物であった。入口を探すよりは迷宮踏破に心が傾いていたからだ。倒すのが困難な魔物も存在することは忘れてはいないが、苦境を脱したいという気持ちが強くなっていたのだ。


 そして歩くこと数分、樹は頭を悩ませることになる。そう迷宮の定番の宝箱の存在である。都合よく十フィート棒が落ちていたら距離を取って宝箱を開けることを躊躇わなかっただろう。


 毒は怖いものであり、現代医療で治癒可能でも後遺症が残らないとは限らないのだ。そして一人(ソロ)で毒を受ければ致命傷となることは嫌でも理解していた。現状で宝箱を安全に開ける術は宝箱の後方に回り毒ガスなどが発生しないことを祈るだけである。


 最悪は毒を受けることだが、それ以外にも注意しなくてはならないのはモンスターハウス化することだろう。ゴブリンであれば視覚や聴覚を使って索敵している可能性が高い。


 大きな音はそれだけで敵を惹き付けるし、魔物にしか分からない様なフェロモンが衣服に付着する可能性もある。流石に一対一に慣れてきたゴブリンと言えど武器が無くては遅れをとるし、それが致命傷とならないと断言できるほど助長していない。


 あくまでも命を大事に。最大限の利益を得られる様に行動する方針は崩すつもりはないのだ。なるようにしかならないと念の為に正面から宝箱を鑑定してみたが、材質が木で出来ていることくらいしか分からなかった。


 意を決して宝箱を開けて直ぐに離れる。筋力が足らなくてそもそも開けられないという自体は避けられたみたいだ。中に入っていたのは短剣と瓶詰めされた液体。


 二つの鑑定結果は以下の通りで武器を手に入れたのもそうだが、何より回復薬を手に入れたのは僥倖であった。


 Name

 鋼の短剣

 Rank

 普通(コモン)

 Explanation

  ATK+五 鋼で鍛え上げれれた一品。鋳造式の為に鍛造式のものより品質は劣る


 Name

 初級回復薬

 Rank

 普通(コモン)

 Explanation

 HP+十五 見習い薬師が製薬したものでスキルによる付加効果は低い。使用期限があるために薬効は時間とともに低下する


 鞘にも一応DEF+一が付いていたがこれは防御に使った場合だと樹は推測した。短剣の鞘だけあってこれを防具として扱う事はできない。また刃渡りが二十cmほどあるために警察官に職務質問されれば銃刀法違反となるだろう。


 サバイバルナイフと誤魔化すにも鞄の中に入れておけば良いと言うものではなく、護身用というのにも苦し過ぎる言い訳となるだろう。迷宮に潜ること自体は犯罪でなくとも武器は適切に管理されるべきであり、武器に関する規制は日本は厳しいだろう。


 料理人が鞄に包丁を入れても適切に管理していれば合法だが車の工具入れにマイナスドライバーを入れていただけで逮捕されることが有り得る国なのだ。


 回復薬の入っている瓶も鑑定しようとした所で鈍い痛みを頭に感じた。恐らくこれは警告なのだ。鑑定も何かしらの力を使用していると仮定するのが自然だろう。通路から少し離れた小部屋であり、ここまでの道のゴブリンは全て倒してきた。


 ある程度の安全確保はできていると考えて良いだろう。樹は幸いなことに明日は休みであり、一人暮らしのために心配する同居人もいない。それだけ救助が来る時間が遅くなるということだが、迷宮の攻略を邪魔されないという意味では有利に働くだろう。


 もし、政府の行動が迅速であったとしても全ての迷宮を把握することは難しいだろう。公共施設の探索から入り通報があった場所を封鎖するのが精一杯の筈だ。


 樹がこの迷宮の落ちた場所は十字路であったが天井は舗装され周辺には土や砂利はなかった。公園に陥没ができていれば騒ぐ人間もいるだろうが、まだ辺りは薄暗く出歩く人は少ない筈だ。


 自分と同じように巻き込まれた人間もいるだろうが初代討伐者を得られたということは少数であり、生きてる可能性は低いとみていた。仮眠を取るわけにはいかないがここでまた一時間くらい休憩をすることにした。夜勤明けで疲れているはずなのに興奮からかそれほど体は重くはない。


 レベルアップの影響とも考えられるが油断したら死が待ち受けているのだ。軍手は敵を掴むのには邪魔になるために外していたが短剣で自傷しないために再度つけてから地面に座りこむ。最初に試したがやはり圏外というのは変わらないみたいだ。


 携帯の電源を切りぼんやりと周囲を眺めながらこれからどうすれば良いのかを考えた。警察や政府機関に連絡するのは悪手だろう。どれだけ時間がかかるか分からないが現状を維持したまま迷宮が一般人に解放されるのを待つのもひとつの手だと思う。


 回復薬がとの程度の効果があるのかは未だ不明だが、利権を握る製薬会社は政府に回収を依頼という形で圧力をかけるだろうし迷宮から現代技術を革新させる素材が手に入る可能性は低くは無いだろう。


 先ずは治安維持にあたる警察官や自衛官に解放することになるだろうが、銃器が無効化されるのであれば初期には犠牲を覚悟しなくてはならないだろう。何かしらの武術を習っていても不意を打たれれば人を容易く死傷させる。


 公務の最中だろうから雀の涙の特別手当が出されて成果物は政府に回収されることになるだろう。迷宮が発生することによって殉職による昇進も一階級のみとなる可能性も高い。


 職務に殉じた人に対する功労金は惜しまれるべきではないが、予算は決まっており、利益を甘受しても自分だけは損したくないという気持ちが働いて死者を冒涜することすら想定できる事態なのだ。


 迷宮税として冒険者を優遇しつつも消費税とは別に迷宮から発掘された物に対して嬉々として税金をかけるだろう。冒険者を事業主として様々な優遇措置をとる形にするだろうが一握りの成功者と多くの屍の上に成り立つ歪な産業となることは目に見えている。


 税の公平な負担という形で消費税が導入されたが、日本は高所得者ほど損をする国だ。所得税は累進課税であり、相続税も国が何かをしてくれた訳でもないのに先人が遺した財産を掠めとっていく。


 そして、不況下にあっても議員達はボーナスを満額支給されるし刑事事件を起こした疑惑のある議員も歳費は満額受け取るような国なのだ。休憩が終わり樹はまた歩き出す。カッターは鞄の中にしまい短剣は鞘に納めて革袋に入れベルトとカラビナに通して歩いている。


 カラビナは普段から家の鍵を持ち歩く際に落とさない様にジーンズにつけており鞘ごとしまえる革袋がついていたために先程の休憩で金具に通しておいた。接敵に気付くのが遅れれば革袋から鞘を取り出して短剣を抜くという動作が必要になるために危険であるが誤って怪我をする方が斬れ味を考えると危険だと判断したのだ。


 出血と痛みによる判断力の低下は死に直結する。武器を持つゴブリンにまだ出会っていないが出会わない保証もない。薄暗いことに慣れてしまったが光源がないのは心許ない。そして、ゴブリンは夜目が利くのか暗闇のなかでは赤く光って見えるために見落とす可能性は低いと判断した。


 そして壁伝いに歩く中で遂に見たくもないものを発見してしまった。それはもしかしたら樹が辿ったかも知れない未来。高校生くらいだろうか制服は血に濡れ目は光を喪っていた。


 首筋にある噛みつきの後が致命傷になったのだろうか内臓も飛び出ていた。切れ味の悪い刃物で切られたような痕は表面がぐちゃぐちゃになっており、喰われた後なのだろうか。胃酸がこみ上がってくるのを感じたが吐くことな無かった。精神耐性が働いているのだろうか。


 遺体に触るのは得策でないと考えて身元を探るのを諦めた。もし迷宮核が破壊され正常化した際に元にあった場所に戻らないとも限らないからだ。闘気(オーラ)が確認できなかったために彼はレベルアップしていなかったのだろう。


 物語で聞くゴブリンの性質を考えると男子生徒で良かったのかも知れない。死よりも時に辛い経験というものはあると思う。女子生徒だった場合、戦闘に負ける=死では無いだろうが生殖の道具とされていた可能性は高い。


 姫騎士とオーク。くっころも物語りなら許容範囲かもしれないが現実世界で起きるのなら阻止するために行動するのが人の良心だろう。鑑定で状態を確認してみたが名前を確認することは出来ずにただ死体とだけ表示された。


 頭から振り払おうとしても先程の高校生の死に顔が頭にこびりついて離れない。何かしらの部活をやっていたか、自宅から離れた場所に高校があって朝早くに家を出たのだろう。


 今日一日そしてまた明日があったことを疑っていなかっただろうが、彼にはその明日が訪れることはないのだ。それが一時間後の自分かも知れないし一年後かも知れない。だが、死ぬのを怖いと思う一方で退屈な日常から脱したいという気持ちもあった。


 迷宮は現代のゴールドラッシュになりうる存在だ。そしてゴールドラッシュで一番の利益を得たのは鉱夫ではなく、道具や宿、様々なサービスを提供する企業だろう。樹は鉱夫で終わるつもりはない。もし迷宮核を手に入れれば迷宮主(ダンジョンマスター)として支配者側に回ることが出来るのだ。


 搾取される側から搾取する側に回って何が悪いと思う。それが違法行為であり、倫理的に問題があるのなら躊躇するかもしれないが、世界の理が変化したのならそれに適応した人間が生き残っていくのが自然の摂理だろう。


 高校生の遺体の横を通り、彼が安らかに眠る事を暫し祈ってから後にした。ゴブリンとの接触をなるべく避けてきたが、これからは殲滅する勢いで狩っていこうと樹は決意した。レベルアップの恩恵もそうだが、彼を殺害した魔物を倒してこそ本当の供養になるとそう感じたからだ。


 覚悟を決めたことによって帰還するという選択肢は樹から無くなっていた。二人組となったゴブリンを発見次第、瞬殺していく。短剣の耐久度も気になるところだがまだ折れる気配はない。


 ゴブリン以外の魔物もいないのかと探ったが目に見える範囲には居ないらしい。レベルアップするごとに身体能力が上がり、暗闇の中でもある程度は見えるようになってきた。


 だが、スキルとして発現していない以上は油断できない。そして、行き止まりかと思えたが、そこには不自然に階段があった。下り階段ということは多層からなる迷宮で下の階に行くほど魔物も強力になると考えられた。


 ここは思い切って仮眠をとることにした。睡眠不足による集中力の低下は馬鹿にできず階段のある場所は小部屋となっていた。魔物が入って来れないセーフゾーンみたいなものだと良いなと樹は思った。


 賞味期限切れだが数時間で腐って食べられなくなるわけでもなく、少し米が固くなったおにぎりの封を切って食べ始める。このおにぎりのラップの特許も一日で消費される数を考えたら特許を持つ会社は笑いが止まらないだろうなと思う。


 技術開発にコストがかかるとはいえ暮らしに根ざした特許があれば安泰だろう。何時もなら既に寝ている時間だがやはり肉体的な疲れは感じにくくなっているみたいだ。アドレナリンが活発に作用しているからだろうか。


 怪我をしても痛いと感じないのは危険であり、できれば興奮状態から通常に戻りたいが食事によって少しは落ち着いてくることを願っていた。座って休憩はしたが、今度は鞄を枕にして本格的に寝ようとする。


 目を閉じても寝れる気はしなかったがそれでも体と心を休ませる必要があった。樹にとって死とは遠いものであった。中学生の頃に父方の祖母を亡くしたが住居は別だったし年に数回しか会う機会が無かったために関係も希薄だった。


 先程の高校生も喋ったことも無かったがその死は樹にとって衝撃だったのだ。一歩間違えたら樹も死者の仲間入りをしていただろう。世間に対する不満を持ちながらも生きるために働いて老いて死ぬものだと思っていた。


 誰かを殺すことも誰かに殺されることも日本では稀なことであり、ゴブリンと戦うことになるなど思ってもみなかった。殺されそうになったから殺した。単純ではあるがよく吐かなかったものだと思う。


 人の生死が金になるのは今に始まったことではない。保険も相互扶助を語ってはいるが保険会社も慈善事業でない以上は保険料を受け取っていても保険金は払いたくないのだ。医療の発展によって寿命は延びたが健康寿命が尽きた老人に胃ろうをしてまで生かす必要がどこにあるのだ。


 一時的な処置ならまだ理解できるがその人が貰う年金と払う医療費を天秤にかけて前者に傾いた時に無理やり生かしているのだとさえ感じてしまう。医療費の膨張により国民健康保険の保険料は高騰を続けているし、高齢者の負担割合も大きくなる。


 老いは病気でないのだから諦めて寿命を全うしろというのが樹の考えだ。国民年金も制度的には既に破綻していると思う。自分が貰う年金を保険料として払って積立てるのでなく、現役世代が高齢者を支えるのには限界があるし、保険料の運用として株式や国債を購入しているが赤字を垂れ流しておいて誰も責任を取らない。


 日経平均株価も実態と離れているのに政府は株価ばかりに注視してインフレだデフレだと大騒ぎしているのは実に滑稽な話だ。現役世代がお金を持たなくては経済の立て直しなど不可能だと思う。


 自分の将来が不安なのに子供を産み育てることは現実的でないと第二子を諦めている家庭がどれほどあるだろうか。若者世代の政治的無関心さも拍車をかけているが、高齢者優遇の政策が実施されるのは彼等・彼女等が選挙に行って投票するからである。


 無党派層よりも強固な支持層があれば傍若無人な振る舞いをしていても咎めることができないのだ。こんな現状だからこそ迷宮は福音となりうるのだ。どんな生まれの者でも命を対価とした賭けに勝てれば巨万の富を得られる可能性がある。


 まず、最初に魔物を倒せるかが問題となるが刃物の携帯許可さえでれば一般人にも不可能ではないと思う。数人で囲んでバットで殴るだけでもゴブリンには有効だ。そして、オーラを得た人員を盾にしてしまえばレベルアップ前の人間でも討伐することは不可能ではない。


 力を持つ者が常に善人である保証が出来ないというのが問題であるが、冒険者候補に精神テストを課すとかすれば目立った異常者が力を手に入れる可能性は低くなる筈だ。後は先行した警察官や自衛官で特殊部隊を編成すれば良いだけだとも言える。


 魔法という力も迷宮の外で使えるかどうかは定かではないが、研究すれば殺さないで制圧する方法もどこかにあると思う。冒険者による自治団体もできるだろうし、迷宮で得た力を悪用した場合、量刑を重くすることで抑止力とすることも可能な筈なのだ。


 そして未知の素材やアイテムで冒険者を迷宮へと駆り立て上前をはねていく迷宮主は裏から社会を操る大物っていう感じがして樹的には有りなのだ。休憩を取り終えた後は通路をひたすら歩きゴブリンを殺していく。そう倒すと言葉を濁していたが、ゴブリン側からしてみれば樹は殺戮者(さつりくしゃ)であった。


 樹も殺されるかもしれないそれは生存競争であり、弱肉強食の世界であった。血糊をゴブリンの腰布で拭った時だけは後悔した。樹は普段からハンカチを持ち歩くタイプでないし、自分の衣服で拭く訳にもいかない。血糊を拭わなければ手が滑ったり、切れ味が落ちたりと生死に直結する可能性があった。


 ゴブリンの腰布は雑巾以下であったが、覚悟して胸を切り開いて血塗れになった短剣を拭うのにはちょうど良いとも言えた。胸にあった魔石は価値としてはやはり最低ランクのものらしい。含有する魔力の量は魔物の強さと比例し所謂クズ魔石と言われるものである。


 ただ、地球上では取得できるのは迷宮の中だけであり、活用方法さえ見つかれば価値は上がるだろうという打算からくり抜いているのだ。一般的に心臓付近にできるらしく頭の中でなくて良かったとも思う。ただでさえ低品質なのに頭骨に阻まれていたら一度は実験のために取り出しても武器の損耗を考えれば割に合わない。


 武器もメンテナンスをしなければただの鈍器としての価値しか無くなるだろう。そして今、素手で戦わなくて済んでいるのは宝箱から短剣を発見したからであり、まともな準備が出来てここにいる訳ではないと言うことだ。


 慣れて来たからこそ危険でありゴブリンに不意を突かれれば死傷するリスクがあるのは変わらない。回復薬という保険もどこまで役に立つかは未知数なのである。


 通路を戻って狩りをしていることから今まで殺してきたゴブリンは迷宮に回収されていた。少なくとも数時間は迷宮に飲まれ込まないということであり、感覚的には初期地まで戻ってきているはずである。


 上りの階段もしくは入り口を探すのもありだと思ったが、食糧の関係から元きた道を引き返し階段を降りることを決断する。ここが最下層なら下りの階段は無いはずだし、上層よりも下層の方が危険な魔物が出る可能性が高いからであり、迷宮核もそこにあると考えるのが自然であった。


 ゴブリンの上位種となればホブゴブリンだろうか。それともゴブリンの中でも武器や役割を持った者達が現れる様になるのだろうか。一度のミスが死に繋がるのがソロである。


 仲間がいればフォローし合い助かる場面もあるかも知れないが、報酬のことで揉める可能性もあり、また樹の性格は社交的ではない。販売職として他人と浅く関わるのであれば表面上は誤魔化すことはいくらでも出来たが友人は少ない方である。


 もしゴブリンに武器を持った者がいれば武器を奪っても良いのかも知れない。短剣の摩耗は安全性の低下である。ここに研石があっても包丁すら研いだことの無い樹に正しく刃を研げるという自信がないからであった。刃を研ぐどころか潰しかねないのだ。


 これは市販の研石と包丁で要練習だろう。準備が出来ればそれだけ安全性が増すが少なくとも今は無理をしなくてはならない時なのだ。そう思い歩いている際に樹は衝撃を受けたのであった。

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