十八話
少ないが退職金代わりの金銭を得て待ちに待った日が訪れた。そう今日は一般人に迷宮が解放される日である。小田原城迷宮は遠いが幕山迷宮ならそれほど時間をかけずに挑戦できる。政府も無駄な犠牲者を出したくはないために一般に情報を公開している。
幕山迷宮で気をつけなくてはならない相手は豚人だ。厚い脂肪が武器の通りを悪くし力も強い。頂上付近に巣を作っているらしいのだが樹は迷宮主であり、いつ襲ってきても可笑しくはないと考えている。
銃器があればそれほど脅威ではないらしいのだが近接戦闘しかできない樹にとっては強敵になり得る。短剣も買戻し鞘に入れて行動するつもりだがなるべくであれば自衛隊の介入を許したくは無いのだ。
歩哨として入口に自衛官は立っているがその役目は迷宮の外に魔物が出ない様にする抑止力である。冒険者にも銃の使用許可が下りれば良いのだが、元々、許可が下りていた人以外は申請が殺到している。
また申請も許可されないことが多いと樹は紬から聞いていた。素の能力が上がる覚醒者はそれだけで厄介な存在だが一般人が銃を手に入れ易くすることはアメリカなどの銃社会がその危険性を身をもって伝えている。憲法で武装する権利が認められているアメリカと違って日本は極一部のものにしか許可されずそれが日本の治安を守ってきたという歴史があるのだ。
アメリカでは通報してから警察が到着するまでに銃殺される危険性は高い。今更、銃の所持を禁止しても出回った銃の全てを回収することが不可能な時点で文化としてその危険性を許容するしかないのだ。ライフル協会が政治的な権力を握っていることも銃の所持を禁止できない理由になる。
銃の乱射事件が起き犠牲者が出る度に被害者が銃を所持していれば助かったと言ってしまうような団体なのだから察して欲しい。樹は朝食を軽めに済ました。重いものを食べて動きが鈍るのも困るし何かあって吐くかもしれないという配慮からであった。
生存競争をしている限りは狩る者もいつか狩られる立場になることもあるだろう。人類が負けるとは思いたくはないがそれでも無傷であると盲信できるほど楽観的ではないのだ。
幕山迷宮は難易度の高い迷宮ではないために解放はされているがそれでも中腹以上に登らなかった場合の話だ。樹が迷宮に足を踏み入れれば迷宮主に察知され戦力が送り込まれるものだと予想されるがどの位の精度があるのかが問題であった。
街中にある迷宮は一部を除いて積極的に攻略されてきた。迷宮は資源地となり得るが国民の安全性が優先されるのだ。一部を残したのは覚醒に使うためだ。
迷宮を放置して成長される危険性はあったが初めての迷宮攻略で初心者用の低等級迷宮がないのは危険だからである。九つの国有迷宮は主要都市に分散される形で設置されたが、数は圧倒的に足りておらず樹も冒険者資格を取得するために横浜まで赴いている様に大暴走対策として自衛隊の駐屯地がある所在地が選ばれることが多いのだ。
「そこで一度、立ち止まれ」
誰何する声は自衛官のもので感情を極力排したものになっている。全ての迷宮に警備をつけることは不可能だが、批判をかわすために人を配置せざるおえないのが現実である。そうでなければもし人的被害がでた時に野党や無責任なマスコミは政府批判をするだけで責任など取らないのだ。
「ここに冒険者証があります」
首にかける形で発行されドッグダクにしている。冒険者証はラミネート加工された安い物だが再発行に二万円かかる。再発行ビジネスでもする気なのかと疑うのは魔物と戦っていれば強度のない物など簡単に破損するからである。
ステータスプレートは未知の金属らしく研究をするべきだと主張する研究者もいたが破損したら再発行ができないかも知れずこれから生命線になるかもしれないプレートを提供する者は極少数派に留まることになった。
「田上樹さんか。もしかして田上一佐の息子さんか」
雰囲気的にそうだろうなと思っていたがこの人は自衛隊所属らしい。警察官もいないわけではないが所轄の警察官が派遣されても魔物を阻止することが難しいのは既に判明した事実である。
「ええ。衛は父です。行っても良いですか」
「どうぞ」
大きな都市部であれば協会も設置されるのだろうがここから一番近くても小田原迷宮の横に設置された小田原支部まで赴かなくてはならない。予算の関係がある以上は全ての迷宮に支部を設置するなど不可能であり、迷宮入口にあるのは運動会などで使われるようなテントである。
ここで成果物を渡し引換券を受け取る。これは換金するために必要であり登録した際に銀行口座を指定しなくてはならないために全て売却する場合は受領証が渡されるだけである。
おおよその金額は提示されるが命を賭けている割には報酬は見合わないものとなるだろう。そしてオークを倒した場合には迷宮核に取り込ませるつもりであるために更に報酬は減る。
敬礼で見送りを受け周囲に警戒をしながら歩き始める。迷宮に潜ることでレベルが上がったと誤認させるために実力は隠さないとならない。攻略部隊も探索している可能性は高く自衛隊はドローンなどを用いて地形の把握と魔物の種類の確認を行っている。空気が変わったと思った時にはSMが流れていた。
《幕山迷宮へと侵入しました。迎撃に備えて下さい》
これでここの迷宮主にも迷宮主の侵入者が現れたことが伝えられたのだろう。防御膜となる気が迷宮に入ってから自動で展開された。レベルアップと共に防御力も上がる様で今はそれ相応の堅さとなっているのだろう。子供の頃によく来ていた幕山だが歩いて移動するとなるとそれなりに険しい。
迷宮化したことによって所々、岩肌が見えており、足場を考えて戦闘しないと足元をすくわれるだろう。前日に雨が降っていたこともあって登るのは大変そうだというのが感想だ。こういう所に採掘ポイントがありそうなものだが入口付近に設置することはないだろう。環境を変化させるのは想像以上にDPが必要になる。
鉱脈も再出現時間と量によって変化するしただの鉄を産出しても冒険者が回収していくかは謎である。鉄はリサイクルしているくらいなので需要自体はあるだろう。それこそレアメタルが産出するならば冒険者で溢れかえることになるだろうが幕山迷宮から高単価な金属が出たという話は聞かない。無から生みだすのには相応のコストがかかるのだ。
採掘には時間がかかるためにその階層に留まるだけでDPは取得できるが、基本的には赤字になるのだ。しかもアイテムの等級は迷宮の等級のリンクしているみたいなのだ。G級迷宮で採掘できるのは鉄クズのみとなりそうだ。銅もわりと需要はあるのだが換金するのは難しい。
昔、電線を盗んで売りさばこうとした者がいたが独自に流通経路を持ってるならまだしもなければ盗んだは良いが換金できないという事態に陥る。買い取ってもらえたとしても確実に足元を見られるだろう。
ただ新たに産出するようになったからといって確実に採掘者が出るというわけではないのが痛いところだ。荷物になる鉱石をいちいち運搬するだろうか。ミスリルやアダマンタイト、オリハルコンの様な魔法金属は発見され次第、廃坑になる勢いで掘られるだろうが、ダイヤや金・プラチナでない限りは放置されそうだ。
周囲を警戒していると近付いてくる気配がある。迷宮内の方が探知はしやすいが気や魔力を持つ物体が多く特定のものを探すのは難しくなる。例えば気闘術を習得していない覚醒者の場合、迷宮外ではオーラをコントロールできていないために遠くからでも目視で確認できる。
樹の場合は未だ気配察知を習得していないからだがオーラを目に集めれば鑑定しなくとも判別は可能だ。ただ任意で見ようとすると時間はかかるそれならば鑑定した方が早い。
ただ鑑定すると相手によっては鑑定されたことに気付かれしまう。戦闘が避けられない状態ならまだしも友好関係を結ぼうとしている段階では敵対行為と取られる。そして敵意がないことを示すホールドアップだがこれも警戒の対象となってしまった。
武器を持っていなくとも手を向けるだけで敵対行為として取られかねなくなったのだ。それは魔法の存在である。樹の持つ水属性は殺傷能力は低いがそれでも相手を害することができる。そうなると相手が覚醒者かどうか判別できる機械がないと銃社会でなくとも警察官が危険に晒されることになり逮捕よりも殺害を選んでしまう者が増える原因となり得る。
そのために抵抗しないことを示すためには地面に手をつきうつ伏せになることが求められる。ただ日本は
前例主義なところもあってアメリカなどが既に迷宮を一般人に解放しているのに対して今日、解放した。アメリカの冒険者達は未だ魔法を習得する者はそう多くはないみたいだが少数は存在している。そして警察官に射殺される覚醒者の冒険者も出ている。
樹のレベルはまだそう高くはないがそれでも非覚醒者のプロ格闘家には勝てるレベルである。気闘術・魔闘術を使わないという条件でも五分の戦いはできるだろう。それでも銃弾は回避できるとは思えない。金剛を使用して初めて銃弾を逸らすことができるかというレベルであり銃は迷宮の外では十分な威力を持っている。
迷宮の中では銃術を持っていないと魔物に対しては威力を発揮しないが対人においては有効なのが曲者なのだ。それに法律という抑止力が働かない可能性もある。ゲームで言うところのMPKを取り締まることは難しく迷宮の中に潜み成果を強奪する冒険者が出てこないとも限らない。
それに仲間であるはずの冒険者に見殺しにされる可能性もある。どれも犯罪行為だが迷宮警察が現場に居合わせる可能性は低い。迷宮攻略部隊も余裕があれば冒険者の救出に動く可能性はある。
冒険者といえど国民であり危険から護ることは職務の範囲内である。だが、助けることで部隊を危険に晒すのであれば現場指揮官も苦渋の決断をしなくてはならないだろう。隊員を危険に晒せば将来、助けられたかもしれない命を救えないことになる。隊員も国民であり、危険に晒されたのが自分の意思で迷宮に入った者でなければ助ける価値もあるが危険を承知で入った者まで助ける余裕があるとは限らないのだ。
樹は鞘から短剣を抜き警戒する。拓けた場所であり、見通しが良く魔物が近付いてきた事を察知したからだ。子供サイズの猪はスモールボアだろう。肉も食用になると聞く。動物実験では体調を崩すことなく寿命を全うしたらしいが流石に鑑定しないで食べる気にはなれない。直線的な突進に注意さえしていれば安全な魔物である。
障害物があればそれにぶつけて止めたところで倒すというのも一つの方法だが、木は疎らにしか生えておらずそれも難しそうだ。それに小さいと攻撃を当てにくいというのもある。上半身への攻撃よりも下半身への攻撃の方が対処がし辛いというのもある。体当たりを受けても戦闘不能にはならないだろうが攻撃は受けない方が良い。
ゴブリンがいるなら剣を奪って投げると言う方法もとれるがあいにくまだ出会っていなかった。幕山迷宮は動物型の魔物が多くゴブリンもオークに殺されてしまうためになかなか会えないのだ。勢いを止めるためにウォーターボールを待機状態にする。魔力を循環させ属性変化させる。純魔力はどの属性の敵にも効くという特性を持つ反面、攻撃力は高いとは言い難い。
どちらかと言えば樹は戦士型なので魔力を潤沢に持っている訳では無いがレベルが上がれば保有する魔力も増え迷宮主は魔法攻撃が苦手という訳でもない為に万能タイプとも言えた。樹は錬金術と相性の良い土魔法適性を取得しようと考えており、普通であれば迷宮に影響を与える魔法の行使は難しいはずだが自身の迷宮であればステータスアップの恩恵を受けられるためにそれで改造しようと考えているのだ。
魔法薬や魔道具の需要が高まれば安全に稼げるという皮算用もある。DPを消費してしまうが迷宮さえ発覚しなければ迷宮で取得したのか自身で作成したのかは不明な為に生活費くらいは稼げるのではないかと思っている。
魔力を操作するのに慣れたとはいえ待機状態を保つのにも神経を使っている。変換し放出することができなかったために覚えたが気を抜けばずぶ濡れになってしまう。体外に放出するのも両手でできるようにはなったが手のひらを相手に向けなくてはならないという欠点があるのだ。指先からも出せないかと試行錯誤をしてみたが現状では難しい。
魔力回路を拡げるのにも苦痛が伴い最大魔力を増やすためには枯渇まで使う必要があるがそれにも苦痛が伴うのだ。生命を維持するのは気の役割みたいだが、魔力が枯渇すれば魔力が上げていた身体能力が下がることになる。倒れるほどの体調不良とまではいかないが息苦しくはなる。そして迷宮内の方が回復は早いらしいということだ。
地球にも魔力はあるが濃度は薄い。殆ど使われていない力であるためにすぐになくなるというのはなさそうだが魔力を体内に取り入れるのには時間がかかるのだ。これは普段の回復速度と迷宮内での回復速度で試した結果なのでそう大きな誤差はないと思う。と言っても一時間ほどわざと空にしたまま持ってきた水筒に魔法で作った水を入れて魔力を減らした後に鑑定を使いながらどのくらいの速度で回復するのかを実験したものだ。
待機状態にしたウォーターボールをスモールボアに向かって放つ。頭には魔法言語が浮かび上がるが詠唱をしなくても発動する。詠唱は半自動的に魔法を発動できるようになるがその欠点として敵にこれから使用する属性の魔法を伝えてしまうことそして魔法の威力が一定になることだった。水魔法適性を取得してからほぼ使っていない。
込める魔力を間違えれば魔力が枯渇する欠点を持つが戦闘用に使うのであればわざわざ宣言してやる必要は無いからだ。パーティを組むのであれば必要かもしれないが、樹にはその予定はない。迷宮内での仲間内でのトラブルなどごめんである。ただでさえ命懸けなのに余計なリスクを増やす意味がないからでもある。
足元に放ったウォーターボールはスモールボアを滑らせることに成功した。そして、気闘術で身体能力を一瞬だけ高め肉迫する。身体の側面を斬りつけ出血を強いる。周囲の魔物を引き寄せてしまう可能性もあったが今は目の前の敵を倒すのを優先した。何度か斬りつけるとスモールボアは動かなくなった。
動物を解体するのはゴブリンで慣れた。それに獣害がないとも言い切れずまた野生の動物が魔物化する可能性はゼロでは無いために動物園が閉鎖されるという珍事も起きた。ゴブリンなどであれば自然発生した迷宮から逃げてきた個体とも言えたが自衛隊でも手こずったジャイアントクックは鶏が魔物化したものだと信じられていた。
不幸な事にクリスマスでチキン化される前に雄鶏の集団脱走事件が起きており、信憑性を高める結果となっていた。倒され解体された後に行われた遺伝子検査で食用となっているブランド鶏の遺伝子情報が検出されたのも拍車をかけていた。普段は動物愛護を提唱する団体もこの結果には沈黙せざるおえなかったのだ。
人が上位の存在として君臨しているからこそ動物保護を唱えることができるのだ。霊長類が食物連鎖のトップにいるからこその慈悲であり、もし動物が魔物化することによってその秩序が崩されるのであれば余裕などないのだ。
犬猫の放棄も酷かった。ペットとして飼っているのだから最後まで責任を持てばよいのに命に対する責任感はまるでなかった。魔物化することで復讐しにくると考えなかったのだろうか。余裕がなかったのは仕方がないことだが危険が去った訳ではないだろう。
象や肉食獣が魔物化すれば樹でも勝てるかは分からない。スモール系であれば負けることはないと思いたいが、この命名も誰がしているのか不明なのだ。迷宮に潜った者の中から鑑定に目覚めた者が無意識的に決めているのではないかとされているがスモールの上位種としてミディアム。その上位種としてラージがいることが判明している。
幼体→成体→老体と種族のなかで進化していくものもあれば最初からミディアムで特に大きな個体をラージと呼んでいる場合もある。スモールラビットであればミディアムラビットが成体となりラージラビットは特異体という扱いになるらしい。ラージラビットは二足歩行が可能で筋肉も発達している。銃が使える自衛隊だからこそ弾幕を張って倒したらしいが近接戦闘するのは危険らしい。
藤堂は自身の持つ貴重な迷宮での経験を少しだけだが話してくれた。衛は諦めさせようとして話をするように仕向けたみたいだが樹には逆効果だった。ラージラビットが獣人だとは言えないだろう。知能としては道具を使うまでには至らず野生の本能のみで戦っている印象を受けたと藤堂は言っていた。人を襲う習性がある以上は敵として処理しなくてはならない。スモールボアを迷宮核に取り込み歩き始める。
頂上付近からは濃い魔力が感じられる。迷宮核は魔力の塊とも言える存在であり、色々な用途に本来であれば使用されるのだと思う。科学文明とは違った魔法文明があるのであれば魔石を燃料に魔道具を動かしてたり魔力を素に魔導具を動かしていても不思議では無い。地球では魔力の存在はこれまで公には確認されてこなかった。ただ人が認知できないだけで地球には魔力がなかった訳ではなさそうだった。
そうでなければ人間は魔力に適応することはできないだろうと考えたからだ。極一部の者だけが使えていたというのであれば秘匿されていただけということもあり得るだろう。0を一にするのは大変であり、それが覚醒したことによって不可能を可能にしたとも言えるがそれは問題ではないだろう。樹としては警戒しなくてはならないのは人が魔化することだろう。
動物が魔物になるように人が魔人にならないとは限らない魔法使いがそもそも魔人と言ってしまえばその通りであるがここで言う魔人とは人類に敵する存在するの事である。魔物は例外なく人に敵意を持って生まれてきている。弱肉強食に人も含まれるようになったと言えばそれまでだが魔物同士で争うのは迷宮外でしか見られない行為である。
迷宮の中にいる魔物は全て迷宮主の支配下にあると言えばそれまでだが、迷宮主がそこまで厳密に管理するかという問題もある。防衛戦力が減ることになるために同士討ちを禁止している可能性はあるが生きている以上は魔物も食わなくては生きていけない。それにレベルという概念は人だけでなく魔物にも適応されゴブリンの上位種がホブゴブリンであるように上位種に進化することを存在進化と呼んでいるらしい。
蠱毒のように弱い生物でも競わせ生き残らせることによって強い個体が生まれる。同異種の中では上下関係もしっかりあるようでゴブリンがホブゴブリンに逆らえることはまず無いだろう。弱ければ生きていけないのだ。冒険者も魔物の種類にもよるが決して格下の相手ではなく少なくない犠牲もでる。しかも生存競争に負ければ戦力は減りなおかつ敵は強化される。悪夢でしかないだろう。
この幕山迷宮ではオークをトップとする生態系ができておりその下に先ほど倒したスモールボアなどがいるのだろう。オークとスモールボアは進化系統が違うとはいえ同系統の魔物であると推測している。そして、他の系統の魔物が出てくるのであれば警戒しなくてはならない。少なくとも他の迷宮に侵攻している迷宮主であり、種類が多様なほどに厄介な敵となり得るからだ。
等級が低いと侮っていると痛い目に遭う典型だろう。他の冒険者なのか気配を感じるが迷宮の中ではなるべくなら接触したくはない。覚醒者と言えど幕山迷宮は難易度が低い訳ではなく余計なトラブルに巻き込まれたくないからだ。魔物よりも人の方が厄介だと思う。統制された自衛官や警察官でさえ迷宮の中で犯罪に手を染めないとは限らない。
同僚や上司が見てるなかでの犯行は余程のことがない限りはしないだろうが人の欲望には際限はない。樹だって女の子にチヤホヤされたいと思うし、ゆとりのある生活をしたいと思う。そうでなければ余計なリスクなど取らずに迷宮核を政府に売却して終わらせていたはずなので当然である。そして、力を得てしまった人間というのは厄介なのだ。
「助けてくれ」
念の為に状況を把握するために警戒しながらも声の下へ歩き始めた。




