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冒険者からの成り上がり~迷宮経営も楽じゃない~  作者: 浩志
コンビニ店員、冒険者になる
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十七話

 樹の計画は頓挫しそうだった。組手である程度の実力はばれただろう。そして、政府の本気を舐めていたと言える。迷宮が攻略されたと発覚するのは承知だったが攻略したのが樹だとは判明しないと高を括っていたのだ。レベルを誤魔化したのは悪手だとも言える。


 スキルによって誤魔化す方法があると情報を与えたしまったのだから。衛の忠告は樹を守るためのものであったというのは理解できる。迷宮攻略の部隊の隊長として藤堂はあまりにも有名すぎた。


 通常であれば特殊部隊員の素性は秘匿される。家族を危険に晒すことになりまたテロや諜報の対象とならないためである。


 ただ迷宮の存在は国民に与える不安が大き過ぎたのだ。海外派遣され指揮を執ったことのある藤堂の存在は国民に要らぬ不安を与えないために公表するのが良いと決まってしまったのだ。一度、決まってしまえば公人でもある藤堂が拒否することは難しい。他の隊員への影響を考えれば拒否することもまた難しかったのだ。


 そうなれば政府に有用であるとアピールする必要がある。間違っても人類の敵と認定される訳にはいかないのだ。まだ銃弾を回避するような能力はなく、また寝込みを襲われてしまえば為す術もなく制圧されることになるだろう。政府が迷宮核(ダンジョンコア)の制御権を奪取したのも一般人への迷宮の解放を後押ししたが問題がなくなる訳では無いのだ。


 迷宮主(ダンジョンマスター)の収入源は侵入した冒険者から得る。侵入者を殺害して迷宮に取り込むことで得る。(オーラ)や魔力を変換して得るかのいずれかになる。穏健派の迷宮主ばかりであれば良いが迷宮から外に出て攻撃する者が出てこないとは限らず実際に被害者がでてしまっている以上は警戒しない訳にはいかないのだ。


 それにランドマークが迷宮化したことによって経済的な損失は計り知れない。殆どの場合、観光資源として街中にあるのだ。そして、それに該当しない迷宮が現れるということは新たな迷宮主が誕生したということになる。山林などの人の手が入っていない場所については遅遅として調査が進まない現状である。


 未発見の迷宮は警戒に値する危険な場所なのだ。迷宮が発生した土地の所有者が譲渡に応じない場合もある。公定価格ならば路線価を元にして不当な買取とまでは言えないが、迷宮からの拾得物の価値を考えれば納得できない人がどうしても出てきてしまう。


 私有地での活動を基本的に警察や自衛隊は認められていない。管理されていない迷宮からの被害は所有者が負うとしているのも国の管理下に置きたい政府の意向が強く働いた形にはなるが合理的であるのだ。拾得物の権利を国とすることで私有迷宮は存在しないことになる。


 その例外が樹を始めとする一部の攻略者だ。迷宮の全てを国で把握できない以上は存在してしまうし異例の速度で制定・施行された迷宮・冒険者法だがこの法律が成立される前に迷宮核を所有されてしまえば遡及して罰則できない以上は監視するしかないのだ。


 樹は迷宮を手放すつもりはないし当然、侵入者には容赦しない。ただ複数の迷宮の支配権を得たのであれば初心者用、中級・上級者用と分けて運用するつもりであった。初心者用では撃退以上の事はしないつもりだ。


 迷宮核の前には守護者(ガーディアン)と大量の罠で攻略させるつもりなどないが攻略する意志のない者については安全に覚醒ができる施設にすることでDP(ダンジョンポイント)を稼ごうと想定していたのだ。だが、それは政府認定の迷宮が行ってくれるだろう。


 宇宙空間と同様に迷宮は国家に属さないことが条約で決まった。そして、攻略の優先権はその土地に属する政府と冒険者にあり、治外法権が一部認められるために属する国家の法律が認められるかは微妙な所である。


 例えば航空機などであればその領空権を持つ国の法律が適用される。ただ迷宮は国家に属さない土地という扱いになる。だが、迷宮内で起きた不法行為について不問とすることもできないために国際ルールが必要となるのだ。国有迷宮については属する国の法律を適用し、野良迷宮については国際ルールを適用することにしたのだ。


 それで揉めたのは最高刑としての死刑である。死刑制度を採用していない国も多く、迷宮内の犯罪は命に関わるためにどうするかについては揉めに揉めた。人類に対する敵対行為であるために死刑は必要とする国と自治権を手放したくない国家の妥協で生まれたのが広域特殊捜査官である。


 被疑者の属する国家によって死刑の有無を決め、死刑の無い国については無期懲役とすることになったのだ。警察権を与えることはその国家に属すると認めることになるために苦肉の案として広域特殊捜査官が認められたという経緯もある。


 資格を持つ捜査官であれば国有迷宮以外の野良迷宮での警察権が認められそれは警察官でなくとも良いとしたのは覚醒者を取り締まるためには武力行使が必要になるからである。冒険者や軍人に警察権を認めるためにできた制度であると言えた。


「樹。広域特殊捜査官になるつもりはないのか。俺や藤堂の推薦があれば国も断らないと思うし冒険者よりは安全な仕事だろう」


「冒険者になることは勧められない。広域特殊捜査官ならば国家公務員だ。危険はあるが保障も手厚いぞ」


 何も言ってこなかった(つむぐ)であったが藤堂との組手を見て衛の意見には賛成のようだった。


「冒険者になることをやめるつもりはないよ。いつ危険があるかも分からないし、俺ならば迷宮内でアイテムを有効に使うこともできる」


 迷宮探索庁はスキルを資格認定することで利権を得ようとしていた。国家認定鑑定士もそのひとつである。鑑定のレベルが上がるまでは買取不能なアイテムが多くなると予想される。


 魔石に関しては重量で買取を行いゴブリンであれば五百円を基準に決めており初級回復薬であれば二千円ほどで魔物の肉に関しては買取を行わない。食用として物流にのせるのには健康に与える影響が未知数であるからだ。


 魔物の素材に関しては研究用として買取が行われる予定だが企業が購入しなければ冒険者には報酬が支払われないことになるので初期の買取に関しては多くの税金が投入されることになる。国立大学などで研究用として購入し多くの実験に使用されることになるのだ。


 魔石に関しては重量で決めたのはまだ魔石の有効利用法が発見されていないからである。魔石の価値とその魔物が討伐されないことによる人的被害を鑑みた結果、最低金額の支払いが保証されることになったのだ。


 命を賭けるには安い金額かも知れないがゴブリンであれば覚醒していればそこまで手強い相手ではない。それに冒険者は個人事業主として青色申告の対象になりまた税金についても優遇措置があるのだ。弱いゴブリンを相手にしかしない冒険者であれば収入が低い代わりに危険も低いのだ。


「そうは言うが絶対はないぞ。それならば国家認定鑑定士として働くのじゃ駄目なのか」


「冒険者が危険なのは昨日も話した通り承知しているよ。だけど魔物が街中に溢れださないとは誰も言いきれない。その時に他人に頼ってばかりでは守りたいものを守れない」


「樹。楓のことをまだ気にしているのか。確かに楓はあの事件があってから内向的にはなったが守るだけが良いとは限らないんだぞ」


「紬さん。確かに楓のことが原因ではないとは言いきれないですけど。自衛する力がなくては生きていけない。そんな世界にならないとは誰も言いきれないと思います」


「樹くん。田上一佐のことも理解してあげてくれ。我ら自衛官はいつ死ぬかも分からない職業だ。家族が危険な職業に就くことを止めたい気持ちも理解してあげてくれ。それに俺の所にくれば安全はある程度は確保できるし一佐も安心できる。お勧めだぞ」


「どこまで自分の力でやれるかを試してみたいんです。それに自衛官や国勤めは性にあわないです」


 昨日、衛と話したことの繰り返しである。衛は納得していない様子だったし紬や藤堂も反対の立場を取らざるおえない。他所の家庭に口を出すのは良くないことだと承知はしている。


 ただ紬からしてみれば小さい頃から知っている友人の子供であり、藤堂からしてみれば上官の子供であり部隊の危険を減らすことのできるかもしれない人材だ。冒険者として働かせるくらいならば手元に置こうとしても不思議ではない。


「それならば一般人に迷宮が解放されてから一緒に潜れば解決する。隊には休暇届けを出すために銃器は使えないだろうが低等級の迷宮なら危険は少ないだろう」


 藤堂の提案は衛を安心させる為のものであり、幕山迷宮の攻略のついでに樹の実力を測ろうというものだった。


「俺が隊員に声をかければ二・三人くらいなら直ぐに用意できるだろう。心配なら紫藤さんもついてくれば良い。自衛隊と警察の交流とでも言っておけば上も断れまい」


 近隣の住民に避難を促すために迷宮の情報は公開されている。言ってしまえば迷宮となった土地は買取の対象となるがその周辺の土地に関しては対象外で一種のバブル状態となっている。高等級の傍ともなれば価格は暴落しているみたいだが、Eランク以下の周辺の土地に関しては企業が買い漁っているために地価は高騰していた。


 これは博打でもある。迷宮から魔物が溢れだせば真っ先に被害に遭う可能性は高い。入り口に警備員として警察官を配置しているが全ての迷宮を監視するのは現実的ではないのだ。嫌われることの多い自衛隊の駐屯地や基地だったが戦力が近くにあれば早く対応することが可能であり大規模迷宮のそばに駐屯地を誘致する市民活動まで起こっている。


 多くの自衛官はその活動を冷ややかな目で見ていたが必要とされること自体は歓迎できることである。国民の協力を得られなければどうしても救えない命がある。そして自衛隊は都道府県知事などの首長の要請がなくとも内閣総理大臣または防衛大臣の命令によって迷宮被害者を救出できる権限を与えられていた。


 最悪の自体に備えて現場指揮官の判断によっても部隊活動を許可しており、事後報告は必要となるが作戦行動に法的根拠を持たせているのである。情報が錯綜しまた治安維持出動するにも要請が必要となり現場が混乱したことによる反省である。


 具体的には三佐以上の自衛隊幹部には広域特殊捜査官の権限が与えられることになり迷宮内において独自行動が許可される。尉官に対しても与えるべきだという論争はあったが新規にできた国際資格であり、部隊長である佐官以上の幹部がいれば良いとされた。


 実情にあわせて柔軟に対応していくべきであり、文民統制(シビリアンコントロール)を乱さないのであれば現場の意見も尊重すべきだとして決定がなされたのだ。水棲魔物は迷宮内において確認されており、飛行魔物も確認されている。


 それがいつ溢れ出すかなど予測はつかないために備える必要があったのだ。自衛官や警察官に関しては休暇であっても迷宮に潜る権限が与えられ冒険者資格も無試験で与えられる。実戦経験を持つ者に試験をするのは無駄であり、それならば一つでも多くのアイテムを取得して欲しいという思惑から決まったことであるが警察官や自衛官にとって公に認められる副業である。


 原則的に公務員の副業を認めていない政府ではあったが働き方改革の名のもとに認めるには都合が良く。それが大暴走(スタンピード)を抑制するものであればなお良い。最初は密輸に関して厳重に警戒しなくてはならないが発覚時には冒険者資格の剥奪もあるために余程の金にならない限りは抑止力として正常に働くと思われた。


「授業参観じゃないんですから嫌ですよ。それに自衛官には今は休みが取れる雰囲気ではないのでは」


「それは大丈夫だ。休日の迷宮攻略は推奨されている。それに樹くんの実力もちゃんと把握しておかないといけないからな」


 これは良くない流れである。恐らく休暇の許可を出すのは衛であり、樹は実力を隠したいと思っている。迷宮主(ダンジョンマスター)の力さえ隠せればそれで良いと思って情報を開示したに過ぎない。国有迷宮によってその能力さえも隠せない可能性はあったが基本的に迷宮主になる者は官僚であり頭は良いのかも知れないが武道に精通した人物はそう多くないと樹は考えていた。


 それもそのはずだ。実行部隊である自衛官を迷宮主にしてもしその自衛官が死亡したらどうするのだ。おそらくは迷宮自体は消滅しないだろうがまた迷宮を育て直さなくてはならない。樹は現状では無事に支配権のみを譲渡する方法を知らない。迷宮主には階層を護る守護者(ガーディアン)が眷属として使役することが出来るようになるが眷属は魔物だけでなく人もなることができる。


 魔物であればユニークモンスターとなり通常種よりもステータスが高くなる。人であれば主の迷宮内においてステータスの上昇の恩恵を受けることが可能になる。しかも迷宮内であれば自給自足をすることも可能になる。DPをそれなりに消費することになるが初期投資さえ終われば人が迷宮内にいることによってDPが入ってくるために収支に気をつけてさえいれば独立国として成立することも考えられる。


 それにもし地上で戦争が起きたときにも避難所として有効活用することが可能なのだ。樹があまり政府を信頼していないのも理由の一つとしてあげられるが迷宮に経済や資源を依存し過ぎることに対して危機感を抱いているからでもある。国民が貧困に喘いでいるのにも関わらず日本のトップである総理大臣が自助や最後には生活保護があると公言してしまうような国なのだ。


「お断りします。冒険者は自己責任。そのために年齢で制限がつけられています。それに父が反対したとしても止めるつもりはありませんので」


 労働基準監督署に労働基準法違反で申告するとオーナーを脅したら有給休暇の取得と雇用保険に加入することをあっさり認めたのだ。就業規則もなく平均賃金で支払うとのことで計算もめちゃくちゃで時間はかかったが金は手に入れることが出来た。


 それに住宅確保給付金についても社会福祉協議会に相談し規定の収入を満たないために申請はしてきた。離職票が送られてきて失業保険の手続きをしたが冒険者になることで自営業となるまでは一応、正社員での仕事を探している。


 ただ冒険者を雇用しアイテムを取得することで収益をあげようとする企業は多かったが社員とするよりも業務委託契約を結ぶことを選択するようにしたみたいであった。自社の社員にしてしまえば企業責任を負うことになる。


 社員が良く死傷する企業のブランドイメージは悪くなるし親族からも恨まれることになるだろう。それに企業体力のある大企業でも不用意なリスクを負うことはできないのだ。企業としてはリスクは負いたくないが利益が欲しいというのが本音だろう。


 専門学校で簿記を勉強したが既に知識は抜けかけているし知識と実務はまた別物だろう。個人事業主としての情報を集めてはいるが所得の申告漏れを指摘されて追徴課税されるくらいなら専門家に任せようと考えている。商工会議所に相談すれば専門家を紹介してくれるだろう。簿記の資格としては日商簿記二級を持っているがあまり役には立たないだろう。


 全くの素人よりは良いと言うだけで会計事務所や経理として働くのには経験がなければ中途採用されることはないからだ。樹は当初、経理での仕事を探していた。しかし、内定を貰ったのは家電の販売員であり何故か専門学校のルールとして複数の内定を貰うことも内定を辞退することも不可となっていたのだ。


 確かに信頼があるからこそ企業はその専門学校の卒業生に内定を出す。樹もその恩恵を受けているとは言えたがそれもブラック企業でなかったらの話だ。しかも樹は内定を貰えなかったことに焦ってはいて販売職に初めて応募した企業なのだ。


 関東圏で出店しているその店は樹が小さな頃から近所に店を構えていたしよく行く店だったのは確かだ。ただ流されて販売員となった樹のモチベーションはかなり低かった。二次面接で内定が貰えるとは思っておらず応募を辞退するつもりで面接に赴いたのだから当然である。


 そこで妥協することは悪だと学んだ。療養し働き始めたバイト先も妥協の産物である。とにかく働きたかった樹と店のニーズが一致したから惰性で働いていただけでコンビニの店員がやりたい仕事という訳でもなかった。そして、衛から言われている広域特殊捜査官にも樹はなりたい訳ではない。


 衛のことは尊敬しているし警察官である紬のことも同様である。誰かがやらなくてはならない仕事であり、働いている人がいるからこそ便利さを享受できているのだ。これは後悔しないために必要なことなのだ。


 楓の男性恐怖症となるきっかけの事件のようにできることはしておきたい。それが最終的に後悔することになったとしてもやって後悔するならまだマシだと思うのだ。それに冒険者には大きな見返りがある。きっと変質してしまった世界では力がないことは悪になるだろう。


 剣と魔法の世界に憧れがないと言ったら嘘になるが迷宮ができて魔物が出現するようになったでは終わらない気がするのだ。神と言われる存在が気ままに力を振るうだけで人類は甚大な被害を受けることになるだろう。


 それに神に出会ったことはないがその神が地球の神なのかという問題もある。樹は神がいてもいなくても別に構わないと思っている。ステータスの存在はこの後の暮らしを激変させるだろう。現代兵器で倒せない魔物は人類の生存圏を確実に脅かす。ドラゴンを核兵器で倒せるとしても倒した後に人類が生きていけない環境になったらなんの意味もないのだ。


 政府が迷宮を管理し実験を行うのも、もし地上が人の住めなくなった場合を想定してのものであるが等級(ランク)の低い迷宮では衣食住を確保するのは難しいと考える。魔物を倒すことによって食糧を手に入れられるかもしれない。水を確保できるかもしれない。でもそれは可能性があるというだけで確実性が乏しく国民の全てを収容できる大きさにはならないだろう。


 階層型の迷宮であればDPすらあれば生活圏を確保することはできるだろうが魔物は迷宮を守る警備員であり侵入者を撃退する以外のことが可能なのかと言う問題もある。そして迷宮核を支配し取り込ませれば魔物の種類は増えるがそれ以外にも魔石と魔物の素材を迷宮核に取り込ませることで登録は可能だ。


 魔物の死体を全て取り込むのが一番、効率の良いやりかたであり、一部だと登録に必要なDPが増えるという欠点がある。ただアイテムも一度、複製さえしてしまえばDPで作成可能なところが迷宮主の特権となるだろう。


 DPの管理さえ上手くできれば無限に金の卵を産み続けるのだ。そこで活きてくるのが他の迷宮を攻略することだ。魔物さえ倒してしまえば取り扱える種類は加速的に増えていくが迷宮主は対立関係にあるという事に注意を払わなくてはならない。


 冒険者と迷宮主は一種の共生関係にあるが他の迷宮主は敵対関係にある。冒険者も迷宮核を狙ってくるために潜在的な敵ではあるが他の迷宮主は同盟を組まない限りは敵対するしかないのだ。国有迷宮の迷宮核に手を出すことは禁止するだろうが、私営迷宮は積極的に攻略しようとするだろう。


 野良迷宮であれば国の管理下に置くために攻略に乗り出すかもしれないというくらいだが、迷宮を個人で運営すること自体が想定外なのだ。


 冒険者として名を馳せなくては収入も防衛も覚束無いだろうと樹は考えている。収入の予測は非常にし辛いが少なくともDランク以上でなければ生計を維持するのは難しいと思う。回復薬の需要が増えても政府は買取価格を上げるかは微妙だ。回復薬は画期的ではあるが初級回復薬では擦り傷すら瞬時に回復させるものではない。


 傷の回復を早めるバンドエイドよりかは速攻性が高いのは事実だったが、誰の目に見ても明らかな効果がでる回復薬でなければ買い叩かれるだけである。医療費の圧縮などの名目を掲げて命を賭けている冒険者の成果を掠めとるだろう。それに冒険者は税制面での優遇を受けられても危険な職業であることには変わりはない。



 生活費以外にも武器・防具に金をかけなくては直ぐに命を落とすだろうし生活を保障してくれるものなど何もない。不具になったとしても冒険者であったのなら生活保護すら受けられるか不明なのだ。障害者手帳を得るためにも外部の協力が必要で政府は支出を抑えようとしている。


 特例として受給額を低く設定することも既に決定がなされている。自分達に有利なことにはとことん迅速に行動するが不利なことについては亀の歩みなのだ。それでも樹が冒険者を目指すのは閉塞感を打ち破るためにできるのは冒険者くらいしかないからだ。


 企業戦士(サラリーマン)は確かに安定した収入を得られるだりうが貴重な時間をかなり拘束される。労働基準法すら守っていない会社もあり労働者は搾取されているのだ。それならば脱却するためには企業するしかないが事業を成功させられるものなどほんの一握りしかいないのが現実なのだ。


 衛を説得させられそうにはない。だが、それでも良いと思っていた。高位の冒険者には広域特殊捜査官へとなる道もひらかれており、迷宮を経営するなど未だ誰も為し得たことのない事だ。それで失敗するのであれば諦めもつくというものだ。樹は辞去することを衛に告げ帰宅した。

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