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冒険者からの成り上がり~迷宮経営も楽じゃない~  作者: 浩志
コンビニ店員、冒険者になる
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十六話

「そこまで」


 明確に模擬戦が終わる条件を決めた訳では無いがこれ以上、続けても樹が藤堂を倒すのは不可能だと(つむぐ)は判断した。藤堂にはまだ余裕はあるが、もしこの模擬戦の相手が紬であったのなら紬は負けていただろう。


 衛は藤堂に連絡をとった際に樹の実力を見極める様に依頼していた。それは政府の方針でもあり、迷宮警察権を持つことになる自衛官としての職務の一環でもある。藤堂が率いる部隊が迷宮の最精鋭なのだ。相性によって有利・不利があるのは仕方がないが、覚醒者の脅威度を測るという点において樹は一つの(ものさし)になる。



 発砲の手順は厳格に定められており、非覚醒者の警官が覚醒者の犯罪者を制圧するうえで批判が警察に向かないようにするためにも必要なことだ。覚醒者かもしれない被疑者を制圧するためには抑止力としての迷宮警察(ダンジョンポリス)が必要となるが予算的にも時間的にも全ての警察官を覚醒者にするのは現状では難しいとしか言えない状況なのだ。


 そのために有志として冒険者に自警団の役割を与え高位の冒険者には迷宮内に限定して警察権を与えるべきだという主張もあり検討することになったのだ。身分としては任期型の非正規雇用となる予定で司法巡査として権限が与えられる。そのために各種の研修を行い採用することになるだろうがモデルケースとして樹が推薦されているのだ。


 自衛隊幹部の父を持ち迷宮帰還者(ダンジョンサバイバー)であり、犯罪歴もなければ借金などの金銭的な問題もない。これから迷宮が一般開放されることによって迷宮探索庁は取り締まりの権限が強化されることになる。それに伴い予算も付けられ冒険者のランクを認定する認可機関としての役割も果たすことになる。


 そうなれば権力が集中することになり冒険者協会は天下り先にもなるのだ。防衛省や警察庁としては治安維持に関わる権限は手放したくはない。迷宮探索庁に出向しているとはいえ組織間のパワーゲームに巻き込まれることなく職務を遂行したいのだ。


 無論、上層部の思惑はあるだろうが実行部隊を掌握していることが重要になってくる。予算の執行を認めないから治安が悪化したともなれば財務省の責任問題になる。適切に執行されているかは監視する必要はあるが他国に遅れる訳にはいかないという事情がある。


「樹くん。うちの部隊でなくとも良い。自衛隊に来ないか」


「誘って頂けるのは有難いですが。組織で働くのは向かないと思います。冒険者の可能性に賭けてみたいのが今の心情です」


 迷宮帰還者(ダンジョンサバイバー)の勧誘を行ってはいるが荒事に向いた性格の人は少なく樹みたいに冒険者になりたいというのは少数派だろう。アルバイトをした方が安定した収入が得られる。そして、冒険者の保険料は高く身分も安定しないのだから当然のことである。


「そうか気が向いたら田上一佐を通して連絡してくれ。君なら何時でも歓迎する」


 ----


 藤堂は思った。田上一佐の息子は原石であると。部下でも現状あそこまで戦える者は少ない。藤堂の部下はレンジャー持ちも多いがそうでない一般隊員もいる。日本各地の迷宮(ダンジョン)に対応するのには一つの部隊だけでは足らず日本各地のレンジャー部隊の講師として迷宮探索のノウハウを叩き込む教官の立場にあった。


 物資やスケジュールを管理しているトップが田上一佐であり、一佐の部下の薫陶は行き届いているために精鋭が多いのだ。治安維持出動が決まった時にも既に多くの情報が部隊にはあった。民放各局はこぞって放送しカメラマンやキャスターが魔物(モンスター)の被害に遭うこともあったが警察庁から上がってきていた情報の確度を補完してくれたのだ。


 ファンタジーの代表格であるゴブリンから鶏が大型化したジャイアントクック。様々な魔物が出現し警察の手に負えなくなったのだ。制式採用されている拳銃では致命傷が与えられないのであれば自衛官が持つ小銃の出番だ。市街地での発砲許可はなかなか下りなかったが一佐が幕僚本部に直訴したことで承認が早まったのは事実である。


 避難誘導には多くの警察官があたり自衛官も封鎖に協力した。極力ではあるが一般人がいない状況下での作戦行動が望ましかったのだ。破壊された公共施設以外の補償についてもまだ物が壊れるなら良いと笠野総理大臣が決断したのは英断であった。それも内閣支持率を気にしてのことであっても国民に被害が出ないように行動したというだけで評価に値すると思う。


 流石に市街地で個人携行対戦車弾を放つ訳にはいかないのだから小銃でなんとかなる相手で良かったと胸を撫で下ろしたがそれは悪夢の序章に過ぎなかったと知ったときの絶望感は思い出したくもない。迷宮が日本各地どころか世界各地で確認され入らなければ良いものを侵入した民間人が被害に遭った時には頭を抱えそうになった。


 しかも迷宮内では銃の使用が制限されるなど考えたくもない事態だ。ゴブリンくらいならサバイバルナイフでも十分に殺せる。銃で殺害した印象としてはそれほど強い存在であるとは思えず強くても素人の中学生くらいの力しかないのだから殺すことに躊躇いさえなければ人的被害は最小限に抑えることは可能だからだ。


 ジャイアントクックに至っては迷宮外で良かったとも言える相手だった。拳銃では硬い皮膚を突き破ることは出来ず、また小銃であったとしても衝撃で足止めするのが精一杯であった。今なら倒すことは不可能では無いだろうが脅威度としては高い。


 覚醒している者がまだ少ないというのもある。覚醒が良い面だけでなく、悪い面も見なくてはならず一見、良い事づくしに思えるが思わぬ落とし穴がないとは言いきれないのだ。現在、レンジャー課程の履修中である白井を連れて来れればとも思う。


 樹くんは白井三尉よりも年下ではあるが実力を測るにはちょうど良い相手に思えるのだ。白井も当然、覚醒者であり迷宮に潜っている。上層部は戦力強化のためにレンジャー課程の短縮を決めたが難易度が落ちる所か寧ろ上がっているくらいに厳しい訓練になる。


 田上一佐の要請でなければ断りたいところだ。ただ、一佐も上からの命令で自分が必要なのだと判断したのだろう。それは間違いではなかった。世界初ともなる迷宮攻略者であれば日本が世界をリードするために必要な戦力になる筈だからだ。公言は出来ないが迷宮の探索に在日米軍が口と手を出してこようとしたらしい。


 思いやり予算だけでも日本の負担となっているのに他国の迷宮を攻略させろと言ってきたのだ。他国の迷宮であれば攻略して資源が出なくなったとしても問題はない。迷宮から魔物が溢れ出す危険はあるが迷宮は新たなる開拓地(フロンティア)である。


 特に技術はあっても資源に乏しい日本には経済を建て直す絶好の機会であるとも言える。取得条件は未だ判明していないが鑑定士の数を増やすことも急務である。未知の物質を発見してもそれが有用であるかの判断ができないのだ。


 もしそれが有害であった場合、対抗策を練り実行している間に部隊が全滅することもあり得る。部隊だけならまだ良いがそれが国民に世界へと害悪を撒き散らすことがないと断言できる者はいないだろう。当初、隔離期間を設けていたが、迷宮特有の病原菌などは検出されなかった。入口に設置されている石碑。端末(コンソール)でステータスを更新することを義務付けている。


 樹くん曰く案内人(ナビゲーター)と呼ばれるゲームのシステムアナウンスを行う存在がいるらしいのだが多くの人が神託と呼んでいるファーストコンタクト以外では迷宮核(ダンジョンコア)の支配権を奪取したなど重要な時以外には聞いたことがないのだ。最前線で戦うことになる自衛隊の部隊ですらそれなのだから過信することは危険だが有効であるのなら上手く使うべきだと部隊長として進言する必要がある。


 低レベルであればレベルも上がりやすいのだがこのレベルという概念も曖昧だ。身体能力が強化されるのは迷宮を潜っていれば実感できる事だが、いつの間にか上がっているという印象が強い。


 スキルを取得したかどうかの確認も実際に使用してみるか石碑でステータスの更新を行わなければ確認が難しいのだ。鑑定持ちとなった隊員ですら得られる情報はそう多くなく手探りの状態なのだ。


 それなのに迷宮を一般に解放しなくてはならないのはその後に出るであろう犠牲を考えれば心苦しい。自衛官として訓練された者でさえ人型魔物を攻撃することに躊躇いを持つ者は多い。低層に出るラビット系やマウス系であればまだ抵抗感は少ないだろうが一般人の壁となるのはゴブリンを殺せるかどうかに尽きるだろう。


 樹くんは生死がかかった状態で考えている余裕なく巻き込まれたのだから必死に抗戦したとも言えるがその後の精神科医の診断では直ちに影響を及ぼすものではないが要経過観察とされている。コンビニ強盗の件でも制圧に使用した武力は最低限であり正当防衛として認められる範囲内であったが人によっては覚醒することによって攻撃性が増すことが確認されているので油断はできないのだ。


 樹くんが一般解放されたら攻略に向かうのは幕山迷宮になるだろう。難易度としてはそう高くはないが冒険者協会は迷宮を人の手によって管理することが目的となっているので迷宮核の支配権を奪うことを禁止している。


 鉄や銅などが産出されそれを掘るだけでも魔物と戦わないで収入を得ることは出来るが単価は良いとは言えない。現時点では魔物の魔石や素材の方が価値は高く魔物を倒す実力さえあるならそちらの方が収入は高くなる。


 これも一時的なものである程度の量さえ確保できてしまえば単価は下がっていくものだと予想されている。明確に攻略が禁止されている迷宮と攻略が推奨されている迷宮があり後者には東京駅迷宮や城系迷宮。東京タワー迷宮など所謂ランドマーク迷宮が推奨されているのだ。


 部隊を率いて東京駅迷宮に潜ったことがあるがあそこは厄介な所だった。定期的に迷宮内部の構造が変化し人型魔物がうようよしているのだ。ゴブリンを始めとした鬼人系。豚人と呼ばれるオーク。


 犬人と呼ばれるコボルトなど魔物でさえ道具を使って連携してくるのだ。ゴブリン毒ですら対症療法しかできず解毒薬を持っていなければ生命に危険はある。


 即死するようなものではなく、蛇に噛まれた程度の軽い症状しかでないのは助かるがそれでも戦闘能力が低下するのには違いはなく仲間を見捨てて行くことなどできるわけもないのだから攻略は遅々として進むことがなかったのだ。


 手に入れたアイテムを鑑定できる隊員が増えたことによって取得したアイテムをその場で使用することもできるようになったが最初はその成分を分析し動物実験を行った後に治験する必要があったのも少なくない影響を与えた。


 国は多くの鑑定士を募集している。戦えるだけが全てでは無いのだ。初めて取得が確認されたアイテムに関しても国が購入価格を決めるためには鑑定が必要になるのだ。一見、価値のなさそうなアイテムにも有用な利用方法が見つからないとは限らないからだ。


 そして、自衛官の中にも部隊に鑑定士が必要になる。解毒もそうだが、高レベル迷宮になるほどに状態異常攻撃をしてくる魔物が多くなるのだ。それに指などを失う隊員が今後、出てくることになるだろう。


 その時にもし回復薬(ポーション)があれば失わずに済むかもしれない。また既に手足を失っている人への再生治療に必要になるかもしれない。命を懸ける隊員へのサポートは田上一佐を始めとする部隊幹部の仕事だ。危険に晒すからには出来ることはしないと気がすまないのだ。藤堂は田上に進言することを決意し客室に戻った。


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 部下の藤堂三佐に樹の実力を見る様に依頼したのは(まもる)だ。息子を危険に晒したくないという気持ちも確かにあったがそれ以上に覚醒者の危険性を測りかねていたのだ。覚醒者になったとはいえ精鋭にはなれない。


 迷宮に潜る時間を確保できないのもそうだが、自衛隊幹部として警察庁との折衝が仕事だからだ。藤堂に無理を言って参加したのも実態を知らなくては判断できないと考えたからだ。ゴブリン程度なら確かに取るに足らない相手であり、命を奪うことに抵抗は覚えるが魔物は敵なのだ。


 ラノベの様に魔物を使役(テイム)したなどということはまだ聞いていない。いずれは可能になると思う先頭を走る精鋭部隊にも欠点がある。構成(ビルド)というのは戦闘スタイルによって変わるらしいのだが、どのビルドが一番、良いのかなど分からないまま手探りで攻略をしなければならない点だ。


 可もなく不可もなくの平均的なステータスは安定性は高いだろうが格上の敵に対しては弱い。所謂、極振りと言われる特化型ステータスは格上に勝てる可能性もあるが格下にも負けるなど安定性に欠く可能性がある。防御型と呼ばれるステータスにしたのは負ければそこで終わりだからだ。下層に行くほどに銃が通用しない敵が出てくるだろう。


 藤堂の報告書でも銃に頼る戦闘の危険性が指摘されていた。Cランクくらいまでなら小銃でも対応が可能とされているが、実際に試す訳にもいかず銃が通用しない敵が出てきたことを想定して大型の刃物の開発が急がれているのだ。円匙でゴブリンに勝利する藤堂もたいがいだが、銃術を得るまで上層でのレベリングに実際に使用されている。


 石碑でBPが残っている状態で取得したいスキルを強く念じながら使用する。それが今、判明しているスキルの取得方法だった。効率は良いとは言えない。BPを獲得するためには魔物を倒さなくてはならずスキルを取得していなくてもBPが減ることがあるのだ。


 しかもそれはステータスに振分けられているらしく全くの無駄とは言えないが、階が低くなるごとに迷宮型では出現する魔物が強くなるためにスキルを取得していない状態で銃を扱うのは国民の血税を扱っており、何かと批判される自衛隊には難しいのとなのだ。


 隊員の命とその隊員が救えた筈の命を考えれば必要経費なのだが理解してくれる国民は少ない。ただ自衛隊がやらなくては国民は護れないだろう。警察の装備はあくまでも被疑者を逮捕するためのもので殺害するためのものではないのだから火力は制限される。


 治安維持と言っても犯罪を抑止する目的の警察と敵からの攻撃を防ぐ目的の自衛隊では役割が違って当然なのだ。SATを連れて迷宮に潜った時も着いてこれるだけの体力はあった。


 覚醒者を逮捕しなくてはならないことを考えると自衛隊も警察権を得るべきだが、法律の厚い壁が阻むのだ。警務隊の隊員には自衛官に対する逮捕権はあっても一般人に対する逮捕権はない。もし犯罪者を逮捕するならば善意の第三者として私人逮捕するしかなく誤認逮捕などの訴訟のリスクを抱えなくてはならなくなる。


 迷宮警察(ダンジョンポリス)は自衛官でも就任できるがあくまでもその権限は迷宮内のみで通用するものになり、余程のレベル差がない限りは制圧に時間がかかり困難が付きまとうことになるのだ。上申はしているがまだ明確な犯罪が起きた訳では無い。


 それに迷宮以外で魔法を使用しても防犯カメラに映らない限りは証拠不十分で釈放するしかなくなるだろう。覚醒者が危険視され敵視されることは望まないがそういう風潮ができるだろうと予想している。


 その被害者は高齢者や子供、女性と言った弱者に向かうことになるだろう。政府は国民の全てを覚醒者にすることで乗り切ろうとしているみたいだが実現は難しいとしか言えない。スモールラビットやスモールマウスでも人的被害がでないとは言い難いのだ。


 確かに弱い魔物だが殺そうとする以上は反撃される可能性がある。スモールマウスは特に疫病を媒介するのではと警戒することになったが解剖しても特に病原菌が検出されたの報告は上がっていない。しかしこれからもそうであると誰も断言はできないのだ。


 難易度も全国に設置されているレンジャー部隊を投入して確認している。多くの迷宮が発生しており、封鎖をするのも一苦労なのだ。そして、出現する魔物の傾向から難易度を設定しなくてはならない。


 正直なところDランク以上の迷宮については探索自体が困難であるために設定すら部隊長の主観が入ったものになる。富士迷宮など死傷者を出す訳にはいかず評価の途中だったにも関わらず撤退し立ち入り禁止としているほどである。


 それなのに馬鹿な政治家どもは自衛隊が迷宮を攻略できないことを詰る。まだ迷宮が発生して二ヶ月も経っていないのに高位迷宮が攻略できる訳もない。寧ろ暫定Dランクとはいえ死者を出さずに探索できていることが奇跡に近い。


 迷宮外へと魔物が溢れ出すのは確かに阻止しなくてはならないことだろう。それに異論はない。死傷者を出さないためには安全マージンを多く取らざるおえず、またアイテムを取得しても効果が分からないのであれば意味はないのだ。


 そして、自衛官や警察官の成り手が少なくなれば今までの通常業務すら困難になり、退職者も多く出ているのに有効な対策を取らないのは駄目すぎるだろう。冒険者はあくまでも民間人であり庇護されるべき対象なのを忘れているようだ。


 息子の樹も民間人であり、不運にも迷宮に放り込まれ生還できたに過ぎない。藤堂の様子から見て冒険者になることは阻止できないだろう。それよりも民間人が迷宮核を手に入れている事の方が問題になりかねない。世論は迷宮の解放へと傾いた。


 それは利権からくるものだろう。回復薬は劇的な変化をもたらさないがそれでも革命的な新薬になる可能性は高い。薬剤師の資格を持つ隊員や医師免許を持つ隊員を迷宮に放りこんで実験中でもある。


 動けない状態にした魔物でも止めをさせば一度では無理でも数度、繰り返せば覚醒することも判明している。神の与えた恩恵【ギフト】とスキルを呼んでいる者すらいるのだ。一神教のもの達すら目の前で起きた奇跡を否定することはできない。


 魔法はそれが特に顕著であった。空想(ファンタジー)が現実を侵食しているのだ。それなのに警戒する素振りを見せないのは可笑しい。純粋に信仰している者もいるだろう。


 ただ宗教は金になる。そして戦争の理由にもなる。日本人の多くは無宗教で実感することは少ないだろうがイスラム教の過激派が起こしたテロで多くの人が傷つき死んでいるのに気にしないのは遠くの国で起こっていることであり他人事であるからだ。


 もし自分が女性の権利が認められないイスラム教の信仰国に生まれていたらどうだろうか。もし、レイプ被害者が尊厳死させられることを強制される国だったらどうだろうか。もし食べる物がなく清潔な水すら欠く国に生まれていたのなら絶望しかないだろう。


 日本は衰退しているとはいえ発展途上国に比べればまだ恵まれており、終戦直後の日本に比べても恵まれているだろう。だがそれも薄氷の上を歩くようなものなのだ。いつ転落しても可笑しくはないしコロナの様な疫病で日常が壊れることも十分に有り得る未来なのだ。


 そして魔物が迷宮外に氾濫することも考えられる未来でありドラゴンのような強力な個体が現れ人類が蹂躙されることも視野に入れて行動しなくてはならない。藤堂も同様の危機感を持っており、部隊の錬成に力を入れている。


 部下を死地に送り込むしかできないのは無能な上官の証で恥ずべきことなのだ。回復薬を積極的に集め国民に配れなど冗談ではないのだ。攻略に使用しない余剰分が使われるのであればまだ理解はできる。ただ政治家の人気取りのために部下が死傷するのは認められないだけだ。


 これもエゴなのだと自嘲する。部下だって失いたくないのにそれ以上に樹を危険な目にあわせたくないから反対するのだ。親にとって子供は何時まで経っても子供である。ただ樹が無事でいて欲しいというのは偽りのない本音である。


 災害に部下を派遣しなくてはならなくなったとき以上に樹に何かあれば消沈することになるだろう。スキルもまだ判明していないことは多い。命懸けでやるべき仕事なのかも分からない。確かに救える命もあるだろうが、それでも死んでしまったり障害を負ってしまえば意味はないのだ。


 雰囲気からしてみても説得は無意味に思える。迷宮核を政府に提出するつもりはないみたいだ。国も無理矢理は奪おうとしないだろう。ただ高額で買取る可能性はある。金銭で解決できるのであれば穏当に済ませようとするはずだ。ただ現時点では適正価格など無いに等しい。


 ポーションについても一度、協会で買取り、鑑定をしてから購入を希望すれば返却する形をとるはずで危険物を国内に入れないために必要な措置ではあるが時間がかかる。有用であるのなら危険の少ない迷宮警察【広域特殊捜査官】に樹を推薦するのもありだろう。


 本人は決して納得しないだろうが勧めるだけならただである。衛も先に行った樹を追いかける為に歩き始めた。

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