十一話
樹はまた日常へと戻るはずだった。検査入院の結果は正常であり、魔力とオーラを纏っていることを除けば、体調に異変はない。目安としてレベル五くらいから意識がある時には治療のための針を通さないことが分かった。
本当のレベルを隠したい樹にとって重要な情報であり、苦心した医官は魔力を先に纏った武器で裂傷を作ってから無理やり薬剤投与した。スキルによっては効果が薄いのも承知していたが、取れる手段はそう多くは無かった。
錠剤の睡眠薬では覚醒者の意識を奪えないケースもあり、寝ている間だけ治療できるのは効率が悪すぎる。覚醒者はレベルアップを成した者であり、俗称である。無理やり寝かしつけても効果はあるが、怪我人や病人に容赦なく攻撃できる医療従事者は嫌すぎる。
回復薬の発見は覚醒者には効果はあるが未覚醒者にはほとんど効果はでなかったのだ。政府は対応に追われることになる。女性でも覚醒さえしていれば男性を打ち倒すことは可能である。
そして、覚醒者の殆どが警察関係者もしくは自衛隊関係者だったが、民間人の中にも覚醒者は現れ始めている。迷宮遭難者には刑罰は問わない方針だが、故意に侵入した者については非現住物侵入罪で拘束され法手続として確認の後に覚醒者登録もされている。
まだ覚醒者が起こした事件はないために判例もないが、プロの格闘家の様に一部の犯罪において量刑が重くなることはありえることだ。そして、勤めていた店でも変化があった。
普段一緒に夜勤に入っていた同僚が新型コロナウィルスに罹患していた。基礎疾患がないがため入院することすら出来ず神奈川県知事の白石が提唱する神奈川モデルは糞であるとしか言わなかった。携帯アプリで新型コロナ対策をしたのは世代は限定されてしまうかもしれないが、良いだろう。
対策パーソナルの質問に答えても結局の所、保健所の定めた重症化する人の条件に該当しなければ必ずしも受診の必要性は高くないと定型文が返ってくるだけである。
それならばとコロナ感染症センターに電話すればどうしても病院に行きたいのであれば個別に問い合わせして下さいと言われる。そして、病院に電話すれば露骨なたらい回しにあったと言うのだ。インフルエンザの検査しか出来ない内科があっても仕方ないことだし、PCR検査・抗原検査・抗体検査の全てができる病院もまた限られてしまうことに理解は示したが結局、保健所をゴリ押しやっと抗原検査が受けられる様に手配された。
自主待機していなくては感染者を増やしていたかも知れないし、周囲も発熱者に対して過敏になっている。その同僚は保健所は信用しない方が良いと樹に忠告してきた。保健所の見解では濃厚接触者とは発熱二日前から発熱までに同じ密室で十五分以上を共にした者であるが、互いにマスクをしていれば濃厚接触者に該当しないというものであった。
医療用マスクや塗装業の作業マスクの一部のマスクを除いては感染しないというよりは感染を広めないためのエチケットであるという風潮が強かったはずで通常の不織布マスクではウイルスの侵入は防げないという科学的根拠があったにも関わらずだ。
店は封鎖され樹が検査入院していた期間、休業することになった。そして、樹も復帰した後にまた夜勤に入ることになったのだが、同じ夜勤に入っていた同僚は鼻の奥が痛かったらしく、持参していた体温計で計ったところ微熱を超えていたために早退してしまった。聞いた話によると濃厚接触者でないのだからPCR検査も抗原検査も受けておらず、数日の自宅待機でそのまま働いていたとのことだった。
樹は実は初級解毒薬を飲んでいた。状態異常【感冒】と出ていて冒険に支障が出ると困るというのと二つ以上が出ていたため初級解毒薬で解毒できるのかを確認するためだった。新型コロナウィルスはただの風邪だと侮る者もいたが、確実に違うと思う。
そして、業務が回っていないからかなのか、上からの指示なのか保健所は基本的に同居する家族でないと濃厚接触者に認めないと指導されているかの様な言動に不信感を持たざるおえなかった。
そして、お客さんの中に警察官と思しき気配を纏う人が多くなったと感じている。恐らくではなく、監視されているのだろう。流石に借りているアパートに帰宅すれば気配は遠のくが、要監視者リストに載った前提で行動するべきだと樹は考えた。
どのコンビニでも殆どがそうだろうが、加入条件を満たしていても雇用保険に加入することもないし、健康保険も年金も同じだ。オーナーを指導すべきFC本部もこの事に関しては沈黙を保ち続けている。
樹としては冒険者という職業が公に認められるまでは辞めるつもりはないし、コロナウィルスの感染拡大が防止され、ワクチンが開発されるまでは辞めたくとも辞められない状況だったが、迷宮に出会い、状況は一変したと言える。冒険者資格が取れる様になったら取得し辞めるかもしれないことは既にオーナーには伝えてある。
オーナーとしては夜勤に入ってくれて時間に融通の効く人間を手放したくはないのだろうが最低賃金から上げるつもりもなさそうなので自分で何とかして欲しい。夜勤に入っては帰宅するルーチンを繰り返して二週間その時はついにきた。
日本政府は冒険者資格制度を発表し、試験を行うことを臨時ニュースで伝えた。流石に警察や自衛隊のみで迷宮を抑えるのには人員もコストもかかると判断したのだろう。未発見であった迷宮から溢れ出た魔物による人的被害が大きかったのも原因の一つだろう。田舎に行くほどに所有権者がはっきりせず放置された土地が多くなる。
相続によって複雑化することも都会の土地よりは田舎の土地が多くなる。
街中に現れたゴブリンによって子供が殺され、パニックになった群衆によって転倒事故が連鎖したこともあった。ゴブリンは駆除されたが、魔物は明確な人類の敵であると認識されるようになったのだ。
樹が迷宮遭難者であり、迷宮帰還者であることは同僚には伝えていた。そして、近くに辞めることも。
「いらっしゃいませー」
樹のやる気に欠ける声が店内に響く。まぁこの声掛けも店員がいますよ。来店に気付いてますよとお客さんに伝えることで万引きを防ぐ効果があるために半ば義務的にやっているだけでやらなくては行けない仕事はきちんとこなしているために文句は言わないであげてほしい。
コンビニ店員の仕事は多岐に渡る。通常のレジから収納代行、FF、郵便の発送、切手や葉書の販売、QUOカードの販売、店内飲料の販売、荷受・品出し、ごみ捨て、トイレの掃除など今は無くなったチェーンが多いだろうが、昔はドーナツすら販売していて待遇はほぼ最低賃金で働いている。
保険など問題も多いが唯一得なことがあるとすればオーナーによっては廃棄を食べて良いよって言ってくれることで健康は犠牲になっても食費はかからないことだろうか
樹は覚醒したことによって身体能力が上がり、作業効率が良くなっていることを実感していた。そして、付随効果なのか動体視力も良くなっていた。コンビニ経営で悩まされるのは万引きの多さだろう。立地でほぼ売上が決まってしまうため、そして万引きされた商品はオーナー負担になってしまう。
そのためにコンビニだけに限らず小売店にとっての大敵だった。そして、犯行現場を現認してしまった以上はレジを同僚に任せて樹は渋々、声をかけざるおえなかった。
「お客様、大変失礼ですが、未会計の商品がございます。こちらに着いて来て下さい」
お客さんが未会計商品を持って店を出た所で声をかけた。声をかけるのが早過ぎれば会計をするつもりだったと言い訳される事もあり、店を出ることで既遂と看做すのが一般的であるし、そうするようにと指導されている。
警察も映像だけでは動いてくれないことは多いが、無理して捕まえる必要もないとも指導されていた。逆上してきて何をされるか分からないというのもあるし誤認する可能性もある頭の痛い問題ではあるが、抑止以上はコスト的に見合わないという考えもあるのだ。
そして、声をかけられた三十代男性は樹に向かって殴りかかってきた。オーラの展開は出来なかったが、気闘術を習得すれば問題なさそうなのは確認済みである。実際に魔闘術は迷宮外でも使用することは可能だ。
魔力の回復に関しては迷宮よりも遅いと感じているがそれは地球に殆ど魔力が存在していないことが回復が遅くなる要因だと考えている。殺気を感じたというのもあるが、目の前の人物からは魔力を全く感知できないので非覚醒者なのだろう。
樹は肩を当てる事で拳を逸らしてその腕を掴んだ。そして、通常の人間の範囲内で収まる程度の強さと速さで投げ飛ばした。下は硬い床なので頭を強く打たないように足をクッションに出来るようにすら考えて投げ飛ばしたのだ。当然、素人が咄嗟に受身ができる訳が無いために全身を床に叩きつけることになったが、頭は打っていない。
「警備会社への通報と携帯電話を持ってきてくれないか」
肩を取って完全に抑え込んでいるし抵抗するつもりなら骨が折れるかも知れないことを伝えると万引き犯は大人しくなった。周りのお客さんも協力的で常連さんの中には監視をしてくれた。樹がかけるのは紬の番号だった。
「もしもし、紬さん今、大丈夫ですか」
「大丈夫だが、樹こんな時間に珍しいな」
朝方になっているとはいえ人が活発に動く時間ではない。寝ているのなら普通に通報するところだったが、警察官に知り合いがいるのだ。先ずは伝えるのが義理だし、結果的に怪我は負わなかっただけで万引きでなく事後強盗とも言えなくないために相談することにしたのだ。
窃盗罪は十年以下の懲役または五十万円以下の罰金で執行猶予がつくこともあるに対して事後強盗罪は五年以上の有期刑と罪が重い。
「・・・というわけで申し訳ないんですが宜しくお願いします」
「分かった。樹、無理はするなよ」
店の警備に低レベルの覚醒者が使われる未来もそう遠くはないだろう。相手のレベルを見切らないと逆に危険ではあるが、迷宮警察の存在がこれまでと同様に抑止力となってくれることを願うしかない。
罰があるからこそ人は罪を犯すことを躊躇うのであって性善説よりも性悪説に則って行動しなくてはならなくなる未来も有り得るが、それは時代の変化として受け入れるしかなく、受け入れられない者は時代に取り残されていくのだろう。
まだ覚醒者を悪とする風潮は広まっていないが、困窮した覚醒者が犯罪に走らないとは限らない。また元々、犯罪者である者が覚醒者として力を手に入れることは厄介事を生むだけなので暴力団排除の措置は冒険者資格を得る時からなされており、また冒険者=覚醒者となるために冒険者が罪を犯した場合、量刑が重くなることも既に発表されている。
トラブルに巻き込まれたが、高級車が店内に突っ込んで来る事故に比べたらまだ優しい方だった。オーラが完全に見えなかったことで今回の被疑者は非覚醒者であったのだろう。
たかが万引き皆やっていると主張する馬鹿もいるが、捕まらなければ良いということではないのだ。困窮していたという事情があったにしろ犯罪は超えてはいけない一線であるのだ。
オーナーに説明しなくてはならないし、警察署にも時間がある時に来て下さいと頼まれた。睡眠時間が削られる厄介事でしかなかったが、覚醒すると身体は作り替えられていると実感するくらいに変化しており、細々とした業務でも疲労は感じにくくなっていた。
問題は生じなかったが、やはり気分が良いものでないことは確かであった。そして、一番の問題はやはり周辺を探っている者の存在だった。
軽く紬さんにも探りを入れてみたが、やはり警察としては迷宮被害者を保護すると同時に監視する必要があるという派閥が生まれているとのことだった。事件を起こさない限り監視に留めるという方針らしいが、危険人物としてマークされているみたいで気持ちの良いものではない。
実際に捕まえて知り合いの刑事に引き渡してからは一時的に監視は無くなったようだが、紬さんも被害者を犯罪者扱いすることを快くは思っていないようだった。
過去に犯罪歴や非行歴のある覚醒者であればその監視にも一定の合理性を感じるが、樹は本当にただの一般市民である。過激思想を持つ宗教に傾倒もしていなければ犯罪歴もない。父が自衛官であり、母は専業主婦で父の職業が一般的では無いかもしれないが、樹自身はどこにでもいるフリーターでしかない。
覚醒者としても破格の能力を持っていることを露見させる訳にはいかない。家族やお世話になっている紬のために力を振るうことには躊躇いはないが、首輪を着けられることは容認できることでは無いのだ。
まだ正式にいつから迷宮を一般人に解放することは発表されていないが、政府には経済連をはじめとする経済界からの圧力がかかっているようだ。死傷者が出ることは容易に想像でき、慎重にならざるおえないのだが、それを上回る利益を生む可能性があるのだ。
覚醒者の存在は軍事バランスをも左右するほどのものになるだろう。子供や女性ですら非覚醒者に勝てる力を持つことができ、高レベルになれば魔力やオーラを持たない武器が通用しなくなる。
迷宮は性質的に危険に満ち溢れているが、その分だけ富を得られる可能性が高くなるのだ。一部の成功者と多くの屍の上に成り立つ歪なものであるが有用性が否定されるものではないのだ。
そして重要なのは世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルスに対して初期症状であれば完治が可能な点にある。初級解毒薬を生成が可能になる公算は高く、そのためには迷宮に潜らなくてはならないということが一般人への解放への一押しになる。
鑑定スキル持ちが、解毒薬を与えた結果を鑑定する必要はあるが、既存の職業への脅威になることも懸念されるが、大多数の声に押しつぶされることになるだろう。
既存の国家資格を持つ医師や薬剤師が完全に必要なくなることはないだろうが、以前ほどの収入や地位は保証されないだろう。回復魔法を扱える治癒師や魔法薬を作成できる錬金術師や薬師が現れれば完全ではないにしろ徐々に不要な存在となる。
これは迷宮が現れることによる弊害であるが、人は自分にとって役に立つかどうかで判断するだろうし、国民すべてが覚醒者になるとは限らないので需要が完全に無くなることはないだろうと樹は考えていた。
迷宮の価値が高まるほどに迷宮を支配する迷宮主の立場も向上する。政府は迷宮を管理しようとするだろうが、反対する国民も多いはずだ。安全保障の観点から一般人への迷宮の解放に反対すべき立場の防衛省や警察庁も世論に押される形で認めざるおえなくなるのだ。迷宮から溢れ出した魔物による被害も日本で確認されている。
未知の現象への対処に同情的な意見もあるが、納得できないのは被害者達だ。国家賠償法による賠償請求もされており、国は争う姿勢を見せているが、訓練された自衛官や警察官であっても対応には限界がある。
これが敵性国家による攻撃による被害であれば外交で損害賠償請求をするだろうが、敵は魔物であり、迷宮であった。国民に解放するにしても調査は欠かせないし、死傷した公務員に対する補償もしなくてはならない。
ただでさえ新型コロナウイルスによって経済的ダメージを受けているのにだ。今後の事を考えれば補償しないということは悪手になる。国のために殉じた者には報いるべきであり、損失を埋めるために国家が主導しなくてはならないのだ。その時に必要になるのは武力であり、情報だ。
アメリカが世界のリーダーとして振舞っているが迷宮攻略の進度によっては小国が台頭することも有り得るのだ。中露による資本主義・民主主義に対する挑戦もまた、迷宮攻略にかかっていると言える。マスク・ワクチン外交も解毒薬が普及すれば不要なものになるし、資源の少ない国にも絶好の機会になる。
希少金属に代わる資源の発見や石油・天然ガスに代わるエネルギーの発見も有り得る。そうなれば技術を持つ国が優位となり技術大国であったのが過去のものとなりつつある日本にも十分にチャンスがある。
魔石から電気エネルギーを生み出す技術が確立されれば、迷宮に依存することはデメリットとなるが、安心安全で地球環境にも配慮されたクリーンエネルギーとなる可能性を秘めているのだ。それに加え迷宮の資源は枯渇しない可能性もある。
中国が強気な外交に出られる一因として先端技術に必要不可欠なレアメタルの産出大国であるということがある。アメリカと中国は度々、貿易戦争を起こしているが、アメリカにとっても中国市場はリスクが高い反面、魅力的でもあるのだ。
各国家は多大な被害を出したが、損失を補えるだけの利益があれば人の命は軽くなるのだ。そして各国はこぞって迷宮主と接触しようとするだろう。等級の低い迷宮であっても魔物の遺伝情報には価値があり、現存の戦力でも迷宮核を支配することは不可能ではないだろう。
職業軍人ともなれば組織で戦うことにも慣れており、スキルとレベルさえ上げてしまえば運動もろくにしない一般人よりも戦闘能力も継戦能力も高いからである。
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各国の威信をかけた迷宮攻略は進む。日本を代表するサブカルチャーである漫画を参考に攻略を進言したのは樹の父である田上衛一等陸佐で五十代にさしかかろうとする年齢でありながら鍛えられた肉体を維持していたが、目下の心配事は迷宮帰還者となった息子、樹の事である。
自衛隊にも情報収集の部隊があり、国家公安委員会からの聴取もあった。息子は一般人ではあるが、幹部自衛官の息子が覚醒者となっているのだ。麾下の部隊にも覚醒者はいるが、治安維持関係者が力を持つのと一般人が力を持つのとでは意味が異なってくるのだ。
そして、自衛隊は災害支援で国民の支持を得てきたが、立場としては非常に不安定な地位にいる。憲法違反の存在だと批判される一方で災害時には何故、出動しないのかと責められる。
違憲論者など実に勝手なものである。出動した隊員の中には自身が被災者である者も多く、遺体を遺族のもとに返してあげたいという気持ちはあるが、心を病んで除隊した者も多い。
そして、隊員たちは被災者の前で温かいご飯すら食べられず、また女性隊員の中には生理用品にすら欠く者もいる最中での捜索作業であった。そして、魔物被害に遭った犠牲者の遺族は警察は批判しないのに自衛隊は槍玉にあげられていた。
隊員たちのモチベーションを保つのは難しくまた隊員たちはよくやってくれていると思う。現場に出ない背広組は世間の批判を受けて迷宮攻略の人員を増員し、回復薬も一般人に多く支給できる体制を作るように命じてくる。
回復薬は覚醒者にしか殆ど効果がないこと。また命懸けで迷宮を攻略しているものたちにこそ必要な物なのだ。政治家たちは警察や自衛隊に視察という名目で覚醒の補助をさせようとしているとも聞く。
既存の医療技術を超越した回復薬は死に瀕しているものを救う力は確かにあり、切迫している医療費の圧縮に役に立つのかもしれないが、部隊を率いる者として容認する訳にはいかないのだ。
一度でも要求をのんでしまえば際限がなく、隊員を危険に晒すだけである。迷宮の一般人への解放にも衛は否定的な立場だ。
少なくない殉職者を出しているのだ。魔物被害に対する保険会社の支払いは滞り、特約をつけて高い保険料を払わなくては死亡保険金が出ない動きすらある。想定している事故や死亡率を元に保険料は算定されているのであって、魔物の出現は保険会社の経営破綻を招いてしまうからである。
なによりも覚醒者と非覚醒者の能力の違いが社会に混乱を起こすことは目に見えていたからであった。衛は日々の業務に忙殺されながらも外泊届けを出した。息子の様子を見に行くのは親としての義務であると同時に幕僚本部からの命令であった。
何もないことを祈りつつ目の前の書類を片付けることにした。




