浮気者の王子に婚約破棄を言い渡された令嬢が、悪代官ならぬ悪の領主代行を懲らしめて街おこしする話(短編化)
婚約者の王子が、侍女と浮気している現場を見た令嬢。
妊娠さえ気を付けてくれれば目を瞑ろう。なんなら寵姫にしてもいいと思い、侍女の身辺を調べることに。
王子との婚約は政治的意味合いが強い。というか、それしかない。つまり令嬢は王子に全く恋していないので、寵姫OK。どんとこい。
優秀な手駒に調査させると、出るわ出るわ、悪評の数々。彼女を王家に入れたら、大変なことになる。そこで婚約者から手を引けと侍女に伝えたところ、翌日王子から呼び出しが。
彼は令嬢が侍女を虐めていたと主張し、激しく罵った。果ては婚約破棄まで言い出す始末。
王子の態度に堪忍袋の尾が切れた令嬢は、それに同意。事のあらましを父に報告した。宰相である父は頭を抱えるしかない。
とにかく王と相談を……でもその前に、頭に血が上った娘をどうにかしなければ。なぜなら彼女は人一倍行動力があり、それを成功させられる頭脳と手腕と財力と手駒を持っている。下手に王都にいられると何をしでかすかわからないので、最近拝領したばかりの辺鄙な場所にある荘園に、娘を追いやったのだった。
荘園に到着した令嬢、まずは領主代行にご挨拶。ギラギラと着飾った代行が滞在先にと用意した屋敷は、外観も内装も下品極まりないものだった。一言で表すと、ザ・成金。趣味は合わぬが我慢しようと決めたが、その後行われた晩餐会で再び閉口する。豪華絢爛、けれどどこか下品な雰囲気が拭えない。
つい最近まで他家が治めていた土地だ。趣味が合わなくても仕方ない。そう自分を納得させると、翌日から暇つぶしを兼ねてこっそりと領地の視察をすることにした。
初めて見る街は寂れていて活気がない。通りを歩く人は皆疲れ切った顔をしている。それに建物は、どれも古くてボロボロだ。
さすがにこれはどうかと思う。そこで令嬢は決意した。無駄遣いをしよう、と。
本来なら通りで一番活気のある市場が暗く静かなのは、異常事態と言ってもいい。少しでも経済回さないと、本気で街が死ぬ。
こうして買い物を始めたが一行だが、スリの被害に遭ってしまう。すぐに警護の者が捕まえたが、犯人はまだ小さな子ども。掏った理由は、両親が定職に就けず家には金もないからだと言う。
親が仕事に就けないのは、学がないため。この街は貧しすぎて学校を建てる金がないので、領民のほとんどが学ぶ機会もなく大人になる。学がなければいい職に就けない。安い賃金でこき使われて、さらには重い税まで課せられるので、街には貧乏人しかいないと子どもは語る。
それはおかしいと、首を捻る令嬢。
どの地域にも必ず学校があって、建設費用は国が負担している。誰もが平等に初等教育を受けられる体勢を整えているはずなのに。
脳裏に浮かぶのは、下品な邸宅と代行の姿。
令嬢の中にある疑念が浮かび上がる。と同時に、だんだんムカっ腹が立ってきた。
そもそも父はこの事態を知っているのか? まさか知っていて放置しているのではあるまいなと、怒りを乗せた文を認めてすぐに届けさせた。
そして独断で学校を建設を命じ、領民たちに学びの場を提供することにしたのだ。
その後も従者らに街の状況を探らせたところ、代行の黒い部分が明らかに。代行一族はその昔、学校建設として提供された費用を使い込み、領民からは税と偽り不当に金銭を巻き上げて私腹を肥やしていたのだ。
王都から遠く離れた土地であることと、税金も毎年きちんと納めていたため、中央政府はこの状況に全く気付いていなかった。
数々の証拠を掴んだ令嬢は、悪代行を完膚なきまでに叩き潰そうと決意。初めはシラを切っていた代行も、いよいよ言い逃れができなくなると、令嬢を排除するよう私兵に命じた。
しかし令嬢たちも負けてはいない。あっという間に私兵を片付けると、代行を捕縛。父が派遣した騎士らに引き渡し、一件落着――のはずが。
街を取り仕切る者はいなくなったが、父は忙しくてこの荘園を治めるのも難しいだろう。ならば自分が代行になると宣言したから、一同開いた口が塞がらない。
令嬢は未だ王子の婚約者。いつまでもこの地にいていいわけがないと執事が説得を繰り返すも、彼女の耳には届かない。
「さぁ、この街を大きく発展させるわよ!」
令嬢は精力的に街の改革を行った。それはやがて人々の評判を呼び、彼女の偉業は国中に轟くように。
こうなると黙っていないのが、まだ一応婚約者である王子。婚約破棄騒動で評判を落とした彼は、賞賛を浴びる令嬢を妃にすることで人気回復を図ろうとしたのだが、そうは問屋が卸さない。すったもんだの騒動があった挙げ句、彼が最初に望んだとおり、婚約は見事に解消されたのだった。
その後令嬢は、さまざまな男性から求婚を受けることとなる。なんだこのモテ期。私は恋愛なんていらないの! と、ヒステリーを起こす羽目になるのだが。
今はまだそんな未来が待っているとは知らない令嬢は、大きく発展する街を眺めながら満足げに微笑むのだった。