表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/20

7.村の主人になる



 助けた人狼の青年に案内されて、フェイとイリスは山間の村へと足を踏み入れた。


 崖と崖に挟まれた集落は、まさに隠れ里という感じであった。

 入り口は、ひと一人が入れるくらいの幅で、そこから先が開けている。


 まともに樹木が手に入らなかったのだろうか。家は粘土を固めて作られた粗末なものだった。


 20世帯ほどの小さな集落。

 そこにいるのは皆人狼たちだ。


「クラン!」


 と、フェイが助けた青年――名前はクランという――を見ると、村人の女性が駆け寄ってきた。


「この方たちは?」


 フェイとイリスを見て、女性は紹介を求めた。


「フェイ様、それにイリス様だ。外でトロールに襲われたんだが、この方々が救ってくれた」


「それはクランがお世話になりました」


 女性はフェイに頭を下げる。


「……フェイ様を村長に会わせたいんだが、今どこにいる?」


「家にいるわ」


「ありがとう」


 クランは、フェイとイリスたちを村長の前に連れていく。


 フェイは、目の前に現れた村長が、思ったよりも若くて驚いた。

 若く見えるのか、それにしてもどう見ても40代にしか見えない。


「こちらが村長のオースティンです。村長、こちらがフェイ様とイリス様です。村の外でトロールに襲われたのですが、この方々に命を救っていただきました」


「それはそれは、村人がお世話になった」


「いえいえ」


「村長、この方々は命の恩人です。可能であれば食事を提供したいのですが」


 クランは、フェイたちに報いようと村長に許可を願う。


「もちろんだ……と言いたいところだが、あまり食料の貯蔵はないのだ。フェイ殿、イリス殿、申し訳ないが、

満足なもてなしはできないだろう」


「いえいえ、お気になさらず」


 村が貧困状態にあるのは見て取れた。

 川にはかろうじて食料があるが、そこに近づけないとなるとかなり厳しい状況だろう。


 この土地は農耕には適さないから、安定的に食料を手に入れるのは難しいはずだ。


「この村の方々は代々この地に住み着いているのですか?」


 フェイはこの村の成り立ちが気になり、そう質問した。

 村長は首を横に振った。


「この村は国を追われた者たちが集まってできたものです」


 その言葉でフェイは事情を概ね把握した。


 人狼のような「亜人」たちへの世間の風当たりは強い。

 特にフェイのいたドラゴニアではその傾向が強かった。


 それで彼らが行き着いた「安住の地」がこの未開の土地なのだろう。


 村長が若いのも納得できる。この過酷な環境では、皆長くは生きられないのだ。必然、村人たちも若い者だけになる。


「あの、もしかしたら、ちょっとくらい何かお手伝いできることがあるかもしれません。多少精霊術の心得があるので」


 フェイはそう申し出る。


「村人の命まで救っていただいて、お手伝いだなんて」


 村長はそう言うが、フェイは既に頭の中で「ご近所さん」にしてやれることはないかと模索していた。

 そして少し考えて、フェイは一つ思いつく。


「そう言えば、この村には水源はありますか?」

 

「残念ながらありません。雨水を貯めて使っていますが、この頃雨が降らず、水が尽きかけています」


 ぱっとあたりを見渡してあたりが乾ききっているので、もしかしてと思ってフェイは尋ねたが、どうやらあたりだったようだ。


「なら、水を集める機械を作りましょう」


「水を集める機械? そんなことができるのですか?」


 村長は顔に疑問符を浮かべる。


「まぁ、見ててください」


 フェイは、適当な空き地を見つけて、そこで作業を始める。


「“マド・クリード”!」


 精霊術で、空気中の水を集めつつ粘土を捏ね上げていく。

 人の半分ほどの高さがある大きな丸い器を作り、表面を炎の魔法で焼いていてレンガのようににしていく。

 これでこの中に水を貯められる。


「こ、これは! なんという魔力!!」


 村長たちは初めて見る精霊術に感嘆する。


 だがフェイの作業は終わっていなかった。そこから練り上げた器に、精霊語と機械語とを織り交ぜた術式を刻み込んでいく。


 ――すると、次の瞬間――


「み、水が湧いてくる!?」


 器の中にみるみるうちに水が溜まっていく。

 それに村人たちの目が釘付けになる。


「フェイ様が魔法を使って水を出しているのですか?」


 村長が聞いてくる。


「いえ、自動で空気中の水を集める仕組みになっています。とりあえず、僕の分け与えた魔力がなくなるまではずっと動き続けます」


 それはフェイにとってはちょっとした「工作」だった。


 宮廷の人々にとっては当たり前のものだったが、村人にとっては違う。


「なんてことだ。精霊術者がいなくても、水を手に入れることができるのか!」


 村長たちは興奮気味に言う。


「同じものを村の左右に作ります。これで、水不足は解決するかと」


 フェイが言うと、村人たちはフェイに次々と感謝の言葉を投げかける。


「あ、ありがとうございます! これで村の生活が楽になります!!」


 どうやら自分の言語術が役に立ったようなので、フェイはホッとする。


「他にも何かあったら、遠慮なく言ってください。力になれることがあれば、お手伝いします」


 と、フェイがそう言うと、村長はフェイの手を取って言う。


「フェイ様! どうか、我々の村の主人あるじとなってください」


 突然の言葉にフェイは驚く。


「あ、主人ですか?」


 聞き返すと、村長は激しく頷く。


「何卒、お願いします。もちろん、年貢は納めます。水が手に入れば、もっと作物を育てられますから、我々も今まで以上に頑張ります。なのでどうか、お力添えをお願いします」


 ――どうやら冗談ではないらしい。


 ――フェイは考えこむ。


 この地で、言術研究に没頭したいと思っていた。

 だが、イリスと二人だけで暮らしていたのでは、研究の成果を生かす場所がない。

 それなら、この村人たちと暮らすというのも悪い選択ではないはずだ。


 何より、村人たちが助けを必要としているのは明白だった。

 放っておけば、彼らは過酷な環境で長くない人生を送ることになるだろう。


 ……別に、ものすごく大変になるってわけじゃなさそうだし、悪いことは一つもないな。


「主人っていうのはちょっとあれですけど、ぜひお手伝いはさせてください」


 フェイがそう答えると、村長は地に膝をついて頭を下げた。


「ありがとうございます! 主人様! 我々はご主人様のお導きに従います!」



 そんなわけで、――フェイはなりゆきで、村の主人になったのだった。




____________________

領土ステータス


君主 : フェイ

区分 : 村

人口 : 20人

____________________


みなさまに、何卒お願いがあります。


・面白かった


・続きが気になる


と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いいたします。

評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップ・クリックすればできます。


面白くなければ、☆でも参考になります。


高評価でも低評価でもフィードバックをいただければ励みになります。


何卒、お願いします!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ