5.女王の苛立ち【一方、ドラゴニア王国では】
一方、その頃ドラゴニア王国では、突然ドラゴンと意思疎通が図れなくなり、近衛騎士も官僚たちも大慌てだった。
「今すぐになんとかさせなさい!」
女王はすぐに改善せよとの檄を飛ばしたが、それはどう考えても無理だった。
ドラゴンは馬とは違う。複雑で繊細な指示を出せなければ、空中戦では勝てないのだ。
また、日頃の体調管理なども、言葉が話せなければままならない。
しかし、現在のドラゴニアでは、ドラゴンに乗る騎士も飼育員も、皆、古代語が話せないのだ。
もちろん、これはドラゴニアの人間たちが不真面目だったという訳ではない。これまではフェイの“自動通訳”があったから、それでも問題がなかったのだ。
官僚たちにできることといえば、ドラゴンの話す古代語を理解できる者を数名探し出してきて、ドラゴンに乗る騎士たちに古代語の授業をさせるのが関の山だった。
「授業ですって? その教師たちは、明日までに騎士たちに古代語を覚えさせることができるので?」
女王が吠える。
「恐れながら陛下。一朝一夕で言語はマスターできませぬ……」
大臣がそう答える。
「今他国のドラゴン部隊が襲ってきたらどうするつもりですか!」
「も、申し訳ありません……」
「フェイが使っていた“自動通訳”とやらを使える人間は他にはいないのですか? あのような愚か者でもできたことなのですから、他にもできる者はいるでしょう!?」
――そんな人間、フェイ様以外にいるわけがない。
大臣たちはそう思ったが、それを口に出すことはできなかった。
哀れな大臣にできるのは口を閉じることくらいだった。
「……ええい、無能な奴らめ……」
女王は歯ぎしりする。
――だが、そこでさらに問題が起きた。
「ところで大臣たち。なんだか、暑くないですか? こんなに部屋が暑かったことは今までなかったのですが」
それは当然大臣たちも気が付いてた。
当然、女王に聞かれる前に解決しようと試みていた。
だができなかった。
「恐れながら、殿下。どうやら王宮の冷却術式が停止したようです」
「冷却術式? 壊れたのであれば、直させれば良いだろう。何をしている」
「それが、この術式はフェイ殿が機械語でプログラムしたものでして、どうすれば良いのか他の者ではわからないのです」
「なんですって!? 部屋を涼しくする程度のこともできないのですか!?」
大臣たちはまた閉口するしかない。
フェイの術式は、特別だった。見事な術式で、魔法石をほとんど消費せずに様々なことが効率よくできた。
しかしその代償として、フェイと同じくらい――すなわち世界で見ても並び立つものがいないほど――機械語に詳しくないと読み解けないのだ。
当然、術式を紐解いて直すなど不可能だった。
「ええい、いつの間に宮廷の人間は愚か者ばかりになってしまったんですか!?」
女王が苛立ち叫ぶ。
だが、その苛立ちを受け止められる者は、この国にはもはやいなかった。