4.家と食料の入手は簡単です。
フェイは、仲間(下僕?)になったドラゴン・イリスとともに、未開の大地を歩いていた。
「ここが、ちょうど良さそうだな」
そこは、川から少し離れたところにある平地だった。少し歩いていくと、ちょっとした茂みもある。未開の地の中では、比較的よく肥えた場所に見えた。
もっとも、どうせ一から家を作るつもりだったので、平地であればどこでもよかったのだが。
「じゃぁ、家を作ろうか」
フェイがそう言うと、イリスが首をかしげる。
「こんな何もないところに、ですか?」
「何もなくはないよ。土があるじゃないか」
フェイはそう言うと、しゃがみこみ、片方の手のひらを地面につけた。
「“マド・クリード”!」
フェイがその精霊語を唱えると、次の瞬間、周囲から土がどんどん盛り上がってきた。
「こ、これは!?」
そして、あっという間にドーム状の家が出来上がる。
「まぁ、宮殿のちゃんとした建物に比べれば耐久性とかは劣るけど、魔法で強化すれば問題ないし、とりあえず当面雨風をしのぐにはいいでしょ」
「す、すごすぎます、ご主人様。一瞬で家を建てるなんて。しかも、ただ形を作っただけじゃなくて、表面がめちゃくちゃ綺麗です」
「土を練り上げたからね。エルフが樹木のないところで家を建てるやり方を参考にしたんだけど」
「さすがご主人様……‼︎ エルフレベルで精霊術を使いこなすなんて」
「いや、人よりちょっと言葉に詳しいだけだけよ」
さて、これで寝床は確保できたが、しかしこれだけではまだ生きてはいけない。
「次は、そうだな。食べ物だな」
この不毛の大地で、どうやって食料を確保していくのかは一見すると難題に見えた。
ただ、幸いなことに近くに川がある。
ひとまず、肉を得るのは容易そうだった。
フェイは、再び精霊術で土を練り上げる。だが、今度作るのは家ではなく、ゴーレムだった。
「ゴーレム! それも5体も!?」
イリスが驚くのも無理はない。
使い魔としてゴーレムを作るのは、通常の魔法使いでもできることだ。
しかし、同時に複数体のゴーレムを作るとなると話は別である。
並みの魔法使いならば、意識が散ってしまい、すぐに動かなくなるだろう。
「いや、何体でもいいんだよ。僕が操るわけじゃないからね」
そう言うと、フェイは一体のゴーレムに手のひらを当てる。
次の瞬間、ゴーレムがビシッと姿勢を正した。
そして、そのまま川の方へ向かってひとりでに歩き出したのだ。
と、フェイは次のゴーレムにも同じように手を当てると、その個体も川に向かって歩き出す。
そして五体全てが川へ向かって歩き出したところで、フェイはイリスに向き直った。
「あとは勝手に魚を取ってきてくれるから、休憩でもしようか」
「え、ゴーレムたちに命令を出さなくていいんですか!?」
イリスはゴーレムとフェイを交互に見てそう尋ねた。
当たり前だが、使い魔は意思を持たないので、主人が指示を出さないと動かないのだ。
一見フェイは何もしていないように見えるが、実は指示を出しているはず。だから休憩などできるわけがない――そう思ったのだが、
「いや、機械語でプログラミングして、命令は出してあるんだ。与えた魔力が尽きるまでは頑張ってくれるよ」
フェイは涼しい顔でそう答えた。
「今のたった数秒でプログラミングを!?」
「全部過去に使ったモノの使い回しだからね。ライブラリに保存してあったものを出すだけだから、簡単だよ」
「……す、すごすぎます。古代語に精霊語、機械語まで自在に操れるなんて……! このままいけば、あっという間に王国ができますよ」
「はは、王国ができたらすごいね」
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