3.混乱の序章【一方、ドラゴニア王都では】
――一方その頃、王都では。
「ふひひ。邪魔者のいない世界っていうのは気持ちいいわね」
女王メアリーは、玉座に座り優越感に浸っていた。
――私こそが、この国の女王。
そう思うと、メアリーはあまりの嬉しさにいてもたってもいられなくなった。
先王は愚かな人間だった。同じ空気を吸うことさえ嫌だった。
だが、今やあの忌々しい先王はこの世にいない。
先王に寵愛を受けていた者たちも宮廷から一掃した。
「これで、私の天下……ふふふ」
メアリーはそう呟いて、さらに高笑いした。
――だが、その時だった。
「じょ、女王様!」
突然近衛騎士の一人が玉座の間に入ってくる。
「何事ですか。騒がしいですね」
「そ、それが、大変なことが!」
その慌てぶりに、女王も流石に胸がざわついた。
「なんですか」
「ドラゴンたちが喋れなくなってしまったのです!」
「なんですって!?」
ドラゴンは、この世でもっとも強力な生物だ。
それを使役できるからこそ、ドラゴニアは栄えてきた。
それなのにドラゴンと意思疎通が図れなくなってしまったなど、事実なら国の一大事だ。
「それは本当ですか!?」
「恐れながら女王様、事実でございます」
どうやら、報告が冗談ではないらしいと悟った女王は、自身の愛竜シャーロットの元へと急行した。
ドラゴンのいる飼育場に着くと、
「グァァァ! グァァアル!!」
女王の竜シャーロットは、主を見てそう吠えた。
――この間まで人間の言葉を喋っていた竜が、今は動物のように吠えている。
「おい、シャーロット! 私の言葉がわからないのですか!?」
メアリーはそう尋ねるが、
「グァアァ!」
女王の問いに対して、ドラゴンがちゃんと答えたのかどうかもわからなかった。
「一体、どうなっているのです!!」
女王は、近くにいた飼育員に問い詰めた。
「お、恐れながら陛下、ドラゴンはもともと人間の言葉を喋れないのです。彼らが喋るのは古代語だけですので」
ドラゴンが人間の言葉を喋れないというのは、ドラゴンに詳しいものにとっては常識だった。
だが、女王にとってはそうではなかった。
「元々喋れない? 馬鹿な。このあいだまで、普通に喋っていたではないですか」
女王はほとんど罵倒するように尋ねた。
「いえ、あれは女王様が古代語を理解していただけなのです」
「馬鹿な。私は古代語など勉強したことないし、竜もちゃんと人間の言葉を喋っていましたよ」
「……恐れながら陛下、それは言語術師フェイ様の“自動通訳”スキルの力なのです」
フェイの名前が出た瞬間、女王は飼育員に掴みかかった。
「フェイですって!? どうして、あいつの名前がでてくるのです!?」
「へ、陛下。恐れながら、フェイ様の“自動通訳”スキルで、宮廷の者たちは皆、古代語や精霊語、機械語などをまるで自分たちの言葉のように操れていたのです。それがなくなった今、ドラゴンと意思疎通できるものはほとんどおりません」
「ば、バカな! 自動通訳ですって!? 私たちはフェイがいない時でもドラゴンと会話していましたよ!?」
「フェイ様の力は、王宮の者全体に及びます。しかし、国を追放されたいま、流石にもうその加護はありません」
あのただの言語マニアのおかげ?
ありえない!
女王はそう憤慨した。
「仮にそれが事実だとしも、同じことができるものくらい、他にいるでしょう!」
「ただの異国語ならいざ知らず、古代語や精霊語を自在に操れるのはフェイ様だけです。まして、それを周囲が理解できるようにする力など……」
女王の顔がどんどん青ざめていく。
ドラゴンとコミュニケーションが取れないなど、あってはならないことだ。
ドラゴニアが発展できたのは、ドラゴンを自在に操れたから。
それくらいは女王も理解していた。
もしそれがなくなれば、国力は大きく衰える。
「とにかく、フェイの代わりを探してきなさい! 今すぐにですよ!」
女王は、部下たちに、怒鳴りつけるように命令を飛ばした。
†
みなさまに、何卒お願いがあります。
・面白かった
・続きが気になる
と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いいたします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップ・クリックすればできます。
面白くなければ、☆でも参考になります。
高評価でも低評価でもフィードバックをいただければ励みになります。
何卒、お願いします!!