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11.甘いもの



 フェイは制止する女王を悠々振り払って玉座の間を後にした。

 変身したイリスに乗って、王宮から発つ。

 

 ――しかし、こんな風に空さえ飛べれば誰でも自由に侵入できてしまう状態で、本当に大丈夫か……?

 フェイは他人事ながら王宮の防備が心配になった。


「イリス、この辺で降りてくれる?」


 王宮からしばらくしたところでフェイはイリスに声をかけた。


「はい、ご主人様!」


 適当な路地裏に着地する。フェイが背中から降りると、イリスは元の少女の姿に戻った。


「せっかく王都に来たから、ちょっと買い物をしていこう。穀物とか野菜の種が欲しい」


 村で育てているのは芋と幾らかの葉物だけだった。それもあの土地に適しているわけではないので効率はよくない。

 せっかくなので、荒野でも育てやすいものを手に入れたかった。


 フェイはイリスと二人並んで、王都の市場に繰り出す。


「ご主人様、すごい人ですね」


 見た目が立派な?少女なので忘れかけるが、イリスは生まれたてなのだ。知識として王都というものを知ってはいるが、目にするのは初めてだ。


「そうだね。ずっと王都に住んで来たから、あまり意識したことはなかったけど」


 フェイたちはすぐに目的の店にたどり着いた。農家向けのものを売っている店だ。


 そこで目当ての種を購入する。


「これは魔力があると早く育つんだ。育てるのに莫大な魔力がいるからあまり常用はできないけど、いざという時に役に立つ」


「へぇ、そんなのあるんですね」


「王都の市場はなんでも売ってるからね」


 ――さて、これさえ手に入れればあとは特に用はない。


 フェイは目当てのものを手に入れたので、市場から出ようと歩き出す。


 ――だが、途中で突然イリスが立ち止まった。


「どうかした?」


 フェイがイリスの方を見ると、彼女の視線はあるものに向けられていた。


「お茶?」


 イリスの目線の先にあったのはお茶を売る露店だった。

 最近王都で流行りの砂糖を入れた紅茶である。


 どうやらいい匂いに釣られたらしい。


「飲んでみる?」


「あ、いえ、その、でも私お金ないです」


「お金ならいくらでもあるよ。紙幣をたくさん持ってるけどどうせ王都でしか価値がないから、いくらでも使っていいよ」


「……ほんとですか?」


「もちろん」


 フェイが言うと、イリスは飛び跳ねそうなほど嬉しそうな表情を浮かべた。

 フェイはお金を露天商に渡して、お茶を買う。


 器に入ったルビー色の液体を受け取って、イリスはますます目を輝かせた。


「い、いただきます!」


 生まれて初めて飲む甘い飲み物――――


 と、それを口に入れた瞬間、イリスは目を見開いた。


「こ、これは!?」


 その甘さに驚くイリス。


 もちろん竜人である彼女は生まれながらに多くの知識を持っている。

 だから甘みという言葉は知っていただろう。

 だが、それは野菜などからほのかに感じるものであって、甘みの塊を口にすることなどない。

 実際、砂糖は王都の人間を驚かせ、一大ブームを巻き起こしていた。


「こんなに美味しいもの……生まれて初めて飲みました」


 イリスは生後数週間なので、あまり言葉に重みはないが、その気持ちは十分に伝わってくる。

 あっという間に紅茶を飲み干すイリス。


「…………あのご主人様」


 イリスはものすごく言いにくそうにフェイの方を見る。


「なんだ?」


「あと、一杯……いいですか」


「ああ、もちろん」


 フェイが言うと、イリスはまた目を輝かせた。


 ……砂糖の甘さに喜ぶ姿は、子供そのもので、見ていて幸せな気分になるフェイであった。


「ご主人様、砂糖は一体どうやって作るんですか? 畑で芋みたいに育てるんですか?」


 イリスは、村でも砂糖をご所望らしい。

 すっかり気に入ったようだ。


「そうだね、畑で育てられるけど、ただ材料になるサトウキビは雨が多くないと育ちにくいから、村では育てられないかも……」


 フェイがその事実を告げると、イリスは背中越しに「ガビーン」と言う音が聞こえそうなほど、勢いよく頭を垂れた。


「も、もう砂糖は手に入らないんですか……」


 最愛の人間と生き別れるような落ち込みようであった。


 フェイは、そのあまりの落ち込みように、すかさずフォローする。


「い、いや。サトウキビは無理なんだけど……でも、他で同じようなものを作れるかも」


 フェイがそう言うと、今度はぱぁっと明るい表情を浮かべるイリス。


「ほんとですか!?」


「あ、あぁ。多分だけど……」


「やったぁ!」


 イリスは文字通り飛び跳ねて喜ぶ。


 もう、「無理でした」とは言えない雰囲気だった。

 フェイにとって砂糖を作ることが第一の使命になった瞬間であった。


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