暇つぶしの理由
「では、ユーリさん、私、帰りますね」
「はっ!?」
「え……だって、貴方は生きてますし、魔族は倒しましたし、街の火は消しました。……まだ、何かしなくちゃいけませんか? 街の復興とか、けが人の介抱とか……? さすがに面倒みきれませんよ」
驚きの声をあげたジュリアスに、リーシアは胡乱な目を向ける。
「ちがっ! お前はよくやってくれた。これ以上酷使などしない! ではなく、今から戻るとは? まさか、また転移を使ってか!? 休みもせずに!?」
「私、アイルさんに黙って出てきたんですよ。幸い、泊まりの依頼中ですが、戻られる前に戻らないと。それに、これ、私の所為にされるなんて嫌ですよ。私、貴方を助けに来たのであって、英雄になりに来たんじゃありません」
多くの人を救っておいて、自分の所為にされるのが嫌だと、飄々と告げる。
「そんなの、俺だって、ごめんだが」
「そうですね。貴方が英雄視されると、王子間のパワーバランスが崩れかねない。今更、後継者争いなんてしたくないでしょう、貴方も」
「……まさか」
ジュリアスの言葉にリーシアは首をかしげる。その可能性を考えたことがないなんて。相変わらず、自己評価が低いものだ。
「貴方の1番上のお兄さんは、幸い優秀ですから、そうそう心配はしていませんが。国民は英雄譚が好きですからねぇ。力の弱い魔族を数人倒しただけで、魔大陸に乗り込めるなんて愚かな夢を語りだす愚か者も、現れるかもしれませんし」
「俺も、お前と共に村に行きたくなってきた」
「では、事実をねつ造してもらいましょうか。アルマンさんは居ますか?」
「あぁ、共に視察に来て、避難の殿をまかせてきた」
「私でも、貴方でもない第三者、旅の冒険者にでも助けられたことにしましょう。残党を狩ると言って、早々に街から出て行ってしまったことにして」
「……なぜ、それにアルマンが絡むのだ」
「彼は貴方の護衛ですが、その所属は王家ですよ? 現王か、王太子か、貴方を担ぎあげられたくない、という利害が一致する人間に通じてます。それらを巻き込めば、子どもが画策するより、上手く事が運びますよ。歴史の改ざん等、得意分野じゃないですか」
リーシアの飄々とした台詞にジュリアスはため息をつく。
「そろそろ、避難の最後尾も、兄のところに合流できたはずだ。そこに行く気はないのだろう?」
「当然です。避難が落ち着けば、殿になんて留まってないで、さっさと貴方を探しに来ているでしょう。本当は、彼にも会いたくはないのですが。実際のところ、誰がやったのか、ということを説明しなければ、さすがに協力してくれなさそうですからね」
さすがに、どこにいるか分からない人間を、転移で呼び寄せることはできない。魔法で光球を浮かべて、仕方なく歩き出そうとしたリーシアの手を、ジュリアスが掴んで引き寄せた。
「ユーリさん?」
「ちゃんと言っていなかった。……ありがとう」
「私が好きでしたことなので。……それにしても、背が伸びましたね。声変わりも」
「お前は……」
笑顔で感謝の言葉を躱しながら、成長したジュリアスの姿をまじまじと見つめる。ジュリアスも、それをし返そうとして……動きが止まった。その瞳がみるみる内に見開かれる。
「ユーリさん……?」
「フェレス……?」
「っ!!」
ジュリアスの呟きに、リーシアは初めて、自分が彼の前で失態を犯したことに気が付いた。
常から自分にかけている、瞳の色を偽る魔法。それが、転移魔術で魔力欠乏に陥った時に、自然に解除されたことに、今、気付いたのだ。
当然、鏡や水面を見ることなどなかった上、膨大な魔力量を誇るリーシアが魔力欠乏を起こすことも、普段ならばありえない。魔力欠乏に陥った後は、魔法をかけなおす。
そんなことすら、忘れてしまっていた。
リーシアが歩き出そうと光球を出現させたことで、闇の中ではバレていなかったそれが、浮き彫りになってしまったのだった。
反射的に瞳の色を変えてしまったことで、結果として、ジュリアスの視界の中で、リーシアの瞳の色が変わった。彼女が確かに偽っていたのだと、明るみに出た。
「ユーリさん。私、2度と、こんなことしませんから。今回だけ、許してください」
「……」
「私、貴方を助けました。……お礼、ください」
親切の押し売り。本来なら唾棄すべき事案だ。もしかしたら、ジュリアスは、ただの思いやりで、見なかったことにしてくれるかもしれない。それでも。
「誰にも、言わないで」
「あ、あぁ……」
リーシアの懇願を、ジュリアスは戸惑いのまま受け取った。
「リーシャ……俺は、お前に命を救われたのは、2度目なのか……? あの時も、お前は、ただの偶然ではなく、そこにいたのが俺だったから、助けてくれたのか?」
リーシアはジュリアスの言葉に少し、疲れたように笑う。
「……ただの暇つぶしですよ」
それは、過去、彼を助けたのが、確かにリーシアであったという、告白だった。
短いですが、キリがいいので……




