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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

廃棄された令嬢はゴミ山の中で聖女になる

作者: どんC

20ページぐらいのつもりが長くなってしまった。妖精達とのスローライフのはずがなんでこうなった?

 

 【 婚約破棄 】


「フェルミナ!! お前との婚約は破棄する!! そして私はキャサリン・エーゼル男爵令嬢と結婚する!! フェルミナお前の爵位を剥奪しシオドアに廃棄処分する!! お前の父親であったウルグ公爵と国王陛下も承諾済みだ!!」


 10歳の時にアーウイ王太子と婚約した。

 政略的な婚約ではあったが、必死で王妃教育を受けた。

 最低限の信頼関係は築けていると思った。

 意味が分からなかった。

 お父様と国王陛下が婚約破棄を承諾した?


「何か申し開きはあるか」


 冷たい目だ。いや憎しみに煌めく濃紺の瞳。

 これまで一度たりともそんな目を向けられたことは無かった。

 なのに……今は咎人を見る目だ。


「婚約破棄とシオドアへの廃棄処分賜りました。ですがその理由をお聞きしたく存じます」


 私は優雅にドレスをつまみカーテシーをする。

 王族との婚約は社会情勢で色々変わる事がある。

 しかしシオドアへの廃棄処分は実質死刑だ。


「わからぬと申すか!!」


 殺気と共に睨まれる。


「はい」


 私は怯む事無く皇子の瞳を見る。


「お前はフェルミナ・ウルグ公爵令嬢ではない!! 真のフェルミナ・ウルグ公爵令嬢はこのキャサリン・エーゼル男爵令嬢だ!!」


 ひゅうと息を吞む。

 言われたことが理解出来ない。

 私が私ではない?

 亜麻色の髪で紫の瞳のキャサリン・エーゼル男爵令嬢が本物のフェルミナ・ウルグ公爵令嬢?

 国王陛下の隣にいるお父様を見る。

 私を見詰める顔は憎しみで歪んでいる。

 お父様も亜麻色の髪で紫の瞳だ。

 二人の顔立ちを見る。

 確かに似ている。

 私の髪と瞳の色はオレンジ色だ。

 魔女の色と忌み嫌われる。

 1000年前に世界を滅ぼした魔女はオレンジ色の髪と瞳だったとか。

 そのせいで陰口を叩かれた。

 そしてキャサリンは私よりもお父様に似ている。

 確か彼女は孤児院に棄てられていて、魔力が強かった為にエーゼル男爵の養女になったと学園でもっぱらの噂だった。


 そんな!! そんな!! まさか!!


 確かに私はお父様にもお母様にも似ていない。

 誰にも似ていない!!

 それどころか高位貴族でありながら魔力も無い。

 ざわざわと周りの貴族達が私から距離を取る。


「お前の乳母であり母である女が赤子の時に取り換えたと白状した!! 乳母はキャサリンを孤児院に捨てた。捕らえた乳母は罪の重さに耐えかねて牢屋で首をくくった!!」


「そんな……そんな……嘘……嘘。乳母アイラが私のお母様? 7歳の時に亡くなったあの方は私のお母様では無かったの?」


「白々しい!! お前はその事を知りキャサリンを亡き者にしようと暗殺ギルドに暗殺を依頼したくせに!! 暗殺者は捉えた!! お前から依頼されたと白状したぞ!!」


「知りません!! 私は神に誓ってそのような事は致しておりません!!」


 煌びやかなお城の舞踏会場。

 色とりどりのドレスを纏う貴婦人達と有力貴族たち。

 招かれた諸外国の著名人。

 そう今日は王太子と私の結婚式の日取りを発表する、その為に開かれた舞踏会だった。

 だけれど舞踏会場は私の公開裁判の場所となり。

 私は罪人として裁かれた。

 この場に私の味方はいない。

 どんなに無実を叫んでも誰の耳にも私の言葉は届かない。

 さっきまで私に笑いかけてくれていた人達が蔑む瞳を向ける。


「なんて恐ろしい」


「やはり1000年前の魔女と同じだ」


「あのオレンジ色の髪と瞳……やはり魔女だったんだ」


「可笑しいって思っていたのよ」


「道理で御二人に似ていないはずだわ」


「お可哀想なウルグ公爵婦人不義の疑いをかけられて若死にするなんて……」


 私は無様に近衛騎士に引きずられてゆく。


 バタン!!


 舞踏会場の扉は閉じられ。二度と私を受け入れることは無かった。



 *************************************


 【 シオドア廃棄処分地帯 】



 ガラガラガラガラ


 馬車の車輪が音を立てて荒野を走る。

 やがて馬車はゴミの山の中に止まる。


「うっぷ……相変わらず酷い匂いだ」


 馬車を停めるなり中年の騎士は愚痴る。

 ここはシオドア廃棄処分地帯。

 ルーレオ国とマルセオ国との間にある荒野だ。

 かなり広大だ。

 前の文明の廃棄処分地帯だったと言われ。様々な物が捨てられている。

 そして得体の知れない者たちが徘徊すると噂されている。

 ここに棄てられた囚人は一週間もしないうちにボコボコと体中に水ぶくれができ、泡を吹きながら死ぬと言う。

 この地に棄てられた様々な魔道具からの有害物質が混じり合い大地を汚染させたと言われている。

 この地で人が生きるのは不可能と言われる。


「おい。出ろ」


 近衛騎士がフェルミナの腕を掴み馬車から引きずり落とす。

 馬車と言っても囚人の護送用の物で鉄格子が填められている。

 ここに来るまでに人々から石を投げられフェルミナは血だらけだ。

 粗末な囚人服もあちこち破れ血が固まり黒く染まっている。

 これでは一週間も持つまいと騎士達は思った。

 兎に角彼らの仕事は囚人を廃棄処分地まで連れて行くことだ。

 騎士達はゴミの山にフェルミナを捨てると引き返す。


「哀れなものだな。ほんの前までは王太子の婚約者として皆にチヤホヤされていたのに、今ではゴミとして廃棄処分だ」


「なあ。本当に罪を犯したのかねえ~俺は信じられないんだが……」


 その騎士は城の庭で王子とフェルミナがお茶を飲んだり談笑しているのを見ていた。

 王子とフェルミナの仲ははた目から見ても悪くは無かった。


「オイオイ気を付けろ。女は見かけによらない。今の話を影に聞かれたら。不敬罪で牢屋行きだぞ」


「そんなことよりさっさとここを出よう。ここの瘴気はまじシャレにならないぞ」


 馬車に取り付けられている浄化の水晶を見ながら若い騎士はみんなを急がせる。

 瘴気除けに浄化の水晶を取り付けているのだが、水晶の魔力のへりが早い。

 このままでは村に着く前に水晶の魔力が無くなってしまう。

 騎士達は全速力で廃棄地から出ていった。

 慌てて去る騎士達を見詰める無数の目が在った。



 *************************************



 【 だれ? 】



 ____ 起きて。ねえ起きて _____


 誰かの声がする。

 でも手も足も動かない。

 喉もカラカラで声も出ない。

 瞼は重くピクリとも動かせない。


 誰?


 お願い。私を起こさないで。

 このまま眠らせて。


 ____ お願いがあるの ____


 シクシクと泣く子供の声。

 ああ……うるさい。

 やっとの思いで目を開ける。

 目の前に妖精が居た。

 肉団子を二つ引っ付けたような体に細い手足、背には蜂のような羽が生えている。

 白い髪が風に揺れる。


 あら可愛い、妖精?

 ぼんやりと妖精を見る。

 妖精はフェルミナが目を開けたことに気が付いた。

 ふわりとフェルミナの目の前に飛ぶ。


 ___ お願い。助けて ___


 白色の髪と瞳。何の属性を持つ妖精だろう?

 ごめんね。私は動けないの。


 ___ お願い。助けて ___


 ああ……五月蠅いな。

 妖精は子供と同じで人の話を聞きゃしない。


 ?


 あら? 

 何故私はそんな事を知っているの?

 前にも妖精と会った事があるようなセリフね。


 __ お願い。このままだとみんな死んじゃう ___


 フェルミナは重い体を動かす。

 と言っても微かに頭を持ち上げただけだが。

 妖精が石をフェルミナの前に置く。


 ___ お願い。この種をあそこに埋めて ___


 あなたが自分で埋めたらいいじゃない。


 ___ 僕達ではダメなの。貴方じゃなければ出来ないの ___


 フェルミナは腕を伸ばし種を握り呻く。

 フェルミナの腕も石をぶつけられた所が紫色に腫れ上がっている。

 ある意味よくここまで持ったものである。

 人々に石を投げられ左目は潰れ、顔や体中石が当たって紫に腫れ上がっている。

 左の足は骨折しているようだ。

 そしてズルズルとあそこと指し示した場所まで這いずっていく。

 不思議なことにあそこと言われたその場所が仄かに光っている。

 当たりは夜の帳が降りて真っ暗なのに。

 そこだけが光り輝く。

 フェルミナは言われた場所にたどり着くと穴を掘った。

 思ったよりも硬くて掘り難い。

 爪がはがれる。フェルミナは呻くがそれはもう声にならない。

 この旅で水も食料もろくすっぽ与えられなかった。

 それでもフェルミナは穴を掘る。

 そして種を埋める。


 ___ ありがとう。ありがとう。聖女様 ___


 妖精達は種を埋めた周りを飛び回る。


 ?


 えっ? いつの間に?


 様々な属性を持った100以上いるだろう妖精が種を埋めた場所を中心にくるくると飛び回る。

 まるでダンスをしているようだ。

 彼らは一斉に何かを唱えている。

 古代シオドア語だろうか?

 やがて地面が光り輝き初々しい芽が出た。

 芽はすくすくと1mほど伸びると辺りに淡い光をまき散らす。


 ?


 聖木?


 これは夢? 


 フェルミナは信じられぬ思いで木と舞い踊る妖精達を見続ける。

 光の乱舞の中聖木がすくすく成長し大きな木になる。

 やがてフェルミナの意識は闇に落ちた。


 ___ 聖女様。聖女様。ありがとう ___


 妖精達が口々にお礼を言うがフェルミナの耳には聞こえなかった。




 *************************************


 【 シオドア 】


 さわさわと木の葉が揺れる。

 零れ日が優しく降り注ぐ。

 フェルミナは大きな木の下で横になっていた。

 不思議な木だ。幹や葉が淡く光っている。


 ___ 起きた。起きた。聖女様が起きた ___


 妖精達が口々に喋り出す。


「ここは……シオドア廃棄地帯……?」


 ___ そうだよ。聖女様。ここはシオドアだよ。一週間も目を覚まさないから心配したよ ___


「私一週間も眠っていたの? あら? 怪我が治っている。貴方が治してくれたの? ありがとう」


 ___ エッヘン 僕は時の妖精。時間を巻き戻して、体を健康だった時に戻したんだ ___


 フェルミナの体には傷も無く、囚人服も真新しい白いワンピ-スになっている。


「? 聖女様? 人違いよ。私は聖女様ではないわ。癒しの魔法どころか生活魔法も使えない。私は魔力が無いの。昔は癒しの魔法を使える者もいたらしいけど。今は誰も使えないわ。それに私は咎人よ……」


 お父様もお母様もかなりの魔力を持っていたのに私には魔力が無かった。

 貴族でも平民でも大なり小なり、みんな魔力を持っている。

 オレンジ色の髪と瞳。お父様にもお母様にも似ていない。

 誰にも似ていない子供を産んでお母様は不義の疑いを受けて、早死にしてしまった。

 お母様が亡くなるとお父様は仕事人間になって、朝早くから城に出かけ夜中に帰ってくる。

 口を利くことも無く。

 私はただお父様に褒められたいばかりに王妃教育を頑張った。

 全ては無駄に終わったが。

 やはり私は二人の子供では無いのだろう。

 姿形も魔力も違い過ぎた。

 フェルミナは悲しげに自嘲した。


 ___ 魔力がないからこそ全妖精と契約出来るんだよ。知らなかった? ___


 ___ 他の人は魔力の強い属性の妖精としか契約できないんだよ ___


 ___ 癒しの魔法が使えなくなったのは、僕達と契約できなくなったからだよ ___


 ___ そうそう。私達が人間と契約しなくなったからよ ___ 


 ___ 僕らの聖女様を殺した人間なんかと誰が契約などするものか!! ___


 ___ だから人間は癒しの魔法も大規模な魔法も使えなくなったんだよ ___


 ___ そうだ!! そうだ!! 奴らには自前のしょぼい初級魔法がお似合いだよ ___


 妖精達は口々に怒りの声を上げる。


「貴方達と契約していた聖女様は殺されたの?」


 ___ そうだよ。酷いだまし討ちに遇ったんだ ___


 ___ 聖木が欲しいと強欲な人間共が言ったんだ ___


 ___ 聖木を授けることに、ドワーフとエルフは反対したんだ ___


 ___ でも聖女様は心優しい方だったから人間の要求を聞いたんだよ __


 ___ 殺されたの!! 聖木の種を植え終わった時に ___


 ___ 奴らは聖女様を殺し妖精都市シオドアに攻めてきて滅ぼした ___


 ___ ドワーフとエルフも戦ったけれど人間の数には勝てず滅んだ ___


 ___ そして聖木は枯れた ___


 ___ この地は瘴気にまみれシオドアを滅ぼした国も滅びた ___


 ___ ざま~~~ ___


 ___ いい気味だ ___


 ____ あいつらは聖女様が死ねば僕らと契約出来て。聖木も力も手に入ると考えたんだ ___


 ___ 偽聖女は僕らと契約しようと必死だった ___


 ___ 無様だったね。最後には土下座していたね~~~ ___


 ___ 結局あの偽称女火炙りになったね ___


 ___ ずるい!! ずるい!! 何故? 私と契約してくれないの? ってずっと喚いていたね ___


 ___ 身の程を知らぬ馬鹿だったね ___


 ___ 魅了で権力者を操っていたけど、権力者と一緒に火炙りになってたね ___


 ___ あいつらを殺せば許されると思ったんだろうね ___


 ___ 権力者(王と貴族)も馬鹿だったけど、平民も馬鹿だったね~~ ___


 ___ 覆水盆に返らずさ ___


 ___ でも聖女様は帰って来てくれた ___


 ___ お帰りなさい。聖女様 ___


 ____ お帰りなさい。聖女様 ___


 ___ 約束どおり帰ってくれたんだね ___


「貴方達は勘違いしているわ。私は聖女様ではないわ」


 ___ まだ思い出せないんだね ___


 ___ あなたは聖女様の生まれ変わりだよ ___


 ___ そうだよ。そのオレンジ色の髪も瞳も神に祝福された色だよ ___


 ___ オレンジ色の髪と瞳は聖女の証だよ ___


 ___ 先祖返りってやつだよ ___


「それじゃ……私はお父様とお母様の本当の子供だったの?」


 ___ そうだよ。正真正銘あなたはフェルミナ・ウルグ公爵令嬢だよ ___


「それじゃあ……キャサリン・エーゼル男爵令嬢は何者なの?」


 ___ 偽聖女だよ。性女かな? 色々誑かしてたからな~知ってる? あの女高位貴族を手当たり次第魅了してたんだぜ。胸糞悪い。前世と同じだ。俺らも魅了出来ると思うなんて浅はかもいい所だ。それに妖精は嘘が嫌いなんだよな~。噓をつくと黒いオーラが出来るんだぜ。あの女は俺達から見ると真っ黒い化け物なんだ ___


 ___ 偽聖女も真っ黒だったわね ___


 ___ あの女は確かに何代か前のウルグ公爵家の血を引く先祖返りで、母親は娼婦で教会にキャサリンを捨てたんだよ ___


「じゃあ首をくくった乳母に暗殺者は?」


 ___ 可哀想にね~。罪を着せられ殺された仲のいい夫婦だよ。乳母の旦那は暗殺者どころかただの人の良い庭師だよ。全てはエーゼル男爵が仕組んだ事さ。薬を使って洗脳して噓の供述をさせて殺した ___


 ___ 今頃は嘘がばれてる頃かな ___


 ___ あの男爵娼館通いしてて、キャサリンはアイツの子供さ ___


 ___ 親子判定の魔道具が王家にあったな ___


 ___ 後数回しか使えなかったから王家も出し惜しみしてたけど __


 ___ 魔道具を使ったみたいだな。もっと前に使っていたらフェルミナがウルグ公爵の子供だってわかっていたのに。馬鹿だな~~ __


 ___ あの王家はケチなんだ。王族だけ親子判定に使っていたから、何度かウルグ公爵が使用許可を求めていたけど ___


 ___ 王様と王太子とウルグ公爵は真っ青ね ___


 ___ 自業自得だね ___


 ___ そんなことより見て!! 見て!! 凄いでしょう!! 僕ら頑張って妖精都市を復活させたの ___


 フェルミナは聖木が茂っている小高い丘から妖精都市シオドアを見る。

 朝日に映し出されたその都市は妖精の名にふさわしく光り輝く。

 遠くの方には麦畑や果樹園が見える。豊かに実り今か今かと刈り入れの時を待っている。

 廃棄地帯はいつの間にか豊かな楽園になっていた。

 妖精達は妖精都市が滅ぼされる1日前の姿に全て再現していた。

 家を覗くと人がいないだけで全ての家具や生活用品が揃っている。

 直ぐに生活できるように整えられている。

 人がいないだけだ。


「綺麗。でもだれも住んでないのね」


 ___ うん。それでね。それでね。エルフとドワーフを住まわせていいかな? ___


「エルフとドワーフは滅びたのではないの?」


 ___ うん滅びたよ。でもね。でもね。滅ぼされる前に時を繋いで彼らをここに呼び寄せる事が出来るんだよ ___


「凄い!! そんな事が出来るの?」


 ___ でもね妖精ぼくらだけの力では出来ないの。お願い。力を貸して ___


 ___ お願い。力を貸して聖女様 ___


 ___ お願い。彼らを助けて ___


「わかったわ。どうすればいいの?」


 ___ ありがとう。聖女様。聖木にお祈りして ___


 ___ 時を越えて過去と現在を繋ぐんだ ___


「わかった。やってみる」


 フェルミナは膝をつき聖木に祈りを捧げた。

 聖木は祈りを受けキラキラと輝く。

 ぐうぅぅぅ~~。

 空間が歪む。

 3mほどのキラキラと輝く【時の門】が出来た。

 30体程の妖精が【時の門】に飛び込む。

 門の向こうエルフとドワーフが炎上する都に居た。


 ___ こっちだよ。こっちに来て ___


 妖精は彼らを導き門に向かわせる。

【時の門】からエルフとドワーフと人族がぞろぞろと出てきた。


「えっ? ここは妖精都市シオドア?」


「だってシオドアは炎に焼かれて?」


「見て!! 聖女様がいらっしゃるわ!! お亡くなりになったなんて嘘だったのよ」


「助かったの? ああ……妖精様感謝いたします」


 彼らは真新しい都に驚きキョロキョロと辺りを見渡している。


「あら……人族も獣人族も居るのね」


 ___ そうだよ。みんなで仲良く暮らしていたのにあいつらは豊かなこの地を欲しがった ___


 エルフ族にドワーフ族に人族に獣人族みんな併せて30万人ほどだ。

 彼らはさながら汚れ疲れ果てた難民の様だった。

 自分達が住む都が攻め滅ぼされたのだから仕方がない。


「おお……ルナ様。亡くなられたとお聞きしましたが。よくぞご無事で。あの亡骸は偽物だったのか? あ奴らめ!! ワシらをたばかりおったのか?」


 ドワーフ族の長老がフェルミナの元にドスドスと駆け寄る。

 背は低いがその筋肉は鍛冶仕事で鍛えられていた。

 しかし炎に焼かれたのか服が所々焦げている。

 他の人々も煙に巻かれ焦げ臭く疲れていた。

 エルフ族の長老がドワーフ族の長老を押しとどめる。

 400歳を軽く超えているが20代半ばにしか見えない。

 ほっそりとした美形で、長い髪はプラチナブロンドで緑の瞳をしている。

 青い衣を纏っている。彼の服も所々焦げ煤けていた。


「この方はルナ様ではない。取り戻すことはできなかったが。確かにあの亡骸はルナ様だった。それにここは……? 妖精都市シオドアにそっくりだがシオドアでは無い。それに御聖木が小さい? 貴方は誰だ?」


 ___ ここは1000年後のシオドアだよ。エルフ族の長老 ___


 妖精達がエルフ族の長老の周りを飛び回る。


 ___ この方はルナ様の生まれ変わりだよ ___


 ___ 聖女様に頼んで【時の門】を作ってみんなを助けてもらったの ___


「1000年後のシオドアだって!! なるほど……魔素が薄いのは御聖木が小さいからか?」


 フェルミナは驚いて聖木を見る。

 聖木は今30m程のかなり大きな木に成長しているが、エルフ族の長老に言わせると小さいらしい。


 ___ あっ!! ヤバイ!! あいつら【時の門】に気が付いた ___


 ___ こっちに来る!! ___


 ___ 聖女様!! 皆の避難が終わった!! ___


 煙の妖精が煙幕を張って、彼らの目を誤魔化していたのだが。

【時の門】がばれたようだ。


 ___ 門を閉めて!! ___


「わかったわ」


 フェルミナは門を閉じた。

 門を閉める前にこちらに向かってくる軍隊が見えた。

 燃え上がる妖精都市、悪鬼のごとく向かってくる軍隊の先頭を馬に乗った一人の王子が駆けてくる。


「!! ……っ……」


 先頭を走る煌びやかな鎧を纏った王子、その後ろには聖女の衣装を着た一人の少女が抱きついている。

 二人の姿は何故かアーウイ王太子とキャサリンに酷似していた。

 王子と聖女の格好をした女は何か叫んでいたが、フェルミナには聞こえなかった。

 ただ憎悪に歪んだその顔はとても醜くフェルミナは吐き気を覚えた。


 ___ ご苦労なことだな ___


 ___ 奴らが聖女様を殺して、手に入れたのは枯れた聖木と瘴気に塗れた大地と滅亡 ___


 ___ こう言うのは何て言うんだっけ? 『慌てるゴブリンは貰いが少ない』 ___


 ___ 違うよ!! 自業自得だよ ___


 妖精達はのんびりとお喋りしている。

 危機は去った。もう彼らには手出しできない。

 1000年後に置き去りにした世界は彼らとともに滅びるのだ。

 いや……滅びたのだ。


「兎に角我々を助けて頂いてありがとうございます」


 エルフ族の長老が跪いて礼を言う。

 人々もそれに倣い跪く。

 感動のあまり泣く者もいる。祈りを捧げる者もいる。

 美しい少女の周りを飛び交う妖精達。まるで神殿に飾られた宗教画の様だ。


「聖女様ワシらを助けてくれてありがとう。奴らは聖女ルナ様を殺しその亡骸を城の門前にゴミのように捨てた。愚かだと分かっていても。もう亡くなっていると分かっていても。せめて亡骸はワシらが弔ってやりたかったんじゃ」


 ___ 門を開けてしまったんだね。そして奴らは雪崩れ込んできた。本来ならみんな死んでた ___


「お礼なら『時の妖精』に言ってあげて下さい。この子が時を繋がなければ、私は助けられなかった」 


 ___ そうだよ~~♪ みんな僕に感謝しろよ~~♪ ___


 時の妖精がドヤ顔をする。

 フェルミナもみんなも笑う。


 ___ 兎に角浴場で体の汚れを落として。今日の食べ物は果物で我慢してね ___


 ___ 寝る所は自分達が住んでいた所で寝てよ ___


 ___ 広場に果物を積んどくから適当に食べて食べて~ ___


 ___ 今後の事は明日神殿で話し合おう ___


 妖精達はテキパキと働く。

 人々は妖精の指示に従い広場に積んである果物を取ると、妖精に礼を言うと自分達のねぐらに帰って行った。


 __ 聖女様も疲れたろう。神殿で休もうよ __


 __ 私果物取ってくるね __


 風の精霊と土の精霊が食べ物を取りに行く。


「あの聖女様……」


 40人ほどの白い服を纏った女達の集団がおずおずとフェルミナの側に来て跪く。


「この人達は?」


 フェルミナは【時の妖精】に尋ねた。


 ___ ああ。聖女様の身の回りのお世話をしていた者たちだ ___


 ___ なに? 何か用なの? ___


 風の妖精が一番歳を取った女に尋ねる。


「私達は聖女ルナ様のお世話をしていました。ですがルナ様はお亡くなりになりました。それで宜しければ新たな聖女様のお世話をさせていただきたく存じます」


 ___ ああ。どうする? 聖女様 ___


「わかりました。一緒に神殿に来てください。勝手が分かっている人がいた方がいいでしょう。私の名はフェルミナ・ウルグ……いえ今はただのフェルミナです。フェルミナとお呼びください。よろしくお願いします」


「ありがとうございます。ありがとうございます。誠心誠意お仕えさせていただきます」


 フェルミナと妖精とお側係は神殿に入っていった。



 *************************************


【ウルグ公爵邸にて】


 キャサリンは上機嫌でフェルミナの部屋でくるくると踊っていた。


 ___ 上機嫌だね。キャサリン ___


 光の妖精はチョコンとテーブルの上に座って、その細い足をブラブラさせていた。


「見て見て。この宝石も贅沢な家具もドレスもアーウイ様もみんなみんなあたしの物よ♥」


 ___ フェルミナの物だったけどね ___


「あの女よりあたしの方が相応しいわ。あの魔力を全く持たない。薄気味悪いオレンジ色の髪と瞳の女より。アーウイ王太子もあたしのことが好きだって♥ きゃっ♥」


 床に散らばった宝石やドレスを眺めながら光の妖精は呟く。


 ___ それは良かった…… ___


「えっ? ライト何か言った?」


 ___ ううん。幸せかい ___


「ええ♥ とっても幸せよ♥」


 コンコン

 ドアがノックされる。


「キャサリン様。旦那様がお呼びです」


「わかったわ。じゃちょっと行って来るわ。大人しく待っててね」


 ___ ああ。行って来るといい ___


 ライトはテーブルにチョコンと座り手を振った。


 キャサリンはメイドに案内されてジョンソン・ウルグ公爵の書斎に入る。


「お呼びですかお父様」


「ああ。キャサリンこっちにおいで」


 ウルグ公爵は笑顔でキャサリンを招き入れる。

 メイドは2人にお茶とお菓子を用意する。

 王都で人気のお菓子だ。


「お父様ありがとう。このお菓子都で大人気で食べてみたかったの」


「そうか。そうか。たんとお上がり」


 ウルグ公爵はにこにことキャサリンが菓子を食べるのを見ている。

 フェルミナがこの部屋に居て、ウルグ公爵を見たら目を見張るであろう。

 フェルミナが生まれて一度たりとも笑いかけたことが無かったからだ。


「本当にあの女は忌々しい……」


「何か言った? お父様」


「いや。何でもない。早くお前の事が分かっていたら……お前の母親も苦しまなくて良かったのに……そうすれば早死にすることも無かったろうに……」


「そうね。あたしもお母様が生きているうちに会いたかった」


「落ち着いたら墓参りに行こう。あれも喜ぶだろう」


「うん。うん。あたしも行きたい」


「それでな。明日城にお前も行かねばならない」


「お城に?」


「ああ。色々手続きが必要なのだ。お前のサインが居る。アーウイ王太子様との婚約もちゃんと書類にしないといけないんだ」


「うわ~~♪ あたしアーウイ様の妻になれるのね♥」


「いや。お前はこの国の国母になるのだよ」


「お父様あたし王妃教育頑張るわ」


 お菓子と紅茶を頂くとキャサリンはフェルミナの部屋に戻った。


「まだまだキャサリンには厳しい教育が必要だな」


 ウルグ公爵はキャサリンの立ち振る舞いを思い出してため息をつく。



 *************************************



【 掘り起こされた真実 】


 その昔シオドアには魔女が住んでいた。

 魔女は魔族と魔物を従えこの世界に瘴気をまき散らしていた。

 ルーン国の皇子は聖女の力を借りこの魔女を討ち果たすために5大連合国で魔女を殺し。

 魔都シオドアは炎に包まれ魔女と共に滅びた。

 しかし魔女の呪いで聖木は枯れ。

 溢れる瘴気を浄化する事が出来ず。

 5大連合国は滅びた。

 多くの者が死に。長い時が流れて、ダンジョンの中で細々と生き延びていた人々は、数百年後瘴気が薄れた地上に出て再び国を築いた。

 しかしシオドア廃棄地帯だけは瘴気が薄れることは無かった。

 魔女の呪いでシオドアは今もって誰も住む事が出来ない呪われた土地である。

 伝説によると魔女はオレンジ色の髪と瞳であったという。


「ーーーと言うのがシオドア廃棄地帯の伝説なの……前世の記憶は無いのだけれど。妖精達が言うには私はその魔女? 聖女? の生まれ変わりらしいの」


 _____ そうだよ~~♪ フェルミナは聖女様の生まれ変わりだよ~~ ___


 ___ 妖精の契約は魂に刻まれるものだから今生でも契約は継続されるの ___


 ___ 聖木を植える旅に出る前に聖女様は僕らに約束したの~~必ず帰って来るからここで待っててって ___


 時の妖精はもっしゃもっしゃとイチゴを食べる。

 神殿の中にある会議室のテーブルにイチゴがたくさん転がっている。

 妖精達はイチゴを抱えて食べている。

 そのかわいらしさにフェルミナはほっこりする。

 シオドアの政治を司る五部族の代表が聖女の神殿に集まり今回の顛末を話し合っている。

 エルフ族の長老にドワーフ族の長老、人族の長老や獣人族の長老、錚々たる面子だ。


 バタン!!


「いや~~待たせてすまない」


 豪快に扉を開けて入って来たのは美しい青年だった。

 最後の登場は、魔族の皇子である。 手には黄色い花の花束を持ちそれをそっとフェルミナに差し出す。

 プロポーズしているように見える。

 数は少ないがここには魔族も住んでいる。


「この花を探していて遅れた。君は黄色い花が好きだった」


 フェルミナはキョトンと青年を見る。

 そして思わず差し出された花を受け取った。


「貴方は誰ですか?」


 確かにフェルミナは黄色い花が好きだった。

 特に彼が持ってきた黄色いチューリップの花が……


「おい!! アホボン」

 

 ドワーフ族の長老がぺしぺしと魔族の青年の頭を物差しで叩く。

 1mほどの竹で出来た物差しだ。


「何気に聖女様を口説いてんじゃねーよ!!」


「全く貴方にはあきれますね。時間に遅れて来る男は女性に嫌われますよ」


 エルフ族の長老は溜息をつく。


「相変わらずの遅刻魔じゃのう~」


 獣人族のおばばも残念な子を見る目だ。


「ヒーローは遅れてやって来るものさ」


 澄まして青年は答える。

 彼らが漫才をしているうちに妖精に花瓶を持って来て貰い生ける。


「話が中断しましたが。今後の問題について話し合おうと思います」


 フェルミナは何気に魔族の青年を無視して議題を進める。

 酷いフェルミナちゃん無視しないで!! と叫んでいたが華麗にスルーする。


「まず食糧問題ですが緑の妖精さんお願いします」


 ――― はいは~い。城の周りの麦畑は3期作が可能で~す。それで十分住民を養えます ___


「ほうそれは素晴らしい」


 エルフ族の長老が感心する。長い耳がピコピコ動く。

 獣人の耳程ではないがエルフの耳もよく動くなとフェルミナは思った。

 おばばの耳もよく動くのでケモ耳に付けられたイヤリングが揺れている。


 ___ 都をドーナツ状に囲む瘴気だけど聖木が成長すれば完全に消えるよ ___


 ___ 今は結界代わりに侵入者を防いでくれるからそのままでいい ___


 ___ 瘴気が消えれば、代わりに私が結界をはるわ ___


 ___ きしし。周りを迷宮にするのも面白いかな~ ___


【結界の妖精】がイチゴの汁を口の周りにつけている。 

 フェルミナはハンカチで妖精の口を拭いた。


 ___ あんがと ___


 妖精は礼を言う。僕も僕も拭いてと他の妖精も飛んでくる。

 余りの可愛らしさにフェルミナは微笑む。


 ___ 鉱石はシシドの山を掘ればいいわ ___


 ギラリとドワーフ族の長老の目が光る。

 土の妖精を鷲掴みにすると「もっと詳しく教えろ!!」と詰問する。


「ち……長老そんなに掴んだらアンコがでるよ~」


 おろおろと若い獣人の青年が土の妖精を取り上げる。

 おばばの付き添いの孫だ。


 ___ あ……危なかった……危うく中の物が出る所だった ___


 ドワーフ族は鉱石の事になると人格が変わる。


「全く困った鉱石馬鹿ですね」


 エルフ族の長老は呆れてドワーフ族の長老を見る。


「自分だって聖木の事になると人が変わるくせに」


 ぼそりとドワーフ族の長老が呟く。


「なんだって!! 当たり前だろう!! 御聖木は尊い!! 愚かなドワーフには分からんだろう」


 エルフ族の長老は『御聖木史上主義』なのだ。


「なんじゃと!!」


「何ですか!!」


 ___ あ~~はいはい。ケンカしないで聖女様がビックリしているわ ___


 魔族の青年は図々しくフェルミナの隣に座り「あの二人は有名なお笑いコンビなんですよ」と説明する。


 ___ !! ___


 ___ !! ___


 ___ !! ___


 妖精達の体がびくりと震える。

 一斉に妖精達は上を向く。


 ___ ドラゴンライダー? 偵察? ___


 時の妖精が呟く。


 ___ ルーレオ国の竜騎兵? ___


 ___ 結界が張ってあるから入っては来れない ___


 ___ どうする? 撃退する? ___


 ___ 既に風の妖精と空気の妖精が様子を見に飛んで行った ___


 ポンと二柱の妖精が現れる。


 ___ ドラゴンに国に帰る様に命令したよ ___


 ___ そのままルーレオ国に帰した ___


 ___ 記憶を消しておくべきだった? ___


 ___ どっちにしろここは発見されていたわ ___


 ___ 早いか遅いかの違いでしかない ___


「どうします? 聖女様?」


「ここに他の国の軍隊が攻め込む事が出来るの?」


 ___ 1000年前と違って聖女様がここにいる限り結界を突破する事はできないわ ___


 ___ それに瘴気もあるしね。軍隊を動かす程の水晶は手に入らないよ ___


「そう……なら放っておきましょう。そんな事より先にしなければならない事があるわ」


 ___ そうだね。聖女様復活のお祭りをしないとね。ご馳走食べた~~い ___


 食いしん坊の妖精達に長老たちも笑う。

 そうここは聖女と妖精達と御聖木に守られた約束の地。




 *************************************


【魔族の女】


 恋をした。

 相手は魔族の皇子。

 黒い髪も黒い瞳も美しく。

 精悍な横顔が大好きだった。

 いつかこの人の横に立てると信じていた。

 でも彼は聖女に恋をした。

 あの女がいなければ!!

 彼は私を見てくれる。

 だって私はあの女より美しく賢い上に魔力も強い。

 そう思った。

 あの女を殺そうとしたら彼と妖精達に阻まれて。

 私は二度とシオドアに入れないように呪いをかけられ追放された。

 あの女と妖精を憎んだ。

 呪ってやる!! 呪ってやる!!

 チャンスを探した。

 そして見つけたのは一人の少女。

 頭も顔も悪いが、身の程知らずの野心だけはある少女だった。

 だから光の妖精に化けて近づけばころりと騙された。


「そうよあたしはこんなスラムなんかで埋もれる女じゃないわ!!」


 癒しの魔法(一時的に回復するが、寿命が短くなる副作用付き)で瞬く間に聖女に祭り上げられた。

 私は少女に囁く。


 ___ 実はシオドアを裏から支配しているのは魔女だ ___


 ___ 魔女は聖木を盾にシオドアの人々を脅している ___


 ___ 妖精達も囚われているんだ。僕は仲間を救ってくれる人を探して君を見つけ出した ___


 ___ 君は聖女だ。君ならできる ___


 彼女と欲に塗れた人間は面白いぐらい私の言葉に踊った。

 瘴気があふれ出しているから御聖木を5大国に植えて欲しいと。

 聖女に懇願すればのこのこ結界の外に出てきて、聖木を植える。

 しかも妖精を連れず、護衛は裏切り者達だ。

 笑いが止まらない。

 私のウインドカッターで裏切り者の護衛共々血まみれになり死んでいった聖女。

 聖女の死体をシオドアの妖精都市の門の前に打ち捨てれば。

 愚かなドワーフが門を開け飛び出てきた。

 後は5大国による虐殺だ。

 妖精都市は炎に包まれて、聖木は枯れはて。

 あの人はどうしたろう?

 私はシオドアに入れない。


 その後の事は知らない。


 マルセオ国のダンジョンの100層にある水晶の中で私は1000年の眠りについた。

 1000年して眠りからさめて外に出た。

 5大国は滅び新たな国が出来ていた。

 ふと聖女の気配がした。

 気配を辿るとオレンジ色の髪と瞳の聖女の生まれ変わりがいた。

 王太子の婚約者になっていた。

 全く人間は短命だが転生する。

 忌々しい。

 そして私が聖女に仕立て上げた少女も転生していた。

 私はほくそ笑む。


 ___ やあこんにちは。どうして泣いているの? ___


 孤児院でお腹を空かせて泣いているキャサリンに声を掛ける。


「あなたはだあれ?」


 ___ 僕? 僕は妖精さ。ライトって言うんだ。それよりどうして泣いているの? かわいい顔が台無しだよ ___


「おなかが空いたの……」


 __ おなかが空いたんだね。待ってて ___


 私は神官長のパン籠から1個パンをくすねてキャサリンに渡す。

 神官長の食事は豪勢でパン籠にはいくつものパンが入っている。

 孤児院の子供は飢えているというのに。

 こうして私は彼女を助けて信頼を得た。

 キャサリンは私の嘘を信じて自分を聖女だと思い込んだ。

 エーゼル男爵の妻と子供を殺してキャサリンを養女として引き取らせた。

 欲に塗れた男爵を操るのは簡単だった。

 男爵の養女になったキャサリンは貴族が通う学園に入る。

 キャサリンは王太子に一目惚れ。

 無実の乳母夫婦を薬漬けにして赤子を取り替えた犯人と暗殺者に仕立て上げた。

 娘を嫌うウルグ公爵。婚約者を嫌う王太子。

 とんとん拍子に話は進み。

 哀れなフェルミナはシオドア廃棄地帯に追放された。

 後は親子鑑定の魔道具が真実を暴き出しキャサリンが破滅するのを眺めればいい。

 そう思っていた。

 なのにドラゴンライダーの報告が全てを狂わす。


「シオドアに都が出来ているだと!!」


 大広間にいる貴族たちが騒めく。

 今日はキャサリンとアーウイ王太子との婚約発表の日だった。

 駆けこんできたドラゴンライダーは王に報告する。


「しかも穢らわしい亜人もいただと!!」


 王は癇癪をおこし盃を投げ捨てる。


「しかも都の中心に光り輝く御聖木があっただと!!」


「上空からの侵入は不可能でしたそれに……」


「それに? なんじゃ? 申してみよ」


「妖精がおりました」


「妖精だと!! まことか? 妖精などこの1000年目撃情報はなかったぞ」


「私とドラゴンの周りを飛び回り警告してきました」


「警告だと!!」


「何人たりともこの妖精都市シオドアに近づくことは許さぬと」


『魔女が復活したのです』


 キャサリンの体を使い魔族の女は王に進言する。


『私に軍隊をお貸しください。必ずや御聖木と妖精を魔女から解放させてご覧に居れます』


 キャサリンの口を借りてライトは王に語る。


「よくぞ申した【光の妖精使い】のキャサリンよ。必ずや妖精都市シオドアを手に入れよ!! 王命である」


『確かに賜りました。つきましてはアーウイ王太子殿下と共にシオドアに行きとうございます』


「ふむ。良かろう。アーウイよキャサリンと共に妖精都市シオドアに行くがよい」


(ライト大丈夫なの?)


 おずおずとキャサリンはライトに念話を飛ばす。


(大丈夫僕に任せて)


 光の妖精に化けた魔族の女はにたりと笑った。



 *************************************



【 罰 】


 ___ 軍隊が来たね ___


 ___ 前の時と比べてしょぼいな。10万ぐらいか。ルーレオ国だけの軍隊だね ___


 ___ 他の国と同盟を結ぶ事が出来なかったのか? ___


 ___ 時間が惜しかったのか? シオドアを制圧するのにこの程度の軍隊で良いと思ったのか ___


 ___ 随分と舐められたもんだね。聖女様がいるのに ___


 ___ うん。結界の中に入れない ___


 ___ あははは。ウロウロしている ___


 ___ うん。偽聖女に憑いているのはあの女ね ___


 ___ 相変わらず真黒黒助だな ___


 ___ おっ? 偽聖女頑張って浄化しようとしている ___


 ___ どうする? ___



 キャサリンが祈りを捧げると瘴気は浄化されシオドアの都まで真っ直ぐに道が出来た。


「素晴らしい!!」


「流石光の妖精と契約している聖女様だ」


「神は我らに味方している」


 王太子は声を上げる。


「者ども進め!!」


 彼らは妖精達がわざと瘴気を遮断してシオドアの都まで誘導された事を知らない。

 キャサリンの肩にとまったライトの顔が歪む。

 ライト(ライラ)は妖精都市シオドアに入れない。

 2時間ほどして妖精都市の門が見えてきた。

 立派な門だ。

 この前まで無かった。

 ぼうっと光が門の所に現れ一人の少女の姿となる。

 少女は白い服を纏い。四角い帽子を被りベールで顔を隠している。

 長い髪は三つ編みにして帽子の中に押し込んでいるから彼らからは見れない。

 少女の周りを妖精達が飛び回る。

 荒くれ者の軍人でも畏怖の念を抱く。


「私はこのシオドア妖精都市の代表者です。何用で来られたのですか?」


 少女は静かに尋ねた。


「何用とは片腹痛い。誰の許しを受けてここにこのような物を建てた?」


「はて? ここはシオドア誰の土地でもございません。それに私達は昔からここに住んでいました」


 少女は静かに答える。嘘ではない。1000年前から住んでいた。

 妖精達が。


「ええい!! 黙れ!! 黙れ!!」


 将軍は少女に剣を突きつけた。

 その時馬車や鞍に取り付けられていた浄化の水晶が次々と割れる。


「なんとしたことだ!! 止めよ!! 壊すな虫共!!」


 将軍は剣を振り回して妖精を追い払おうとするがクスクス笑って壊しまくる。

【破壊の妖精】が浄化の水晶を壊しているのだ。

 今は風の妖精が瘴気を軍隊の周りから遠ざけているが。

 その気になれば何時でも瘴気を軍隊にぶつけられるのだ。


 ___ やあ。久しぶりだね ___


 ___ 1000年ぶりだね追放者 ___


 ___ お前がしたことは忘れないよ ___


 ___ 上手く化けたつもりでも僕達は騙されないよ ___


 妖精達がキャサリンを取り囲む。

 正確にはキャサリンの肩にとまったライトを取り囲む。


「貴方達はそこの魔女に騙されているのよ。可哀想に。今開放してあげる」


 ___ かわいそう? ___


 ___ 騙されている? ___


 ___ 開放してあげる? ___


 ___ 何の冗談だ? ___


 妖精達は冷たい目をキャサリンに向ける。


 ___ 騙されているのも!! 可哀想なのも!! お前の事だ!! ___


 ___ 愚かな!! 自分を聖女だと騙されているなんて ___


 ___ 偽りの浄化は代償が必要だ!! ___


 ___ この女自分の寿命がわずかだと気付いていない ___


「寿命が何ですって?」


 ___ お前の体はボロボロで後わずかしか生きられないってことさ ___


「嘘よ!! 信じない!! ライト嘘よね!!」


 ライトと呼ばれた妖精は、キャサリンの肩からふわりと離れた。


「ライト?」


『馬鹿女』


 ライトはキャサリンの顔を見て笑った。

 侮蔑が込められていた。


『本当におめでたい頭だな。おがくずでも入っているんじゃないのか?』


「嘘よねえ。嘘だと言って。私達はお友達でしょう?」


『お友達? 都合よく使った後でポイ捨てするのがお友達なら。誠お前はお友達だよ』


「裏切るの? 私貴方に言われてやったのに……酷い!!」


『裏切ると言うのは信頼関係を築いてきたものが言うセリフだ』


「そんな……」


 ゴホゴホキャサリンは咳込んだ。

 ポタリ

 手には赤い血が滴り落ちた。


『思ったより早かったな』


「私死ぬの? これからもっといい思いをするはずだったのに?」


 赤い血を見て手を震わせるキャサリン。


『いい思い? 嘘で騙して手に入れた物だ』


「どういう事だ!!」


 麗しい王太子がライトを睨み付ける。


『間抜けな王太子。まだ分からないのか? その女は取り換えられた訳でもない。ただの娼婦の娘だ』


「まさか……」


『お前たちは無実(乳母夫婦)の人間を殺し、何の罪もない公爵令嬢を追放した。いやここで覚醒したから聖女様か。お前たちは聖女を追放したんだよ』


「フェルミナが真の聖女だというのか!!」


『オレンジの髪と瞳は聖女の証』


「それは魔女の証では無いのか!!」


『白を黒と言い張るのはお前の前世と同じだな』


 可愛らしい妖精は王太子を馬鹿にする眼差しで嗤う。


『間抜けな王が折角軍隊を動かしてくれたんだから有効利用するとしよう』


 ライトは妖艶な女の姿になった。

 紫の髪、金色の瞳、青い肌。頭には三本の角。

 正真正銘の魔族の女だ。

 パチリと指を鳴らす。

 兵士の足元に巨大な魔法陣が現れた。

 王太子とキャサリン以外バタバタと兵士と馬が倒れる。


「これは何が起きているのだ!!」


「アーウイ様怖い」


 キャサリンがアーウイ王太子に縋りつくがさらりと王太子はキャサリンを払う。


「穢わらしい!! 父と私を騙した娼婦!!」


「そんな……私は貴方達に言われて多くの兵士を治したわ!! そのせいで私は寿命を使い果たしたのに……酷い!! 酷い!! 私もライトに騙されていたのに!!」


「ふん。娼婦の娘が王太子である私と口を利けただけでも光栄に思うのだな」


 キャサリンの顔が絶望に歪む。

 そしてゴホゴホと再び血を吐いた。

 王太子はそんなキャサリンに見向きもしないで倒れた将軍の側により肩を揺する。


「サリハス将軍!! 駄目だ……死んでいる」


 将軍は目や鼻や口から血を流し肌はどす黒く変色し死んでいた。

 騎士や兵士も同じ有様だった。


「魔族の女よ!! 皆に何をした!!」


『なに。大したことじゃないよ。弱いから強くなって貰っただけよ』


 妖魔の女は歌を歌う。

 低く高く何処か悲し気な死の歌を。

 むくり

 将軍や兵士が起き上がる。

 肌の色は土色で牙と角が生えている。

 どうやら人間を止めたようだ。


「あの女を殺せ!!」


 魔族の女がフェルミナを指差し命じた。

 シャラリ

 鞘から剣を抜く。

 10万の鬼兵がフェルミナに襲いかかった。


 どおおおおぉぉぉぉぉんんんんん……


 眩しい光がフェルミナを包み兵士たちを吹き飛ばす。

 フェルミナを庇う様に一人の青年が片手を突き出し立っていた。

 吹き飛ばされた鬼兵の肉片がバラバラと辺りに飛び散る。


『何故? 何故? その女を庇うの?』


「ライラもう止めるんだ」


『貴方は変わってしまった。そんな女に傾倒して魔族の誇りを捨てた。許さない!! 貴方もその女も!!』


『鬼兵共この二人を殺せ!!』


 ライラは鬼兵に命じた。

 しん……

 ライラに答える者はいない。

 鬼兵は骨になっていた。

 時の妖精が胸を張る。


 ___ 鬼兵の時間を進めたんだ ___


 時の妖精は鬼兵の時を進めた。

 死の時まで。

 ざらり

 鬼兵の骨は崩れ落ちた。

 彼らの屍は砂になり。風に吹かれて散って行く。

 後には王太子とキャサリンとライラだけが残った。


『こんな馬鹿な!!』


 ___ 妖精を舐めてもらっちゃ困る ___


 クスクスクスクス

 ライラの周りを妖精達が乱舞する。


「追放されし娘ライラよ。覚えているか?」


 ライラは魔族の青年を見る。

 青年は冷たく微笑んでいる。


「二度とこの地に足を踏み入れる事はならぬと。私は言ったね」


『ラトス様……』


「忘れてしまった?」


 何処か悲し気で何処か狂気に満ちた瞳でライラを見る。


『あの女は貴方に相応しくない!! 私こそが貴方の隣に立つべきなのに……分からないの?』


 ライラはラトスに訴える。


「何も分かっていないのは君だよ。残念だ」


 ラトスは右手を上げた。


 ジャラララ!!


 黒い鎖がライラを拘束する。


『ラトス止めて!!』


 ライラは悲鳴を上げる。

 藻掻くが鎖は体に食い込んで外れない。


「あの女さえいなければ!!」


 ライラはかっと口を開け、フェルミナに向かって炎槍を飛ばした。


 ___ 聖女様!! 危ない!! ___


 ___ 聖女様!! 逃げて!! ___


 ___きゃあぁぁぁ!! ___


 ___ 聖女!! ___ 


 妖精達が悲鳴を上げる。


 ドゴオォォォォォン!!


 濛々と辺りに土煙が舞い上がり。

 フェルミナの姿を覆い隠す。

 あれをまともに食らったならば一溜りもない。


『私一人が死ぬものか!! お前も道づれだ!! あははははははははははは!!』


 ライラの狂った狂笑が辺りに響く。


 ___ 聖女様!! ___


 ___ 聖女様!! ___


 妖精達が土埃の中をフェルミナを探す。

 風が吹き、砂埃を払う。

 そこにフェルミナの姿がない。

 ライラは眉をひそめる。

 炎槍は確かに強力な武器だ。

 だが、死体も残らぬほどの威力は無い。

 ライラは慌ててフェルミナの死体を探す。


 ゆらり


 蜃気楼の様に揺れて無傷のフェルミナの姿が現れる。


『な……何故?』


「良かった。フェルミナ無事だったんだね」


 王太子がフェルミナに駆け寄る。

 伸ばされた手はするりとフェルミナの体をすり抜ける。


「えっ?」


『!! き……虚像……』


 王太子とライラは目をこぼれんばかりに見開く。


 ___ 大当たり~~~♡ ___


 妖精達が銅鑼や太鼓を叩く。

 どどんがどん!!


『初めからそこには居なかったのね!!』


 ___ 当たり前じゃん ___


 ___ 引っかかった。引っかかった ___


 ___ 大切な聖女様をお前達の前に晒すわけないだろう ___


 妖精達は笑う。

 本当に愚かだと三人を笑う。


 ぐん!!


 ライラの体が浮いたまま、城門の方に引っ張られる。


『止めてラトス!!』


 やがてライラの爪先が城門の上を超える。


『ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 ライラの爪先が黒く染まりざらざらと砂のように崩れる。

 足首が太ももが次々と黒く染まりざらざらと崩れる。


『痛い!! 痛い!! 痛い!!』


 ライラは泣き喚く。


『私の体が消える!! ラトス様許して……』


「君に皆で呪いをかけた」


 ラトスがポツリと言う。


 ___ 覚えているか? ___


 ___ 忘れていた? ___


 ___ お前が聖女様に害をなそうとして捕まった時 ___


 ___ お前がこの地に入ったなら苦痛と共にその体は崩れ去ると ___


 ___ 痛い? お前に殺された聖女様も痛かっただろうね ___


 ライラは最後の悲鳴を上げると塵になった。


「ああ……思い出した」 


 フェルミナは消えゆくライラを見てぽつりと言った。


「えっ?」


 王太子はフェルミナの虚像を振り返る。


「確かに妖精達が言う様に私はルナと呼ばれる聖女だった。【聖木を育て守る者】とも呼ばれていた。ある時聖木が未来を見せてくれた。私が殺されて聖木が枯れシオドアが滅びる様を」


 フェルミナは俯く。


「私は考えた。みんなを救う方法を……私は時の妖精に聖木の種を託し妖精達に誓わせた。必ずここに帰って来るから待っていてって」


 風が吹きフェルミナの顔を覆っていたベールが風に舞う。

 アーウイ王太子は息を吞む。

 静かに微笑むフェルミナは正に聖女の名に相応しい乙女だった。

 ルーレオ国の城に居た時のフェルミナは無表情で人形の様だった。

 冷たく硬い表情はアーウイが最も苦手とする物だった。

 まるで周りは敵だらけだと言っている様だった。

 全くそのとおりだ。

 フェルミナにはその髪と瞳の色のせいで友達も居なかった。

 婚約者であるアーウイにも嫌われていた。

 もしかしたら両親が一番彼女を嫌っていたのかも知れない。


 ___ そうだよ。僕らは待っていたんだよ ___


 ___ ちゃんと言う通り。ここに居たよ ___


 ___ お帰りなさい。聖女様 ___


 ___ お帰りなさい。もう帰って来るのが遅すぎたよ ___


 ___ それに僕達の事を忘れていたし。プンプンだよ ___


「ごめんなさい。でもちゃんと帰ってきてみんなを助けたでしょう」


 花が咲いたようにフェルミナは微笑んだ。


 ___ 間に合って良かった良かった ___


「用事はすんだ。家に帰ろう」


 ラトスがフェルミナに手を差し出す。


「ええ。我が家に帰りましょう」


 フェルミナはラトスの手に白魚の様な手を載せる。


「ま……待ってくれ」


 アーウイ王太子が虚像に声を掛ける。

 二人はちらりとアーウイ王太子の方を見た。

 ラトスは殺気を放つ。

 アーウイの身体はびくりと震える。

 アーウイ王太子の挙げられた手が力なく落ち。


「し……謝罪をさせてくれ。すまなかったフェルミナ……」


「謝罪を受け取りました。ではさようなら。私は追放された地で幸せに暮らしていると父にお伝え下さい」


 それは完全な決別宣言だった。


 ゆらりとフェルミナとラトスの虚像が消え、気が付くとアーウイとキャサリンは王都が見える崖の上にいて。さっきまでの事が幻の様だった。

 本当にさっきまでシオドア廃棄地帯にいたのか己が頭を疑った。


「あれは幻だったのか?」


「いいえ。幻でも妖精に化かされたわけでもないわ」


 アーウイ王太子は血を吐いているキャサリンを見てそうだなと呟いた。

 そして用済みになったキャサリンを置いてさっさと王都に向かう。


「軍を再編して今一度シオドアに向かい聖木とフェルミナを取り返さねば。フェルミナはあの魔族に誑かされているんだ」


「待って!! おいて行かないで」


 アーウイ王太子は振り向きもしない。


「あんたはあたしの物だ!! 誰にも渡さない!!」


 ドスッ!!


 アーウイ王太子の腹から剣の先が生えた。

 魔獣や盗賊の多い所だ、念のためキャサリンも剣を携帯していた。

 それが仇となった。


「この……」


 アーウイ王太子は剣を抜きキャサリンを切り捨てる。

 悲鳴を上げる間もなくキャサリンはこと切れた。


「こんな馬鹿な……私はこの大陸を統べる王になる男だ……こんな所で死ぬ訳にはいかない……」


 アーウイ王太子はこと切れた。

 二人を運んだ風の妖精が事の顛末を見ていたが。

 ラトスには報告するが、フェルミナには報告するのは止めよう。

 そう思った。優しいフェルミナは悲しむだろう。

 悲しむフェルミナは見たくない。

 風の妖精はシオドア妖精都市に帰っていった。



 ルーレオ国の王都で不思議な噂が流れた。

 シオドア廃棄地帯に妖精都市が現れ。

 都市の周りをダンジョンが取り巻いて誰も入れない。

 妖精都市には聖女が御聖木を守って妖精達と楽しく暮らしていると。

 聖女様の髪と瞳の色はオレンジ色だそうな。



            ~ fin ~


 *************************************

 2019/7/1 『小説家になろう』 どんC

 *************************************


 ~ 登場人物紹介 ~


 ★ フェルミナ・ウルグ公爵令嬢 17歳 

 父親にも母親にも似ていなかった(先祖返り)為両親に疎まれる。

 【シオドアの魔女】と同じオレンジ色の髪と瞳を持つ。(実は聖女の生まれ変わり)

 不義を疑われて母親は若死にする。

 10歳の時王太子と婚約する。父親に愛されたい為に王妃教育をがんばるが、無実の罪でシオドア

 廃棄地帯に追放される。

 キャサリンが現れるまで、王太子とはそれなりに仲が良かった。


 ★ ジョンソン・ウルグ公爵 40歳

 フェルミナの父親。自分にも妻にも似ていない娘を疎ましく思っていた。

 妻が死んだ後は仕事人間になる。


 ★ キャサリン・エーゼル男爵令嬢 17歳

 フェルミナを罠に嵌めシオドアに追放させる。

 ウルグ公爵に似ていたのは4代前のウルグ公爵の血を引いている為。(先祖返り)

 母は娼婦で父親はエーゼル男爵。

 光の妖精【ライト】と契約したと思っている。

 まさか王族が親子判定の魔道具を持っているとは知らなかった。


 ★ フリッツ・エーゼル男爵 37歳

 若い頃キャサリンの母親エゼナに惚れていた。

 キャサリンを見つけて養女にする。

 ライトにそそのかされて犯行に及ぶ。  


 ★ エゼナ 享年25歳

 キャサリンを産んで産後の肥立ちが悪く死亡。

 亡くなる前に売春宿の下女にキャサリンを教会に棄てさせる。

 まともに育って欲しかった。

 わりとまともな人だった。


 ★ 光の妖精ライト ????歳

 妖精に化けた魔族のライラ

 聖女に懸想する魔族の皇子に振られた腹いせに、聖女を魔女だと嘘をつき5大国をあおり聖女を

 殺させて世界を滅ぼした黒幕。

 自分はちゃっかりダンジョンの中にある水晶で眠っていた。

 1000年たって目覚める。偽聖女の生まれ変わりを見つけ妖精と契約した様に見せかけ取り付く。

 その時聖女の生まれ変わりも見つけて絶望の中で殺そうと画策する。


 ★ ラトス魔族の王子 ????歳

 ライラの求婚を断ったために世界が滅びた。

 その癖惚れていた聖女に告白していないヘタレ。  

 フェルミナに複雑な気持ちを持つ。


 ★ アーウイ・ラ・ルーレオ王太子 20歳

 フェルミナを疎み断罪する。

 嘘に踊らされてフェルミナを追放する。

 ライトのせいでおかしくなっている。が元々おかしかった。

 キャサリン・エーゼル男爵令嬢の嘘を見抜けずフェルミナをシオドアに廃棄処分する。

 最後にはフェルミナに見捨てられる。


 ★ シオドア廃棄地帯

 誠の名は【シオドア妖精都市】5大国に滅ぼされた。

 5大国に中心にある。1000年前は豊かに栄えていた。

 妖精は聖女にここで待つように言われ交代で眠っていた。

 1000年の間廃棄地帯となる。


 ★ ルーレオ国

 フェルミナが居た国。

 大国でもなく小国でもない。中間の国。

 人族が多い。ドラゴンライダーがいる。


 ★ 妖精

 この世界には八百万の神々と同じ数多の妖精が居る。

 聖女が好きで働き者。嘘つきには厳しい。

 噓つきは喉のあたりが黒く見える。

 その為キャサリンは真黒黒助の化け物に見える。

 聖女との約束を守りシオドアにいて聖女の帰りを待っていた。 

 聖木の種は聖女が旅立つ時に渡したもの。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 起承転結しっかりと書かれている [気になる点] ただし、詰め込みすぎて、端々に矛盾や雑な面が見えます。 例として 取替えの疑いが出たとして、所詮“暗殺者”の証言なのだから、親子判定をする…
[気になる点] 親子鑑定して王と父と王太子が真っ青になった件は一体どこへ消えたの?その話いつ出てくるんだろうと思いながら読み進めてましたが出てこないまま王太子とか死んじゃってる… [一言] 詰め込みす…
[気になる点] 序盤で王族立ち会いで親子鑑定を行い、偽聖女が公爵の実子ではないと判明した後、偽聖女と王子が連れだって遠征に来てるのはどんな判断でしょうか
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