ダイショウ
「さてと、尺も戻った事だし会話をしましょうか」
「尺なんてそもそも存在しないからっ!」
尺の事はどうだっていい、気にする必要の無い事だ。
それにしても、いったいどう言う事だ?
管理者がただのユーザーに会いに来るなんて事、そうそう考えられない。
それとも、管理者だから今は全ユーザー個別に会いに来ている、とか?
なんなんだよ……。
「…………それで、管理者さんがオレ達に何の用だ?」
「そんなに警戒しなくても別に何もしないわ」
「さっきのシステムアナウンスじゃ、ほとんどのユーザーがマナシステムを敵だって思ったはず。警戒するなって方が無理だって」
クウコなんてオレの後ろに隠れてるし……。
「まぁ、そう言うのも分からない事も無いけれど、そんなに警戒されては会話が出来ないでしょう?」
「……会話って。他に何か教えて貰えるわけ?」
「いいえ、それは無いわ。私は管理者だもの。肩入れするような事をするわけには行かない。それに、私から情報を貰った後、もしあなたが私個人から情報を受け取った、なんて事が明らかになったらどうなるかくらい分からない?」
そりゃ……オレはマナシステム側のヤツって事になって、敵視される。
十中八九そうなるだろう。
そう考えると、ある意味オレを気遣っているとも捉える事が……って、それはさすがに信用し過ぎか。
でも、少しくらいは会話をしてみよう。
オレはマナシステムの前に少し距離を取って座る。
「クウコもとりあえず座りな。ここはバトルエリアじゃないしさ、攻撃をされる事は無い」
「う、んなの」
クウコが座ったの確認して、オレは話を続ける事にした。
「それで、いったいどんな用事で?」
「私、個人的にあなた達に興味があるのよ。正直なところ、レアリティ1でまさかまだ続けているとは思ってもみなかったのだから」
「……それなりに苦労はしてる」
「ええ、それは見れば分かるもの」
そう言ったマナシステムの視線は、オレの右足へと向けられている。
管理者って言うくらいだし、そりゃオレの現状を”知ってて当然”ってわけか。
「カレン? 見れば分かるって、どう言う事なの?」
「あ、えっと、それは……」
クウコへの返答を迷っていると、マナシステムの方が先にクウコへ向けて返答をした。
「私は管理者だもの。あなた達のステータスを見れば、苦労が手に取るように分かるって事」
「あぁ、なるほどなの」
「…………」
オレを一瞥するマナシステム。
オレが答え辛い事をわざわざ……今の状況を助けられるとは思いもしなかった。
「あの、一つだけ教えて欲しい事があるの。カナエは何処に行ったの?」
「言ったでしょう? 教える事は出来ない、と。まぁ、でも、それくらいならいいかしら。けれど他言無用になさい。私と繋がっているなんて事がバレてしまったら、あなた達、この世界にいられなくなるのだから」
「うん、分かったの……」
「確率は半々だけれど、きっとあなた達のところへ来る、と私は予想しているわ」
「無事って事なのか?」
「ええ」
嘘、と考えられなくも無いが、わざわざ何百万といる一ユーザーに対して、自分との繋がりを他言するなと忠告するような考えを持っているわけだし、カナエちゃんについては、とりあえず本当の事を言っているような気がする。
「どのような理由で来るのかまでは、その子と会った時に分かるでしょうね。だから、せいぜいそれまではゲームオーバーにならないように頑張りなさいな。ついさっきも言ったけれど、私はあなた達に興味があるのよ? 簡単に終わってしまったら楽しみが無くなってしまうもの」
そんなの、他にもたくさんユーザーがいるのだからオレ達を選ばないで貰いたい。
それに。
「楽しみたいなら自分でプレイすればいいだろ?」
「今はダメね。管理者と言っても、いろいろあるのよ」
「いろいろって?」
「いろいろ、ね」
何かを含んだ言い方。
繰り返し聞いても、きっと答えてはくれない。
管理者なんて面倒な役をしていれば、そりゃ”いろいろ”あるだろうさ。
「なぁ、管理者さん」
「マナ、でいいわ。名前なんて無いのだけれど、呼び難いでしょう? だからマナ」
「…………マナ、次の緊急アナウンスはいつを予定している?」
「さぁ。私の気分次第。繰り返し先回りして言うけれど、あなた達ユーザーは知っている事なの。それなのに知らないから全てを教えて欲しいなんて、都合が良過ぎると思わない?」
「まぁ、そうだけどさ……」
確か、オレ達ユーザーがこの世界に存在している時点で、知り得ている事だって言っていた。
と言う事は、何処かで説明を受けたか見た事がある、のかもしれない。
けど何百万もユーザーがいて、一人として知っているようなヤツは、あれだけの人数が居たロビーでさえもいなかった。
いれば、あの時点で反応があったはず。
それなのに反応が無いのであれば、ゲーム開始時のチュートリアルになかったし、そう簡単に知り得る事が出来ないって事、だろうか?
「あぁ、そうそう。これはシステムの仕様とは全く関係無いのだけれど、コーヒーのアドバイス、ありがとう。お礼を言っておくわね」
「え? コーヒー? 何の話?」
「お蔭様で朝はネスカフェ推しになったわ」
「ネスカフェ……? ん? 何を言って……あ、あぁぁぁああっ! アンタかぁーっ!」
この前の配信で紹介したお便りの主が目の前にいた。
「サボる理由も考えてくれて、感謝しか無いわね」
「そっちもかいっ!」
まさかの一人二役……。
「私、あなた達二人が行っている配信のファンなの。いつもいつも対して有用じゃないあの配信。見ていて和むわね」
「……なんなんだよ、あのシステム」
「楽しいでしょう?」
「ああ言う事に慣れている奴等はいいだろうけどさ……」
「けれど上手く出来ているじゃない。堅苦しい考察配信なんかよりもずっと、私は好みよ?」
管理者自らがあのぐだぐだ配信のファンだったとか……驚愕の事実だよ。
「クウコさんのエンディング曲、私、予約までさせて貰ったわ」
「……ありがとうなの」
「…………本気で売り出すつもりなのか」
まぁ確かに歌は上手かったし、曲もノリが良かったし欲しいと言えば欲し……ってそうじゃない。
「なんだか凄く調子狂う。敵なのか味方なのか、いったい何がしたいわけ?」
「敵でも味方でも、どちらでも無いわよ」
「……なら、もったいぶらずに教えてくれたっていいじゃないか」
「言ったでしょう? 敵でも味方でも無いと。私は管理者なのだからゲームの仕様に則った動きをするまでの事よ」
あの”影”、シャドウレイヤーってのは仕様であり、オレ達ユーザーは知っていて当然の事だから、管理者であるマナシステムは仕様に従っているまでの事だ。
だからユーザーを敵視して、邪魔をする為の行為では無いと言う事になる。
そして、その現状は仕様ともなれば、わざわざそれを教える為の行為、ユーザーサイドに立った味方とも取れるような行動をしている。
敵でも味方でも無いとは言うが、どちらかと言えばオレ達ユーザーの方が”悪”であり、マナシステムはユーザーの”味方より”。
本来感謝するべき事なのかもしれない。
「さてと、それじゃあ私はこの辺でお暇しようかしら」
「あ、そうだ……勝手に許可なくマイルームへ入るのはどうかと思う」
「悪かったわ。今回限りは、許してちょうだい」
「……管理者権限で何もかも出来るんだろうけど、管理者として信用問題になるぞ」
「金輪際しないから。次来る時は、メッセージを入れてから来るようにするわね。それじゃあ、この辺で。あまり無茶な事をして、ゲームが出来なくなるような事は避けなさいな」
一方的に告げて、マナはその場から消えた。
本当に調子狂う。
悪人ってわけでも無く、かと言って、味方ってわけでも無く。
会話するより前よりも余計こんがらがって来た。
「カレン、これからどうするの?」
「ん、んーそうだなぁって言っても、分からない事が多過ぎるんだよ。シャドウレイヤーだっけ? チート行為をするとあれになるって言うし、あれになる事はまず無いけど……」
チートなんてしたら、ゲームの意味無いもんな。
そりゃ、オフラインゲームであれば、時間の無いユーザーに取って、ストーリーをさっさと成し遂げる理由であれば、オレ個人的な意見で言うと理解は出来るし納得も出来る。
ゲームだけやってられる世の中じゃないんだから、ストーリーだけ見たいってユーザーの為に、元からパワーアップ仕様でも搭載してくれたらいいんだよ、うん。
っと、脱線してしまった。
でも、他のユーザーがいるオンラインゲームにおいて、チートはご法度。
まぁ…………正直、リアルマネーを継ぎ込んだだけ有利になるスマートフォンゲームもどうかとは思うけどさ。
どんなに頑張って毎日少しずつ進めても、リアルマネーをガンガン投資出来る人間は、二日三日もすれば半年無課金で頑張ったユーザーを、アッサリ超えて行く。
あ、また脱線してしまったよ……。
「カレン、そのチートって何なの?」
「ん? 不正改造の事。プログラムを管理者の許可無く、ユーザーが勝手に能力を書き換えて、ステータスを大幅に上げてしまうって行為」
「そんな簡単に出来てしまうものなの?」
「そう、だなぁ。有識者には簡単なのかもなぁ。オレには出来ないけど」
でも、腑に落ちない。
プリンセスナイトオンラインの技術は相当高度なはず。
”疲れ”等を現実の人間に認識させるのだから、今までには無かった技術だ。
それなのにチート行為が出来るような、甘いセキュリティを作り上げるものなのか?
世の中には天才っているだろうから、技術なんて追い駆けっこ、抜きつ抜かれつ……んーだとしても、なーんかなぁ、セキュリティって基礎的な事だろ?
普通、対策を万全にしていても良さそうなのに。
「分からない事が多いし、当面はやっぱり共同戦線は無し。それと、カナエちゃんの件は、本人と本当に会う事が出来たら直接聞いてみよう。マナの口振りから察すると、カナエちゃんはカナエちゃんのままっぽいしさ」
そうなんだよ…………マナの口振りから察すると、ライの方はシャドウレイヤーになってしまった、と考えられるんだ……。
そしてチート行為が”最近増えた”、とも言った。
あんな強力なキャラクターがこれからまだ増えるかもって事になるんだろ?
完全にバランスブレイカーな存在。
不測の事態が起こった時、アレを相手にしなければいけない。
となると、ステータスの低いオレは……未完のスキルに頼る場面が出て来るだろう。
今度は”足”では無く、別の部分になるかもしれない……。
「クウコ、オレ、少しだけ席外すから待ってて。中の人、ちょいと居なくなるから」
「うん、分かったの」
現実世界で用事が発生した時、今までも同じように対応して来たけれど今回は違う。
クウコには嘘を吐いている事になるが、どうしても確認したい事が出来た。
会話ログから目的の人物へ宛てたパーソナルチャットを送ったけれど、さて、応答してくれるのやら、と思った矢先にメッセージが返って来る。
『何かしら? 私と連絡を取るのはあまり良く無いと思うのだけれど?』
『それは分かってる。でも、敢えて聞きたい事があったんだよ』
その相手はつきさっきまで会話をしていたマナシステム本人。
本来であれば知り得ている事だから、と言われたらそれまでなんだけど、ダメ元で聞いてみる事にする。
『オレの”足”……これ、本当に戻るわけ? 事態は把握してるみたいだしさ』
『知っているわよ。あなたがスキルの前借りをした時に、警告のメッセージが出たわよね?』
『あぁ、だから聞いているんだよ』
『知っているならいいわ、ハッキリと言ってあげる。警告メッセージの通り、スキルを会得さえすれば戻るわよ。その、”動かなくなった足”はね』
『……信じていいわけ?』
『警告メッセージに出ている事が事実なのだから、嘘なんて言わないわよ。あなた……カレンさんだったわね。その事をあの子に話して無いのでしょう?』
『あぁ……教えて無い』
『どうして?』
『クウコに余計な心配を掛けさせない為だよ。それに、スキルさえ会得すれば治るってんだから、一時的な事だ』
『ただのゲームだと言うのに、よく代償を支払う気になったわね。まぁ、理由は今更聞くまでも無いでしょうから聞かないけれど』
『…………』
オレとクウコが以前、共同戦線に出た時、とても嫌な思いをした事があった。
レアリティ1、ただそれだけの理由で。
けれど、それがどうしても許せないと思った時、まだ習得していないスキルの前借りを行えるシステムが発動し、オレは拒否する事無く、代償を支払って使用する事を選んだ。
その代償が”現実世界の人体の機能を停止させる”と言う信じられないようなもの。
『下手をすればカレンさん、動けなくなるのよ? あなたの現実とは一切関係の無いあの子を守った挙句』
『そう言うなら、何故クウコをレアリティ1になんてした。クウコはオレが選ぶまでの十分にも満たない時間で……四十万のユーザーに拒否されたんたぞ……』
自分のプリンセスキャラを選択する時、何人のユーザーが、対象となるプリンセスキャラのキャンセル数を数値で表示する仕様。
そして、サービス開始から十分弱の間で、クウコの数値は四十万を超えていた。
チュートリアルのキャラクターとして扱われ、そして、誰もがクウコを選ぶ事無く、アイツは拒否され続けいたんだ。
『理由なんて無いわ。あの子はただの説明をする為に用意されたキャラクターだもの。むしろ、レアリティ1だと分かっているのだから、あなたこそ選ぶ必要が無かったと思うのだけれど?』
『…………あぁ、正直躊躇ったよ。初期ステータス値はスピード値を以外1ケタ。唯一のスピードだってほぼ1ケタのようなもの。圧倒的に不利なスタートになるって目に見えていたからな』
後で調べて分かった事だけれど、最高レアなんて、初期ステータス値が3ケタを超えているって言うのだから、クウコは本当に疑いようも無く最弱キャラだった。
『自分の身体とあの子の事、あなた自身で考えて出した答えが今の現状だと言うのであれば、責めるつもりは無いけれど、未完のスキルを多用するのは止めておきなさい、と言いたいけれどね』
『……それならこんな仕様作るなっての』
『正直な気持ち、実際に使う人がいるとは思ってもいなかったのよ』
『なんだよ、それ……無責任だなぁ……。けど、警告はしてくれたわけだし、これはオレ自身のせいだから、自業自得、か……』
『でも、後悔はしていないのでしょう?』
『あぁ、バカな事をしたとは思うけれど、後悔はしてないよ』
『そう。いつかはスキルを会得出来るでしょうから、それまでは使わない事ね。次、人として機能出来なくなる部分を停止する可能性もあり得るのだから』
『普通に考えたら大問題だろ…………。訴えられたら捕まるぞ?』
『試してみなさいな』
『しっかりと対応策は考えているんだろうし、そんな事したって無駄なんだろ』
『ご名答』
『ならどうして、チート行為を簡単に出来るような甘いセキュリティになってるんだ?』
『禁止行為でしょう? それを分かっていながら、不正改造をしているそちら側が悪いだけじゃない。私が責められるような事では無いもの』
『これからもその対策はしないって事か……』
『チート行為イコールシャドウレイヤーだと伝えたのだから、これで少しは考えてくれるでしょう?』
そうなってくれたらいいけど。
何せアレになったからと言って、何がどうなるかはまだ全然ハッキリしていない。
別アカウントを作成して、普通にプレイを再開している事だって考えられる。
チート行為を働くユーザーなんて、だいたいみんなそんなものだろうから。
『さて、カレンさん。あなたの聞きたい事は聞けたのだから、もう開放して貰っていいかしら? このままだと言わなくても良い事まで言わされそうだものね』
『別にそこまでの意図は無かったけど、まぁ、助かったよ。応えてくれた事には感謝する』
『おいしいコーヒーの飲み方をアドバイスしてくれたお礼、とでも考えておいて』
『くだらないお便り禁止だからなぁって……もう切れてるし……はぁ』
まぁ、足は治る、と言うよりも元に戻るらしいから、とりあえずは一安心、だな。
スタート時よりもステータス値は上がっているし、未完のスキルを使う事も無いだろ。
マナとのパーソナルチャットを終えた後、オレはクウコと合流し、何度かクエストに出撃をした。
相変わらず謎の光に覆われてはいるものの、安定してクエストを熟せている実感はあるし、レベルが2つ上がったところでログアウトし、現実世界へと帰って来る。
「…………」
ヘッドマウントディスプレイを外し、枕元にあるスマートフォンで時間を確認すると、午前一時を過ぎていた。
「喉乾いたし、何か飲みに行って来るか」
立て掛けられている松葉杖を手に、動かない右足を庇いながら入院している病院の室内を後にする。
消灯している病棟の廊下をゆっくりと歩きつつ、自販機が設置されている休憩室へと向かった。
「……別に痛みとか無いなんだから、学校行かせて欲しいんだよな」
学校が大好き、と言うわけでは無い。
ただ、取れなかった分の授業ノートを取らないといけないのが億劫なだけ。
「現実世界で友達作るチュートリアルって、何処かに無いものなのか……」
こんなオレをレアリティで例えた場合、恐らく限定ピックアップの最高レアキャラとして実装されるのだと思う。
全く嬉しくない最高レアを吹っ切るように、松葉杖を巧みに操り、今の姿を見たら多少引かれるくらいの速度でオレは休憩室を目指した。
そして後に”最高速の松葉杖使い”と呼ばれる怪談話が院内で流行した事を、ここに付け加えておく。




