フカカイノハジマリ
オレのマイルームへと集まったのは、カリンさん、セリカちゃん、クウコとオレの四人。
ちなみに全員しっかりと、スライムのドロドロは洗い流して綺麗になった後だ。
セリカちゃん、普段着もジャージなのか……。
「期待させて申し訳ないが、先ず、私はほとんど情報を持っていないんだ。なので、知っている事と憶測を含めて話そうと思う」
「いえ、オレなんて全く情報を持っていませんから、むしろ有難い限りですよ」
「カレンさん、ライさんとカナエさんは?」
「それが……共闘履歴からID辿って連絡はしたんですけど、どちらからも返信がありません」
ライの場合、アイツの性格からして無視している可能性が考えられる。
でも、カナエちゃんは集まらないにしても、返信だけても送って来るだろうと思ったのに。
「実はその二人と同じようなプリンセスとプリンセスナイトは何人もいるそうだ。しかも双方の連携が解除されている状態で」
連携の状態はステータス画面で確認が出来る。
カリンさんの言う通り、ライとカレンちゃんのステータス画面には連携相手の名前が表示されていない事はすでに確認済みだ。
「と言う事は……あの”影”になってしまうと、連携が解除される、と踏んで良さそうですね」
「あぁ、恐らくそれで間違いないだろう」
アレに変化した時の事を思い出してみるが、特別変化前におかしな様子は無かった、と思う。
こっちはこっちで戦闘が忙しかったから、絶対とは言い切れないけれどそれにしたって突然過ぎた。
「元に戻る可能性はあるんでしょうか?」
「申し訳ない、そこまでの情報は持ち合わせていないんだ。ただ、とにかくレベルが高く下手に相手をしない方が良いとメンバーの中では結論が出ている」
レベルが高いってモノじゃない。
レアリティ1のオレだけかもしれないけれど、ゲーム内じゃほぼ一撃死に近いぞ……あの攻撃力は。
「カレンさんも実際クエスト終了して理解しただろうが、あの”影”はクエストクリアの対象にはならず、遭遇した場合、クエストクリア条件を優先して実行した方がいいだろう」
「無理に戦わず、クエストのリタイアでもいいのでは?」
「それなんだが……途中リタイアは出来ない……。”影”が介入している最中は、クエストを成功させるか失敗するか、どちらかで無いとあのエリアから解放されないらしいんだ……」
「……マジですか? そんな事、チュートリアルでは言って無かったですよね?」
「あぁ、その通り。だから私は運営に直接メッセージを送ったのだが、まだ返信が無い」
「オレ達が知らない間にアップデートされた、新コンテンツって考えられなくも無いと思いません?」
「……果たしてそんな事って有り得るのだろうか?」
そう、だよな。
プリンセスナイトオンラインに限らず、ネトゲは新コンテンツが追加されるのであれば、事前情報だったり、実装情報が開示されるはずだ。
クウコにもカリンさん達が来る前に聞いてみたが、分からないと言う。
そもそも自分達もプレイヤーとほとんど同じ立ち位置にいるから、運営のする事までは知り得る事が無いそうだ。
「なんて言うか……あんまり楽観視出来ない、と思うんです。正直気になって仕方が無いです……」
「それは私も同感だ。カレンさんの危惧する事への裏付けも事実上あったりするから……」
オレ、クウコの視線がカリンさんへ集中する。
「アレに倒されたプリンセスとそのナイトは、その後、連絡が取れなくなっている……。誰がメッセージを送っても返信が無い……」
「…………」
言葉を失った。
じゃあ、オレもあのまま倒されていたら、どうにかなっていたって事か?
「ただログイン出来なくなってしまった、と考えられないの?」
倒されたからゲームの続行をさせない?
でも……中には課金している奴等だっているのに、そんな炎上する事が明らかな事をわざわざ運営はするだろうか?
このネットワーク社会で信用を失うリスクはメーカーに取って余りにも大きいはず。
恐らくログインさせない、なんて事は無いだろう。
「カリンさん。現実世界のWebとかに、プリンセスナイトオンラインで炎上騒動とかってありました?」
「いや、調べてはみたんだが見付からなかった。あの”影”についてのスレッドが出来ているサイトもあったんだが、やはり要領を得ない書き込みばかりで、ネットの情報が今は役に立っていない」
「しかも……プリンセスまで連絡が出来なくなっている事を考えると…………」
「良く無い事が発生している。そう、考える方が妥当だろう」
たまたまクエストの終了間際だったから助かったようなもので、もし、クエスト開始からあの”影”が介入して来たら……絶対に失敗する……。
「ログインはしばらくしない方が良いと思いませんこと? カリンが出した運営からの返信が来るまでは、ゲームにダイブしなければとりあえず回避が出来るかと思いますが?」
そう、だな。
セリカちゃんの言う事が、一番手っ取り早い回避策だ。
その間に運営が対策を取ってくれるだろう。
「それも一つの方法だが、もう一つ今の所考えられる方法がある。それは共同戦線には出ない事。私が知っている範囲では、誰もが共闘戦線中に遭遇しているそうだ」
「そう、なんですか……それを知っててよく入って来ましたね?」
「確かめたくて。私が所属するグループのメンバーも数人帰って来ない理由もあるし……起こってる事を自分の中で確定させたかったんだ。それに、何か解決方法が見つかるかもしれないと踏んだのだが……残念ながら何も得られなかった事がいたたまれないな……」
オレだったら……それを知っていれば共同戦線には入らなかっただろう。
どう考えたって怪し過ぎる……普通じゃない事に巻き込まれるのだから。
「あの、宜しいかしら?」
「うん、セリカ何かな?」
「カリンもカレンさんも、少し大袈裟に考え過ぎていませんこと? こんな事を言っては見も蓋もありませんが、これはゲームですのよ? 多くのユーザーが同時にログオンしている事によって、見付からなかった潜在的なバグ、と考えても良いと思いますわ」
確かに一理ある。
ネトゲに限らず、コンシューマーゲームだって今時修正パッチが配信されるくらいだ。
発売日その日に配信される事だってある。
メーカーでデバッグはしていたとしても、発売すれば更に多くのプレイヤーがいるのだから、発見出来なかった潜在バグだって見付かっても不思議では無い。
「どう、なんだろうか? 私はそこまでテレビゲームに詳しいわけでは無いから……カレンさんはどう思う?」
「そう、ですね……。確かに潜在的なバグの可能性はありますね。ただ、連絡が取れなくなっている相手がいる事を考えると、ある程度メンテ期間を設けて、一斉ログイン不可にするような気がします。それと、ネット上にスレッドが立ち上がっているのに、運営から何もメッセージが無い事を踏まえると、セリカちゃんの意見に反対しちゃって悪いけれど、やっぱり怪しい、ですね……」
「あぁ、いえ。気になさらないでください。私も正直言ってテレビゲームを自らプレイする事はありませんから、プレイしない側の立場の意見だと思ってくれたら幸いですわ」
まぁ、プリンセスナイトオンラインのキャラクターだし、実際にテレビゲームなんてする事は無いだろう。
「やはり運営から何かすらアクションが無いと要領を得ないな……。現実世界……つまりは私やカレンさん自身の話になるけれど、そっち側に影響が無いのであれば、とりあえず共同戦線を回避する事くらいしか今の状況の対応策は無いと思う」
オレ自身への影響、ねぇ。
「ん? カレン、どうしたの? 自分の短い脚なんてじーっと見て」
「短足なのはデフォですからっ!」
逆にこのクマ姿でスラリとした手足をしていたら不気味だわ……。
「他に何か……と言いたいのですが、私が知っているのはこれくらいしか……」
「そう、ですか」
もう少し情報が欲しいけれど、カリンさんはただのユーザーだもんな。
オレが全く知らない事を教えて貰えたってだけでも感謝しないと。
「カレンさん、迷惑でなければフレンド登録をしても?」
少し考えた。
それは願っても無い申し出。
これからも情報を共有する事が出来るのであれば、フレンド登録するべきだろう。
けれど。
「すいません、オレ、フレンド登録はしないようにしているんですよ。やっぱりレア1ってだけで敬遠するユーザーはいますから、そのオレとフレンドになっていると、何かすらカリンさんにも悪影響があると思います」
極力他ユーザーとの交流は避ける。
嫌な思い出となったあの日の共同戦線から、クウコと相談して決めた事。
「そうか、分かった。ならば、何かあった時はパーソナルチャットでメッセージをしよう。それくらいなら問題無いだろう?」
「すいません……そうして貰えるとホント助かります」
「気にする必要は無いですよ。同じ共闘戦線であのような出来事に遭ったのだから」
そう言ってカリンさんとセリカちゃんが立ち上がる。
「カレンさん、言うまでも無く理解しているだろうけれど、これは私からの心配だと思って聞いて欲しい」
「はい、何でしょう?」
「単純にステータス値の事になるが、やはりどうしても……あなたは弱い」
「……今日のカリンさんとライの戦闘見て、改めて実感しましたよ」
雑魚スライムを倒す為にヒットさせる魔法攻撃回数が、明らかに違っていた。
オレは二人の倍以上の回数が必要だったもんな……。
特にライと比較した場合、チート付与の異世界転生者かよってくらい違う気がする。
「忠告、ありがとうございます。あまり無茶しないようにします……」
それでは、と二人は言い残しオレのマイルームから退出した。
「うーん、なんなんだ、あれ。新コンテンツならしっかり報告しろよ……運営」
新着情報はしっかり読んでいるから、読み逃したって事は無いだろうし。
最近だと、メンテが長引いたから無料チケットを配布するとか、新コスチューム配信とか、チートが見付かったからその対応とか、だったよな。
「カレン、カナエはどうなったの?」
「……んー、正直分からない。無事だどいいんだけど」
「残念なの。せっかくお友達になれそうだったのに……」
目に見えて落胆しているクウコ。
こんな時、どう声を掛けて上げるべきなんだろう。
無事なのかどうか分からないのに、今度会ったら友達になればいいじゃないか、とでも言えばいいのだろうか?
根拠も無いのに励ますだけの言葉は、何処か的外れな気もする。
でも、人間の世界じゃあ、それは至って普通の事だ。
結果がどうなるか分からなくても、希望を持って信じて、そのおかげで毎日を強く生きていける事も確かな事。
けれど……結果が伴わなかった時のショックは計り知れないものがある。
難しいな、誰かを励ますのって。
「何か進展があればやりようもあるさ。連絡が取れそうな手段が分かったら、カナエちゃんへ真っ先に連絡取ってみよう」
「うんなの……」
不甲斐無い。
当たり障りのない体裁を繕っただけの言葉。
何の励ましにもなりやしない。
「オレもログアウトした後で、ネットを調べてみるよ。あの影についてとか、プリンセスキャラクターについてとか、カリンさんが調べているって言うけど、念の為にさ」
「分かったなの。それじゃあ、ログアウトの前に配信するの」
「…………しないわけにも行かないもんなぁ」
レア1のオレ達には、極力するべきイベントだ。
あんまり気乗りがしないけど、それでもガチャチケット以上にステータスアップアイテムは貰っておきたい。
「えっと、クエストが終わってから……うぉっ、ヤバ! もう二十分くらい過ぎてるぞっ!」
「配信準備、急ぐのーっ!」
「部屋を配信仕様にするぞぉ……って、クウコ、パジャマで出るのか?」
「はわぁっ! お着換えするからカレンは外に少し出ているのぉーっ!」
配信はクエスト終了後、三十分以内に開始しないと報酬が貰えない事になっている。
クウコは慌ただしくオレを外に追いやり、いつもの如くカーテンを勢いよく閉めた。
「無情だぜ……」
まぁ、これくらいバタバタしていた方が、多少はクウコの気が紛れて良いのかもしれない。
カナエちゃん、クウコの為にも、無事でいてくれよ……。
「……あ、そうだ。二人のスクリーンショット、貰うの忘れてたじゃんよ。勿体無ぇ」
そんな事を思い出しながらも、この不可解の出来事が気掛かりで、その後しばらくは嫌な感じが抜けなかった……。




