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キョウドウセンセン1

「カレン、共同戦線がもう少しで始まるけど、どうするの?」

「んー? 参加するよ。経験値、多く入るしさ」

 共同戦線。

 それは三組のプレイヤーが同時に参加する事になるクエスト。

 他のユーザーが倒したスライムの経験値も加算される為、通常クエストよりも効率が良い。

 クウコとオレのパーティーは他のパーティーに比べて断然弱いから、強い奴等に乗っかる形になるけれど、オンラインゲームなんて”オレ強えぇぇえっ!”したいユーザーが多いし、あまり気にしないようにして飛び込んでいる。

 まぁ、中には効率重視で耳障りな事を言うユーザーもいるけどさ。

 その点はどうしても気にしないわけにはいかない……。

「他プレイヤーがいても、オレ達はいつも通りで」

「分かったなの。カレンがドロドロのヌメヌメになるいつも通りって事なの」

「それを言い出したらクウコがアラレモナイ姿の状態で、ドロンドロンのヌルンヌルンになる、だろ?」

「……カレン以外にもプレイヤーがいるのに、あの仕打ちは頂けないの」

「仕様だからどうしようも無い」

「え? 今のギャグなの?」

「……わざとじゃない」

「薄ら寒いの」

「わざとじゃないって言ってるだろっ。”薄ら”って付けると余計腹立たしいな……」

「だから付けたの」

 性悪幼女め……。

 少し懲らしめてやろう。

「いやぁ、クウコが毎回アラレモナイ姿でドロドロヌルヌルになるから、気が気で無いんだよなぁ。目の前に可愛い美少女があの姿でいるわけだから、全くこっちは心臓がドキドキしておかしくなりそうだぜ」

「び、美少女……」

「クウコは他のプリンセスよりも可愛いからなぁ。ホント、戦っている最中目のやり場に困って仕方が無い」

「か、可愛い……」

 頭から湯気が出そうなくらい顔を紅くしている。

「はわわわわっ」

 耐性、無さ過ぎだろ?

 超高性能AI、ショートしないよな?

 少し不安すら覚えるぞ。

 と、これくらいの不安はそれ程問題では無い。

 それとは対照的に不安なのがこれから始まる共同戦線のイベントだ。

 初めて参加した共同戦線で起こった事が影響して、正直嫌な思い出が残っている。

 その事を気にしてクウコは敢えてオレに、行くのか行かないのかを聞いたのは想像に難くない。

 レアリティ1。

 たったそれだけの事。

 効率重視の奴等にはそれが許せなかったのだろう。

 ただ同じゲーム好きとして、直接的にも間接的にも暴言や嫌味を言われるとは思ってもいなかった。

 オンラインゲームのプレイ経験はあるけれど、実害はその時が初めてだったから、本当にそんな奴らがいるって事を身に染みた瞬間でもあった。

「カレン? どうしたの? 難しい顔をしているの」

「ん? 一生懸命考えていたんだよ。クウコに着せるコスチューム、次は何にしようか、と。選択肢が有り過ぎてちょー困ってるんですけどっ」

「……普通ので頼むなの」

「普通……ふむ、それなら。スク水プラス猫耳になるか」

「さも当たり前のような顔で言う言葉じゃないと思うの……」

「スク水プラス猫耳になりますが?」

「疑問系にしてもダメなの。普通じゃないの」

「オレの中では、これが普通なんだ。許せ、諦めろ」

 いやなのー、止めるのー、と駄々をこねるクウコを他所に、オレはうんうんと頷く。

「よしっ、そろそろ時間だな。クウコ、ロビーへ行くぞっ」

「うー、話は終わってないの」

「仕方無いなぁ。フード付きパーカーもくっつけてやるよ」

「……一枚着る服が多くなっただけで、根本的な解決には至って無いの」

 スク水、猫耳だけは譲れない、譲るつもりは……無いっ!

 クウコの発育具合からして、スク水を着せたら…………おほーっ!

「やはり……譲るつもりは無いっ!」

「譲れなのーっ! 却下なのーっ!」

 ずんずんとマイルームのドアから、クウコの言う事を無視してロビーへと移動する事にした。

 大賑わいのロビー。

 共同戦線は経験値が多いから考える事はみんな一緒か。

 後はフレンド同士で行くか、ランダムパーティで行くかを、ロビーのカウンターで申請してクエストの開始となる。

 オレにはフレンドが居ないので、必然的にランダムパーティ申請になるわけだけど、さくっと申請してスタート地点に移動しておくか。

「クウコ、申請したからスタート地点へ移動するぞ?」

「うん、分かったなの」

 スタート地点となるエリアには、これから始まるパーティと合流出来る。

 顔合わせってとこ。

 移動した先で、一組パーティが待機していた。

 プレイヤーキャラクターの白クマとプリンセスキャラクターの金髪ロング幼女。

「こんにちはーなのー。よろしくお願いするのー」

 第一声はクウコ。

 初対面相手に話し掛けるのはどうも苦手なので、こう言う時、クウコの能天気力には救われる。

「えぇ、こちらこそ宜しくお願い致しますわ」

 クウコと背丈がほぼ同じ、長い髪の金髪幼女がクウコとオレに向け丁寧にお辞儀をする。

 服は紺色ジャージなのに、佇まいに神々しさすら感じるぞ……。

 それなのに印象と服のギャップが凄い、と言うよりも酷いな。

「えっと、カレンです。よろしくお願いします」

「私の名はカリン。こちらこそ」

 名前が一字違い。

 向こうは本名では無い、とは思うけど奇遇だ。

 握手を求められたので、クマ同士で握手を行う。

 ううーむ……こっちもオーラがあるな……。

 見た目はクマだけど、背筋が伸び規律を重んじるいかにもナイトってオーラが。

「同じクマなのに、カレンはどこかくたびれた感じがするの」

「何処がっ?! 今日だってクマ毛はフワッフワじゃんっ?!」

「クマ毛って言うけど、そもそもフェルト生地程度なの」

 まぁ、そうなんだけどさ……。

「オレだってビシッと起立すれば、シャキックマになるって」

「それならやってみるの」

 少し背伸びする感覚で腰に腕を置き立ってみる。

「姿勢が良くなっただけで、くたびれ感は否めないの。それよりも眉間に皺が寄ってて顔が面白いの。そこだけはシャキーンなの」

 くそぅ……これはもう中の人の差ってヤツか……。

 きっと相手のクマの中身は出来る男なんだろうな。

 学生で言えば生徒会に所属、社会人で言えば役職付き。

 どうせオレはどこにでもいるただの高校生だし、気にしない事にしよ。

「ところであなた、クウコさんだったかしら? その服、動き難くありませんこと?」

「その通りなの。でも、この制服しか持っていないの。あと、デフォルト服……あれは、嫌なの」

「戦闘する時は動きやすい方がよくってよ? 何なら私の色違いをプレゼント致しましょうか?」

「も、貰えるの?!」

「ええ、いくつかありますから」

 マジか?

 コスチュームだってガチャチケットか課金しないとゲット出来ないんだぞ?

「えっと、カリンさん。いいんですか?」

「遠慮等する必要は無い、快諾してくれたまえ」

「やったー、なのっ」

「すいません、ありがとうございます」

 これはもう人としての器が違うわ、うん。

 そしてそんな人が守るプリンセスもまた、見合うだけの人格者って事なのかな。

 話し方が多少独特だけど、嫌な感じは全く受けない。

「ダラックマー。お着替えして来るから少し待ってて欲しいの」

「こらーっ、誰がダラックマだってーっ?!」

 オレの絶叫を途中まで聞いて、クウコの姿が消えた。

 マイルームへ移動したんだろう。

 まったく、面倒だからここで着替えればいいものを。

 どうせ謎の光さんが、きっちりお仕事するんだからさ。

「はぁ……うちのプリンセスと来たら……」

「仲が良いな、君達は」

「そう、ですか? カリンさんと……えっと…………」

 あれ?

 金髪幼女のプリンセスは自己紹介してない、よな?

「セリカと申しまわすわ」

「ありがと。カリンさんとセリカちゃんだって、悪いわけでは無いですよね?」

 二人は顔を見合わせてから。

「さぁ、どうかしら? カリンは生真面目過ぎて、たまに分かり辛い事もありますから」

「仕方無いだろ? 性分なのだから」

 はいはい、と答えるセリカちゃん。

 なんだかんだ言っているけれど、これはきっと、お互いの事をすでにそこそこ知った仲だろうな。

 二人のやり取りだけでそう感じ取る事が出来る。

 良きパートナー、なんだろう。

 それに引き換え。

「戻ったなのー。ダラックマ、どお似合っているの?」

 この能天気幼女と来たら。

「うーん、普通、だな。普通過ぎて普通だわ」

「意味が分からないのーっ! 同じ服着ているのだから、えぇっと……お名前は?」

「セリカですわ」

「セリカだってジャージなのっ! そしたらセリカだって普通って事なのっ?」

「いや、違うな。セリカちゃんのジャージは高価に見える。着ている人物の差ってヤツ」

「むむーっ! カレンはもっと女の子に対するデリカシーを持った方がいいの。だから現実に女の子の友達が出来ないの」

「な、お前、言ってはならん事をっ! いいか、オレは三次元の人間には興味が無いんだよっ! だからいなくてもいいのっ!」

「寂しいの、侘しいの、可愛そうなの。仕方無いから、クウコがいつでも仮の彼女になってあげるの。お姉さんだから寛大な心で対応してあげるの」

 言わせておけばこの幼女は……。

「食らえーっ! ダラックマチョーップ!」

「甘いのっ!」

「くっ、やるじゃないか」

「ふふん、これくらい朝ご飯前なの」

 クマチョップを白刃取りするクウコ。

 いったいオレ達は何をしに来ているのだろう、と一瞬目的すら忘れそうになる所へ、三組目のパーティが到着した。

「カナエっ、テメェがぐずぐずするせいで余り者のパーティに入る羽目になったじゃねぇかっ! このクズがっ!」

「……ご、ごめんなさい」

 うわ、酷いのが入って来た……。

 本気で怒りをぶつけてる。

「おいおい、マジかよ……。そっちの奴等なんてレア1とか……冗談にも程が…………って? なんだ? プリンセスの方は見た事があるな?」

「ライさん。そちらの方は、ゲーム開始時の簡易チュートリアルに出て来る方では無いでしょうか……」

「あぁん? あぁ、そう言われるとそうかもしれんなぁ。レア1なんて興味無ぇから、顔まで覚えちゃいないけど、それにしたって、お前、バカか? いくらでも選択可能だってのに、レア1選ぶって。はっ、冗談キツイぜ」

 カチンと来た。

 横に立っているクウコには、ついさっきまでの元気は失せ、俯き地面をジッと見ている。

「パーティが気に入らないのであれば、出て行けば良いだろう? 強制では無いのだから」

 オレが一言言う前に、カリンさんが割って入る。

「それが出来れば今直ぐにでもしてるっての。テメェらが最後のパーティなんだよ。ちっ……ついてねぇぜ……。まぁいいや、足だけは引っ張るんじゃねぇぞ、と言っても、レア1が居たんじゃランキングの上位報酬は期待出来ねぇけど」

 コイツ、言わせておけば、いい気になりやがって……。

「カレンさん。君はどうする? 抜けるかい?」

「おい、バカ言うんじゃねぇぞ。いねぇよりはマシ程度だろうが、少しは役に立つだろうよ」

 気分は最悪だけど、経験値と報酬を少しでも貰って置く必要がオレとクウコには有る。

 悔しいが、レア1のオレ達は少しでも稼げるときに稼ぐ必要があるのだから。

「……このまま開始するよ」

「そうか、ならば私もこのまま参加しよう。私がスタートの合図を切るが、異論は無いね?」

「勝手にしろ」

「……お願いします」

 カリンさんは今の所一番中立の立場で、私情を挟んだ考えをする必要が無いのだから。

 相手だってオレに仕切られるのは嫌だろうし、オレだって向こうから指図されるのは気分が悪い。

 だからこそ、当然の結果だ。

「……カレンさん。本当にいいのかい? クウコさんの事を考えても良いのでは?」

 そのクウコは黙ったまま、ジッとして動かない。

「おい、抜けるなんて言うじゃねぇぞっ!」

「君は少し黙っていたらどうなんだ? 彼女を説得出来るのは他でもない、カレンさんしかいないのだから」

「ちっ!」

 ライになんと言われても抜ける選択肢を取る事も出来る。

 でも、ここで抜けたとしても、その後できっとクウコは後悔して、余計自分を責めるだろう。

「少し、ルームへ戻っても? 大丈夫、絶対戻るから」

「分かった。君も異論は無いだろう? 彼は戻ると言っているのだから。それでも納得出来ないのであれば、私と二組のパーティで攻略しても構わない」

「…………分かったよ。くそ、面倒くせぇ」

「ありがとう」

 二人に頭を下げてから、クウコを連れてマイルームへ一度帰る。

「クウコ、気にするな……と言っても気にするんだろうけど、他の奴等が何を言っても絶対このゲームをクリアするまでオレは退会しない、そう前にも言っただろ? レアリティなんて関係無いんだよ……いや、むしろレア1でいいんだって。弱キャラ使って攻略するのがゲームの醍醐味ってヤツなんだから」

「……弱キャラって言ったの。クウコの事、弱キャラって言うななのっ」

「いや、でも本当の話だし」

「カレンはデリカシー無さ過ぎなのっ」

「仕方無いだろ。現実に女友達いないんだから、デリカシーなんて育てる場が無いんだって」

「ゲームばっかりしているからなの……」

「好きでやってる事だ、ほっとけ。それで、共同戦線は行けるな?」

「……うん、行くの」

「おっし。いつか……でも絶対に、最高レア4を超えるレア1にしてやるから、それまでは辛い事もあるだろうけど負けるな。その時が来たらさ、配信して『ざまぁみろっ』ってドヤってやろうぜ」

「カレンは性格が悪いの……」

「そのつもりですが、知らなかったのか?」

「ううん、知ってるの」

 運営の奴等にもリセマラしてレア度の高いキャラを選択した奴等にも、クウコをバカにする奴等にも、いつか必ず認めさせてやる。

 レアリティーなんて関係無いってところを。

「んじゃぁ、最弱パーティ出撃するかっ」

「最弱は余計なのーっ!」

「事実だろ? まぁでも、クウコは他のプリンセスよりも可愛さなら最高だからな」

「か、かわっ……」

「ジャージも充分似合ってるよ」

「は、恥ずかしいから止めろ、なの……」

 うん、大丈夫そうだな。

 これならいつも通りバトル出来そうだ。

「よぉっしっ! レア1の底力ってヤツを見せ付けてやろうぜ」

「うん、なのっ」

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