サイソクヲカケテ
マイルームの部屋の外、ベランダと言うかバルコニーと言うか、外の背景を色々変化させる事が可能となっていて、今は気分的に朝焼けに変更している。
「どうして部屋の外に?」
「クウコがシャワーしてる最中は部屋から出て行けーって言うからさ」
いつものようにオレは部屋の外で追い出され、その間にセリカちゃんが合流して今に至る。
「セリカちゃんはカリンさんを追い出したりしないわけ?」
「そんな事考えた事もありませんわ」
「……そうっすか」
なんだろな、これ。
やっぱり中の人の差って事なんだろうか?
「セリカちゃん、それは普段着?」
「ええ、もちろん普段着ですわ」
ジャージしか持ってないのかと思っていたのだけれど、意外な事に、セリカちゃんの様相はゴスロリ。
それをさも当たり前のように、クールな表情で着こなしている辺りがとてもイイ。
イイねボタンがあったら、クリック連打不可避だ。
金髪とゴスロリかぁ……尊さマックス。
「それで、クウコさんはなぜ一人で共同戦線に出るような無茶な事を?」
「あぁ、あれはさ……オレの憶測も入るけど……」
事の成り行きを簡単にセリカちゃんへと伝えた。
クウコはカナエちゃんの為に、少しでも早く強くなろうとしていたんだろう。
焦る必要は無いのに、居ても立っても居られなかった。
だから手っ取り早く経験値を沢山貰う為、共同戦線へと単独で出撃。
「そうですか……そんな事が……。あの子、居なくなってしまったのですね」
「だからクウコもオレも、あの時のカナエちゃんを忘れないようにって思ってね。セリカちゃんには助けられたし、迷惑も掛けちゃったけど、クウコの事も理解して上げて貰えると嬉しいよ」
「そうですわね。心得ましたわ」
「ありがとう」
そうこうしている内にクウコの準備が整ったようで、部屋の中からカーテンを開けて声を掛けられる。
「ボロックマー、準備完了なのー。あ、セリカもいるの」
「お邪魔していますわ」
「クマ専用洗浄機で復活しとるわっ! お前には絶対にもふらせてやらないからなっ」
「中身がカレンだから、もふらなくてもいいの」
この扱いよ……。
まぁ、いいだろう。
今日こそは自身が幼女だって事を思い知らせてやるからな。
今はせいぜい余裕見せておくが良い。
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「第七万二千三百六十五回、スライム情報局、始まるよー、なのっ」
「セリカちゃん、回数は気にしないで……毎回適当だから」
「びっくりしましたわ……」
『金髪ロリ、だと?!』
『しかもゴスロリとか、はぁはぁ』
『ハイエースもう一台っ!』
こいつ等、ほんとぶれないな……。
「今日は特別に三人で配信なの。この子はセリカなの。セリカ、挨拶アイサツ」
「え、ええ。皆さんご機嫌よう。セリカと言いますわ。特別楽しい事は言わないので、ただの飾りだと思って頂ければと」
セリカちゃんの挨拶『ご機嫌よう』に、視聴者が沸きに沸く。
ご機嫌よう症候群に掛かり、大量にリアルタイムコメントとしてご機嫌ようが降り注いで来た。
「今日はセリカもいるから、三人でこれを使って遊んでみようと思うのー」
「ん? なによ、それ……テレビゲームのパッケージみたいだけど。えっと、何々……スーパーマリ……え? マリ……マリコカートぉ?!」
またヤバそうな案件のブツを持って来やがって。
「はい、セリカとカレンのコントローラー。モニターに繋いで、スイッチオンっなの」
『www』
「おい……あまりの酷さに閲覧者が揃って”w”文字を打ち込んで来てるじゃないか……」
「いいからプレイしてみるの」
「あの、私、こう言うのはプレイした事無いのだけれど?」
「みんな初プレイだから大丈夫なの」
こんな怪しいヤツ、誰だってプレイした事無いだろうよ……。
そして表示されたキャラ選択画面の情報量と言ったらもう……ぎっしりとプロフィールなのかキャラ性能なのかが記載されている。
細か過ぎて理解不能になるっての……。
「クウコはこのキャラにするのー」
「……ヨッシャーってなんだよ」
「では、私はこれでいいですわ」
「セリカが選んだのが主人公なのー」
あれがマリコか……。
マリコって言う割には、なんか何処かで見た事あるようなアニメのキャラだよな……特にあの特徴的なトサカっぽい髪形。
『お魚咥えたドラネコを追い掛けていそう』
『じゃんけんが強いヤツ』
『月曜日が来るから見たくない』
コメントを記載している奴らもだいたい同じ意見みたいだ。
「カレンもさっさと選ぶの」
「……じゃあ、オレはこれでいいやって……このヤッツケ感丸出しの名前。なんだよキノコって」
松茸ってあるだろ?
あれに手足をくっ付けただけ。
『モザイク掛けろw』
『もうアレにしか見えんw』
『自主規制しろw』
「アレってなんの事を言っているのです?」
とはセリカちゃん。
「知らなくてもいい事だと思うよ……」
「さぁ、最速を掛けてレッツゴーなのー」
そしてスリーカウントと共に、レースが始まった。
『マリコでございまーす』
『ヨッシャーっ』
『〇〇コ』
「おいーっ、何でオレのキャラの時だけピー音入るんだよっ!」
その姿とピー音のせいで、もう”それ”にしか見えない。
となりのセリカちゃんなんて、心なしか顔を赤くしているし、気付いちゃったんだろう。
可愛そうに。
レースの方は、CPUも含めて横並びといったところ。
スタートダッシュで出遅れたヤツはいない。
そして第一コーナーの手前に箱がいくつかふよふよと浮いているのが見える。
「アイテムなのー」
ふむ、どうやらあいつを取ると有利になるアイテムをゲット出来るってわけだな。
『ヨッシャーっ』
クウコのキャラがアイテムを取るのと同時に、叫び声を上げた。
少し鬱陶しいな。
『マリコでございまーす』
続いてセリカちゃんのキャラも。
オレが想像するキャラと、完全に言い方が一致している件はスルーしておこう。
そしてオレのキャラもアイテムをゲット、したところで大爆発をし、上空高く舞い上がる。
「なんだよこれっ! トラップまであるじゃんっ!」
アイテムボックスは見た目が全部同じだから、完全に運でしかない。
くそーっ、松茸が美味しく焼けてしまったじゃないか。
理不尽にも程がある……でも、まだ始まったばかり。
全然余裕。
アイテムは取れなかったけれど、気を取り直して第一コーナーを華麗にドリフト……。
「誰だよっバナナ置いたのーっ!」
絶妙にコーナー出口へ設置されたバナナに引っかかり、盛大にスピンする松茸。
「くふふふっ! カレン、ナイスバナナなのーっ!」
「クウコっお前かぁぁあっ!」
「引っかかる方が悪いのー」
ちくしょーっ!
やや離されたモノの、まだ大丈夫。
焦らず急げーっ!
「うぎゃーっ! 緑の甲羅……じゃなくて、カップラーメン?! が跳ね返りながらブツかって来たーっ!」
「あら、ごめんなさい」
トラップの主はセリカちゃんだった。
にしても、あのパッケージ……じゃあ、何か?
赤は”お揚げ”のパッケージって事なのか?
混沌とし過ぎだろ、このゲーム。
「待ってろよぉ二人とも。必ずリベンジしてやるからなぁっ」
気を取り直して松茸を操作する。
半周くらい差はあるけれど、勝負はこれから。
アイテム次第で簡単にひっくり返るだろう。
と思ったら。
「このCPU、オレに横から体当たりして来るんだけどっ」
確か名前はヴォーくん、だったっけ?
背中側しか映っていないから、レース中では分からないけれど、ハナミズをタラりと垂らしていたキャラクターだと薄っすら記憶している。
『ヴォッヴォヴォヴォヴォヴォ』
「コイツ鼻歌交じりでオレをコースアウトさせようとするんだけどっ!」
「そんなカレンは放っておいて、どんどん進んでしまうのー」
「カレンさん、頑張ってください」
オレだけさっきから悲惨過ぎる。
くっ、このっ……しつこいなぁっ!
急ブレーキを仕掛けてみる。
すると。
「あ、ヴォーくんがコースアウトして行った……」
『こんな、所に、石が……ヴォ、ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォ、た、助ケヴォヴォヴォ』
「…………。さて、お片付け完了っと……待て待てーい!」
邪魔者がいなくなり、ようやくまともに走る事が可能となったオレは、あれやこれやとまぁ、なんだかんだ色々有りファイナルラップで二人の背中を捉える事へ至る。
一位セリカちゃん。
二位クウコ。
そして少し離されて三位のオレ。
位置は悪く無い。
「なかなか追い付けないのっ」
「この勝負、勝たせて頂きますわ」
「クウコっ、セリカちゃんばかりに気を取られていると足元をすくわれるぜっ」
これが最後のアイテムボックス。
出たのは……赤いカップラーメン(やはりか)。
「ここでクウコには死んで貰うっ! 狙い撃つぜっ!」
「そうは行かないのっ!」
オレの目の前を走っているクウコがバナナをポイっと設置した。
これは……避けきれないっ!
「し、仕方ねぇっ! 赤いヤツでバナナを撃墜っ!」
「くっ、なかなかアジな真似をするのっ!」
「お前にぶつけるつもりだったんだが、こうなったらテクニックで勝負っ!」
「負けるかなのーっ」
『何気に熱い』
『コーナーは残すところ二つ』
『セリカちゃん逃げろっ』
まだだっ!
まだチャンスはあるっ!
クウコを抜かし、オレが……マリコカートの最速になるんだっ!
『最終コーナーは出口が狭い』
『コーナーの出口へ先に入った方が抜け出るぞっ』
『さぁどうするっ!』
『アウトからじゃ追い越せないぜっ?』
『インにいけぇっ!』
ブオオオオオオン!
プシュウウウン!
「なんか……効果音が過剰になってない?」
「そんな事気にしている余裕なんてないのっ! この勝負クウコが勝つのっ!」
イン側に入りたいが、無理かっ!
外から行くしかねぇっ!
『インかっ?!』
『アウトかっ?!』
「行けーオレの松茸ーっ!」
「行かせないのーっ!」
オレとクウコの車がツインドリフトを開始する。
ギャギャギャギャギャ!
『アウトぉ?!』
視聴者のセリフがおかしな事になっているが、オレの方が確実に不利っ!
ダメか、このままオレは負けるのかっ!
『いや待て! ヨッシャーが外へ膨らんで行くぅ?!』
『スピードが乗り過ぎてタイヤのグリップが足りてねぇんだっ!』
「今だっ!」
『捻じ込んだーっ!』
スピードが落ちたヨッシャーにはもう追い付くだけの距離は、無いっ!
「まさか、まさかクウコのヨッシャーが……負けるなんて……有りえないの」
「悪いな。後は……セリカちゃんのみっ!」
最終コーナーまで距離はある。
このストレートで追い付けば。
『超ヘアピンカーブの最終コーナー』
『スピードの加減が勝敗を決めるぞ』
仲良しな二人が勝手に解説をしてくれている。
しかも言い方が通な人っぽいし。
「追い付いたーっ!」
「やりますわね。でも、そんな速度で進入したら、コースアウトが目に見えていますわっ!」
セリカちゃんのマリコが速度を落とした。
でも、オレは速度を落とさない。
ノーブレーキで超ヘアピンへ突っ込んで行く。
『ダメだ、その速度じゃ』
『バカなっ! 崖へ落ちる気かっ!』
「ここだぁっ!」
インに車体を向け……。
『なにぃっ! イン側の砂地に』
『片輪を入れて減速を掛けただとぉっ?!』
ドギャギャギャギャギャ!
「まさかそのような手を使うだなんて!」
「これがオレの……秘技っ! すっ、砂落としっ!」
めちゃくちゃ微妙な名前にしちゃったけれど、まさかここまで上手く行くとは思っていなかったけど、結果オーライ。
「まだ、諦めませんわっ! えいっ!」
「セリカちゃんが緑を温存しているのは承知の上っ!」
少しだけでも軸をずらせばっ避けられるっ!
『か、かわしたぁっ!』
『慣性ドリフトだとぉっ?!』
と言ってはいるが、別にそんな大層なテクニックなんて使っていないし、そのようなドリフトになっているとは思えない。
視聴者は最早勢いだけで騒いでいると言っていいだろう。
「……ここまで、ですわね」
「いよぉっしゃーっ!」
チェッカーフラッグはもうすぐそこだっ!
曲がり切ってしまえばオレの、勝……ち?
『ヴォッ!』
『あ……ヴォーくん』
『出口で体当たり食らって』
『松茸が落ちた』
なんとオレは最終コーナーを曲がりきる直前で、横から飛び出してきたヴォーくんに体当たりを受け、コースアウトしてしまった。
「おのれ……おのれヴォー!」
「可愛そうですけれど、これも勝負ですわね」
「カレン、バイバイなのー」
「…………」
言葉も無い。
CPUがわざわざ周回遅れをしてまで、オレを蹴落とす行動に出るとは誰が予想出来ようか。
最終的な順位は以下。
一位、セリカちゃん。
二位、クウコ。
三位、ワリコって言うCPU。
そして間を空けて。
七位、オレ。
八位、ヴォーくん。
「あのヤロウ……なんで、その後から来たセリカちゃんやクウコには何もしないんだよ……」
「クウコとセリカはお姉さんだからなのー」
「…………納得出来ねぇ~」
お姉さんだからと言う理由に突っ込む気力すら起こらない。
『マリコでございまーすっ! マリコでございまーすっ! マリコでございまーすっ!』
一位のマリコが喜びの声を上げている。
「マリコ、喜び過ぎだろ……」
『マリコでございまーすっ! マリコでございまーすっ! マリコでございまっんがんぐっ!!』
『おいっw』
『過去バージョンw』
『時代を感じるから止めろw』
オレはすでに”ジャンケン”しか知らない世代だが、一応知ってはいる。
何かの動画サイトで見たから。
そんな事よりも、だ。
「…………なんなんだよヴォーのヤツ。オレばっかりに粘着しやがって」
「まぁまぁそう気を落とすななのー」
「とても熱くなる、良い勝負でしたわ」
ちくしょう。
こう言うの勝ってこそだろ?
どんなに良い勝負したと言っても、やはり勝って終わりたいじゃないか……。
「気分もいいので今日はここで終わるのー」
オレの気分なんてお構い無しにエンディングが進行されて行く。
「えっ、ちょっと?! 君たちいつの間にデュエットで歌ったんよっ?!」
クウコとセリカちゃんがクールなサウンドに乗せて、振り付け有りの中歌っている。
「前にこっそり撮ったのー」
「どうしても、と言うので参加させて頂きましたわ」
マジか……クウコだけじゃなく、セリカちゃんまで……。
『めっちゃウマいし』
『円盤はよっ』
『ぜひライブをっ』
「やっぱり君達は居るべき世界が違うとオレは思うよ、うん」
多少、二人の歌に感動を覚えながら、今回の配信が終わった後、オレは大事な事を忘れていた事に気付いた。
それはクウコをお姉さんじゃないと知らしめる行為。
それもこれも……。
「やっぱりっぜーんぶっ! ヴォーのせいだあぁぁぁぁああっ!」




