ヒトトキ
「Bパート行ってみよう、なのっ」
「……イキナリ過ぎて付いていけないんだが?」
Bパート?
アニメ化でもされてんの?
「それでも付いてくるの。第百二十八回、スライム情報局生配信、始まるよー、なのっ」
「今まで数回配信を行っていたけど、そんなタイトル無かったじゃん……」
「タイトルコールは重要だと思ったから、付けてみたの」
「百二十八回は嘘っぱちだろうけど……理解は出来た」
突拍子、無さ過ぎだって。
事前に少しは伝えておいて欲しい。
「まずはスライム予報から。この辺りに注目なの。今日、三回行ったクエストでのスライム予報なの」
この辺りと指を差した所にテロップが流れ始めた。
さすがゲームの世界、突然のテロップ表示も容易く対応してしまう。
「何々……1回目、まぁまぁスライムなの。2回目、おおむねスライムなの。3回目、大群スライムなの………分かり辛っ!」
「問題無いの、ちゃんと通じるの。番組放送中は常に予報を流しておくから、気にしておくといいの」
そもそもこの情報要らないだろ?
だってオレ達が相手にするモンスターはスライムの大群しかいないんだから。
「それじゃあ、次。リスナーからお便りが届いているの」
「いつの間に募集しちゃってたのよ……」
「ペンネーム。Xファイルを作成してもすぐに隠滅されて困っているさんからなの」
「……本人なの、か?」
この件、理解出来るリスナーはどれ程いるんだろう?
ペンネーム付けるにしても、ローカル過ぎない?
「クウコさん、カレンさん、初めてお便り致します。最近、僕は非常に困っているのです。ふむふむ。それは朝飲むコーヒーはブレンディにすべきかUCCにすべきか、悩んでいるうちにお昼になってしまいます。どうしたら朝の平穏なひとときに美味しいコーヒーを飲む事が出来るでしょうか。なるほどなのー」
「スライム関係無いじゃん?!」
「死活問題なの」
「そこまで重要じゃないでしょうよっ!」
「うーん、これはまた難しい質問なの。うーん、ううーんん」
「ちょっと、もしもし? クウコさん? おーい、クウコさーんっ!」
呼んでも返事が返って来ない。
目を閉じて相変わらず唸っている。
生配信中の額に”お肉的な一文字”でも書いてやろうか?
「んはっ! 考え込んでいたのっ」
「あ、返って来た。それで、何か名案は見付かったわけ?」
「おほん、なの。Xファイルを作成してもすぐに隠滅されて困っているさん、クウコからのアドバイスが決まったの」
「来るか、ベストアンサーが」
「ネスカフェを飲むっ! これなのっ!」
「第三の選択、だと?!」
「どっちかに絞れないなら、いっそうの事別の選択肢を取り、そして選択出来なかったコーヒーについては知ったかぶりながら『朝はネスカフェに限る、うーん、マイルディ』と言って、朝のコーヒーを飲む。これなの」
「…………」
インスタントだろ?
正直、どれでも良い気がするんだが?
「さぁ、ほら、ここでカレンの出番なの。コーヒー入れるから実践なの。マイルドさを出す為にミルクポーションを一つ入れるのがポイントなの。ささ、ごきゅっとした後にマイルディって言うのを忘れずに言うの」
その言葉、いるの?
でも、ぎゃーぎゃー言いそうだし面倒だから言っておこう。
「それじゃあ……んぐ……マイルディってあっっっちぃぃいいいいいっ! マイルドさ感じられんわっ! 熱湯過ぎる! 適温、コーヒーは適温で出すんだってっ! 地獄の釜も驚く熱さだわっ!」
あまりの熱さに飲み込んだけど、それがさらに食道を熱したせいでどうにかなりそうだった。
ゲームのクマなのにこう言う感触機能、要らんだろ……。
「まったくこれだからお子様は、なの」
「…………人の事言えないと思うのですが?」
「見た目だけなの。クウコは立派な大人の女なの。フェロモンバッチリなお姉さんなの」
その身長でお姉さんぶる暴挙に出るクウコ。
ちっさいくせに胸ばかり大きくなりやがって、バランスってものを考えてキャラ設定しろ、と言いたいくらいだ。
「クウコがやってみるから、コーヒーカップをよこすの」
持っていたカップを手渡した後、クウコはしばらくカップと睨めっこを始めた。
両手で持つ仕草がそれこそお子様なんだが、その姿のせいで砂糖入れてなくても飲めるのか心配になって来る。
苦いと言って暴れそうだ。
「ふー、ふー」
おい、熱を冷まし始めたぞ?
反則だろ、それ。
恐る恐るカップに口を付けて、ゆっくり、本当に動いているのか分からない程ゆっくりと時間を掛けながら、ようやくクウコはコーヒーを一口飲み込んだ。
「ごきゅん……マイルぅあっちぇぇぇええええ、なのぉっ!」
律儀に決め台詞を言う姿勢は褒めてやりたくもあるが、我慢は出来なかったようだ。
「誰なのっ、こんな殺人コーヒーを入れたのはっ!」
「お前だ」
「熱いし、苦いし、熱いしっ飲めるわけないのっ!」
熱いを2回言うくらい熱い殺人コーヒーを、他者に勧めるとは何とも恐ろしい子だぜ。
熱がっているクウコを放って置いて、変わりにオレがアンサーを出す事にする。
「えーっと、Xファイルを作成しても……なんだっけ? ペンネームが長いんだよなぁ……モ○ダーさんっ! コーヒーは適温で日毎に変えながら飲みましょうっ! 以上」
「うわ、当たり障りの無い詰まらない回答になってしまったの」
「当たり障りの無い回答こそ最強。今日の配信はこれで終わり? もうOK?」
悩み相談なんだから面白おかしく言う必要は無い。
「もう一つあるの。リアルタイムコメントへのアンサーコーナー、なの」
「リアルタイムコメントってこれの事か?」
ユーザーが配信中に書いているポリゴンコメント文字が、空から降り注いで来ている。
オレには全く理解出来ない仕組みの技術。
それとも案外仕組みさえ調べてしまえば簡単な技術なんだろうか?
まぁこの辺は然るべき人達の領域だし、おまかせしちゃえばいいわけって事で。
「うーん、それじゃあ……これにするの。えっと『とても仲が良くて、見ていて楽しいです』と言うコメントを貰っているの」
「ん?」
そう、見えるのか?
ほとんど他のプレイヤーと交流無いから、正直なところ分からない。
「でも、最初からクウコとはこんな感じだったよな?」
「そんな事無いの。最初の頃よりも大人の女に成長したのっ」
自信満々に、さも当然成長したように胸を張るクウコ。
まだそれを言うか。
仲の良さとは全く関係無いし。
「で…………どこが?」
「カレンの目は節穴なの。こんなに大人の色気が溢れているの」
「…………」
正直、これっぽっちも溢れていない。
色気とはこれからも含めて縁の無い女子にしか見えないのだが。
「まだまだこれからもっと成長して、お姉さんパワー炸裂させちゃうのっ」
「…………」
「どやぁ、なのっ」
お姉さんパワー、炸裂するのはずっとずっと先になるだろう。
いや、炸裂しないかもしれない。
「そうだな、夢や希望は諦めなければ叶うって言うしな。頑張れ」
「まかせておけなの」
生暖かい目でクウコにエールを送るが、クマ状態のオレから向けられる視線は読み取れないと見え、クウコは親指を立て自信を見せた。
「ともあれ、話を少し戻すけど、他のプレイヤーもおんなじように仲は悪くないんじゃないか?」
「ん~? クウコにはよく分からないの」
だよなぁ、交流なんて無いし。
『僕のプリセンスキャラは、はいかいいえかでした受け答えしない』
『オレも同じ』
『私のプリセンスは、多少会話っぽい事はしているけど、スマートフォンの音声認識程度って感じ』
「ふーん、全然違うんだな。”人間らしさ”の成長率もあるような感じだね」
コミュニケーションを繰り返して行く内に、成長をして行くのかも。
確かゲーム開始時のチュートリアルで、AIは学習をするって言っていたし。
「そしたらもっとコミュニケーションを取れば、その子供っぽい話し方も変わるかな?」
「む? 子供じゃないの、立派なお姉さんなのっ」
まだ言うか。
お姉さんは語尾に”なの”なんて付けないんだぞ?
「包容力も抜群なの」
「……」
じっと見やる。
むしろ危なっかしくて、気遣って上げないといけない感じになり、こっちの包容力が増す気がするのはたぶん気のせいでは無い。
「よし、アンケートを取ろう。クウコはお姉さんか幼女か。二者択一だ」
「当然お姉さん票がっぽりなの」
おお、凄い。
勝手に二つのボタンが設置された。
さてさて、気になる……いや、すでに結果は分かりきっているんだけど……。
「……嘘なの。何かの間違えなの」
「現実をみるんだ。どっちが0パーセントって表示されているか」
お姉さん、0パーセント。
幼女、100パーセント。
「おかしいのっ! だってクウコ、おっぱい大きいのっ! 巨乳さんなのっ爆乳さんなのぉっ!」
「そこじゃないんだよ、クウコ。お前はランドセルを背負っても似合う背丈なんだ」
「何故なのっ! おっぱいはお姉さんの証じゃないのっ!」
「残念だが……うわっ、ちょっ! 頭を掴むなっ!」
「その節穴お目めでよーく見るのっ! メロンは超えているのっ!」
ガッシと両手で顔を掴み、自分の胸にオレの視線を強引に向ける。
『クマがやられてるぞっ』
『草生えるwww』
『おっぱいおっぱい』
自由なやつ等のコメント文字が振りそそぐ。
もう滅茶苦茶だ。
「お、終わりっ! 今日の配信はこれにて終了っ! エンディングっ、エンディングをーっ!」
ポップチューンな音楽が流れ始めた。
まさかエンディングまで用意しているとは、この幼女、恐るべしっ!
「カレン、今、クウコの事幼女って思ったのっ!」
「思ってないっ!」
「幼女恐るべしって言ったのぉっ!」
「声に出してないだろっ!」
前奏からまさかの。
「歌付きっ?! って、これ歌ってんのクウコじゃんっ!」
「バッチリ歌って録音したのっ! CDだって発売する予定なのーっ!」
思いの外上手な歌とテロップが流れているバックで、オレとクウコは絡み合う。
どれ程シュールな光景になっている事だろう。
そして後ほど、冷静さを戻したオレ達は、後でなんて恥を晒してしまったのだろうか、と挫折を味わう事となったのは言うまでも無い。




