センリョクブソク
急いでログインすると、マイルームにセリカちゃんが居た。
「お待ちしておりましたわ。部屋のロックが掛かっていなかったので、勝手に入室させて頂きました」
「あ、あぁ。それは構わないよ。それと連絡ありがとう、助かった。とりあえずこれからクウコの所へ行ってくるから」
共同戦線のクエストは後追いが可能となっている。
さっさと入ってリタイアしなければ。
「お待ちになってください。急ぐのは分かりますが、クウコさんがクエストに行かれて十分以上が経過しています。仮にもし、シャドウレイヤーがいた場合どう対処するのでしょうか?」
「……」
仕様上、シャドウレイヤーが介入した場合、クエストのリタイアが許されず、共同戦線のボスを撃破する他無事にクエストを終了する事が出来ない。
共同戦線のボスに倒される手もあるにはあるけど、そんな不確かなやり方が都合良く行くわけが無い。
共同戦線のボスかシャドウレイヤーか、どちらか一体ならまだしも……さすがに未完のスキルに頼ったところで二体は正直厳しいだろう。
「どちらか一体なら何とかなるんだけど……運悪く二体となったら、さすがに……」
「光明は有る、と言う事ですのね。それなら待っていたかいがありましたわ」
「……?」
「私も一緒に参加致しますから」
「え? えっと、それは……助かるんだけど、でも、下手をすれば……」
「全員シャドウレイヤーにやられて、あちら側に行ってしまいかねない、と言う事ですわね」
どうやらすでに利用規約を把握しているのだろう。
でも、それを知っているのに何故わざわざ。
「このまま引き下がったら私の気持ちが収まりません。カリン、あの子にも何て言われるやら」
「そのカリンさんが共同戦線は極力避けるって言ってたじゃないか」
「誰かが困っているのを見過ごせとでも? そんな事、私には到底出来ませんわ」
「やだ、カッコいい……」
「茶化さないでください」
「ごめんなさい」
怒られてしまいました。
いや、マジだったんだけどね。
「自分の中の正義。それに従うまでです。例え他者から見たら悪行になろうとも、私自身が正義だと感じた事であれば遂行します。それが私の生き様ですわ」
「惚れていい?」
「カ、レ、ン、さん?」
「すいません、茶化しません……もうしません」
ジト目がグサグサと刺さって来るが、ご褒美である事は黙っておこう。
「この勝負、負けは許されません。先ほど、一体なら何とかなると言っておりましたけれど、策が有る、と言う事でしょうか?」
「あぁ、大丈夫。二体相手にする事になったら、オレがシャドウレイヤーをどうにかするから、セリカちゃんはクウコと共同戦線のボス撃破を目指して欲しい」
手伝って貰うのだから、オレがリスクを被るのは当然の事だ。
巻き込んだ事には変わりは無い。
だからこそ、セリカちゃんは無事に帰す必要が有る。
未完のスキルでまた別の部分を失う事になっても。
「正直まだ半信半疑ですが……信じてみますわ」
「ありがとう。セリカちゃんって、結構貧乏くじ引くタイプ?」
「……自覚はしていますわ。でも、性分なので諦めております」
この子もまた良い子って事か。
何が何でもオレが頑張らないとならない。
もう顔見知りのプリンセスキャラクターが悲しむのは見たく無いから。
「セリカちゃん、それじゃあよろしく頼むよ」
「ええ。手をお貸しするからには精一杯頑張ります」
そしてクウコの入っている共同戦線へと途中合流をする。
クウコの居場所を視認した瞬間、オレは意識する事無く未完のスキルを発動し、突進を掛けた。
クウコを狙うソイツ……シャドウレイヤーの横っ面に思いっきり魔力を込めてぶん殴る。
完全に隙を突かれたシャドウレイヤーは、エリア内を百メートル程盛大に吹っ飛んで行った。
「クウコっ!」
「…………」
返事が無い……でも、ヒットポイントは一桁だけど、かろうじて残っている。
「大丈夫かっ?!」
「ん、ん…………カレン……?」
「良かった、ギリギリ回復アイテムが間に合ったな」
大丈夫。
シャドウレイヤーと共同戦線のボス、二体同時になってしまっているけれど、クウコが無事なら、まだ最悪な状況だと決め付けるには早い。
「カレンさん、クウコさん! 休んでいる暇なんてありませんわよっ!」
「あぁ、そうだな。クウコ、お前はセリカちゃんと共同戦線のボスを相手にするんだ」
「……どうして、セリカまでいるの?」
「当たり前ですわ。何かを言いかけて勝手に何でも無いなんて言って、私の返事を待たず行動をしたあなたに一言言わないと気が済まなかったんですわ」
「ごめんなの……」
「クウコ、話は後だっ! セリカちゃんも加勢してくれるって言うんだ、絶対攻略して帰るぞっ!」
「怒らないの……?」
「セリカちゃんは怒って当然だろうけど、オレは怒ったりしないよ。オレはクウコのプリンセスナイトだから、守り切ってみせるさ」
何が何でもこの状況を突破してみせる。
セリカちゃんもクウコも無事に戻す為って事なら、身体の機能くらいくれてやる。
「いいか、クウコ。お前は自分で思っているよりも、もっと動けるはずなんだよ。オレがどうしてスピード値へポイントを振っていたか覚えているか?」
「……攻撃を避ける為なの。あとは、攻撃速度を上げて、回数を稼ぐ為、なの」
「避けるだけでも充分なんだよ。それで敵の攻撃を引き付ければ、引き付けた分、今回はセリカちゃんがより動き易くなる」
「そうですわね。クウコさんは、自分に迫ってくる攻撃を回避する事、その一点に集中してください。攻撃役は私が受け持ちますわ」
「セリカ……迷惑掛けて、ごめんなの」
「その話は後。さぁ、行きますわよ」
それぞえが自分の役目を果たす為、行動を起こし始める。
オレはシャドウレイヤーを。
クウコとセリカちゃんが共同戦線のボスを。
正直なところ、相当キツイ。
共同戦線のボスは三組のパーティ、詰まり六人分を想定して作られている仕様だから、それだけ攻撃力も体力も多く設定されている。
それをたったの二人で相手にして、体力を削り切らなければならないのだから無茶で無謀な事くらい分かっているけれど、成し遂げなければオレ達は最悪、全員がシャドウレイヤーになってしまう可能性が、有る。
想定される戦力の半分以下だとしても、まずオレが絶対にコイツを食い止めなければ話にならなって事だ。
盛大に吹っ飛ばされたシャドウレイヤーが、むくりと起き上がり、オレと対峙する形となった。
「お前がチートを使ってそうなったのか、それとも他のシャドウレイヤーにやられた事によってそっち側になったのかは分からない」
元々健全なプレイヤーだった可能性だって十分考えられる。
そう思うと、凄くやり辛い。
「でも、クウコやオレの知り合いを痛めつけるって言うなら……倒させて貰うっ!」
「グウオオオオオオッ!」
ライの時と同じ。
話が通じているのかいないのか見当も付かないけれど、敵視されている事は感じ取れる。
出し惜しみは出来ない。
最初っから未完のスキルで相手にしなければ、オレは簡単にやられてしまう。
「全開で行くぞぉっ!」
・
・
・
「さぁ、クウコさん。私達も負けていられませんわ」
「……う、ん」
明らかに自信の無さが表れている。
この子はどうして自分のした事を理解出来ないのかしらね。
たった一人でここまで辿り着いている事は、褒められた事だと言うのに。
それもやはり、自分自身がレアリティ1だから、と言う事に起因する事なのでしょう。
「クウコさん。一人で共同戦線に出るのは褒められた事ではありません。ですが、たった一人でボスを引き摺りだしたのでしょう? それは自信を持って良い事だと私は思いますわ」
「……でも、回復アイテムを使い切って、ここが限界だったの」
「それで良いのですわ。レアリティの事を言われるのは辛いでしょうけれど、レア1のあなたが一人でここまで辿り着いたのです。少しは自分を誇りなさい」
カレンさん抜きで、レアリティ1の彼女がここまで来れたのであれば充分だ。
後は、このクエストを成功させてしまえば良いだけの事。
何も問題は無い。
「クウコさんは避ける事に全力を注ぎなさい。攻撃面は私が受け持ちます。いいこと? 一つ攻撃を避けてくれるだけで、私の攻撃チャンスが多くなる。そうすればそれだけこのクエストを早く終わらせられますわ」
「わ、分かったの。頑張るの」
「それじゃあ、行きますわよっ」
状況は圧倒的にカレンさんの方がキツイ。
あのシャドウレイヤーと言うのは、ステータスが完全に壊れている。
一秒でも短く決着を付けなければ……となると。
「スキル発動、ウィングブラスター!」
私の意志で自由に操作可能な四つの攻撃機。
これで単純に攻撃回数が四回プラスされる事になる。
そして、自分自身。
魔力を剣状にイメージする事で、疑似的な武器を作り上げ短いリーチを底上げする。
「一気に潰れて頂きますわっ!」
・
・
・
オレの視界に入る、ずっと先。
セリカちゃん無双が始まっていた。
ボススライムに攻撃へ転じさせない程の激しい攻撃。
シューティングゲームに付き物の”オプション”とでも言えば分かり易い。
展開されている四機のオプションが攻撃に防御と、臨機応変に動作している。
カナエちゃんの魔法障壁に負けず劣らず、さすが最高レア。
これならきっと……。
「ウオオオオオオ!」
「くっそ……この、馬鹿力め……っ」
そして何故かオレはシャドウレイヤーとロックアップして力比べをしていた。
「この……お前っ、こっちは指が無いんだぞ?! オレの手、ほとんど握り潰れてるじゃんっ!」
クマアバターの手が可愛そうな有様になっていた。
「中の綿がダメになったらどうしてくれるんだよっ! いってー、いてててててっ! 中身出ちゃうっ! 出ちゃうからっ!」
身長差も有り、どう考えても相手の方が有利な展開。
今度マナに会ったら、クマアバターが不利過ぎるって文句言っておこう。
その為にも。
「負けられねぇぇぇええっ! 絶っ対、負けねぇからなぁっ!!」
直後の事。
「……オ前モ、道連レニ……シテヤルッ」
「コイツ……自我の有るヤツかっ?!」
利用規約に記載がされていた。
シャドウレイヤーになった者は、一定時間経過後に自分の意志を抱くようになる、と。
「ドウセ元ニハ戻レナイ……ソレナラ、平気ナヤツ等全員、同ジニシテヤルヨッ!」
「やられたらやり返すって……そんな事を繰り返していたらっ……いつまでたっても、この状況が終わらない事くらい理解出来るだろうがっ!」
コイツの言ってる事は分からなくも無い。
オレだって同じ立場なら”どうして自分が”と思うだろう。
だからって、その思いを繰り返して他人を巻き込んでしまったら、負の連鎖は断ち切れない。
理解出来なくたって、納得しなければいけないんだ。
「オ前ダッテ同ジ目ニ遭エバ……他人ヲ襲ウニ決マッテイルッ!」
「くっ……勝手に、決め付けているんじゃねーよっ!」
力の均衡をわざと緩めて、相手の体勢を大きく崩し後ろへ投げ飛ばした。
「お前はそれでいいのかよ? 他人を犠牲にして、それでお前自身は後ろめたく無いのか?」
「ウ、グ…………僕ハ……」
「手段を選ばず勝てば官軍って言うなら、話は別だ。でもこの場の相手がオレじゃなく、知り合いだったらどうする? 同じ目に遭えば良いって、そう思うのか?」
オレは期待していた。
同じ目に遭えば良いと言葉にしてはいるけれど、本心はそんな事無く、他人を犠牲にするような事をしたくは無いのだと。
そして、言葉を待った。
それ程長い間では無いけれど、直ぐに答えを出せないと言うのであれば、まだ説得する事の期待をしても良い。
「本当ハ、他人ヲ道ズレニスル事ナンテ……ドウダッテイインダ。オ前ハ分カルカ? 圧倒的ナチカラヲ手ニイレテ、一方的ニ相手ヲ嬲ル事ノ快感ガっ! 最高ダヨ! モウダメダッテ諦メタ時ノアノ表情っ! クフッ、クフフフッ! アハッアハハハハハッ!」
「……それがお前の本心って事かよ」
「オ前ダッテコッチ側ニナレバ理解デキル! 特ニプリンセスキャラが苦シム姿ハ……クセニナルッテナァッ!」
説得なんて期待したオレが馬鹿だったって事か。
「コンナニ気持チガ昂ル世界ガアッタナンテ……。アハァ……ハァ、ククク! アノ青髪ノプリンセスキャラハ凄ク良カッタ……ソレナノニ、オ前ガ……オ前ナンカニ……僕ノ、邪魔ヲスルナァァァァァァアアッ!」
「行かせるかよっ!」
クウコへ向かおうと走り出したシャドウレイヤーへ、クローを射出し食い止める。
コイツは絶対に、オレが食い止める。
クウコやセリカちゃんには手を出せてたまるか。
「ウザイッウザイウザイウザイッ!」
「お前の相手はオレがしてやるよ。レアリティ1のオレごときに足止めされて、せいぜい悔しむんだなっ!」
「ナラバ、オ前カラ倒セバイイダケノコトダァッ!」
クローを振り解く素振りも無く、ターゲットをオレに変えて猛スピードで突進をして来る。
オレは待ちながら構える選択とは逆に、自身もシャドウレイヤー目掛けてダッシュした。
そして、残り数メートルの所から更に速度を上げ、自ら相手の間合いに飛び込む。
「レア1風情ガ、死ンデシマエーッ!」
大振りの攻撃。
いくらシャドウレイヤーになり、チート能力が使えるようになっても、使う人間が身体能力を発揮出来なければ意味が無い。
どんなに強力な攻撃であっても、当たらなければ意味が無いのだから。
「遅いんだよっ!」
相手の攻撃を体勢を低くして避け、飛び上がる。
「ライジングニー!」
飛び上がりながら膝を相手の顎に食らわせ。
「グアアアウウウッ! コノッ何処へ行ったぁぁぁっ!」
「上だっ!」
空中で体を回転させてから、更に。
「ライジングトール!」
額目掛けて足裏を思いっきり叩き込む。
「グフウウウッ!」
「吹っ飛べぇぇえええっ!」
ゼロ距離からの魔法弾を浴び、大きな爆発音を上げながらシャドウレイヤーとなったプレイヤーは空中へと飛んで行く。
そこからクローを引き寄せて、地面へと思い切り叩き付けた。
「ガ、フ……グウウウ…………」
「レア1風情にやられる気分はどうだよ?」
「クソ! チクショーッ! 弱キャラノクセニイイ気ニナルナァッ! ボクハ強キャラダゾッ? オ前ミタイナ弱イキャラデハ越エラレルハズガ無インダッ!」
「弱キャラだとか強キャラだとか……。ゲーマーならキャラ愛で越えられない壁を超えるんだよ。キャラ性能に頼った選択しか出来ないお前には、理解出来ないだろうけどな」
「ダマレダマレダマレッ! 強キャラヲ使ッテ何ガ悪イ! 性能ニ頼ッテ何が悪イ!」
「別に悪く無いさ。ただ、使いこなせないのであれば強いキャラだろうと弱いキャラだろうと壁にはならないって事だよ」
とは言うけど、ほとんど未完のスキルがあっての話。
これに頼らなければ、ほぼゼロに近い越えられない壁だった事には違いない。
けれど、向こうがシャドウレイヤーのチート能力を使いこなせていない事に正直なところ救われた気もする。
未完のスキルを使ったとしても、相手はチート能力を持っている事を鑑みれば、オレが圧倒的に負ける未来だって存在したはずなのだから。
このまま一気に畳み掛けてしまおう……倒してしまった場合、コイツはプリンセスナイトオンラインが”終わり”を迎えるまで目を覚まさなくなるって事になったとしても……。
「悪く思うなよっ!」
有利な状況の今、倒すための決意をした矢先の事だった。
「ダメーですわーっ! ぬるぬるは、ぬるぬるは弱いのですわーっ!」
セリカちゃんのどこかそそられるような……もとい、悲痛な叫び声がエリア内に木霊した。




