ドリルナノ
「第百二十四回、スライム情報局、はーじまーる……うぅぅ」
「…………」
いつも現実離れした開催数を発表しているのに、今回はとても現実的な開催数だ。
でも、今回の問題はそこでは無い。
クウコは俯き、肩を震わせながら、小さく呻き声のような声を出している。
「う、う、くく……」
「……おい、クウコ。さっさと始めろ」
そしてオレの声に寄り、目の前に設置されている配信中の状態を確認出来る小型モニター超しに目が合った途端。
「っぷふふふーっなのーっ! あはは、あはははっ」
大爆笑を始めた。
『この出オチ感よ』
『大草原』
『絵面が酷い』
「カレンのせいで、お腹、お腹が捩れちゃうのーっ!」
「……ならどうして”これ”を選んだ」
配信直前の事だった。
クウコから新しいアバターが欲しいと言われた為、今回は言う事を聞いてあげようと思い、ログインボーナスで貯めていたポイントを使ってアバターを購入させてやった。
「普通のアバターを選べばいいだろ?」
「あはっ、あふっふふくくくっ! ひぃ、お腹がぁ! 呼吸が苦しくて、ひ、ひぅ、ひぎぃっ!」
幼女がひぎぃ、なんて言葉を発している。
それにしたって笑い過ぎだろ。
まぁ、確かに絵面は相当インパクトが強い。
何せ、頭だけ普通の、”現実にいる熊”なのだから。
身体のデフォルメアバターとのギャップのせいか、殊更におかしな事になっている。
頭だけは見事に獰猛な熊そのもの。
出会ったら失禁モノ。
猟友会の方だったら即発砲。
まだ全身がリアル用の熊アバターで統一されているならマシだろう。
でも、何度も言うが、頭だけがリアル熊。
「こ、こんなのっ、笑うに、ひぅひぃぃ、決まっているのぉぉぉおっ!」
自分で腹部を擦りながら涙を流しつつ爆笑しているクウコ。
失礼にも程がある。
すこしイラっと来たからおしおきしてやろう。
オレはこの熊アバターに搭載されている鳴き声機能を発動した。
「グオオオオォォォオオウウ!」
「?! ぷふぅぅっ! やめっ止めれなのぉぉおおっ! クウコ、クウコが、可笑しくなっちゃうぅぅっ!」
すでに可笑しくて笑っているのだから、その言葉が的確では無い。
お前はもう、可笑しくなっている、とどこぞのツボでも突いてから言って上げたいくらいだ。
「クウコ。知っているか? お姉さんはそんな風に大爆笑したりしないんだぞ? 例えばそうだな、『もうカレンくんったら可笑しいんだから。くす』ってな具合だぞ? ちょっと流し目気味でな」
「だ、大爆笑なんて、していな……くふぅっ! いのっ!」
途中で空気漏れてるじゃんよ。
「…………もうカレンくんってば、可笑し………………ぷふぅぅぅううっ!」
「…………」
一旦真面目な表情へ戻ったものの、目が合った途端これである。
オレの熊頭へ盛大に涎を吹き出しやがった。
話が全く進まない。
「だぁぁっ! このままじゃクウコの大爆笑情報局になって終わってしまうから戻すぞっ!」
「えー、面白いのに残念……ぷふぅぅ!」
「……おかげでリアルコメント文字がwばっかり降り注いで来てるじゃないか」
あの熊顔を見たら誰だって笑うだろうよ。
オレだって自分がこうなっていなかったら、大笑いしていたはず。
「さぁほら、これならいつも通り進められるだろ?」
「何だか一気に詰まらなくなってしまったの……普通過ぎるの」
「世の中普通である事が一番いいんだよ」
「むー仕方ないの……進めるの。えーっと、第三万五千十八回、スライム情報局、はーじまーるよーなのー」
五分くらいで随分回数が増えた。
そしてクウコの態度が一気にどうでも良さそうなテンションへとダダ下がり。
『いつものヤツ』
『適当感があってこそだな』
『実家のような安心感』
お前ら……利用規約読みに行って来いよ。
情報局見てる場合じゃないだろうて……。
「お便りが来てるのーっ! クウコさん、こんにちは。いつも素敵なお姉さんですね、ありがとうなのー」
「…………」
ついさっきまで、地面をノタウチ回っていた幼女の何処がどうお姉さんだと言うのか。
節穴もいいところだ。
「私、緑色の方と申します。ふむふむ、緑さんなの。ちなみに赤色の兄がいます、と付け足されているのー」
「…………マジか? 兄が赤で、弟が緑って……いや、まさかね、そんな馬鹿な」
「どうしても腑に落ちない事があり、メッセージさせて頂きました。何故かは分かりませんが、私たち兄弟はキノコを食用すると身体が大きくなるのです。それはそれは便利な体質なのー」
キノコって言ってるぞ?
これ以上追及しないほうがいい案件?
「しかも中にはダメなキノコまで存在しまして、それを食用すると一機死んでしまいます。どうしたら良いのでしょうか。何か良いアドバイスをご教授して頂けると幸いです。最後となりましたが僭越ながら私から一言……元気良くお願いします」
「ん? 元気良くってどう言う事?」
「……ふぅ。マンマミーアッ!」
「っ?!」
余りの元気良さに少し驚いたじゃないかよ……。
何がどうマンマミーアなんだよ……。
赤と緑のバックの存在が余りにも強大で、オレには怖くて突っ込めねぇよ、これ……。
「いまいち人気の無い緑色からの質問って事だけど、さて、どうしてあげようかなの」
言っちゃったよ……この幼女、人気の無い方って言っちゃってるよ。
恐ろしい子っ!
「……すやぁ」
「寝とるっ?!」
あれだけ元気よくマンマミーアと言っていたのに、もう熟睡してる。
「……むにゃ…………ヨシザうにゅムンチャク……の方が、人気があるの~」
「何故知っているんだ……」
「あぁ、もう……また桃のヤツがさらわれて……本当に世話が焼けるのぉ~。お城が嫌だから絶対わざとさらわれているのぉ~」
「言ってはならん事を……ちょっと、もしもーし、クウコさーんっ! 朝、朝ですよーっ!」
寝言がいよいよヤバイから起こす事にした。
「はっ?! 赤い甲羅が追い掛けて来る夢を見ていたのっ!」
ジャンルを混在し過ぎだ。
「で、何か思い付いたのか?」
「おほん、なの。それでは赤よりも少し滑り易い緑の人。クウコの答えは……食べなければいい、なのっ」
「……いや、食べないと大きくなれないんだろ?」
「違うの。食べる必要は無いの。手で持っているだけでいいの」
「え? そうなの?」
「ほら、この黄色が基調のパッケージを見るの。これ、手に持っているだけなの」
「どれよ。……な、ん…………だとっ?!」
「元々食べる必要は無いの。あんな毒キノコ、食べれば死んで当たり前なの。でも、手に持っていればいいだけなら問題解決なのー」
知らなかった。
オレ、四角いハードになったディスク世代だったから、まさか初代は手に持っているなんて思ってもみなかった。
そうか、あれって食べていたんじゃなかったのか。
そうだよな……あのキノコ、どう見てもヤバイ色、してるもんな……。
大きくなるキノコの方が、たまたま食あたりを起こさなかったってだけだろうし。
そもそも、あんな怪しいヤツ、よく食べる気になったと思う。
「にしても、よく知ってたな……。手に持っているなんて事」
「しかも良く見るの。パッケージに描かれている赤色は桃から逃げるように、逆方向へ向かってジャンプしているの」
「……ホントだよ。これ、助ける気無いだろ?」
「クウコはお姉さんだから、何でもお見通しなのー」
『お、来るか』
『待ってた』
『おっぱい、おっぱい』
いいからさっさと利用規約読みに行け。
「クウコがお姉さんである事を認めないカレンに、今日は凄いモノを用意したの」
「……ほう、一応聞いてやろうか」
「じゃーん! クウコは今年来るだろう水着のモデルになったのーっ!」
「マジかよ……」
水着コレクション、とタイトル付けされた雑誌の一ページにクウコが掲載されている。
「って、おい。ここに書いてある文字を読んだのか?」
「ん? 何処なの?」
「ほら、『中高生にはこれで決まり。彼氏にもアピールで暑い夏が更に熱くなる事間違いナシ』って書いてあるぞ?」
青基調で爽やかなビキニタイプの水着を着たクウコの横に、そんな文章が添えられている。
「……どうして。どうしてこんな事になってるのーっ! お姉さんモデル募集って言うから応募したのっ!」
「ちょうど中高生用の水着モデルが欲しかったんじゃ? まぁ、小中学生でもシックリ来るけどな」
「シックリ来ないのっ! これはどう見てもお姉さんなのっ!」
ぐいぐいと自分が載っている雑誌をオレの顔面に押し付けて来る。
「クウコの横にいる人はお姉さんって感じだけど」
「何処がなのっ?! クウコの方がおっぱいは大きいのっ!」
「確かにそうなんだけど、そこじゃないんだって……」
「はっ! もしかして、このドリルなのっ?! グルグルした巻き髪にすればお姉さんになれるって事なのっ?!」
「……ドリルは、関係無いと思うんだけど」
「そんな事は無いの。気付いてしまったの。お姉さんキャラクターにはドリルが多いって事にっ!」
言われてみれば多いような気がするけれど、この幼女にドリル?
似合わないだろうなぁ。
今だって寝ぐせか、と思うような跳ね方をした、ボリューム感の有る腰程まで伸びた長い髪のおかげで幼女感を更に底上げしているってのに。
パジャマ姿で『もはよう』と言わせたら、右に出るモノはいないとさえ思える。
「そのまま無造作的にツインテールにした方が、人気爆上がりだと思うぞ。ついでに幼女感も爆上がりだけど」
「幼女じゃないのーっ! クウコは立派なお姉さんなのっ! お姉さんパワー炸裂させまくってるのっ!」
「幼女パワーなら炸裂しまくってるって。それで手を打とう、な?」
「うむむむ……食らえ、お姉さんビィーム、シュビ!」
「ひぎゃぁぁあああああぁぁあっ!」
『ビーム炸裂』
『こんがり焼けましたぞ』
『是非おじさんにも』
「ピクリとも動かなくなったの。クウコの載っているページで顔を隠して、安らかに眠って貰う事にするの」
雑な扱いに多少悲しさを感じたオレだったけれど、後でこのページを切り取って保存しようと決心した事は言うまでも無い。




