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リヨウキヤク

 マイルーム。

「…………」

「…………」

 さすがにオレもクウコも言葉が出なかった。

 カナエちゃんもきっと同じだと思うけれど、覚悟は出来ていたはず。

 でも、正直なところ、納得は出来ていなかった。

 覚悟の理由だって、結局のところ、望むような理由とは懸け離れていたし、思い残す事なんていくらだって有るのだから。

「……そう言えば、クエストの終わり際にメッセージを着信していたっけ」

 気付いてはいたけれど、さすがにすぐ確認する事が出来るはずも無く、放置していた事を思い出す。

 誰からだろうか。

 オレにメッセージを入れるのは、マナとカリンさんくらいしか思い当たらないのだけど。

「…………?!」

 差出人はカナエちゃんからだった。

「クウコっ、カナエちゃんからメッセージが入っているっ」

「……え?」

「宛先にクウコも入っているから、同じ内容だと思う」

「カナエ、無事なの?」

「え、いや……どうだろう。とりあえず読んでみよう」

 望みは薄い……カナエちゃんはハッキリとセレクトキャラクターへ戻ると言っていた。

 けれど、どんなに小さな希望だとしても、無事であって欲しいとオレは心底願っている。

 読むのが多少怖いけれど、確認しなければ。

 着信したメッセージを開き、クウコにも聞こえるように音読した。

『カレンさん、クウコさんへ。このメッセージを読んでいると言う事は、私は負けたって事になるはずです。まさか、このような出だしのメッセージを実際書く事があるとは思いもしませんでした。きっと、私はたくさんお二人に迷惑を掛けて、我儘を言って困らせた事でしょう。本当にごめんなさい』

「…………カナエちゃん」

 ここまでの文章を読む限り、カナエちゃんが無事では無い事がハッキリと読み取れる。

 やっぱりセレクトキャラクターに戻ったのだろう。

『私は最後にどのような答えを出したのでしょうか? 最後にどのような言葉を掛けて、お別れしたのでしょうか? 願わくば、お二人に感謝をしてお別れ出来ていればいいな、と思っています。それでも、消えてしまうのはとても怖くて、寂しいです。ライさんと連携を取り、正直あまり良い思い出はありませんでしたけれど、カレンさんとクウコさんと一度だけパーティを組んだあの日の事は良く覚えています。お二人の仲がとても羨ましいと感じていました。でも、見ているだけでキャラクターである私でさえ、暖かい気持ちになれた事も事実です。そんな良い思い出も、私は残さず消えてしまいます。最後の最後まで、迷惑を掛けてしていますが、どうか私が居た事を覚えておいて貰えないでしょうか? いずれ別の私と会う事があったとしても、今の私がちゃんと存在した事を、記憶の片隅に覚えておいて貰いたいです。私はちゃんとこの世界に存在したんだ、と言う証として。あまり長く書くと戦えなくなってしまうから、この辺で終わりにします。もう一つだけ、クウコさん。私は私が消えてしまう直前まで、あなたの事をトモダチだと思っています。もっとたくさんお話し出来たら嬉しかったな( *´艸`)』

 そこでメッセージは終わっていた。

 最後の可愛らしい顔文字が、余計に心へ響いて来る。

 オレの音読と一緒に自分にも届いたメッセージを目で追っていたクウコは、大きな目からはらはらと大粒の涙を零し始めた。

「もっとちゃんと話しておけば良かったの……。どうしていいか分からなくて、カレンとカナエにまかせず、ちゃんと一緒に……。ごめんなさい、なの……カナエ……」

 クウコが自分の両手を使って拭っても拭っても大きな涙がクウコの頬を伝って流れ落ちて行く。

 こんな結末って有りかよ。

 クウコが自分の答えを出し行動を起こす事が遅れたのは、悪い事なんかじゃない。

 そして、カナエちゃんだって、何一つとして事なんてしていなかった。

 原因を作ったのはチート行為を行ったライのせいだと言うのに、何故、カナエちゃんまでその代償を払う必要があったんだ。

「クウコ、手じゃなくてせめてハンカチ使えって……ハンカチなんて無いから大きいタオルだけど……ほら」

 何なんだよ、何でこんな事に。

 クウコもカナエちゃんも、苦しむ必要なんて無いはずなのに……。

 そんな行き場の無い思いを、マナシステムへのメッセージとして、オレは後先考えずに送り付けた。

「……前にも伝えたけれど、私とあまり関係を持たないで欲しいものね」

「無視されるだろう思ってたから……」

 メッセージでは無く本人がオレ達のマイルームにやって来るとは。

「それなのにメッセージを寄越して。ただの八つ当たりかしら?」

「……そう、だよ。その通りだ。どうせオレ達が知らないってだけで仕様なんだろ? でも、どうしてカナエちゃんまで被害を被る必要があるんだ?! チートしたのはライだろ? それなのに……どうして…………」

 怒っている……わけでは無い。

 カナエちゃんの事を考えると、やり場の無い切なさがどうしても受け入れられないだけ。

 仕様で有る以上、マナに訴えるのだってお門違いなのは分かっている。

「連帯責任よ。自分の行いによって他者にもペナルティが課される。そうする事で反則行為をする人間が減るだろうと思っていたから。でも、違った。あなた達人間は、心があるのでしょう? それなのに、他人がどうなろうとも自分の欲を満たす為であれば、反則行為ですら犯してしまう。とても残念な結果となってしまったわね」

「そうは言うけど、その仕様を知らないヤツ等ばかりなんだぞ……?」

「それなら知っていたら反則行為はしなかったとでも? まぁ、今更どうこう言った所で、彼女は返ってこない。セレクトキャラクターとして今は誰かと連携を待っている事に変わりはないのだから、話し合うだけ無駄よね」

 その通りだ。

 仕様を知っていたからと言って、チート行為が絶対にされなかった、とは言い切れない……けれど。

「あのシャドウレイヤーになった事にもペナルティーがあるんだろ? なら、仮に仕様を全員がしっかりと把握していれば、不正行為に至らなかったと考えられるじゃないか」

 ペナルティーの程度にも寄るだろうけれど、何かすら罰が与えられているのであれば、チート行為をするユーザーが出る事は無かったかもしれない。

「本当にそうかしら? カレンさんは、このゲーム以外にもゲームをするのでしょう? どんなに運営が措置をしたところで、不正改造行為が全くゼロになった試しはあるのかしら?」

「オレの知っている限りの話だけど…………正直……無い」

 不正行為が行われる度に運営からアカウントの永久停止等の措置をした、と報告があるのにも関わらず、同じような報告が繰り返し上がっているのはどのゲームでも言える事。

 それを踏まえて考えれば、仕様をハッキリさせていたところで不正改造行為が全く無くなっていたかとは言い切れない。

「全く無くならないだろうけど、それでもさ、抑止には繋がるだろ……。仕様で特に大事な事なら、ゲーム開始時のチュートリアルで教えておいてくれよ……」

「チュートリアルなんてのは、ただの基本操作方法を教える為の手段でしかないわ。仕様を理解する為の行動を怠ったのはあなた達ユーザーでしょう? 何度も言うけれど、この世界に存在している以上、あなた達は仕様を受け入れたと同意なの」

「……そうは言うけど気付かない場所にその仕様が掲載されていたら、意味が無いじゃないか……」

「なんだか論点がずれている気がするけれど、気付く気付かないで言えば、そんな事は無いわ。あなた達は掲示されている場面を視認しているのに、それを見ようとしなかった、確認をしなかった、読もうとしなかった、理解しようとしなかった。百パーセント、この世界のユーザーは全て仕様を理解出来ていたと言い切れるわ」

 いったい何処でそんな場面があったと言うのだろう。

 これ程大切な仕様が存在するのだから、一人くらい気付いていいはずなのに、ネット上にだってそれらしい話題も出ていなかった。

「……はぁ、もういいわ。分かった。これ以上小出しにするのも面倒になっていたから、今から私が公開してあげる。その前にあなた達にはこの場で教えて上げるからよく聞きなさい」

「…………」

 オレ達ユーザーがここにいる事、それが本当に仕様へ同意した事と同じ意味であるのか、本当に気付けないような掲示の仕方では無かった事がやっと分かるのであれば、願っても無い事だ。

「利用規約」

「利……用、規約…………。っ……そうか」

「どうやら気付いたようね。全て掲載されているのよ」

 言い返す言葉なんて出なかった。

 全ユーザーが絶対目にしている画面で、ゲーム開始時に何よりも一番最初に表示されている。

「何百万にもユーザーがいるのに、誰一人としてその利用規約を読んでいない」

「ま、待ってくれっ! でも、利用規約なら、オレは詳しく無いけど、それを確認して容認する機関か何か、そんなのが存在するはずだろ……?」

「あなたの言葉を借りて言うのであれば、その機関もまた中身を確認せず容認していると言う事よ」

 な……んて事だ。

 オレは、きっとオレ以外の人間も含めて、利用規約なんておそらく全文を読み、同意する人間なんていないだろう。

 その利用規約の中に、仕様が書かれているとは思ってもいなかった。

 いや、普通書かれているのに、オレ達はまともに読まないから、知らなかったんだろう。

 そして、しっかり記載されているのに、それを読む事をせず、同意して……。

「後で読み返す事ね。利用規約はいついかなる時にも確認出来るのだから。これで納得出来たでしょう? こちら側は何も意地悪をしているわけでは無いの。規約に同意するかしないか、しっかりと考えて選択する場面を、何よりも真っ先に開示している。包み隠す事無く、全てをね」

「…………」

「それなのにあなた達ユーザーは、引っ切り無しにメールを送り付けて、こちら側を咎め悪役にして行く。正直、気分の良いものでは無いわ」

 ぐうの音も出ない。

 マナの言う通り、利用規約はゲーム開始時に表示されていたのは覚えている。

 それを読む事無く機械的に同意しているのは、オレ達ユーザーの方だ。

 知る事は出来ていたのに……。

「それじゃあ、私はこれからシステムアナウンスとして利用規約の事を発信するから、これで引き上げるわ」

「マナっ、待って欲しいのっ! カナエは?! どうしてもカナエは戻って来れないの?!」

「…………あなた達の知っているあの子でなければ、いずれ会えるわよ」

「そうじゃないのっ! クウコ達が良く知っているカナエじゃないとダメなのっ!」

「無理よ。そうなる事は決定事項なんだもの」

「そんな……」

「管理者だからといって何もかも全てを決定出来るわけでは無いの。カレンさんなら、分かるわよね? ゲーム制作がどんなものなのか」

「え、あ、あぁ……。バランスとかまぁ、その他色々な事もあるし、管理者の一存では決定出来ないはずだ」

 それはゲームに限った事じゃないだろうけれど、新しい仕様の追加や、元からある仕様の変更をする為には、関わっている全てのメンバーの同意が必要になる。

 バランスであったり、実現可能か不可能かの判断であったり、今直ぐに対応するべき事なのかどうか等々、リスクも含めて考慮した上で実装や変更の要求をする事になるだろうから、管理者が自分勝手にあれこれ決定出来るわけでは無いと思う。

「最後に。私だってゲームの世界で悲しい思いや辛い思いをするような仕様は、正直言って気分の良い事じゃないし、嫌いよ。でもね、私だけでは出来ない事もあるの」

「お願いなの、カナエを帰して欲しいの……」

「クウコさん。あなたがこれからカナエさんにして上げられる事があるとしたら、カナエさんが言っていた事を受け入れて上げる事じゃないのかしら? まぁ彼女がどんな言葉を残したのか、それとも何も残さなかったのかまでは分からないけれど、過ぎた事よりもこれから先何をすべきかを考える事ね」

「…………うぐ、うぅぅう」

「管理者とは言え、してあげられる事が無くて悪かったと思っているわ」

 そう言ってマナシステムは、マイルームから去って言った。

 そして宣言した通り、全ての仕様は利用規約に掲載されている事を、システムアナウンスを通じて全ユーザーに発信された。

 オレも後でしっかり読んでおかなければいけない。

 特に気になるのは、不正改造行為をしてシャドウレイヤーになってしまった後の事。

 おそらく生半可なペナルティーでは済まされないだろう。

 カナエちゃんは被害者なのに、何も残さずセレクトキャラクターへ戻された事を考えれば、その罰則が重くなる事は容易に想像が付いて来る。

「カレン……」

「ん?」

「配信に行くの……」

「配信って…………。そんな気分じゃないだろ……? 今回はパスしていいんじゃないか」

「ダメなの。カナエは言っていたの。自分の事を覚えておいて欲しいって。それならば、クウコは何があっても負けるわけには行かないの」

「けどな…………いや、ごめん。そうだな、そうしよう。オレ達がちゃんと覚えておいてあげないと、いけないよな」

 オレは不正改造行為なんてするつもりは全く無いから、クウコと連携が解除されて、カナエちゃんと同じような選択に迫られる事は決してないはずだ。

 でも、もしかしたら仕様の中に、まだ注意すべき事があるかもしれない。

 それならば少しずつでもオレ達は強くなっておく必要がある。

 カナエちゃんが最後に願った事を叶え続けて上げる為に。

「仕様開示されたから、あんまり閲覧する人はいないだろうけどやるだけやっておこうか」

「うん……」

 どうせ閲覧者なんてほとんど来ないだろうし、配信した事実だけあればステータスポイントは貰えるわけだから、時間を掛けずに済ませてしまおう。

 何よりクウコの精神状態は、思った以上に悪いだろうから。

「ちょっと準備をするから、カレンは……」

「あー、はいはい、いつものヤツね」

 ベランダに移動すると同時に、シャっとカーテンが閉められた。

「……無情だぜ」

 オレはこのままでいいか。

 クマアバターがだいぶ汚れているけど、汚れたって可愛いのがクマだし。

 それよりも配信が終わったら一旦ログアウトして、利用規約をジックリ読む事にしよう。

 一応今、自分の意志が有るから、未完のスキルによって再起不能になった、なんて事は無いけど、不安は拭えない。

「…………今度は何処を、失ったんだろうな」

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