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マホウショウヘキノツカイカタ

 目の前には見上げるほど高い超広範囲の炎の壁。

 カナエちゃんの攻撃力を実感させられてしまう。

 オレとクウコのレベルでは到底足元にも及ばない……でも、この状況はむしろチャンスかもしれない。

 あの炎の壁を強引に突き抜ければ、カナエちゃんの意標を突ける可能性は、ある。

「やってみるか……」

 ここからでは、どこにカナエちゃんがいるのか位置すら検討が出来ないけれど、囮として壁の上を越しながら弧を描くように落下する魔法弾を放つ。

 それを追うように多少のダメージを覚悟しながら、オレは壁の向こうへ居るカナエちゃんへと突進した。

「カナエちゃんっ、何処を見ているっ! オレはもう目の前にいるぜっ!」

「えっ?」

 壁の幅が思ったより大きくヒットポイントを削る事になってしまったが、これは……入ったっ!

 カナエちゃんはオレが炎を突っ切って来る事を完全に読む事は出来ず、囮として放った魔法弾を視界に捉えるように上を向いていた。

「この距離で直撃させれば、いくら最高レアだってタダじゃあ済まないだろっ!」

 距離は二メートル程しか離れていない。

 直撃させて怯んだ後、更に追い討ちを掛けるように魔法を何度も叩き込む。

 ターン制だったらこうは行かなかったんだろうけど、ここで一気に決める事が出来るかもしれない。

「女の子相手にってのは気が進まないけどっ一気に決めさせて貰うっ!」

 初撃は確実にヒットする……はずだった。

「カレンさん。私の持つ固有スキルを忘れていたんですね」

 カナエちゃんの……固有スキル?

「っ?!」

 なんて失態だ。

 何度も見ていたはずなのに、カナエちゃんの最大の武器となるあの”魔法障壁”の事を考えていなかったとは。

 オレの初撃はアッサリとカナエちゃんの固有スキルによって弾かれてしまう。

「しまったっ!」

「これで終わりです」

 カナエちゃんが放った魔法は展開した壁を破壊しながらも、威力を落とさずオレの身体に直接ヒットし、数メートルは軽く吹っ飛ばされた。

「……くっ……痛ってぇ……」

 今までにもクウコが放つ魔法に被弾した事はあったけれど、レアリティが違うってだけでここまでダメージが違うとは……それに、この痛さ。

 痛覚を感じさせているだけで、自身の身体が傷付いているわけでは無いとしても、意識が飛んで……危うく死んでしまうんじゃないかって錯覚をしてしまいそうだ。

「ヤバッ?!」

 痛む身体を無理に動かし、ゴロゴロと無様に転がりその場から退避すると、立て続けに魔法が地面の上に炸裂する。

「良く避けられましたね」

「…………」

 間一髪。

 自分でも本当に良く避ける事が出来たなと思う。

 それでも、たった数秒の出来事だったのに、状況はハッキリ言って悪いと感じた。

 攻撃に当たってしまうのは最早覚悟の上ではあったけれど、受けるダメージ量が思った以上に大きい。

 二回が限度、三回目はオーバーキル。

「……やっぱり、ヒットポイントにもステータスアップを振っておくべきだったかなぁ」

 回復アイテムを使いたいところだが、あと一発は耐えられる。

 まぁ、連続で二回当たれば即ゲームオーバーになるけれど、それでも、三つしか無い貴重なアイテムでもあるし、我慢するしかない。

「カレンさん、一人で戦い続けるつもりですか?」

「……あぁ、今のところはそのつもりだよ。クウコには考えた上で、自分の気持ちをハッキリ持って欲しいからな」 

「……考えて答えが出なかった時は、どうするんですか? そんな悠長な事を言っている場合では無いと思います」

「考えが出なかった時、か。まぁ、それはそれで一つの答えなんだと思う」

「そんなの……問題を先送りにしているだけです……」

「だからオレがこうして動いているんだよ。オレはカナエちゃんとの決着をどうするか決めている。クウコが迷うのであれば、覚悟を決めたオレが、決着を付ければいいだけの事だ」

「その後で、クウコさんがカレンさんとは違う覚悟をしてしまったら……?」

「その時はその時。オレの独断で動いた事を謝るしかない」

「腑に落ちない良い訳ですね……」

「分かってる」

 オレが勝手に動いている事は、クウコの答えを無視しているのと同じ。

 どう決着が付く事になったとしても、クウコはそれを受け入れる他残されていない。

 自分の思いとは正反対な事だとしても、だ。

「謝ってもクウコが納得出来ないって言うなら、クウコがどうしたいのかを聞いて、オレはそれを受け入れようと思う」

 例え連携を解除する事になったとしても、クウコが望むと言うのであればオレは黙って受け入れよう。

 でも……。

「そんな未来の事なんて、今考えるべき事では無い。ここにいる今のオレは、このゲームをクウコと一緒に続けたいんだ。だから……カナエちゃん、オレは君を倒さなくちゃいけないっ」

 カナエちゃんへ向け、連続の魔法弾を放つ。

 今出来る最善の方法としては、あの魔法障壁すら展開出来ない間合い、詰まりはゼロ距離からの攻撃を叩き込む他には残されていないだろう。

 おそらくだけど、でも、きっとカナエちゃんの魔法障壁は自分自身の身体へ直接付与出来るスキルでは無いはず。

 だからこその、ゼロ距離射程。

 ダメージは絶対に通るはずだ。

「……くっ! 思うのは簡単だけどっ……全く上手く、行かねぇっ!」

 あの障壁は本当に強力なスキルだ。

 オレの攻撃力では簡単に弾かれて、破壊する事以前に、脆くする事すら出来ていない。

 その証拠に、同じ障壁へ何度も魔法が当たってはいるのに、壊れる様子が全く感じられない。

 その上、カナエちゃん自身の攻撃力の高さが殊更に、状況を厄介にして行く。

 完全防御が出来る魔法障壁、そして絶大な攻撃力。

「カレンさん、凄いですね。レアリティ1でもそれ程まで動き、私の攻撃を避けるだなんて」

「ステータスアップのポイントを全部スピード値へ振ってるんでねっ!」

 その考えは効果が有ったと実感出来る。

 もし、攻撃力や防御力へ振っていたら、直撃をくらい呆気なく終わっていただろう。

 防御全振りってのも有りだろうけれど、クリティカルでくらえば防御力無視でダメージ値へと変換されるのだから、攻撃に当たらない事こそ最大の防御と言っていい。

「ですが、私に攻撃が届かなければ意味がありません。カレンさんはいずれ疲労がかさんで、動きが遅くなる。その時が、このクエストの終了になります」

 その通りだ。

 このゲームには”感触”を感じさせる仕様が搭載されているせいで、時間が経過すればする程、現実世界のように疲れを感じ、あらゆる行動が鈍足になってしまう。

 どんなにヒットポイントが減っても行動速度が落ちない他のゲームは、プリンセスナイトオンラインを始めてからと言うもの、なんだかとても温く感じてしまう程。

「でも、攻撃がヒットしないのはカナエちゃんにだって言えるだろっ!」

 と言うのはただの強がり。

 オレが激しく動き回りながら攻撃を避けている動作に対して、カナエちゃんはその場から魔法障壁で防御出来なかったオレの魔法を最小の動作で避けているだけ。

 スタミナの消費は圧倒的にオレが不利、絶望的と言ってもいいだろう。

 だからこそ、一瞬のチャンスも逃さない、逃してはならない。

 集中力を途切れさせず、回避し続けるんだ。

「カナエさん、ご存知でしたか? 私はプリンセスキャラクターとしてのタイプがサポートだと言う事を」

「アタッカーでは無いってのは予想は出来るよっ!」

 弾速が遅いからアタッカーでは無いのは明白だし、魔法障壁のスキルからサポートである事は容易に予想は出来る。

 こうして会話しながらも絶え間なく魔法を放ち、その魔法の攻撃力は高いのだから、サポートとは言え油断は一切出来ない。

「ですが気を抜いてはダメですよ?」

「そんなのは充分承知の上だっ」

 こっちの攻撃が一切通りはしない。

 障壁の展開が間に合わないのか、いくらかの魔法はカナエちゃんへ向かうのだけれど、距離が有り過ぎるせいで簡単に避けられてしまっている……少し強引にでも間合いを詰めた方が良さそうか。

「気を抜いていない、ですか。そうでしょうか? 私にはそんなふうに見えませんよ?」

 オレの集中力は続いている。

 だからなんだって言うのだろうか?

 そう思い至る間も無く、予想もしない方向から強烈な衝撃を受け地面を転がった。

「くっ……なんで、真後ろ……から攻撃が……」

 危うくヒットポイントがゼロになってしまうギリギリの所で耐えられた。

 回復アイテムを使いながらついさっきまでオレが居た場所を見て、瞬間的に納得する。

「魔法障壁……そう言う事か…………」

 オレの居た場所から少し後方に、カナエちゃんの魔法障壁が出現していた。

 避けた魔法を、魔法障壁で跳ね返しヒットさせる方法。

 有りがちな事ではあるけれど、さすがに後ろから来る攻撃を避けるの至難の業に近い。

 三人称視点ゲームであれば後方からの攻撃は把握し易いだろうけれど、実際見えている視界の範囲は現実と同等。

 これでキャラクタータイプがサポートだとか、冗談にも程がある。

 防御一辺倒。

 全く攻撃に転じる事が出来なくなった。

 極力避ける事はせず、迫る魔法弾を相殺……と言うよりも、威力を落としてどうにか避け易くしてはいるものの、それが出来るのはオレを狙った魔法弾のみ。

 カナエちゃんはわざと別方向に魔法を放ち、その魔法を魔法障壁で跳ね返しながら攻撃を繰り出して来る。

「くっ!」

 心底キツイ。

 自分で避けた魔法に対しても気を配る必要が出たってだけで、難易度が数倍にも跳ね上がった。

 避けた魔法がただ直線的に折り返して来るだけならまだ良い方。

 しかし、カナエちゃんは魔法障壁で跳ね返す方向を変えた魔法を、更に障壁で跳ね返し、容易に読む事が出来ない策を取っている。

 直撃を避けるのが精一杯。

 どうにか避けてはいるが、やはり完全回避には至らず何度も身体を掠めている為、徐々にヒットポイントが確実に減らされている状況。

 回復アイテムをそろそろ使わなければ、下手をすると一気にヒットポイントを持って行かれかねない。

「そうやっていつまで一人で戦うつもりですか? クウコさんも一緒に戦えば、少しは楽になるはずだと思いますよ?」

 そうだろうな。

 カナエちゃんは単純に二人を相手にする必要が出来るのだから、今よりもだいぶ楽になる事は分かり切っている。

 でも、覚悟の決まらない今のクウコでは、おそらくまともな動きは期待出来ないだろう。

 下手をすれば一撃で倒されてしまう可能性だって大きい。

 ならばこのまま一人でなんとかする方法は……思い付かないけれど、それでもオレ自身でなんとかした方がいいはず。

「あくまでも一人で戦う、と言う事なんですね。それじゃあ……」

 カナエちゃんがオレから一瞬視線を逸らす。

「終わりにしてしまいましょう」

「?!」

 マズイ!

「クウコっ、その場から離れろーっ!」

「もう間に合いません」

 と同時にカナエちゃんの魔法がクウコの足元から発動し、クウコはその爆炎に巻き込まれた。

 回復アイテムを使うのも忘れて、その炎の中に突っ込み、クウコを抱えながらカナエちゃんから距離を取るように移動する。

「あ、う……カ、レン…………」

「良かった、ヒットポイントが残っている……」

 オレのせいだ。

 勝手にカナエちゃんは、クウコを狙わないと思い込んでいたオレのせい。

 カナエちゃんだって自分の運命の為に戦っているのだから、抗うオレなんかよりも楽なクウコを狙って当然の事だったんだ。

「今、回復アイテムを使ってやるからな」

「そうはさせませんっ!」

「?!」

 あの構え……ヤバイ、カナエちゃんの持つあの広範囲攻撃魔法だけは本気でヤバイ。

 範囲だけで無く、威力だってシャレにならない、あの魔法。

 食らったら確実にオレもクウコも同時にゲームオーバーになってしまう。

「これで、終わりですっ!!」

 間に……合わない。

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