ダセナイコタエ
「よし、クウコ。やれるだけのことはやった。そろそろカナエちゃんとこに行くか」
「…………」
状況の理解はしているんだと思う。
カナエちゃんと戦って負けてしまえば、オレとの連携が解除され、クウコはセレクトキャラクターに戻ってしまう。
けれど、この前クウコはカナエちゃんと『友達になれるかもしれない』と言っていた。
そう思えた相手を倒さなければいけない事、そして倒した先のカナエちゃんの運命は、今までの経験をゼロにしてセレクトキャラクターに戻ってしまう事、それがどうしてもクウコの中で納得出来ないのだと思う。
だからと言ってクエストを受けなければ、カナエちゃんはシャドウレイヤーと化してしまう。
どんなに考えても手段はカナエちゃんとの特殊クエストを受け、カナエちゃんを倒す他考えられない……。
オレ達は残された特殊クエストまでの時間を使い、レベルを上げた。
配信も行ってステータスを上げた。
クウコとは相談をして、カナエちゃんを倒す事も決めた。
それでもやはり、直前になりクウコの気持ちは揺らいだのだろう……いや、元々、気持ちの整理なんて出来ていなかったんだと思う。
ただただ消去法で選んだ選択肢。
それでは、成すべき事を理解は出来ても、納得なんて出来るわけが無いのが正直な気持ちだろう。
「なぁ、クウコ。カナエちゃんはさ、きっと、オレ達に決着を着けて欲しいと思っているじゃないかな? あの子は自分なりに考えを持って、オレ達に戦う事を挑んで来たんだと思う」
「…………」
「だから、このまま何もせず逃げて、カナエちゃんをシャドウレイヤーにしてしまうのはあまりにも可愛そうだ。アレになるとどんな不可抗力があるのかは分からないけれど、チートをしたプレイヤーへの対処だって言うんだから、おそらく良い事なんて一つも無い。むしろ、何かすら悪い事が起こって当然なんだよ。チート行為ってのは許されない不正の行為だから」
これはオレの持論でしかないけれど、いつの間にか”チート”は”圧倒的強者”に対する意味へと置き換わって使われているような気がしている。
けれど大きな勘違いだ。
チート行為、それはインチキ、不正、非許容の不正改造。
詰まりは悪行。
仕様に沿っている強者に対して使う言葉とはまるで違う。
その悪行に対して、ただシャドウレイヤーになるだけ、とは考え辛い。
運営はきっと何かすらペナルティーを用意しているはず。
それがどんな内容なのかは知らないが、カナエちゃんは何も悪い事をしていないのだからペナルティーを追う必要は全く無い。
だから残されている時間をタイムアップでやり過ごし、あんな訳の分からない存在にさせてはダメなんだ。
「それにカナエちゃんはオレ達が特殊クエストを受けないなら、自分から割って入って来ると言っていた。単独戦線や共同戦線中に入って来られたら……さすがに勝てる見込みが無い……」
正直、現時点においても楽観視出来る状況では無いのだから。
たぶんわざわざ別枠でクエストが用意してある事から、オレ達二人とカナエちゃんの一騎打ちになるのだと思う。
二対一は卑怯な気がするけれど、言葉は悪いが、他人のパーティを壊して乗っ取るのだから、それくらいのリスクは伴っても仕方無いだろう。
それでも最高レアリティと最低レアリティの差が大きい。
「カレン……もうどうしようもないの? カナエを助ける事は出来ないの?」
「……無理、だろうな。別手段があればカナエちゃんはその手段を取るだろうし」
オレの勝手な思い込みの可能性もあるけれど、カナエちゃんは他人を犠牲にして自分を守る、そんなタイプの子では無い。
一応、そう思うだけの理由はある。
この前、カリンさんとライと一緒に入った共同戦線の時、あれだけライから嫌な扱いをされていながらもカナエちゃんはライの事を守ろうと頑張っていた。
それだけ明確で分かり易い理由があるのに、カナエちゃんはクウコの犠牲と引き換えに自分が残ろうとしている。
だから。
「きっとカナエちゃんは何か考える事があっての事だとオレは思うんだよ」
「……考え?」
「それがどんな事なのかまでは分からないけれど、たぶん、何か有る。だからそれを確かめる意味でもカナエちゃんに会いに行こう」
「…………」
「クウコがどうしても手を出せないのであれば、オレ一人だけでカナエちゃんを相手にするから」
「……そんな事……カレン一人に押し付ける事なんて出来ないの」
クウコはクウコなりにどうにかしたいって思っているんだろう。
全員が最良の結果になる為に。
けれど……そうは行かない。
カナエちゃんが勝つか、オレ達が勝つかのどちらか一つ。
ったく……とんだ仕様を用意してくれたものだな、マナ。
「気は進まないけど……行くの。カナエと話がしたいの……」
「そうか……」
クウコを連れて、オレはロビーの受け付けからカナエちゃんのクエストを受ける事にした。
いつも通り広大で真っ白な空間の中、一人でポツンと佇んでいたカナエちゃん。
「来て、くれたんですね。お待ちしていました……」
「やっぱりスライムはいないのか」
「はい、このクエストを受けたからには、勝敗が決まるまで終了出来ません。思う存分、お互いのこれからを掛けて戦う事が出来ます……」
これもまた本当は知っていて当然の仕様……なんだろうな。
プレイヤーだってのに、知らない事が多過ぎる。
「なぁ、カナエちゃん。本当に勝ち負けを決める方法でしか決着をつけられないのか? 他に手段は用意されていない、のか?」
「有りません。私はとても分かり易く良い方法だと思います」
「……でも、カナエちゃんは被害者だろ? ライがチート行為をしなければ、連携が解除される事も無かった。それなのに……こんな仕打ちおかしいだろ……」
「そうですね、そうかもしれません。けれど、私が自らライさんとの連携を解除しなかったせいでも有りますから、自業自得とも言えます」
プリンセスキャラはプリンセスナイト、詰まりは組んだユーザーとの連携を解除する事が出来る。
これはチュートリアルの時に伝えられていたから覚えている。
プリセンスキャラであるカナエちゃんは、いつだってライとの連携を解除出来た。
けれど、それをしなかった……選ばなかった。
「どうして、連携を解除しなかったの? あんな酷い事ばかり言うヤツ、気にする必要は無かったの」
「……一度連携を解除してしまえば、私達はゼロからのスタートになります。今までの記憶が残らずに。果たしてそれは、今の私と同一人物と言えるのでしょうか? お二人が私をどんな性格として捉えているかは分かりません。ライさんと連携をしていた日々の事は、正直、必要の無いものでした」
「それなら、解除した方が良かったの……」
「それでも、他の人達と過ごした事の中には、残しておきたいと思える記憶もありました。その中には……クウコさん、あなたとの記憶も入っています」
「…………」
「たった一度、共同戦線で一緒になっただけ。それでも私は、クウコさんと仲良くなりたいと思いました。それを無かった事にしたく無かったんです」
記憶をゼロに戻して、またいつか出会い、その時に友人となれば良いじゃないか……そんな事、簡単に言えるわけが無い。
ゼロから始めたカナエちゃんが、同じ思いを抱くとは限らないのだから。
「じゃあ、どうしてカナエちゃんはこんな事をしようと思ったんだ? オレとクウコじゃなくても良かったはずだ」
「酷い事を言うんですね……」
「そうだな……オレ達じゃなくて、他人だったら良かったって言ってるようなものだからな。それは言ってるオレだって理解しているよ」
勝ちさえすればクウコを犠牲にする事無く、そしてカナエちゃんの記憶も引き継ぎ、セレクトキャラクターにならずに済む。
他人を犠牲にしろ、と言うのは余りにも酷い話だろうけれど、今のオレ達に取ってはそれが最良の選択になるはずだ。
「見損なって貰って構わない。オレは良く出来たラノベ主人公のように、誰にでも優しく、誰であろうと救い、誰に対しても平等に接するような人間じゃあないから」
「見損なう事なんてありません。得るべき事と切り捨てるべき事は誰にだって選択する事が許されているのですから……。そして、私は今の自分を捨てる事を選ばず……クウコさんを犠牲にする事を選びました。何故なら……」
カナエちゃんは一呼吸置いてからゆっくりと続く言葉を話す。
「お二人が……レアリティ1だからです。合理的ですよね。自分よりも弱い相手を選ぶ事は」
ハッキリとした明確な理由。
そうだよな……相手も同じレアリティであれば、二対一になる状況を避け、確実に勝てる手段を選ぶ。
カナエちゃん達にこの表現が正しいのかは分からないけれど、自分が生きるか死ぬかの場面に直面すれば誰だって確実に勝てる手段を取るだろう。
「お二人には迷惑な話でしょうけれど、戦って貰います。私が私で存在出来る為に」
「カナエ……」
クウコは……ダメ、そうだな。
決心どころか余計答えが見出せなくなってしまっただろう。
「……戦うしかないか」
オレは一人であってもカナエちゃんの相手をしようと思った矢先、システムからメッセージが届いた。
『今から新しい情報の開示をします。なお、クエスト中の人はログで確認をするようにしてください』
このタイミングでかよ……。
「カナエちゃん、ごめん。少し待ってくれないか?」
「私は構いませんよ。時間は有りますから」
とりあえず、一時休戦。
おそらく以前言っていた仕様の追加発信だろう。
『ゲームを楽しんでいるみなさん、ごきげんよう。あれから少し時間が経過しましたが、どうやら誰一人として、知っておくべき事を得る事が出来なかったようね』
マナシステム……。
今頃ロビーは大賑わいとなっているだろう。
『あなた達は、自分達の置かれている状況をだいぶ楽観視しているようだから、直接伝えて上げようと思うのでよく聞いておきなさい。シャドウレイヤーの数が、以前よりもずっと増えている事に気付いているいる人も中にはいるでしょう』
そうなのか、オレ達は共同戦線に出ないようにしているから、それは知らなかった。
アイツ等……増えているのか。
と言う事は、それだけチート行為をする人間が増えている?
『増えた理由は、とても簡単な事よ? それは、シャドウレイヤーに倒された者は、アレに強制変化させられるから。理由としては分かり易いでしょう?』
「な、んだって……」
『懸命なあなた達人間であれば、当然それならログインをしない、ゲームをプレイしない、と結論に至るでしょうけれど、人として生きていたいのであれば止めて置く事ね。七十二時間戦闘リザルトが無かった場合、徐々に身体の機能を失って行く事になる。詰まりは最悪、全く動かなくなると言う事。死亡までは行かないけれどね。でも、動かなくなった人間が果たして生きていると言えるのかしら?』
オレの持つ未完のスキルに類似している事を考えれば、マナの言っている事は真実だと考えられる。
けれど、それにしたってこんな大事な事が、どうしてオレ達プレイヤーは一人として知っていないんだ?
マナは何度も『知っている事』と言っている。
嘘を付いている、とは思えない。
オレ達は知っていたけれど忘れた?
そんなはず、無い。
身体の機能を失っていくなんてインパクトの大きい事を、プレイヤーが揃いも揃って忘れるわけが無い。
誰一人として、知っていて当然の事を知ろうとしなかった、見逃している、と言う結論が一番納得出来る。
『横暴とは言うけれど、個人にペナルティーを課すだけでは、あなた達人間は決まりを守ろうとしない。これからは、他のプレイヤーがチート行為を働かないように、あなた達同士で監視をする事ね。最後になるけれど、敢えてもう一度。今まで話した内容は全て、知っていて当然の事。どれを取っても一つとして知らないとは言えない事なの。あなた達がこの世界に存在している限りね。それじゃあ、この先、一人でも多くの犠牲者が出ない事を祈っておくわ』
マナはそれ以降何も話す事は無かった。
「カレン……どう、なったの?」
「んー、えっと……状況は、正直あまり良くは無い」
シャドウレイヤーの事もそうだし、目の前にいるカナエちゃんの事もそうだし、明らかになっていく仕様はどれもこれも悪い事ばかり。
オレ達プレイヤーは身体の機能を失い……最悪、意思の無い”植物人間”となってしまう。
「カレンさん、それではそろそろ私との決着をお願いしても良いでしょうか?」
「…………」
先ずはカナエちゃんとの問題をどうにかしなくちゃいけない、よな。
仕様の事は後回しだ。
考えている余裕なんて今のオレには与えられていないのだから。
「あんまり良くないけど……」
「でも、もう待ちません。一瞬でも気を抜かずに抗ってみせてください。それでもお二人が私に勝てる見込みは……有りませんけどっ」
「?!」
カナエちゃんの動作を見てオレは咄嗟にクウコを抱え、その場から一気に飛び退いた。
オレ達二人がいた地面から大きな壁の炎を作り上げるように、火柱が立ち上がる。
もしアレを受けたとして、オレのヒットポイントはどれくらい残ってくれるだろうか。
クリティカルになったら、オレは耐える事すら出来ないかもしれない。
「カレン……クウコは、どうしたらいいの……?」
「無理に答えを出す必要は無いさ。どちらも選べない、それがクウコの答えなんだろ? でも、覚悟だけはしておいてくれよ。オレは、カナエちゃんを倒すつもりだから……」
「…………」
その覚悟の裏には、オレが負けた場合の事だって含まれている。
クウコがその意図を察してくれているかは分からない。
でも、オレが勝つかカナエちゃんが勝つか。
どちらか一方になる事は明らかだ。
答えが見い出せないクウコに取っては酷な話だろうけれど……。
「お前達はホント、人間みたいだよな。だたのプログラムだったら、ハイかイイエかのどちらかで考えていたんだろうし、今そうしてどうしたらいいのか悩んでいる」
「……プログラムの方が良かったの」
「そんな詰まらない事を言うものじゃないって。自分で考えて自分で行動して、自分の答えで返答を返してくれる。それがいいんじゃないか」
「…………」
「大いに悩めロリッコよ」
「……クウコはお姉さんなの」
「まぁお姉さんでも悩む時は悩む。カナエちゃんだって一人で悩んだ結果なんだろうな。だからこそ、それに答えて上げる必要があるんだよ。さてと、待たせちゃ悪いし、オレは行って来るからな」
クウコの肩をポンポンと叩いて、オレは炎の壁の向こう側へいるカナエちゃんへ向き直る。
「クウコ。悩みながらでいい。オレとカナエちゃんの戦いは見ておくんだぞ。きっとそこに、クウコがどうしたいのかって気持ちを見付けられるだろうから」




