ヒッサツワザ
「第七百五十一回、スライム情報局始まるよー。ごっつぁんですっ」
野太い声でオレがいつもの挨拶をした。
ごっつぁんです、は勝手にくっつけたけど。
『クマはお呼びじゃないし』
『オレのくーちゃんを返せ』
『それだと始まらない』
クウコのテンションがガタ落ちなので、代わりに頑張ったってのに散々な言われ様だ。
「おい、クウコ。オレじゃダメみたいなんだが……」
「…………もっと可愛らしく、媚るように言わないとダメなの」
「そんな思いで言ってたのかよ……」
初耳である。
「そうなの。クウコは可愛いから何をしても許されるの」
『激カワヨ』
『おじさんが何でも買ってあげよう』
『ハイエース案件』
コイツ等も同じゲームのユーザーだと思うと、眩暈すら感じる。
最後のコメントはヤバイ……。
「……じゃあ、頼むわ。オレじゃ始まらないらしいから」
「仕方ないの。乗り気じゃないけど、がんばるの」
乗り気じゃないとかってぶっちゃける生配信者、見た事無いぞ。
配信者としてどうかと思う。
運営とひと悶着起こして騒動に発展し、運営と決別するヤツだ。
「一度仕切り直しをするの」
と言って、一回画面をオフにし、三秒程の間を取ってから画面をオン。
陽気なBGMと共に。
「第千四百十五回、スライム情報局、はーじーまーるよー、なのっ」
「サバ読みスギィ!」
「もう適当なの」
こんな事を言ってるけど、何気にコメント欄が沸いている。
明らかにオレが挨拶した時よりもテンションが高い。
ちくしょう。
中身が男の配信者よりは効果があるって事をよくよく思い知った瞬間であり、配信者なんて職業には絶対ならない事を誓った瞬間でもあった。
オレは至って普通に働いて生きて行こう。
「お便りのコーナーなのー、ぱちぱちぱちー」
「あの、スライム情報は?」
「それはもうどうでもいいの。どうせスライムだらけなの」
酷いな……タイトル詐欺もいいところだ。
「お便りネーム。シャ○こが悪いんだよ、さんからなの」
「……そのネーム。怒られないかとても心配なんだけれど」
「カレンは気にし過ぎなの。肝が小さいの。極小なの。役に立たないの」
「極小とか役に立たないとか……肝じゃない別の話になってないかい?」
「気にするな、なの」
普通気になるでしょうよ。
「クウコさん、こんにちは。いつも配信楽しみにしています。ありがとうなのー。」
「ちょっと待って……オレへの挨拶はどこいったんよ?」
「カレンの名前は書いてないの」
「オレ泣いちゃうぞっ? 咽び泣いちゃうっ!」
大号泣もの。
「最近、自分の住んでいる地域で『ゲームは平日一時間、休日は一時間半』と言う素案が提出されています。どうにかならないものでしょうか、なの」
「……どう考えても、あの地域の人だよね……って、クウコさん? ちょっと? クウコさーん?」
「…………すやぁ」
「一瞬で寝とるっ?!」
「むにゃ……もう食べられないの~。でも、その白ノワールは頂くの」
あれだよな?
暖かいデニッシュパン生地に冷たいアイスクリームが乗ってくる甘いお菓子。
思った以上にデカイから、デザートでは無く主食になる、あれの事だろ?
マジかよ……食べられないといいつつ、それは食べられるだなんて……。
「はっ! ぐっすり夢を見ていたの」
「この一瞬の間に夢まで見るとは……もう眠りのベテランだな。で、お便りへの返信は考えたわけ?」
寝てたんだから考えちゃいないだろう。
「えーっと、ジャ○こが悪いんだよさん、クウコからの答えは……」
「って、そこに濁点付けちゃうと人物変わっちゃうからっ!」
一気にその人物から興味薄れちゃうわ……
好みの問題なので興味が強くなる人もいる……はずなので個人差はある、と擁護しておこう。
「それならば学校や会社も平日は一時間、休日は一時間半にしないとダメなの。こっちこそ本当の依存なの。みんな洗脳されちゃっているの。同じ事を一日何時間もしているなんて、それこそ病気なの」
「……クウコさん、オレ、感動した」
『名言かよ』
『次期総理決定』
『ワイ、ニート、非洗脳民』
コメントしている方々の事はさておき、クウコが何とも素晴らしい事を言ったと思う。
学校にしろ会社にしろ、何故みんな何時間も拘束されている事に疑問を抱かず、当たり前のように日々を送っているんだ?
ゲーム依存以上に依存しているじゃないか。
「解決したの」
まぁ、ただの屁理屈と言えば屁理屈だから、実際のところ、全く解決はしていない。
論点をずらした、と言うだけだ。
それこそ正に洗脳。
「次に行くの。リアルタイム質問コーナーなの。今日はどれを選ぼうかなぁなの」
質問の内容がポリゴン文字に置き換わり、どさどさと降り注ぐ。
「ちょっ、待った……多いっ! 多いからっ!」
「大人気なの」
何故かオレの上にだけ降り注いで来た。
クマをもっと大事にして欲しい。
「クマが埋まってしまったの。ぷくくく、今、とても上手い事を言ったの」
「…………」
言って無いだろ?
”クマ”と埋まったの”埋ま”を掛けたのだろうけれど、とても気付き難い。
「なんでもいいから早く一個選んで、オレを救出してくれ」
「んー、じゃあ、これでいいの」
ちょうどオレの頭の上にあるポリゴンコメントを取ってくれたおかげで、脱出出来た。
「で、内容は、何々……クウコさんは必殺技を撃てないのですか? だってよ。いや、無理だろ」
「無理じゃないの。出来るの」
「……冗談を」
「冗談じゃないの。何故ならクウコはお姉さんだからなのっ」
相変わらずお姉さんに拘るのか。
幼女キャラだと思い知っているはずなのに。
「それなら、とりあえず見せてみてよ」
「いいですともっなのっ!」
パワーをメテオに的なイメージで発言したんだろうか?
気にはなるが、スルーしておく。
「ダブルメテオーって言わないとダーメーなのーっ!」
「やっぱりかよ……。あー、はいはい、だぶるめておー」
超やる気無しで言っておいた。
すると。
「むー、おしおきなのっ! お姉さんビームっ! シュビッ!」
「ぎいやぁぁああぁぁぁああっすっ!」
ブイサインを閉じた形の両手を、自分の額にそっとあてた途端、オレに向かって発射された電撃光線。
プシューと音が出てもおかしくない湯気を黙々と身体から発する事になる。
「……殺す気かよ」
「どうなの? カレン、クウコのお姉さんパワーが炸裂して痺れたの」
「電撃食らえばだれだって痺れるわい……。くそぉ、クマ毛がちりちりになっちゃっただろ」
「チリックマの出来上がりなの。ぷふふー、ちょっと面白いの」
「お姉さんはちりちりになったクマだって、愛してくれるんだよっ。だからクウコはまだ全然これっぽっちもお姉さんでは無いっ!」
「そんな事ないのー、クウコは立派なお姉さんなのーっ!」
『お。このやり取りは』
『来るか?』
『いつものヤツ』
「何故ならクウコはまだまだ成長中なのっ! おっぱいも絶賛成長中なのーっ!」
「ぎゃーう、またこのっ! ふむむぐぐぐぐっ!」
『クマがおっぱいに埋まったぞー』
『そこを替われ』
『おっぱいおっぱいっ!』
出たよ、この流れ。
もうこのオチしなくて良く無い?
毎回なんなのよ、これ。
「終わりっ! もうエンディングでいいっ!」
そしてやはりここからもいつものパターン。
「またもや新曲?! って、今度はイメージビデオになってんじゃんっ!」
様々な大自然をバックにしながら、クウコが歌い上げて行く。
最早トップアイドルのようだ。
「頑張って作ったの」
「自撮りっ?! お前はもう別の人生を歩んだ方が人生バラ色だなぁっ!」
「さぁほら、今日はチリックマになってしまったから、カレンが最後を締めるの」
「は? 締めろって……どうやってさって、ナニコレっ?!」
「昔々のコメディアニメにあったあれなの? 最後の言葉を言うと、その窓がきゅっと閉じて終わるアレなの」
あー、あれね。
「はい、カンペが流れるからそれを読んで終わりにするの」
「用意いいな、おい。えーっと何々……ダメだクマ……………ってイタタタタタタタ! 顔っ、顔が挟まってるでしょっ?!」
「むー閉じれないのー」
「イテテテテテテテ! もげるっ! 顔の一部がもげるからっ!」
閉じるには閉じたが、オレの顔をがっちり挟んで閉じているので、まだ締まっていない状況。
強引に後退り顔を引っこ抜くと、ポコンと言い音が鳴り、ようやく締まった。
「ちょっとクウコさんっ! あの穴はオレより前に設置してよねぇっ!」
「とっても苦笑を誘うイイ終わり方だったのー」
苦笑じゃダメだろよ……。
そんなこんなでドタバタしつつも配信は無事に終了した。
「クウコ、お前はこの際バーチャルアイドル目指した方がいいと思うんだが? おそらくすでにトップクラス」
「そんなの当たり前なの。クウコはお姉さんだし可愛いしお姉さんだし」
二度言った。
心底お姉さんに憧れているのだと思う。
だがしかし、いかんせん、見た目、口調、言動、どれを取ってもお姉さんには届かない。
まぁ、本人が言うように胸だけは驚異的だが、そこはお姉さん関係無いわけで。
「あ、カレン。いつもよりポイントが多いの」
「どれ……うおっ、ホントだ……」
ステータスポイントは基本ポイントにプラスして、配信を閲覧したユーザーの満足度からある程度の割合が加算される仕組み。
「これはクウコがお姉さんである証拠なの。どやぁっなのっ」
「…………」
本人が満足しているようだから、そう言う事にしておこう。
でも、肯定の言葉は決して言うまい。
何故ならオレの目の前にいるのが、ただの……幼女だからである。
もう一度言おう。
ただの、幼女、だからである。
「いつもより多いけど、いつものようにスピードへポイントを振り分けっと」
「どうしてそんなにスピードばかり上げるの? 平均がイイと思うの」
「平均にしたら、最高レアに及ばないから、一点集中なんだよ」
「それなら攻撃力を上げるべきなの」
「上げても当たらなければ意味が無いだろ? 防御力だってどんなに上げても、削りダメージがある以上ゼロダメージにはならない。だからスピードなんだよ」
「いまいち意図が分からないの」
「速度を上げれば回避が出来る、速度が上がれば攻撃回数を増やせる。最高レアを超える為の最善手って事」
「なるほどなのー。チリックマなのに凄いの」
「チリックマにしたのはお前だろうがーっ!」
それからオレとクウコは少し休んだ後、レベルを上げる為、単独戦線の周回プレイを励む事にした。
もちろんオレはチリックマのまま出撃。
次回ログインした時、ちゃんと直っているか不安を抱きながら……。




