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タタレタノゾミ

 単独戦線真っ最中。

「ひぃやぁぁああっ! ヤメロ、ヤメロなのぉおおぉぉっ!」

 エリアの中には、うちのお姫様の絶叫が響いている。

 状況を確認してみると、そこにはほぼ素っ裸で謎の光が服代わりにっている姿が見受けられた。

 謎の光こそが服であり、ファッションの最先端だと錯覚する程に。

 あの謎の光……どれだけ高精度なんだよ……。

 ほとんど光状態になってしまうコンシューマーゲームと違って、見えると問題になる一部分だけがピンポイントで隠れている。

 しかもクウコがぎゃーぎゃーと好き勝手に動き回っていても、それは寸分足りともミスをする事が無い。

 謎の光さんよ、たまにはミスしていいんですよ?

 もういっそうの事、今日は一日お休みしてもらってもいいんですっ!

 社畜よろしくきっちり働く必要は無いのっ!

 有給休暇、いっぱい残ってるでしょっ?!

「カレンーっ、助けてっ助けて欲しいのーっ!」

 お姫様からのヘルプ。

 クウコのダメージはオレが肩代わりしているから、ぐんぐんヒットポイントの数値が下降して行くので、放置ってわけにはいかない。

「こん、にゃろうがぁぁぁあっ!」

 この距離で魔法をぶっ放すとクウコに被弾する。

 自信の攻撃だけは被弾ダメージとしてカウントはされないけれど、仲間からの被弾はダメージへと換算。

 この仕様だけはベテランゲーマー向け。

 プリンセスキャラにもHPゲージが存在するのは、仲間からの被ダメージの為だ。

「カレンーっ!」

「あー、はいはいっ! 今そっち行くからっ!」

 周囲のスライムをある程度掃討し、今度はクウコに纏わり付いているスライムをクローで引き剥がしながら放り投げて対応して行く。

 放り投げたスライムへ向かって魔法を連射。

「連続魔法弾っ! にゅおおおおおおおっ!」

 一撃では仕留め切れないから、とにかく目に付いたヤツへ何度も魔法弾を叩き込む。

 オレがレアリティ1のクウコを選んだんだから、愚痴るのはお門違いと言うか、筋違いなんだろうけれど……それにしたってオレのスキルは何レベルで覚えるんだ?

 他の人はレベル20に達すると覚えるってのに。

 攻撃力〇%アップ。

 防御力〇%アップ。

 素早さ〇%アップ。

 のどれか一つを覚える事になっている。

 それは連携したプリンセスキャラによるらしい。

 未完のスキル(仮)は覚えている……とは言い難いし。

 この先レベルが上がり、未完では無くなったところで自己犠牲が有るから使えないのもまた微妙……詰まりは……覚えても意味が無い?!

 あーいやいや、オレ自身の”足”が治るのだから覚えるのは必須だ。

 そんな事を考えながらも。

「よしっ、クウコ、スライムは全部剥がしたぞっ! 後五分だから頑張れっ!」

「そうは言うけどっ裸のままで魔法を放つのは恥ずかしいのっ!」

「大丈夫だってっ! 謎の光ちゃんと出てるからっ!」

「何度も言うけど、クウコにはその謎の光が見えていないのっ!」

「オレもそっちの世界へ行きたいんだけどっ!」

「ぜっっったいにダメなのっ! 来させないのっ! 来たら次元の狭間に放り込むのっ!」

 そんな事されたら一生出て来れない気がする。

 でも、ブツブツ言いながらもクウコは自分で魔法を放ってくれている。

 よしよし、これならいつものようにクエストはクリア出来そうだ。

 単独戦線はタイムアップまで生き残るか、一定の数を倒せばクエスト達成となるので、基本的には難易度が低ければ誰でもクリアは可能。

 難易度エキスパートに行った時は……瞬殺されたっけ……。

 今の難易度はノーマル、程良い難易度の世界で調子良く魔法を放っていると、狙ったスライムへ届く前にバキン、と音を立てて魔法弾が弾き飛ばされてしまった。

「…………な、んだ? 壁?」

 でもあの壁……最近見た気がする。

 オレやクウコはあんな事出来ないけれど、あの魔法の壁とか弾き返し方……どっかで……。

「カレン。あの壁、カナエのと同じなの」

「え?」

 そう、だ……そうだよ…………壁は、カナエちゃんの強力な魔法障壁と全く同じ。

 それをスライムが使ったとでも?

 これもまたユーザーが本来知っている仕様で、知らないだけだとか?

 カナエちゃんと同じ性能だとすれば、簡単には破壊する事なんてかなわない上に、しかもオレのステータスは軒並み低い、何度攻撃を与えたら破壊出来るのか不明過ぎる……それなら、アレは無視した方が懸命だ。

 壁の無い奴等から狙って行けば、きっとだいじょう……。

「クウコさん、カレンさん、お久し振り……でも無いですよ、ね」

「?!」

「カナエ、なの……?」

 彼女はスライムの大群に混ざりながら、突如とエリア内に出現した。

 話し方とか見た目とか、確かにオレも知っているカナエちゃんだ。

 マナがいつかカナエちゃんは会いに来るって言っていたけれど、寄りによって戦闘中に来るとは、これでは落ち着いて話し合いが出来ない。

「良かったなの。心配していたの」

「……ちょい待ったクウコ」

 カナエちゃんへ近付こうと走り出したクウコの手を取り、制止させる。

「カレン、どうしたの……?」

「絶対におかしい……おかしいんだよ」

「何が、なの……?」

 不安そうな口調でオレを見るクウコに、ゆっくりと告げる。

「どうしてスライムを守ったんだ……? あいつ等は敵なんだぞ? それを守った行動が、オレには理解出来ない。カナエちゃん説明してくれないかな……」

「そうですか。では、説明します、ね。フフ」

 雰囲気がまるで違う……。

 一度しか会っていないけれど、カナエちゃんは奥ゆかしいタイプのキャラクターだった。

 でも、今は……。

「私は……”味方”ではありませんから」

「え……?」

 オレとクウコはクエスト中なのに、揃って言葉を失う。

「せっかくお話をしたいのに、周りがとても鬱陶しいですね。少し大人しくしていて貰えないでしょうか」

 オレ達に背を向けた後、片腕を左から右へ水平に薙ぎ払うと、帯状の激しい炎が空中に展開され、エリア内をオレンジ色へと染め上げる。

「…………」

「……凄いの」

 辺りのスライムが一瞬にして倒された。

 とんでもないステータス値。

 以前にもレアリティ4と共同戦線をして見た事はあったけれど、あのカナエちゃんにまさかこれ程までの能力があったとは思ってもみなかった。

「では……次はクウコさん、あなたの番です。すみませんが、私の為に……倒されてください」

 話が飛躍し過ぎだ。

 分けが分からない。

 だが、カナエちゃんの視線からは、本気であるとの意思が読み取れる。

「ま、待って、待ってくれっカナエちゃんっ! ちゃんと何が起こっているのか説明をしてくれっ!」

 クウコなんて話について来れず、自分がターゲットにされたって事すら理解していないような表情できょとんとしていた。

 くそ、何がどうなっているんだよ……。

「そうですよね。いきなり出て来られては納得出来ませんよね。けれど、クエストの終了時間がもう残り僅かですので、手短に要点だけを。あの日……みなさんと共同戦線に挑んだ時の事、覚えていますよね。ライさんが変化して、シャドウレイヤーになってしまった事を」

「あ、あぁ、うん……最近の事だからよく覚えているよ……」

「あのクエストが終わった後、私とライさんの連携は解除されていました。そして、システムから告げられた事があります。今まで有った事を無かった事にし、スタート時のセレクトキャラクターからやり直すか、このまま他のプレイヤーと連携を取るか、と」

 その会話だけでだいたい察する事が出来た。

「要するにカナエちゃんは後者を選択したんだな? そして後者を選択した場合……他のプリンセスキャラクターを……倒す必要が出て来る」

「はい、その通りです」

 マナに言わせれば、これもまた知っていて当然の仕様の一つって事なんだろうか?

「倒す必要なんてあるのか? 連携は出来ないだろうけど、カナエちゃんは今、そうやって存在しているじゃないか。クウコをわざわざ倒す必要なんて無いだろ?」

「……そうは行きません。私はもう敵側なんですよ? それはこうしてバトルフィールドだから存在出来ると言う事。これじゃあ、ただのモンスターと何ら変わりはありません」

「だから……クウコを倒して、オレと連携を取るってわけか」

「はい、その通りです」

 と、言われても、カナエちゃんの言葉を承諾する事は出来ない。

「……悪いけど、それは出来ない。オレの連携相手はクウコだ。解除が可能で、プリンセスキャラクターを選択し直す事が出来たとしても、オレは連携を解除しない」

「そう、ですよね。だからこそ、です。私達のような存在でも蔑ろにせず、優しくしてくれる。そんなカレンさんだからこそ、私は選びました」

 別にオレは誰彼構わず優しいわけじゃない。

 だからと言って、この問題が解決するかって言えば、それも違う。

「……オレがカナエちゃんの申し出を無視し続けたら?」

「それなれば、カレンさん達のクエストに私から行動してまたこうして介入するまでです」

「その言い方だと他の誰にも邪魔される事無く、決着を付けられる方法がある、と?」

「はい」

 また知らない仕様の一つか。

「クエスト受注に特殊枠として、今後選択出来るようになっています。ただし連携が解除されてから120時間だけ。それ以上経過してしまうと、クエストから選択が不可能になります」

 カナエちゃんの表情に多少陰りを感じる。

 あまり良い答えは返って来ないだろうけれど、聞いておく必要はあるだろう。

「……不可能になると?」

「私はプリンセスキャラクターとして、ライさんと同じ……シャドウレイヤーへとなります」

「な……んだよ、それ……」

 滅茶苦茶だろ、こんな仕様……。

 ゲームのキャラクターだから、割り切れって事なのか?

 そんな事……簡単に出来るはずが無い。

 数種類用意された台詞を言うだけのNPCキャラクターなら、まだ選択する為に悩む事は出来る。

 けど、カナエちゃんも、そしてクウコも……この世界のプリンセスキャラクターは同じ台詞を繰り返すだけのNPCとは大きく違う。

 心の有る、気持ちをもっている人間と、何ら変わりが無いんだぞ?

 ライのように暴れまわるようになるってのか?

 だとしたら、悩むまでも無く120時間以内に、挑まなければならない……いや、120時間も無いか。

 ライがシャドウレイヤーになった日から考えると、残り48時間も有るかどうか。

 勝てる勝てないはこの際後回しにして、もし……カナエちゃんを倒したその先は…………。

「オレ達がカナエちゃんに勝った場合は……?」

「私はレベル1から、何もかもを失った状態でセレクトキャラクターに戻ります」

「…………そんな。それじゃあ、今までの事も無かった事になっちゃうの」

 カナエちゃんの言った事を整理すると、オレ達が取れる選択肢は一つだけになる。

 カナエちゃんと戦って勝つ他無いって事だ。

 タイムアップをすれば、カナエちゃんがシャドウレイヤーになってしまう。

 だからと言ってこのままクウコを倒させる事なんて出来ない。

「カナエちゃん、他に方法は無いのか……? ここにいる全員が納得できる方法は」

「ありません。制限時間を越えて私がシャドウレイヤーになるか、私がクウコさんを倒すか、お二人が私を倒すか。みんなが幸せになれる都合の良い選択肢は用意されていないんです」

 これも仕様だって言うのかよ……。

 オレが持つ”未完のスキル”と言い、プリンセスナイトと連携が外れたプリンセスの扱いの事と言い、ここまで”重い”ゲームだったって事か?

 恐らくシャドウレイヤーになったヤツにも、それなりのペナルティが課せられていると考えて良いだろう。

 マナシステム……マナがチート行為を働いたユーザーがシャドウレイヤーになると言っていた。

 チート、いわゆる不正行為。

 運営が認めていない悪行に対して、ただシャドウレイヤーってヤツになるだけに止めておくとは思えない。

 アレに変化したのであれば、単純に別アカウントを作って新規プレイを始めるとか、もうこのゲームをプレイしないって選択で回避出来るのだから、オレのスキルやカナエちゃんの扱いを鑑みるとそんな簡単な方法で回避出来るような、悪行を働いたユーザーを放って置くとは考えられない。

「一つ、手短な方法があるとすれば……。クウコさん自身で、カレンさんとの連携を外してください」

「な……?!」

「知っていますよね? ゲーム開始時のチュートリアルで説明されているのだから」

 確かに知っている。

 カナエちゃんの言う通り、チュートリアルで教えられた。

 それならシャドウレイヤーの事も含めて、大切な仕様の事はその時に教えおいてくれよ……簡単に割り切れるような仕様じゃなくなって来ているんだぞ。

「……悪いけれど、それは……受け入れられない。オレはクウコとこのゲームをプレイするって決めているんだ。クウコの事を、最高レアリティより強くしてやるって約束したから」

「そうですか……それならば、力ずくで私を倒すしかありませんね。けれど……」

 カナエちゃんは、数秒目を閉じてから、ゆっくり閉じた目を開く。

「お二人の力で私に勝てれば、の話ですっ!」

 カナエちゃんはつい先ほど見せた、腕を左から右へ水平に薙ぎ払う動作を取る。

「……マジ、かよ」

「…………あ、う」

 オレもクウコもそれ以上の言葉が発せられなった。

 威力が……上がっている。

 オレ達の周囲も含めて、会話している最中に再出現していたエリア内のスライム達が、あっと言う間に排除された。

 これが、最高レアリティの力。

「パートナーがいない今の私は、相手を巻き込む事を考えなくていいんですよ?」

「……加減する必要が無いって事か」

「はい、その通りです。これでもまだ、抗おうと思いますか?」

 最高レアを超える、なんて大口叩いたけれど、想定を大きく上回る能力差を目の当たりにした。

 他ユーザーの戦闘シーンは個人の配信時であったり、ランダムでユーザーのリアルタイムバトルシーンを確認出来るモード、ウォッチモードで見た事はある。

 その時も、オレ達とは明らかに能力差が違っていた事は認識していた。

 でも、実際目の前で起こった事を肌で感じるとまるで違う。

「…………」

 素のままでは明らかに届かない。

 ”未完のスキル”。

 使わなければ良いと思っていたけれど、使わないわけにはいかない、か……。

「どうされますか? 私は素直に諦めた方が懸命だと」

『今回のクエストは無事達成となります。お疲れ様でした』

「あぁ、私の攻撃でどうやらクエスト成功を達成してしまったようですね。カレンさん、クウコさん。私はあなた達をお待ちしています。見捨てて貰っても私は一向に構いませんので、よく考えて行動をしてくださいね」

 オレとクウコの気持ちなどお構いなしに、エリア内へクエスト終了のアナウンスが流れた後、カナエちゃんから一方的に告げられてマイルームへと強制移動させられた。

「…………」

 正直、クエスト達成に救われた。

 あのまま戦闘になっていたら、オレは……どう選択していただろう。

 クウコに大口叩いておいてこの様か……。

 オレは何処かで気付かない内に、これはただのゲームだ、と思っているのかもしれない。

「カレン……?」

「ん、あぁ…………クウコ。とりあえず身体洗ってきな。カナエちゃんの事はオレが考えるから」

「う、ん……。カレン」

「ん?」

「配信は、どうするの……?」

「もちろん行くよ。ステータスアップアイテム欲しいからな。支度済ませよう」

 浮かない表情で頷いたクウコは、マイルーム内に設定されたバスルームへと入って行った。

 選択肢なんて選ぶ余地が無い。

 カナエちゃんと戦って、勝つ。

 それしかクウコと一緒にゲームを続ける方法は無いのだから。

「未完のスキル……使ってでも勝つしか無い、んだよな……」

 果たして次使った時、人間として動ける状態のまま帰って来られるんだろうか。

 自己犠牲にする身体の部分は選べない。

 心臓だったり、脳だったりしたら……オレは、死ぬ…………のかもしれない。

「ふぅ、ダメだな。そんな事考えていたら、カナエちゃんには勝てやしない……。未完のスキルを使っても勝てるかどうか怪しいってのに……」

 どうしてこんな事になってしまったんだ。

 もっと気楽なゲームだったはずなのに……。

 それに、カナエちゃん。

 彼女は心からクウコと替わる事を望んでいるのだろうか?

 マイルームへ戻る直前に見たカナエちゃんの表情は、何かを告げたそうで、そしてとても哀しそうな表情だった。

 あの子はあの子なりに悩んでいるような気がする。

「それも含めて救える手立てがあればいいんだけどな……」

 カナエちゃんがオレ達の前に現れた時点で彼女は戦う事を選択した。

 となれば、戦うしか方法が無いのに、それでもオレはまだ何かすらの希望があると勝手に願っている。

 そんな希望は無く、有るのは絶望である事実を確信しながら、気付かない、気付いていない振りをする為に……。

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