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魔女っつったって、四千年も生きてりゃ、身体はしっかり老いぼれる。
そりゃ、術を使って若い身体を手に入れることはできるさ。けれど、ちまちました術を使う為に、やれ魔導書だイモリの尻尾だ豚の胃袋だ柊の枝だと準備することもいちいち面倒で。腰も鼻も曲がった、皺だらけシミだらけのよぼよぼ婆さんの姿で別に困ることがあるわけでもないし。頭はしっかりしているのだし。身の回りの世話をさせる小姓でもいれば、当分ぐうたらして暮らせるだろうと、人間の赤ん坊を拾ってきた。いや、たまたま森の奥にあるあたしの家の前に毛布に包まれて捨てられていたのを家の中に放り込んだだけなんだがね。そう、あたしゃ面倒臭がりなんだよ。
二十年も経つとその赤ん坊もすっかりデカくなって。従順に家の仕事をこなす傍ら、森で熊やら狼やらを相手にしている所為か、小姓と言うには、すっかり腕っぷしも良くなって。あたしゃ、いつかコレに討伐されちまうんじゃないかと思うようになってきたわけなんだが。
「奥様、ご相談があるのですが」
「珍しいね。何だい?」
小姓はあたしのことを[奥様]と呼ぶ。
「私も、二十歳を超えました」
「ああ、知ってるよ。月日が経つのは早いねぇ」
「そろそろ嫁を娶りたいと考えています」
「いいんじゃないかい?働き者の嫁におしよ。あたしが、夫婦共にコキ使ってやるから」
「それは無理かと思われます」
「どうしてだい?アンタ、あたしのことを見捨てるつもりかい?二十年の恩を忘れちまったのかい?全く、情けないねぇ」
「いいえ、私は決して恩を忘れたりしません。貴女にそう育てられてきたのですから」
「なら、とっとと町へ行って働き者の若い嫁を捕まえ――――」
「私は、貴女を娶りたいのです」