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1-5 魔力タンク

 強大な魔力を持っている人間であっても多くの人間は年齢と共にその魔力量が減少していくものである。しかし、魔力を一種のステータスとしている貴族にとって自身の魔力が衰えていく様は中々に耐えられるものではないのであろう。


 減っていく魔力量を補う為には、強大な魔力を持っている魔力石から魔力を得るという方法もあるが、魔力石はとても貴重なもので高位の貴族であっても滅多に手に入れる事が出来ない。そこで、簡単な手段の一つとして登場したのが、“魔力タンク”と呼ばれる貴族位ではない膨大な魔力を持った人間の魔力を無理やり奪い、自身の魔力とするやり方である。


 魔力を無理やり奪うというその行為は、“魔力タンク”の意思とは関係なく、行われている非人道的行為であり、しかしこの国で黙認されている行為であるのだ。

 “魔力タンク”と呼ばれる人間は、魔法は勿論、魔力の力の使い方さえ知らない貧しい家の幼子が金で買われていく事が多い。そして殆どの者達がそのまま人間としてではなく“魔力タンク”として、道具として生涯扱われる。その為、魔力の使い方等分からないまま、魔力が底をついてしまうか、魔力を暴走させてそのまま亡くなってしまう“魔力タンク”が大部分を占めているのだ。そして古い“魔力タンク”を失った貴族はまた他の新しい“魔力タンク”をまるで使い捨てのおもちゃの様に飼うのだ。


 勿論、この非人道的行為をおかしいと訴える者も少なからず存在している。しかし、それはこの国の貴族のごく一部しか存在しておらず、中立の立場を保っている者達も含め、それらの貴族の強みは魔力量ではないことが殆どであるため、“魔力タンク”推進派に少数派の異端だと呼ばれているのだ。



 私は、旦那様の魔力の香りがある日から甘い匂いに変わっていたのを確かに感じていた。しかし、皆を率先して先頭で率いていき、非人道的な行為等決して許さないと取り締まりを積極的にしていたこの国の将軍としての彼の姿にまさか彼自身が、非人道と呼ばれる“魔力タンク”そのものを利用していだなんて考えもしなかったのだ。


「あぁ…。」


 旦那様が去り、月明りのみが窓から差し込んでいる屋敷の通路で、ただ茫然と立ち尽くしていた私は、その残り香が消えた頃になってやっと現実に引き戻された。そして、私の視界に妖精さんが寝ている筈の部屋の扉がうっすらと開いているのが目に入ると、脚を縺れさせながらも自然と足取りは速まった。


「ッ……、妖精さん!」

 そうして、半開きの扉を乱暴に開いた先にはベットから上半身が床に放り出されている妖精さんの姿が飛び込んで来て、言葉にならない声を上げた私はただ彼女に駆け寄るしかなかった。


「あぁ、あぁ…。」


 彼女の上半身に腕を入れゆっくりと持ち上げ、そのまま私もベットに腰かけ彼女を抱き込む。恐らく首に強く手を当てられながら魔力を奪われたのだろう。真っ青な顔の彼女の顔のすぐ下の首には強く絞められたかのような手形の痣と根のような紅い魔力線がその痣を中心に広がっていた。


「妖精さん、妖精さん…!」

 魔力を奪われた直後だからであろうか。服は着ているが、初めて出会ったあの日とは比べ物にならない彼女の痛々しい姿に軽くパニックに陥ってしまった私はただ彼女の名前を誰に言うわけでもなく呟き続ける。


 昼間、私自身もこの弱弱しく青ざめている彼女をお坊ちゃまの魔力タンクとして利用しようとしていたのを思い出す。魔力を無理やり吸い取られたのであろう、屍のようにぐったりとした彼女の姿になんて惨い事を考えていたのだろうか、と自己嫌悪に陥りながら彼女を強く抱きしめ続けた私。


清癒術(パーキィ)…ッ。」

 こうして抱きしめているのにも限らず、昼間とは違い全く反応がなくぐったりとしているだけの彼女に、私は回復魔法の中で唯一使えるその呪文を唱えると、彼女に届きますようにと瞼を閉じて魔力の流れを彼女の全身に流すイメージを強く想像した。


 清癒術(パーキィ)とは、その名の通り術をかけられた者の心や身体から穢れを払い清め癒す回復呪文である。届きますようにと願った私の願いが伝わったのか、彼女の身体がぴくッと反応して私の魔力が彼女に流れ出した感覚が伝わって来た。集中を切らさずにそっと瞼を開き彼女の小さな背中を眺めながらそのまま魔法を流し続ける。


そうして、小さな身体に魔力が行き渡った感覚が伝わる頃には彼女の身体の体温を感じることが出来るようになった。また、首の後ろからではあるが、手形がうっすらと退いていったのを確認出来て、やっと息を深く吐き出す。



 彼女をベットに降ろそうと抱きしめる力を緩める。すると、

「…オオチャァ…。」

と彼女の声が聞こえたのだ。そして、確かに小さなその手で私の背中をぎゅっと掴んだ感触がした。


「お坊ちゃまと呼びたかったんですか、妖精さん…。」

 今ここにいて、この小さな妖精さんを抱きしめているのは私なのに「お坊ちゃま」と愛おしそうな音色で呟いた彼女に少しムッとしたが、小さな背中を掴む感覚に愛おしい想いが沸き、ベットに寝かすことを諦めて、私は妖精さんを抱いたままソファーへと移動して腰かける。


「おやすみなさい、妖精さん…。」

 この温かい小さな妖精さんが苦しみませんようにとおまじないの意味をこめて彼女の小さなうなじにそっと唇を落とすと彼女の手がまたぎゅっと握り返した感覚がした。なんだかこしょばゆい感じに浸りながら、私も瞼を閉じ眠りの世界へと旅立っていった。






―いやだ、いやだ。


 真っ白な空間で溶け出していた私は、急に息苦しさを感じたかと思うと渦に吸い込まれるように流され、ぐちゃぐちゃに形を変えていく。そして私を乱暴にぐちゃぐちゃに奪われていく感覚に、掴めるものもない溶けたバラバラの私は息をすることも抗う事も出来ずに痛みと気持ち悪さの中でぐるぐると溶けたまま流され続けた。


「やはり、この魔力はとても良い。」


なんだ。


 懐かしく、しかし恐ろしいと感じる音が聞こえたかと思うと衝撃が走り、やがて渦が止み、やっと息が出来るようになる。しかし、もうこの白い空間にはぐちゃぐちゃにバラバラになった私でさえ殆ど残っていない気がする。息が出来るのに、痛みと苦しさだけしか感じない空間で私はただ苦しむことしか出来ない。


―あれ?


どれくらいの時間が経ったのだろうか…。いつの間にかバラバラに溶けて欠けていた私はまた固まり、私の意識が戻って来ている。そして昼間感じたポカポカとした優しい大きな温かさに包まれていた。


ーこれは、あの“お坊ちゃま”の温かさだ…。

大きな温かさに安心してほっとしていると包む力が緩んでしまう。


 私は、一人にして欲しくなくて、もう溶け出したくなくて、“お坊ちゃま”をギュッと精いっぱい包み返した。すると“お坊ちゃま”も包んだままでいてくれて、一瞬揺れたかと思うと私に柔らかく優しい温かさが一瞬伝わって来て…。


また、ギュッと掴むことで意思を返した私は今度は溶け出すこともなく、きっとあの丸い奴みたいな私のままで、温かなその空間の中ゆっくりと意識は消えていったんだ。





「ぎゃあーーー!!ショーンと僕のフェリィがぁ!!!」

 その後、大きな音共にハッとして、次に私の視界に飛び込んできたものは、光に照らされて輝いた丸い奴の怒った顔と、良い匂いの物体を片手に持っているニヤニヤと小馬鹿にしたようなモサッとした巨人だった。


 その匂いに私からまた「ぐぅ。」と地響きのような音が響く。


「…オイシイ?」

 美味しいものなら、とりあえず私によこせ。


 私は今、明らかに欠けている、足りていないんだ。

 “お坊ちゃま”の温かさに包まれながら不敵に私は微笑んだ。


2018/09/09 読み返したらまたまた色々読みづらかったので改稿しています。内容は変化ないです◎

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