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第9話 神様を信じてみてもいいかもしれない

 さてと、結局身分証の情報はわからなかったけど、正しいアクセス(きっと正しい方法だよね)をして得た情報によると、おれは魔法障壁管理部所属らしい。

 とりあえずその部署がある場所に行けばなんとかなるだろう。


「こ、こらー、そこの不審者、おとなしくしなさい」

 なんか背後から声が聞こえる、この声は聞き覚えがあるぞ。


「べ、ベルーナ?」

「あ、あれ? ヒロさん?」


 後ろを振り向くと、見知った顔があった。

 おさげの三つあみの少女、ベルーナだ。


「なべ?」

 何言っているんだと思うかもしれないが、俺の正直な気持ちだ。

 そう、ベルーナは鍋を頭にかぶって、手に持ったお玉をこちらに向けている。


「え、いや、その、兜です」

「あ、そ、そうなんだ……」


 声の大きさが尻すぼみになったベルーナと、なんて返事をしてよいのかわからない俺。

 その言葉を最後に、お互いが固まる。


 ……違うだろ俺、鍋のことはどうでもいいんだ。そんなことが言いたいんじゃないだろ!

 そうだ、会話だ。会話をするんだ。コミュ障じゃないだろ。 


「そ、それでベルーナはなんでここに?」

「ええとですね、魔法障壁に不正なエレメンタルリンク値が検出されたみたいで、それがこの辺りなんですが……」


 ん、不正なエレメンタルリンク値……。

 なんとなく心当たりがあるような……。

 心当たりもなにも、さっき不正アクセスしたばかりだし!


「あの、ヒロさん。ここらへんで怪しい人見ませんでしたか?」


「い、いやー、見てないな。さっきからここには俺しかいなかったよ」


 って、馬鹿。

 もしここが不正な値の発信源なら、該当者が俺だけってことを言ってるのと同じじゃないか。

 自分で犯人だって言ってるようなもんだー。


 ていうか、ベルーナに隠し事をしてしまった!

 心の汚い大人でごめんよ。おじさんベルーナに嫌われたくない一心だったんだ。

 そうだ、今からでも本当のことを言うんだ。後でばれたら余計に嫌われるぞ。


「そうですか。誤報かなぁ」

 

 あぁ、言い出すタイミングが。

 ご、ごめんよベルーナ。

 誤報じゃないんだよ。


 腕を組むベルーナ。

 頭には鍋、手にはお玉なのは言うまでもないが、その神妙な表情とのミスマッチした姿もまた趣が深い。


「たまにあるんですよね。誤報。でも、誤報でもよかったです。ヒロさんに会えたんですから」

 えへへと、はにかむベルーナ。


「う、うん。俺もうれしいよ。ベルーナと会えて」

 にやけた笑いのおっさんがいる。俺だよ!


 ああ、もう誤報かどうかなんてどうでもいい。

 この笑顔さえあればな!


 ・

 ・


 都合よくそこにあったベンチに腰掛ける俺とベルーナ。


「噂で聞きましたよ。ヒロさん勇者だったんですね。最初に会ったときから只者じゃないと思ってましたよ」


「今もよくわからないんだけど、朝起きたら勇者って言われて、王様の所に連れて行かれてさ。そこで儀式みたいなのを受けたんだけど、天と地を分かつような強大な力を持った勇者じゃなくて、魔法障壁管理者っていうのらしくてさ。この城で働くことになった」


 いろいろ伝えたいことはあるけど、とりあえずは盛沢山だった今日の出来事をかいつまんで伝える。


「わあわあ、じゃあ一緒にお仕事できますね」

「一緒に?」

「そうです。魔法障壁管理者なら私の上司になりますよ」


 な、なんだってー!

 一緒に仕事だってー?

 それに、上司っていうことは役職なの? 魔法障壁管理者って。


 ちょっと落ち着け俺。いいか、世のなかそんなうまい話が転がっているわけはない。さっきもテンションアゲアゲにさせといて突き落とすイベントに遭遇したところだろ。

 確認だ確認。大事なことを確認だ!


「えっと、ベルーナ。確認するけど、ワタシ、サッキヤトワレタ。アナタ、モトモトヤトワレテル。オーケー?」

 で、俺は何が言いたいんだ?


「あはは、なんですかヒロさん。なんでカタコトなんですか。おかしい」

「いや、そのね。そんなにうまい話は無いでしょ」

「うまい話って。私と一緒に仕事をすることですか?」

「そうそう。今まで働いてきた中で可愛い女の子と一緒に働くことなんかなかったよ。そんな勝ち組の人生無かった!」


 そうだ、思い出せ。前世での職場の事を。

 あの枯れた吹き溜まりのような場所で光を失った目をしてたおっさんたちを。いや、自分もそうだったんですがね。


「またまた、可愛いだなんてお世辞がうまいですね。うまい話かどうかは別にして、一緒に働くのは本当ですよ。私も魔法障壁管理部所属ですから」


 確かにこの世界にきて最初の日にベルーナはそう言って身分証を出していた気がする。


「じゃあ、本当に。一緒に働けるの?」

「ええ、本当です」


 力強く返事を返してくれるベルーナ。

 もうこれは本当だ。そもそもベルーナが嘘をつくわけはない。


「よかった……。誰も何の説明もしてくれなくてさ。用事が済んだら一人でほっぽり出されるしさ。右も左もわからないのに、途方にくれてたところなんだ。腹も減るし。なんか食事代だけは貸してもらって食べたけど」


「そうだったんですか。じゃあここで会えたのは神のお導きですね」

 本当だよ、神様ありがとう。

 あの髭の神じゃないこの世界を管理している神様。

 俺は無神論者だったけど、この世界では神様に祈るよ。


「本当にベルーナに会えてよかった。頼りない無一文のおっさんだけど、よろしくね」


「はい! このベルーナ。一生懸命ヒロさんのお世話をさせていただきますね」

 両腕でガッツポーズをして意気込みを見せるベルーナ。

 でもなんか、発言だけ聞くと勘違いしてしまいそうだ。


「ありがとうベルーナ。本当に頼りにしてるよ」

「ヒロさんのお役に立てるなら、嬉しいです」


 ええ子や。こんなおっさんの俺に優しくしてくれるなんて。

 でもそれだけに心配だ。悪い男にだまされないかどうか。

 え、俺が悪い男だって?

 言いたいことはわかる。でも、ここは譲ってくれ。


「それじゃあヒロさん。まずは魔法障壁管理部にご案内しますね。こちらです」


「ちょ、ちょっと」

 ベルーナは俺の手を引いて、歩き出した。

 美少女に手を引かれるおっさんの図。

 はたから見たらあれだけど、まあ俺が嬉しいからいいや。

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