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第86話 ベルーナ 死す

総合評価ポイントが800ポイントを超えました。

応援ありがとうございます。


『謎が解けました。該当のアイテムはジーン4世の私物です』


 私物って、王様のエロ本ってこと!?


『その通りです。

 ジーン4世がこの地下大迷宮を作った理由は、筋肉王女エカテリンから逃れるためですが、実は他にもう一つ理由があります。

 王女と結婚した彼は彼女以外の女性と行為に及ぶ事や自分で慰めることは禁じられていました。そのため、彼女の目から逃れて自分で慰めるために、ここにはHな本などが所蔵されていたのです。

 この情報は歴史書からは削除されていますが、魔法障壁のエレメンタルリンク値に刻まれていますので間違いありません。


 それと、この地下大迷宮の解説には続きがあります。


 ある時、マスターニンシャーに命を狙われていたジーン4世は、今の我々と同様に大迷宮に逃げ込み……いえ、マスターニンシャーを大迷宮に誘い込みました。そして内部のトラップによってマスターニンシャーを追い込み、辛くも撤退させるに至りました。

 その後、迷宮の入口から丁度出て来たマスターニンシャーを、姿を消した4世を追ってきたエカテリンが仕留めた話は有名です。

 因みに、その時エカテリンにHな本の存在がバレたため、迷宮は崩壊しました。

 崩壊後の迷宮を代々の王がこっそりと少しずつ直して使っていた事は歴史書には記載されていない事実です』


 いや、思ったよりファルナジーン王家もはっちゃけてるな。

 王族だからそれが普通なんだろうか。


「もう! なんですかこの通路の多さと罠のオンパレードは。オジサマ出ていらっしゃい!」


 これが数々の術を操るマスターニンシャーを撃退したというトラップの効果か。

 さすがのキョウコも手を焼いているようだな。


「また偽物のオジサマ……。

 もういいです。分かりました。

 オジサマが出てこないというのならこちらにも考えがありますから!」


『迷宮内全体のマナ濃度が急激に減少して……ある一点に収束しています。気を付けてください』


 いや、気を付けてって言われても何をどう気を付ければいいのか。


「オジサマの場所は……。そこですね!

 桐原毘沙門天御剣流(・・・・・・・・・)、絶対無限大切断っ!」


『後方から衝撃波来ます。現在地からあと15メートルほど左に回避しなくては即死です』


 って、待って! 今一本道なの! 左右1メートルも幅は無いんだよ!


『手間がかかりますね。左手側の壁に穴をあけました。死ぬ気で回避してください』


 どっせーい!

 俺は突如壁に開いた穴に向けて全力で飛び込んだ。

 暗く先も見えないその穴に。


 直後、今まで聞いたことの無い轟音と迷宮の振動とが襲ってき、俺の体を激しく揺さぶった。


 ・

 ・

 ・


「あ、あぶねー」


 数秒前まで漆黒の闇に包まれていた俺の飛び込んだ穴は、今は地上からの太陽の光で眩しく照らされている。

 キョウコが放ったと思われる一撃は、迷宮の床を、天井を削ぎ落し、すっかり見通しをよくしてしまったのだ。


 しかしまあ間一髪。

 俺の足先数十センチの所まで衝撃波に抉り取られている。


 俺は衝撃波の通り過ぎた先に視線を向ける。

 一体どんなことをしたらこんな惨状を生み出せるのか。


「ん? あ、あれはまさか……?!」


 俺の視線の先の先、衝撃波によって破壊された先は俺の見覚えのある光景であり……それは無残な姿と成り果てていた。


 嘘だろ……何かの間違いであってくれ。


 俺が遠目に見た光景は俺の最終目的地である祭壇の間。

 そう、俺がベルーナを残してきた魔法障壁管理部の事務室だった。


 俺はその場から駆け出していた。

 背後に迫るキョウコの事を忘れて。


 衝撃波によって無理矢理作られた斜め上方へと続く道。

 天井や壁が崩落し瓦礫が足元に積みあがっているため、急げ急げと気がはやるものの一足飛びに駆けつけることが出来ないのがもどかしい。


 動悸が激しくなっていく。

 一歩ずつ近づくに連れて段々と自分の視野が狭まっていくのを感じる。


 信じたくない、何かの間違いだと言って欲しい。


 似たような部屋は沢山あるんだろ?

 最近働き始めたばかりの俺は城の構造はもちろん魔法障壁管理部がある地下の構造も全てを知っているわけではない。


 そう、あれはそんな、たまたま誰も使っていない空き部屋。


 ――ドクン


 一際(ひときわ)激しく心臓が鼓動した。


 俺はとうとうその場所へたどり着いた。

 いや、たどり着いてしまった。

 見覚えのある魔法障壁管理部に……。


 事務室は崩落した天井の瓦礫で埋まっていた。

 衝撃波は事務室の屋根を貫通する形で地上へと抜けており、事務室は直撃を免れたものの、その余波で崩れた天井に押しつぶされた形だ。

 地階とはいえ地下深くに位置する事務室は当然天井から地上までの距離も相当あり……その大量の岩盤が隙間なく事務室を押しつぶし、廊下まで溢れ出していた。


 ベルーナはこの中で待機していた。

 俺がそう指示したからだ。

 俺が……。


 いや、まだだ。もしかしたら倒れた棚とかで隙間が出来ていて生きているかもしれない。すぐにでも助け出してあげないと。


『コマンドを確認。室内の生命体反応を確認します』


 俺の思考を魔法障壁さんが拾ってくれる。


『確認終了しました。室内に生命体反応はありません』


「嘘だ! そんなはずはない! ちゃんと探してくれ!」


『……再スキャンを行います。

 …………スキャン終了しました。室内に生命体反応はありません』


「そ、そんな……」


 俺はひざから崩れ落ちた。


 ベルーナが……死んだ。

 その事が俺の心の中を支配した。


 震えながらも俺の前に出て女アサシンと戦っていたベルーナ。

 自分が作った弁当を俺がうまそうに食べるのを見て笑顔を見せたベルーナ。

 自分の失敗を嘆き、うつむいて泣いてしまったベルーナ。

 実家でルーニーさんと親子の会話をするベルーナ。

 そして……。


 俺の最後の記憶。

 俺を送り出す時の、切なそうでいて無理やり笑顔を作ったような、涙混じりの表情のベルーナ。


「オジサマ見つけましたよ。……あら、どうかされましたか?」


 俺の後方でキョウコの呑気な声が聞こえる。


「君は……」


「え?」


「君は何をやったのか分かっているのかっ!?」


 叫ばずにはいられなかった。


「何、と言われましても?」


 その返答に俺はバッと振り向いた。

 どの面を下げてそんなことを言うのかと、そう思ったからだ。


 すました表情のキョウコ。

 事態が全く理解できていないに違いない。


「ベルーナを……人を殺したんだぞ!」


「誰か死んだのですか。

 とは言え、ゲームのキャラを殺したと言われても困ります。

 オジサマもやった事あるでしょう? 氷の剣(アイスソード)を手に入れるためにキャラを殺して奪ったり、冥術(シャドーサーバント)を使ってみたいがために火山を爆発させて住民を犠牲にしたり。

 それと同じことですよ」


「違うっ!! ここは異世界だ。

 ゲームの世界なんかじゃない! みんな生きているんだ!」


 俺が腹の底から放った言葉にビクっと体を震わせるキョウコ。


「そ、そんな事言われても知りません。

 例えキャラが本当に生きていたのだとしても、私の前に出てきたのが悪いのです」


「ベルーナは戦闘員じゃなかった……そうじゃなかったのに……」


「何をブツブツと言ってるんですか。そんな事よりオジサマに聞きたいことがあるのですが」


「そんな事……だと?」


 この女、この期に及んで一体何を言ってるんだ?

 俺の頭の中がドロリと怒りに侵食される。


 その怒りの矛先を、俺の目の前の小娘に定める。


 まだだ、まだだめだ。落ち着け。ゆっくりとだ。

 怒りにはちきれそうになるのをかろうじて抑えながら、俺は前へと進む。


 徐々に視界が狭まり、ぼやけてくる。

 頭痛が激しくなり警鐘を鳴らす。


「手を離してください」


 いつの間にか俺はキョウコの服の襟を掴んでいた。


「そんな事、と言ったのか? ベルーナを殺した事を、そんな事と言ったのか?」


「ええ、言いましたよ。それがどうかしましたか?」


 このっ! 

 俺はそのすかした顔に向けて手の平を振り下ろす。

 

 言葉で伝えても理解してもらえないからと言って手を出すのは、人としてやってはいけないことだ。もちろん犯罪でお縄となる最低な行為だ。


 だがそんな事(・・・・)は今の俺には問題じゃない。

 法律結構。後で裁くなりなんなりしてくれ。


 俺にはもうその覚悟はある。


 ――バチン

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