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第85話 ファルナジーン地下大迷宮

 そう、魔法障壁さんだ。

 魔法障壁管理者としての適性が低かったジーン2世がファルナと共に創り上げたサポートシステム。


 Elemental Firewall Artificial intelligence


 その名前は――


「エファ、ログインだ!」


 俺は力を込めてその名前を呼んだ。


『ログインするにはIDとパスワードを入力してください』


 聞き慣れた魔法障壁さんの声が頭の中に流れてくる。

 そしてIDとパスワード入力画面イメージが展開される。


 今はもうIDとパスワードを探して入力する必要は無い。

 エレメンタルマスターである俺は俺専用のIDとパスワードを持っているからだ。

 それももう、入力、と思うだけで自動的に入力される。


 かつて無意識で行っていたように、エレメンタルマスターの力でわざわざ障壁内の管理者権限IDとパスワードを取得してからそれを使ってログインする必要は無いのだ。


『認証しました。hello world !

 コマンドを実行してください』


 機械的で事務的な応答が返ってくる。

 さすがは魔法障壁さん、いやエファだ。


「エファ、今の状況を何とかして欲しい。出来るか?」


 とにかく案が欲しい。

 あのトンデモ勇者を撃退するための案が。


 …………


「あの……エファ……さん?」


 呼び捨てにしたからご機嫌を損ねたのだろうか。

 まったく返事が返ってこない。


『なんだかしっくりきません。無理にその名前で呼ばなくて結構です。それにその名前を呼んでいいのはジーン2世陛下だけです』


 なんか辛辣。いや、最初に出会った時から結構辛辣だった気もするけど。

 しっかし、しっくりこないとか、本当にAIなのか?


『そのようなコマンドは実装されていません』


 ……。俺の思考は即コマンドとして実行されるんだった。

 って、都合の悪い事をごまかしているだけなんじゃないのか!?


『そのようなコマンドは実装されていません』


 わかった、分かりました。俺が悪かったです。

 これからもよろしくお願いします、魔法障壁さん。


『了解しました。それではコマンドをどうぞ』


「魔法障壁さんも知っていると思うけど、今かくかくしかじかの状況だ。彼女に勝ちたいんだ」


 俺は万能コマンドかくかくしかじかを使う。

 説明を省略するときに使える便利なワードだ。


『勝率は0.000001%です』


 低っく!

 いや分かってたけどね。


「勝たなくてもいい、撃退するだけでいいんだ。何か方法は無いのか?」


『近いと思われるQ&Aを表示します。

 Q:マスターニンシャーに追われているよ。死んでしまう。どうしよう!

 A:お前はいつもいつも敵の侵入を許してけしからん。とりあえずアレだよアレ。ああ、お前はまだ知らないのか。地下大迷宮(ラビリンス)だよ!』


 そこまで聞いた瞬間、足元の地面が四角くパックリと開き、俺の足は宙を踏んでいる状態になった。


「ああああああー!」


 もちろんそんな状態を維持し続けることが出来るわけもなく、俺は落下することとなった。


「ああああああああああああああ!」


 尻が、尻が焼ける!

 

 ストンと落ちたのはわずかだけ。

 そこからは急角度の狭いトンネルの様な石造りの穴。それを滑り台のように滑り降りているという訳だ。


 時間にして1分以上。高速で滑り続けた先の出口には、見紛うこと無き地下大迷宮(ラビリンス)が広がっていた。


『ファルナジーン地下大迷宮。

 ジーン1世のひ孫である筋肉王女エカテリンとその婿ジーン4世の御代の人工物。

 作成者は魔法障壁管理者であるジーン4世とされる。


 王女エカテリンには魔法障壁管理者の資質は全く無かったため、有力貴族でそこそこ顔のいいジーン4世は魔法障壁管理のために王女と無理矢理結婚させられている。

 エカテリンはお世辞にも美人であるとは言えず、二つ名の通り筋肉ムキムキの脳筋であったとされている。

 ジーン4世はそのエカテリンに毎日子作りを求められるのが嫌で、地下大迷宮を作り上げたと伝えられている。


 ちなみに祭壇の間はその当時に作成されたもので、それまで地上で行っていた儀式を、とりあえずエカテリンから離れたい一心で地下に作ったと言われている。

 ジーン4世はこの大迷宮でマスターニンシャーを撃退している』

 

 と、魔法障壁さんの補足情報があった。


 なるほど。ここがその地下大迷宮ってやつなのか。

 一見すると、そこらかしこで道が分岐していたりして迷路のようだ。


 ちなみに迷宮というのは迷路と違って必ず一本道であることが定義されている。

 他にも、通路は振り子上に方向転換するとか、中心の傍を繰り返し通るとか、そんな条件もあるらしい。


 そういう意味では厳密にはこの地下大迷宮は迷宮ではなく迷路なんだが、今はそんな細かいことはいい。

 キョウコの魔の手から俺を救ってくれるのなら何でもよいのだ。


『ぼーっとしている暇はありません。数十秒後、同様に敵が落下してきます。ナビに従って迷宮の奥へ進んでください』


 げげっ、逃げ切ったわけじゃないのか。

 しかもあと数十秒しかないって!

 ダッシュダッシュ! 光の速さで!


 無秩序に構築されたと思われる迷宮内を魔法障壁さんのナビに従って進む。


「おじさまぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!」


 後方からキョウコの声が聞こえてきた。

 ちょっと声が上擦っている。

 あの滑り台を楽しんでいるのか、それとも……。


 追いつかれないように急いで先を進む途中、光の壁のようなものを潜り抜けた。


『身体構造のスキャンを完了しました。幻体の作成を行います』


 どうやら今のはCTスキャンみたいなものらしい。

 俺の情報を読み取って、幻体? を作って、どうするんだ?


『所定位置に幻体を配置します』


「あっ、オジサマ見つけましたよ! もう逃げられませんよ。覚悟してください」


 なるほど囮か。

 キョウコが見事に引っかかった声が聞こえてきた。


『こうかはばつぐんだ。です。さあ今のうちに先に』


 先に、と言われても、結局どこを目指せばいいんだ?


『とにかく距離を取ってください。対策を練るための時間も必要です。距離が稼げれば最終的に見えない位置からの殲滅が可能となります。最終目的地は祭壇の間です』


 祭壇の間だって?

 魔法障壁管理部の事務室じゃないか。

 そこにはベルーナが。


「オジサマ、あと1,2発よろしくお願いしますね。もう少しで完璧に掴めそうなんです。それでは、毘沙門天御剣流 九竜烈閃(きゅうりゅうれつせん)!」


 後方から崩壊音が聞こえてくる。

 あのバーサーカー、俺を見たら手当たり次第に技をぶち込むようになってしまって!


「あら、消えてしまいました。偽物ですか?」


『幻体が消滅しました。次の幻体を配置します』


 頼んだぞ。時間稼ぎにしかならんけど。


「あら、これはもしかして宝箱では?」


 なにっ! この迷宮、宝箱とか置いてるの?

 俺も気になるぞ。


『この地下大迷宮に宝箱の類は設置されていません。あるとすれば――』


「あ、あ、あ、あ、あ……。な、なんですかこれは! エッチな本です! それもなんか年代物の古ぼけた」


 Hな本だと!?

 ゲームでよくある、効果は全く無いけど子供たちの夢を膨らませるためのアイテムだ!

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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