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第83話 厨二気分が抜けきらない高校生にありがちな

「ありがとうございます。おかげで元気がでました。

 ウジウジしていてもしかたありません。

 さて、続きをやりましょう」


「えっ!?

 ちょっとまって、なんでこの展開でそうなるの?

 ファンタジーな展開なら『ヒロはキョウコの心を救い、そして争いは終わった』でハッピーエンドだよね。大団円だよね。

 ほら、もうやめよう、ね?」


「何をおっしゃっているんですか。

 心云々はともかく、(わたくし)は勇者に会いに来たのです」


「じゃ、じゃあ、もう目的は達成したでしょ」


 俺の言葉に対しキョウコは一呼吸置いて空を見上げ、そしてぐるりと周囲を見回した。


 俺にはその行為が何を意味しているのかは分からない。

 

 それで満足したのか、再びキョウコは言葉を紡ぎ始めた。


「いいえ。

 最初はただの興味本位でしたが……。


 ……ですが、もう引けません。


 オジサマを連れ帰ります。

 これは(わたくし)の目的と(わたくし)が勇者であるが故のお仕事」


 このキョウコの言葉……何か違和感を感じるぞ。

 さっきの様子からは、ただ興味本位で俺に会いに来たわけでは無さそうだった。


 それに……。


「俺を連れ帰るって、力ずくで帝国に拉致するってことか?

 それが君の願いで、望みってことなのか?」


 仕事だとも言った。

 勢力拡大している帝国が勇者の戦力を欲しがっているということだろうか。

 その可能性は大いにあると思う。

 キョウコの能力を見ても、勇者は一人で一国と戦えるほどのものだ。その勇者を他国から引き抜くことが出来れば、今まで均衡状態であったパワーバランスが一気に傾くことになる。

 もちろん俺にはそれほど影響のある力は無いのだが。


「これ以上は問答無用です」


 キョウコが臨戦態勢に入る。

 こうなってはもう話し合いには応じないだろう。

 彼女を撃退して無力化するまでは。


 俺は心を決める。

 まずはキョウコを打ち倒す。そしてこの子と話をするのだと。


「知っていますかオジサマ?

 毘沙門天御剣流びしゃもんてんみつるぎりゅうの神速の抜刀術」


 もちろん知っている、が。


 お金が無いため剣を打つ前の鉄棒を武器として使い続けた謙信は、もちろん(さや)も持っていないので、抜刀術を本編では使ったことが無いのだ。

 それ故に奥義名称とその説明だけが設定として残っているだけだ。


「そんな太く大きな剣でどうやって(さや)から抜くんだ、とか……そもそも(さや)を手にしていないから出来るわけが無い、って思っていますよね?

 それができてしまうんです」


 何かの魔法だろうか。分厚い鉄板のように大きかった剣が徐々に細くなっていき、まるで日本刀のように細く薄く、それでいて見事な刃紋を宿した姿となった。


 それに合わせて、宙に開いた空間の裂け目から(さや)が出現した。


 その(さや)に剣を納めるキョウコ。


 そしてキョウコは静かに話し始めた。


「私の実家は今では珍しい剣術道場なのです。

 父は一人娘の(わたくし)にその道場を注がせるべく、(わたくし)は幼いころから厳しくしつけられました。剣術に留まらず日常の立ち振る舞いや作法、口調まで……。

 (わたくし)はそれが大嫌いでした。

 そして、それを見て見ぬふりをする母も大嫌いでした。


 そんな辛く厳しい修行の日々の中、ふと幼馴染が読ませてくれた素浪人謙信(すろうにんけんしん)(わたくし)はハマってしまいました。

 それからは、ほんの少しだけですが漫画を読む様になりましたし、ゲームもやる様になりました。

 もちろん父に隠れてです。

 表だって父には逆らえない。かと言って家を出ることも出来ない子供。

 それが(わたくし)でした。


 ある漫画の中で、一子相伝の拳法を学んでいたけど破門になったマスクの男がいました。

 その彼が他の流派の拳法を身に付けて主人公に戦いを挑んで、ぼっこぼこにされるシーンがありました。

 とってもかっこ悪かったです。


 ですが、逆に言うとそれはすごくいいアイデアだと思ってしまったのです。

 実家の剣術である桐原流に毘沙門天御剣流の剣術を取り入れてしまうの。


 ……でも実際はうまくいきませんでした。

 なぜなら、所詮は漫画中の虚構の剣術。


 ですが、このゲームの世界(・・・・・・)では違いました。

 いくら練習しても出来なかった、毘沙門天御剣流が出来るのです。

 それは凄く素敵な事でした。


 だって、ずっと思い描いていた、実家の剣術をぐちゃぐちゃに出来るのだから!


 この世界は嫌い! 登場キャラも嫌い!

 ワタシを勝手に呼んでおいて無茶苦茶な事ばかり要求して!」


 だんだんと声のトーンを上げていったキョウコ。

 ふと、そこで言葉を止めると、先ほどと同じように空を見上げ、ぐるりに視線をやって。


「……剣術の話から逸れてしまいました」


 そして再び声量を落として話し始めた。


「実際に毘沙門天御剣流を使えるようになったとはいえ、(わたくし)は勇者であるため、この世界で(わたくし)と対等に戦える相手はいませんでした。

 せっかく使えるようになった技を試す相手がいない。

 だから同じ世界から来た本当の人間を探していました。


 そしてやっと会えたのです。本当の人間に。

 少しばかり年齢を重ねていますけど日本の事を知ってる本当の人間に。


 そして試すの。この技を。


 この技が完成すれば、その次は実家の剣術と混ぜ合わせてぐちゃぐちゃにする。

 それで、そのぐちゃぐちゃになった剣術で父を倒して、言ってやるんだ。

 「桐原流は滅びた。今ここにいるのは過去の栄光にすがる愚かな男」って……」


 言っていることはめちゃくちゃだ。

 家庭事情とか複雑なものが背景にあるのは間違いないが、結局は力に溺れてしまったということだろう。

 若い子、厨二気分が抜けきらない高校生にありがちな。


「耐えてくださいねオジサマ。

 そうでないと、(わたくし)がここまで来た意味がなくなってしまいますから」


 そこまで言うと、場の空気がひりついた。

 戦場に出た事の無い俺でも感じるようなその空気。


 繰り出されるのは、毘沙門天御剣流 九竜烈閃(きゅうりゅうれつせん)

 設定によると九つの斬撃を一度に繰り出す神速の抜刀術。


「いきますよ、毘沙門天御剣流 九竜烈閃!!」


 左足からの踏み込み。


 キョウコは知らないだろう。

 だけど俺は知っている。

 北海道編で謙信はこの技を使い、そしてライバルに撃ち破られたことを。

 そう。この技を破る方法は、左足からの踏み込み後9つの斬撃が始まる前に技の出を潰す事だ。


 見える、ここだ!

 そのタイミングとは正に今この時!


 で、どうやって潰すんだ?

 謙信のライバルは刀を持っていたけど、俺は丸腰だぞ!?

 そうだ、棒だよ棒。手に壁を出して重くなるあれ。

 えっと、技名なんだっけ、あれ、えーっと。確か、えくす――


 どうっ


 俺は避けることも守ることもなく、まともに九竜烈閃をくらった。

 知っているから防げる、というものではなかったようだ……。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

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