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第82話 俺と恭子と異世界転生

(わたくし)のためにも、簡単に死なないでくださいね」


 そんな事を言われても……。

 剣術の事は詳しく知らないが、大剣はデカいし重いし、あの姿勢からだったら横なぎの一撃が来るに違いないのだが。

 でもデカいはともかく、重いは当てにならない。

 キョウコはあの大きさの剣を棒切れのように片手で振り回すことが出来るからだ。


毘沙門天御剣流びしゃもんてんみつるぎりゅう、越後の竜落し!」


 な、なんだって、その技は……。


 一挙一動を見逃すまいと注意していた俺の目の前からキョウコの姿が消え、彼女の声だけが耳に届いた。


 セリフに驚く間もなく、空高く跳躍したキョウコの剣がおれの頭上に迫る。


 無造作に振っただけの一撃で俺の魔法障壁は砕け散るんだ。

 こんなもの絶対防げないぞ。

 真正面から受けたらダメだ。

 体を動かして、少しでも動かしてっ!


 目の前を剣が通ったのが見えた気がした。


 かわせた!

 だけど、俺は知っている!

 この技は、この技の後は(・・・・・・)顎を狙って切り上げてくる!


 エビ反り、エビ反りっ!

 頭を打ってもいいから後ろに倒れ込めっ!


 脳から出る指令が体に伝わるごくわずかな時間がとても長く感じられる。


 そんな時間が過ぎ、想定どおりに後頭部を地面に打ち付けた俺。

 俺の視界には、俺というターゲットを失ったため宙を舞うキョウコの姿があった。


 セーフ! まじセーフ!

 今のは本当に三途の川が見えた気がしたぞ。

 後頭部の痛みで本当に三途の川にご招待いただけそうだが。


「さすがに避けられますか」


 技の後、スカートをはためかせて着地したキョウコ。

 もちろん俺のスーパーアイはその下の白い布を逃してはいない。


 不思議なんだけど下着を見られても気にならないんだろうか。

 もしかして見られるのが好きなタイプなんだろうか……。

 そりゃ、見せてくれるなら見せてくれるでいいんだけど、恥じらいが欲しかったりなんかして……。


 これ、後頭部の痛みで混乱しているだけだからねっ!

 シラフじゃないんだからねっ!

 

 そんな事を考えていつまでも寝そべっているわけにはいかない。寝たまま追撃をもらうことは避けたい。

 俺はもんどりを打って倒れた際の強烈な痛みをこらえて立ち上がる。


「俺を試したのか?」


「ええそうです。オジサマ知っていましたね?」


「今のは毘沙門天御剣流 越後の竜落し。そしてその後に続くのは越後の竜昇り。

 打ち下ろしと打ち上げの二段攻撃だ」


「そのとおりです。有名ですからね、素浪人謙信(すろうにんけんしん)


「ああ、幕府への士官を夢見る少年謙信が、古代インドが源流で長尾景虎が独自の解釈を入れて確立した毘沙門天御剣流を景虎の霊から森で伝授されて、数多くのライバル達と戦っていく話だ」


「そうですそうです。強敵、獅子王誠(ししおうまこと)との闘いの京都編は大盛り上がりでしたよね」


「うんうん、江戸編で最終回に幕府に士官するシーンなんか、サクセスストーリーだとわかっていても感動したぜ。

 それに、最近北海道編が始まって」


「え、なんですか北海道編とは?

 江戸編も始まったばかりで終わっていませんが」


「え、北海道編ついこの間始まったじゃないか。

 えっと、1年くらい前だったかな。平成29年」


「ご冗談を、今は平成10年ですよ」


「……………」


「えっと君、何年生まれの何歳?」


「そういえば名乗っていませんでしたね。

 (わたくし)の名前は桐原恭子(きりはらきょうこ)

 1981年生まれの16歳です。れっきとした高校生なんですからね」


「えっ、1981年生まれってことは俺よりも年上?」


 っていう風には見えない。

 彼女の姿は若く、本人が言うように16歳相応だ。

 臀部も胸部も、俺が知る日本人の標準的な、悲しいかな標準的な物だ。


「年上なわけがありません!

 どう見てもオジサマのほうが年上ですよね?

 うら若い乙女に失礼です」


 嘘は言っているようには見えない。


「そんな事を言うオジサマはどうなんですか?」


「俺は1984年生まれの35歳だ。

 ちなみに、それは前世の年齢で一度死んでるから今はわからないけど、とりあえず35歳なのは間違いない」


「えっと、ちょっと分かりません。

 オジサマは年下のオジサマで、私は年上のおばさんで……」


 ガランガラン、とキョウコの手から大剣が落ちた音が響き渡る。

 キョウコ自身もガクリと両膝を地面に付き、両手で頭を抱えている。


 混乱しているようだ。

 だけど俺のスーパーな頭脳は答えを導き出してしまった。


 この子は、過去の日本から転生してきたのだ。


 頭を抱えたキョウコは目を見開いたままブツブツと呟き始める。


「私は……学校から帰る途中に光に包まれて……気がついたら周りに怪しい宗教団体みたいな人が取り囲んでて、床には奇妙な模様が描かれてて……。

 あの人達は……あの人達は嫌いです。

 だから、日本の人を探していて……。

 ようやく見つけたと思ったら、未来の人間だなんて……。

 そんなのって……あんまりです……」


 うつむいたキョウコの目から涙が零れ落ちる。


 なんてこった。

 この少女は死んで異世界転生したのではなくて異世界召喚でこの世界に呼ばれてやって来たのだ。

 時間のズレが生まれたのは方法の違いが原因なのかもしれない。


「その、なんだ。

 元気だせよ。ネタバレが嫌なんだったら気を付けるからさ。

 ごめんな、同じ世界から来たと思って軽率だった。

 まさか時代が違うなんて。

 その、キョウコちゃん、いやキョウコさん」


「ふふっ、軽口まで叩いて励ましてくれるんですね。

 見てくれはあれでも、オジサマいい人ですね」


 見てくれはアレってひどくない?

 一応清潔感漂う見た目を気をつけてるし、体型は痩せ型だし、身長なんか長身なんだぞ?

 イケメンかといわれると、違うけどさ。


 まだ高校生の子供が急に召喚されたショックで出た言葉だと思ってまあ。大目に見るけど……ね。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

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