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第81話 ゼロ距離の攻防(on the NEBANEBA)

 俺の顔の上にはキョウコの体がある。

 もう少し詳しく表現すると、お腹。

 顔の上にはお腹がのって密着している体勢だ。

 俺の首筋にはサラサラのものが触れている。

 おそらくキョウコの髪の毛だろう。


 女子高校生との密着に心を躍らせたいところだが、そんなことは言ってられない。

 この子は俺を亡きものにしようとする狂戦士のごときだ。

 こんなゼロ距離では命がいくつあっても足りない。


「剣が……、手も、くっついて……」


 俺の頭の上方でキョウコの声が聞こえる。

 どうやら、即死は免れることが出来たようだ。


 雰囲気からするとキョウコは両手をねばねばに取られてしまったようだ。

 剣もくっついたとなるともはや俺を亡きものにする手段も限られてくる。


 でも油断してはいけない。この子は数々の俺の策を打ち破ってきたのだ。

 いまも俺を抹殺する算段をしているところかもしれない。手足が封じられたとはいえ、肘や膝など稼働する箇所はいくつもあるのだ。


 何とか抜け出さないと……。

 視界が塞がれたまま俺は手を伸ばす。

 慎重に……ねばねばに触れてしまっては元も子もない。


「ちょ、ちょっとオジサマどこ触ってるんですか!」


「え、どこ?」


 見えないんだよ。足?

 俺はむにむにと手の感触を確かめる。

 うーん、やっぱり足かな?


「お尻です! チカンです! この変態!」


 な、なにー?

 触ってみてお尻の感触だとは分かりませんでした、とは口が裂けても言えない。

 せめて太股でしょ?

 お尻ならさっきチラ見えした白い布の感触があるはずだもん。


「やめてください! なんで触り続けてるんですか!」


「ご、ごめん。本当にお尻かどうかわからなかったから確認しようと思って……」


 動かした指は布に触れることは無かった。

 そのため今も本当に自己申告のお尻なのかは分からないままだ。


「わ、ワタシのお尻を触っておきながら、そんな!」


「ま、まって、不可抗力だ。君から乗ってきたんだ。つまり俺は被害者。そう、そんな短いスカート履いているのも悪い!」


 俺の必死な言い訳。


「戦うならかっちりしたのを履くべき。あと、手が当たっただけ。揉んでいない!」


 ええい、ぴょんぴょん動き回るからチラチラと白いものが目に入って困ってたんだ。スパッツとか履いておいてくれよな!


 いや、嘘です。綺麗ごと言いました。

 本当は見えて嬉しかったです。

 あ、でもスパッツも好きですよ?


「ちょ、ちょっと、お腹に息を吹きかけないでください。あふっ、鼻息、くすぐったいです、あははは」


 なんですと?

 弱点見つけたり!

 それーふー、ふー!


 俺はスカートとブレザーの隙間、シャツがずれて素肌が露出している部分めがけて息を吹きかける。


「わ、わかったわかりました。許します、許しますからやめてください」


「いや、まだだ、本当に許してくれるのか判断がつかない。やめた瞬間ボコボコにされるかもしれない! ふーふー!」


「しません、そんな事しませんから、あははは、は、はやく、止めて」


 これはもう一押しくらい出来そうだぞ。


「よし、じゃあ止めてあげるからきちんと俺の話を聞くんだぞ」


「聞きます、聞きますから、もうやめて、あははは」


 よーし、上出来だ。

 これで話し合いに応じてもらえるぞ。みたか俺の交渉術を!


「よし、いい子だ。それなら今粘着消すからな。お互い距離を取るまでは攻撃は無しだぞ?」


「あはは、はひっ、それでいいですから、はやく!」


「いいだろう、交渉成立だ!」


 俺が粘着を消した事により俺達の密着する理由は無くなった。


 キョウコはサッと体を起こし、赤くなった顔でこちらを睨んだが、それ以上何もすることなく、すたすたと歩いて行った。


 俺もその様子に注意を払いながら起き上がる。

 あくまでも口約束。破られることもあるだろうし、言った言わないの議論になることもあるだろう。


 警戒していたが特に何も起こらず、キョウコはある程度の距離を進むとそこで足を止めた。


 背中を向けているキョウコ。

 先端をリボンで結ばれた綺麗な黒髪が背中を覆っている。

 じっと見ていると吸い込まれてしまいそうになる。


 そのままの状態で少しばかりの時間が経過する。


 一体キョウコは何を考えているんだ。

 まさか俺をどうやって惨殺するか考えているんじゃなかろうな……。

 話をするって約束したけど、どのタイミングで話しかけていいものやら。


 そんなことを考えていると、キョウコはおもむろに剣を振り上げ、スッと地面に振り下ろした。


 その一撃でばかっと地面に亀裂が走った。

 轟音と衝撃波を辺りにまき散らして。


「あ、あの、キョウコさん……」


 無言でそういう事をやられると怖いのですが。


「なんでしょうか? あ、続きの催促ですね。お待たせして申し訳ございませんでした。始めましょうか」


「い、いや、ちが」


「いいえ違いません」


 え、なに言ってるのこの子!


「待った待った、話するって言ったじゃないか!」


「……(わたくし)のやる気をそぐつもりですかオジサマ。

 でも仕方ありませんね。約束しましたし……。

 (わたくし)からはお伝えするのは一つだけです。

 疑っていましたが、オジサマは本当に勇者だという事が分かりました」


「えっと、それじゃあ新情報が全くないんだけど……」


(わたくし)には必要ありません。

 オジサマが本当に勇者であるということが大切なのです。

 (わたくし)が手を抜いていたとはいえ、良く生き延びましたね。

 同じ内容でも、門の前の髭のオジサマは早々にダウンしましたのに」


 将軍との戦いも手を抜いていたの!?

 見る限りあれは本気の動きだったよ!?


「おかげで、痛た恥ずかしい思いもしましたが……それもここまでです。

 さあ続きをやりましょう。倍にしてお返しさせていただきますので」


 おおい、問答無用じゃないか。

 ぜんっぜん会話になってないし。

 もしかして会話を試みようとした俺のほうが間違っているのか?

 それとも俺の会話スキルが足りてないのか!?


「それではオジサマ、これは受けれますか?」


 キョウコが腰を落とし大剣を水平に、向かって左側に構える。

 あれが本気のキョウコの構え。今までの攻撃は手を抜いていたってのは本当だったんだ……。


(わたくし)のためにも、簡単に死なないでくださいね」

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