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第8話 銀貨2枚をトイチで借りた!

 おはようございます。

 といってもこちらの異世界では現在昼です。

 大阪ヒロです。

 雷に撃たれて死んで、異世界転生して、よくわからないうちに魔法障壁管理者なる職で雇われました。


 現在は迷子です。

 道に迷いました。


 とりあえずこれまでの事を思い出してみます……。


 玉座の間での出来事の後、誰もかまってくれないので、一人ぽつんと玉座の間にいたのですが、なんと案内ちゃんが声をかけてくれました。


「勇者よ。その服は回収させていただきます」


 だって。

 その後勇者正装を回収されて、元着ていた貧乏くさい布の服に着替えました。


 着替えの後は放逐されて、また一人になりました。

 期待上げしておいて、すごい勇者じゃないと分かったらこのありさまです。

 だけどそもそも、ド平民の俺がそんな扱いされること自体が異常なんですけどね。


 城内をうろついていたらまた牢屋に連行されそうだったので、とりあえずは城内からは出ました。


 というところで、道に迷ったというわけです。


 ・

 ・

 ・


 道に迷ったのでぶらぶら歩いていたけど、空腹を感じてきた。

 無一文だし、どこで食事したらいいのかもわからない。

 なんて心細いんだ。


「探しましたよ勇者」


 急に後ろから呼びかけられた。

 びっくりするじゃないか!


 振り向いてみると、白地の服に短めのスカートと白いブーツを履いた女の子がいた。

 先ほど玉座の間にいたハイネという魔術士の少女だ。


「さっき玉座の間にいたハイネちゃん?」


「は、ハイネちゃん!?

 ちゃんづけで呼ばないでください。

 私はもう17歳なんです。子ども扱いしないでください」


 ぷんすかと怒り出した。


「ご、ごめん。ハイネ、さん」


 とりあえずさんづけにしよう。

 俺の年齢からすると17歳も子供なんだけど、本人はえらくこだわっているようだし。


「ええ、それでいいのです。

 いくら勇者とは言え礼儀は大切です」


 ショートカットのサラサラ金髪を指ですっと流すハイネ。

 どうやら納得してくれたようだ。


「あの、俺の名前もヒロっていうんだけど。勇者勇者ってよばれても」


「ふーん。じゃあ、ヒロ」


 おっと、いきなり呼び捨てかよ。

 さすがにヒロ様と呼べとは言わないけどさ、呼び捨てはちょっと。


「あの……一応俺の方が年上なんだけど」


「わがままな勇者ですね。

 じゃあ、ヒロさん、でいいですか?」


 うむ。それでいい。

 何事も素直が一番だ。

 なんか不服そうな表情してるけど。


「それでいいよ。

 で、ハイネさんは俺に用?」


「そうです。私も忙しいので時間を取らせないでくださいね」


「いや、まあすいません」


 なんか怒られてるぞ。

 年下の女の子に怒られる俺の図。

 それはそれでご褒美かもしれないけど、そんな趣味は俺には無い。


「それで、用事というのはですね。これです」


 ハイネが手に持った袋から何かを取り出す。


「身分証、か?」


「そうです。これが無いと不審者ですからね。それではお渡ししますよ」


「ありがとう。これで牢屋に入らなくて済むぜ」


 俺は身分証を受け取ると懐にしまい込んだ。


 持ち物が布の服と身分証の二つに増えたぜ。

 そういえば、牢屋でパンは返してもらえなかったな。

 空腹の今この時にこそ役に立ったはずなのに。


「それじゃあ、お渡ししましたのでこれで」


 ハイネが踵を返して去ろうとする。


「あ、ちょ、ちょっとまって」


「何ですか? 何か聞きたいことでも?」


 明らかに不機嫌そうな顔をしている。

 だが、この後知ってる人に会えるとも限らない。


「この後俺はどうしたらいいの。どこに行ったらいいの。どこで生活したらいいの。腹が減ったんだけど、金がないの。そもそもどこで食事をしたらいいの。一人で寂しいんだけど!!」


 とりあえず片っ端から思っていることを言ってみる。


「……っ!」


 俺の勢いに押されたのか、ちょっとのけ反っているハイネ。


 一番最後のは……。

 こんなことを言うから人としての評価が下がるんだよな。

 言い換えるとモテない!


「ヒロさん。あなたいい大人なんですよね?

 自分より年下の美少女にそんなこと言って恥ずかしくないんですか?」


 ごもっとも。

 そして自分で美少女と言っているところには突っ込まない。


 でもね。俺は見知らぬ地にいるんだよ。

 訳も分からないまま命も狙われてさ。


「いや、ごめんね。見知らぬ土地で一人ぼっちでさ、心細くて」


 ほんとごめん。反省する。

 反省するけど助けてください。


「あ、その、別に嫌と言っているわけじゃないんですけど……」


 ん?


「えっと……」


 哀れな俺に同情してくれるの?


「しかたありませんね。

 それで、何を困っているんですか?

 もう一度落ち着いてゆっくり話してみてください」


 俺はとりあえず、無一文であること、腹が減ったことを説明した。


「お話は分かりました。

 残念ながら私は今仕事中なので、一緒に食事をしてあげることはできませんが、食堂の場所はお伝えできます。

 それとこれ」


 ハイネは懐から何かを取り出す。

 

 それは、お金?


「えっと、それは?」


「貸してあげますよ。

 ああ、見たことありませんか。これはこの世界のお金です。

 とりあえず銀貨を2枚お貸しします。

 これで昼と夜の2食は食べれるでしょう」


 な、なんてええ娘や。


「あ、ありがとうハイネ!」


 俺は感極まって少女に抱き着いた。


 生意気そうだなんて思ってごめん!

 ハイネも天使、大天使だよ!


「ちょ、ちょっと、こら、離れなさい! はーなーれーろー!」


 ――ぱーん


 平手打ちを食らいました。


「いい?

 いい年したおじさんが美少女に抱き着くなんて犯罪ですよ」


 正座させられて説教中です。

 反省しているので、いい年したおじさんでなくて若いお兄さんでも抱き着いたら犯罪であることは突っ込みません。


「今回は境遇に同情して訴えないけど、次は無いからね。次は牢屋行きよ!」


「はい。すいません。反省してます。ハイネが天使に見えたものでつい……」


「ハイネ、さん。でしょ」


「ハイネさん、が天使に見えたものでつい」


「二回言わなくてもいいです!」


 口調はまだ怒っているようだが、天使と言われてまんざらでもないようだ。


「おっといけない、時間が。

 そしたら銀貨、貸しておくね。食堂はああいってこういって……」


 食堂の場所の説明を受けた。

 ハイネは急いでいるようで、説明が終わるとすぐに走っていった。

 いや、最後に遠くで手を振っているぞ。

 かわいいところもあるじゃないか。


「言うの忘れてましたけど、利子は十日で一割ですからね~」


 と、遠くから聞こえた……。


 ・

 ・


 ハイネに教えてもらった食堂に行って、俺はこの世界に来て初めて暖かい食事を食べた。

 今までは牢屋で臭い飯だったからね。


 食事が済んだ後。

 やっぱり道に迷った。

 道に迷ったというか、これからいったいどうするべきなのか。

 

 今わかってることは、魔法障壁管理者に任命されたこと。

 それに身分証をもらったことだけだ。


 どこで働いたらいいのか、どんな内容の仕事をしたらいいのかは依然不明だ。

 普通は採用時に辞令をくれると思うんだが、そもそも採用自体がイレギュラーだった感もあるしな。


 そのときのエンリさんの様子を思い出す。

 王妃様と勘違いするくらい美人だったよな。

 俺にとっては雲の上の存在だよなあ。


 っと、話が脱線した。

 とにかく、後で連絡をよこすといっていた。

 で、その後に来たのがハイネだったわけで、渡されたのは身分証だけ。


「これなー」


 身分証を空にかざしてみる。

 見た目はビー玉大の小さな立方体。

 ベルーナの持っていた身分証は板状の物だったけど、人によって違うのかな?


 不思議なもんだ。

 これに情報が入ってるんだよな。

 もしかして、いろいろそこに書いてあるんじゃね?


 で、これどうやって情報見るんだ。

 ベルーナの身分証を兵士が映し出してた場面を思い出す。


 6面眺め回してみるが、スイッチのようなものはない。

 押すと映し出されると踏んだのだが。


 とりあえず手に持ってぶんぶんと振ってみる。

 もちろん変化はなかった。

 兵士は簡単にやってたけどな。


 よし念じてみよう。これはあれだ、意志の力で効果を発揮する系のアイテムに違いない。


 ぬぬぬ。


 目を閉じて念じてみる。何を念じてるのかというと、よくわからないけど。


 ぬぬぬぬ。


 お、なんかイメージが浮かんできた。

 ……壁?


『IDとパスワードを入力してください』


 これ、なんか違わね?


 とりあえず、以前も似たようなことがあったので、IDとパスワードを探すのには苦労しない。


『認証しました。管理者権限を行使できます』


 んー。なんか違うな。おれは身分証の情報を見たいだけなんだが。


『了解しました。身分証へのアタックを開始します』


 え、なに、アタックってなに?

 攻撃のことだよね。洗剤じゃないよね。


 ――ぼむっ


 音を上げて身分証が煙を吹いた。

 お、おい、これって大丈夫なのか?


『身分証へのアタックに失敗しました。

 該当機器のセキュリティ保持機能が作動し、情報がすべて削除されました』


 お、おいー。壊してどうする壊して。さっき貰ったばかりだぞ。

 怒られるだろ。それに身分証が無かったらまた牢獄だぞ?


『その質問に対する答えは用意されていません』


 え、ちょっと。自分でやっておいて、責任回避なの?


『アタックコード実行時のエレメンタルリンク値を表示します』


 え、なに、エレメンタルリンク値って。


『エレメンタルリンク値とは魔法障壁に対するありとあらゆる情報の値です』


 あ、それは答えてくれるんだ。

 エレメンタルリンク値ってのは、パソコンでいうところのログのことか。

 ログには誰が何をやったという操作の情報が記録されているのだ。


『エレメンタルリンク値を表示します』


 げ、操作者が俺になってる。

 つまり、自分で壊したという証拠になるってことじゃないこれ。消去消去。


『管理者権限で該当エレメンタルリンク値を消去しました』


 ふう。これでよしと。


 ……よしじゃない!

 結局何も進展してない。むしろ身分証が壊れて後退したよ!


 情報を知るすべが無いかなぁ。

 情報戦ってよく言われるけど、情報って大切なのね。


『管理者権限で情報の検索が可能です』


 情報の検索?

 どこから検索するのかしらないけど、何の情報の検索ができるんだ?


『何の情報を検索しますか?』


 いや、何の情報が検索できるのか知りたいんだが……。

 まあいいか。とりあえず自分の情報とか。


『大阪ヒロの情報を検索します。

 ……検索終了しました。該当は2件です』


 お、案外早いな。どれどれ。


『オオサカ=ヒロ。魔法障壁管理部所属。魔法障壁管理者。逮捕歴1回』


 え、ちょっと、逮捕歴ってなに!?

 いや、逮捕されたことはあるけど、そんな情報まで入ってるの?


『アラート!

 データベースへの不正アクセスを行っていることがばれました。

 速やかにアクセスを止めることをお勧めします』


 え、ちょっと、不正アクセス?

 どういうことだよ、ちょっと、えっと、やめるやめる。アクセス終了。


『アクセス終了しました』


 ふう、大丈夫なんだろうか。


『0.02秒遅ければアクセス元が探知されていた確率が90%を超えます』


 ちょっと、文句言ってもいい? ねえ、誰かしらないけどさ。

 不正アクセスなんて聞いてないよ。


『エレメンタルリンク値を表示しますか?』


 え、ちょっと、どういうこと?


『エレメンタルリンク値を表示します』


 この人話を聞かないタイプだ。

 とと、げ、操作者が俺になってる。

 アクセス先は、魔術士部エレメンタルコア?

 ちょっと、このログ残しといたらまずいだろ。削除削除。


『管理者権限で該当エレメンタルリンク値を消去しました』


 ふう。これでよしと。


 ……よしじゃない!

 何もよしじゃない。犯罪歴を増やすところだったぞ。

 ちょっと、ねえ。


『その質問に対する答えは用意されていません』


 もういいや。


『ログアウトしますか?』


 はいはい、ログアウトします。


『ログアウトしました。またのご利用をお待ちしております』


 なんかどっと疲れた。

 意思疎通が図れる人と仲良くなりたい……。

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