表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/90

第79話 俺の本当の職業は!

 スーパー横っ飛び!


 俺お得意の横っ飛びで何とか初撃を回避する。

 体はゴロンゴロン地面を転がることになったがそれは仕方がない。

 着ていた上着はエンリさんの手元で立派に役目を果たしているので俺の防御力は下がっており、落ちてる石とかが痛い。


 ええい、いきなり切りかかってくるなんて、やっこさん殺る気満々じゃないか!

 こんな戦闘狂に話なんか通じるわけがない。


 戦うしかないのか? やるしかないのか?

 どうやって?


 そもそも相手の間合いで戦うのは悪手だ。

 距離をとるか、動きを止めるか……。


「にゃろっ、これでもくらえ!」


 前・後・左・右、そして上方。

 俺はキョウコの周りを囲むように魔法障壁を展開する。


 これで捕獲完了だ!


「何ですかこれは?」


 すりガラスの様な半透明の魔法障壁をコンコンと大剣でノックするキョウコ。


「ふふふ、聞いたことがあるだろう。それは魔法障壁。無敵の魔法障壁だ。

 さあ大人しく投降するんだ。そこからは出られない」


「こうして、と」


 俺の決め台詞を聞いているのか聞いていないのか。

 キョウコが無造作に剣を振ったと思ったら、俺の自慢の魔法障壁はあっさりと切り裂かれてしまった。


 うそだろー?

 堅いんだよあの魔法障壁。

 ミスリルとかオリハルコンとかアダマンタイトよりも硬いんだよ?

 実際に試したことはないから自称だけど。


「隙だらけですよ?」


 虎の子を破られたショック中の俺に再び剣を振るうキョウコ。


 防御防御!

 防御に定評のある職をなめるんじゃないぞ!


 俺は自分の前に魔法障壁を構築する。


 勘の良い読者様なら、この俺が今までの俺と異なっていることがお分かりいただけるであろう。

 ほら、今までの俺ったら魔法障壁さんに頼りきりの男だったけど、今はというと自らの意思で自在に魔法障壁を展開しているだろ?


 まさに主人公たる堂々としたアクション!

 並の魔法障壁管理者ではこうは行かない。

 

 魔法障壁とは精霊の力の結晶。

 つまりこの力はファルナの力。

 ファルナジーンの魔法障壁そのものだといってもよい大精霊ファルナの力だ。

 そしてそれを見事に使いこなす俺はただの魔法障壁管理者ではない。

 いや、なかったのだ!


 俺の本当の職業はエレメンタルマスター!!

 全ての精霊を従え、人々に精霊の祝福と恩恵をもたらすスーパー勇者だ!!!


 それをファルナから告げられたのは先刻の事だ。


 俺は前世で、やたらと地面を踏みしめたくなる時があった。

 アスファルトで舗装されていない土の上や落ち葉などその上を歩き、その自然の雰囲気をアースと呼んで、アースを感じるぜ、などと乙な行為を行っていたナイスガイだ。

 そんな俺が全ての精霊さんに愛される男であるのは、もはや必然とも言える。


 ……そう、俺は自分が勇者専用職であることを知っていて、それで臆する事なくキョウコの前に躍り出たというわけだ!


 臆してないから!


 などと長々と思考を巡らせている間に、俺が展開した魔法障壁とキョウコの大剣が接触する。


 その一撃の前に、俺が自信満々に展開した魔法障壁はあっけなく崩れ去った。


 くっそ! これがバスターブレイダー!

 どんなものをも切断するという勇者専用職の力か!


 俺もエレメンタルマスターで勇者専用職のはずなんだけど!?


「攻撃してこないのですか? 死んでしまいますよ?」


 攻撃の勢いを落とさず返す剣で俺の首を狙ってくる。


 エレメンタルマスターは全ての精霊を従えるとはいえ、基本的に精霊は温厚で攻撃には向かない。良くあるファンタジーみたいに炎を出したり竜巻を生み出したりとか、精霊はそういう事はしないし出来ないのだ。

 魔法力(マナ)を生み出す精霊の力を借りて魔法障壁を構築したりするエレメンタルマスターは、言わば防御特化の職業なのだ。


 そしてこれまでのぶつかり合いで分かってしまった事なんだが……。


 【悲報】防御特化のエレメンタルマスターよりも攻撃特化のバスターブレイダーのほうが有利!


 龍の星座の男の拳と盾とがぶつかり合って砕け散ったあの漫画と違い、(キョウコの剣)(俺の魔法障壁)がイーブンの関係では無いのだ。


 現に俺は2度も3度も魔法障壁を打ち砕かれている。

 そして今、詰め将棋のように彼女の剣は俺の喉元に迫っているというわけだ。


 この切羽詰った状況でやたら長考しているとお思いだろう。

 これは走馬灯だと思っている方もいるかもしれない。


「な、なんですかこれは……」


 ふふふ、キョウコちゃん驚いているな。

 そう、俺が展開していた魔法障壁は一つではないのだよ。


「粘ついて、剣が取られる……」


 そして何度も同じ事をするほど俺も馬鹿ではない。

 展開した魔法障壁は柔らかく粘着性のある魔法障壁だ。

 それも無色透明の。


 先ほど俺の前に展開して一発で割られた魔法障壁。

 それは一目でその存在が分かるようにレンガのように色と模様をつけていた。

 そうすることで魔法障壁は目に見えるという意識付けを行い、その後に控える策に気づかれにくくする訳だ。


 俺の狙い通りキョウコは粘着性魔法障壁に気づかずに剣を振るい、まるでゴキブリホイホイにつかまったかのように、大剣が魔法障壁に引っ付いたというわけだ。


 こんな風に、俺が展開できる魔法障壁の硬度は自由自在。

 そして表面もつるつるしたりねばねばしたり出来るのだ。


 通常の管理者権限(アドミニストレータ)でも時間をかければ同じことが可能だが、エレメンタルマスターの俺は大精霊ファルナの力を十二分に発揮できるので、それもこれも一瞬で作り出せるというわけだ。


 これが勇者の力ってやつよ!


「うううううーん」


 力に任せてネバネバから剣を引っこ抜こうと(りき)んでいるキョウコ。

 ふふふ、剣がなければバスターブレイダーといえど無力。


 見えない壁と大剣の僅かな隙間に納豆のように糸が引いているのが見える。

 透明の壁から少しでも離れたらネバネバは見えるのか。なるほど。

 俺とて少し前に力について知ったところだ。いろいろと経験と知識を増やしていかねばならない。

 第2、第3のキョウコが現れた時に格好良く撃退するために。


「さて、観念してもらうぞキョウコちゃん」


 女の子の力でそのネバネバを脱出することは出来まい。

 無論ムキムキ輸送便のマッチョな兄さん方でも脱出なんて出来ない優れものだ!


「あらオジサマ、もう勝った気でおられるのですか?」


「えっ?」


 キョウコの腕が強い光を帯びていく。


 これ、良くない流れだ。

 おそらくあの光は身体強化魔法だ……。


「引いてもだめなら、もっと引いてみろ、ですよ!」

 

 キョウコは後ろを向きこちらに背中を見せると、まるで釣竿を思いっきり振って針を遠くに飛ばす動作のように、勢いよく大剣を振り切った。


 そして、べちゃん、と遠くの方で粘着質のものが堅いものにぶつかった音がした。


 …………。

 なんてことをするんだ。

 今の音、俺にはわかるけど、空中に固定されていた粘着魔法障壁がキョウコの動作でぶっこ抜かれて、その勢いのまま飛んで行って正面の建物の上の方にぶつかった音だ。

 おそらくあの建物はねちゃねちゃになっている。


 ぶんっと剣が空気を割く音が聞こえる。


「これで完全に取れましたね」


 剣に付着した血糊を払うかのように、粘液を振り払ったキョウコ。

 ニコリと笑みを浮かべた後、再び獲物を狙う鋭い目に戻った。


 もちろんその獲物とは俺の事だよ!


 俺は脱兎のごとく後方へ駆け出した。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ