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第78話 ハッタリ勇者シリーズ

「行くのじゃ?」


 背中からファルナの声が聞こえる。

 俺の背中が気に入ったのか、先程の騒動の後もずっと引っ付いている。


「ああ。ファルナはここでエンリさんを守ってくれ」


 俺が背中のファルナに手を回すと、その意図を察したファルナはその手にしがみ付く。

 その小さな体を両手で持ち上げると、ゆっくりと床に降ろした。


「それでよいのじゃ?」


 ファルナの発言の意味は、俺の戦力ダウンを心配してのことだ。

 今の俺は文字通りファルナと一体となって戦うことが出来る。

 ファルナをここに残すという事はそれが出来なくなるという事だ。


「ああ、頼んだぞ」


「ごー、よーん、さーん」


 外でカウントダウンが始まる。


 5から始まるのかよ、せっかちさん!


「ちょ、ちょっと待って!

 行くから、今生の別れかもしれないんだ!

 それくらいの情けはかけてくれ!」


 俺は大声で外に向かって呼び掛ける。


 あと1分、いや5分は欲しい……。

 出来れば行きたくないんだが……。


 なんとか俺の想いは伝わったのだろう。

 カウントダウンは止んだ。


「ほれ、こっちに来るのじゃ」


 ファルナがその小さな手のひらを広げて、両手をこちらに伸ばしている。


 これは祝福を授ける体勢だな。

 自分が傍にいられないならば、せめてこれだけでも……と、ファルナの意志が伝わってくる。


 俺は膝をかがめると、床に立つファルナに顔を近づけた。


 おおー、と辺りから声が聞こえたが、お前たちこれをうらやましいと思っているんじゃないだろうな?

 これ凄く辛いんだぞ?

 鼻から瘴気、いやマナが漏れていく時とかつーんとしてさ。


 でも背に腹は代えられない。

 今から死地に向かうのだ。


「これでよい。行ってくるのじゃ」


 ファルナが唇を離す。

 これにも大分慣れたものだ。最初は悶絶するほど辛かったのに。


「ありがとファルナ」


 ファルナに感謝を述べると俺は意を決して立ち上がる。


「あの、勇者、その、私も……」


 振り向いた先、俺の顔を見上げるエンリさん。

 すると、すっと目を閉じた。


 えっ!?

 こ、これ、もしかして、キッスですか!?

 みんなの前でエンリさんも大胆ですね、って、いやいや、本気ですか?

 いいんですか、こんな俺で!


 エンリさんの手が俺の右腕に触れた。


 あっ、そんな大胆な!


 手、温かい……。


「防御力アップの魔法をかけておきました。それと右腕の治癒と」


 っはぁぁぁぁぁ……。


 目を瞑ったのは魔法の詠唱だったのか。

 期待したよ、すごく期待したよ。

 でも、何となくこうなることは分かってたよ!


「あの、勇者?」


 俺の顔を不思議そうに見上げているエンリさん。


「い、いえ、何でもありません。ありがとうございます」


 ああ、そんなに見つめないでください。

 接吻だと勘違いしたやましい心がダメージを負いますから。


「その、お気をつけて。無事に帰ってきてください……」


 あれ? いい雰囲気だぞ。

 これはまさかのワンチャンか!


 いやまてまて、これは社交辞令だ、きっとそうだ。

 これまでの事を思い出すんだ。


 でも実際どっちなんだ、彼女いない暦イコール年齢で死んでしまった俺には判断が難しすぎる!


「じゅーきゅう、じゅーはち、じゅーなな」


 うげっ、またカウントダウンが始まった。

 さすがにしびれを切らしたのか。


「では行ってきます」


 しっかりとエンリさんに挨拶をする。

 弱気であることを悟られてはいけない。

 男の子としては強くあらねばならんのだ。


 俺は名残惜しい気持ちを振り払って、裂け目へと駆け出す。


 裂け目から外を見下ろすと、キョウコがこちらじっと見ていた。

 視線が痛い。主に心臓に。


「さあ早く降りて来てください」


「ちょ、ちょっと待って、無理無理。階段で降りるからちょっと待ってて」


 壁が壊れて外に出られるからと言って、三階から飛び降りられるかっての。

 世の中、超人ばかりだと思うなよー!


 そして俺はかっこよく別れたはずのエンリさんの横を通り過ぎ、階段を降りることになった。


 一段一段降りるごとに、地獄におわす閻魔大王へと近づいているような気がして心が沈んで行った。


 ・

 ・

 ・

 ・


「待たせたな!」


 俺は遅れたことを謝罪する。

 謝罪……なんです。


「ええ、遅いですよ。三階から階段で降りてくるだけなのに、どうしてこんなに時間がかかるんでしょうか?」


 ご機嫌斜めでいらっしゃる!

 せやかて、刃物を持った人の前に出ないといかんのやで。

 そんなにウキウキで足がステップ踏むはずがない。


「それで、いつまでそんなところに隠れているのでしょうか?

 早くこちらにおいでください」


 ぬぬぬ、出てこいとな。


 俺は今、事務棟の出口から顔だけ出して様子を窺っている状態だ。


 読者の皆様は、悠然とキョウコの前に俺が立っているイメージを頭の中に描いていたと思うが、ここで修正いただきたい。


 さっきも言ったとおり、抜き身の刃物を持った人の前に出るなんてマジ怖い。

 だから俺の今の状態も仕方がないんだよ。


 出てこいなどと、ご無体な事を言っているキョウコ。

 その彼女の表情だが、先ほどエンリさんを狙っていた時に見せていた目が血走って引きつったような表情ではなく、まあ普通の……俺を見下したような目だ。


 話は、通じそうな気もするけど……。


 うげっ、彼女が剣を振り上げたぞ!?


「隠れる場所を無くしてあげましょうか?」


 目がマジだ。

 あの子はやると言ったらやるタイプの子だ!


「分かった分かった、落ち着いて、話し合おうじゃないか」


 俺はキョウコを刺激しないように、ゆっくりと建物から出ていく。

 そして十分な距離を取ってキョウコと対峙した。


「さて、キョウコちゃんと言ったか。

 俺の名前は大阪ヒロ。この国の勇者でありバスターブレイダーだ。

 君の暴虐もここでお終いだ。

 この俺の大切断が君を倒すだろう」


 俺はいつものお決まりの大切断ポーズを取る。


 どうだ、ビビったか?

 ビビったならそのままお引き取りください。マジで。


 俺は知将!

 知恵と勇気でこの国のみんなを守るんだ!


「あら、オジサマもバスターブレイダーなんですか。(わたくし)と同じですね。気が合いそうです」


 うぐっ、本物のバスターブレイダーか。

 でっかい鉄板みたいな剣持ってるし、塔とか切り落とすし、なんとなーくそんな気がしてたんだよね。

 でも俺のハッタリ勇者シリーズのレパートリーはこれしか無かったんだ。

 次回のために違う職業のハッタリ練習もしておかないと……。


「お互いが勇者で、目と目が合ったなら、やることは一つです」


 え、ちょ、ちょっとまって?

 その大きな剣を構えて一体何をするんですかねキョウコさん。


「ま、待った待った、話し合おう。力じゃ哀しみしか生まれないよ!」


 俺の言い分にも聞く耳持たずキョウコは一足飛びで距離を詰めると、俺に向けて剣を振るった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


〇〇が可愛いかった、など感想お待ちしております!

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