表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/90

第76話 古風な感じの生キョウコ

「んん? どうしたのじゃ?」


 ふわふわと空中を漂っていたファルナが画面を覗き込んだ!

 あっかーん!

 盗撮男のレッテルを貼られてしまう!

 違うんだ俺はパンツを見たいがために画面をズームしているわけじゃないんだ。

 見たくないと言ったら嘘だけど、犯罪に手を染めてまでやるほど俺は落ちぶれてはいないんだ!


「なんじゃ、お主も気になっておったか。

 あのおなごのスカートの下、何か隠しているやもしれんと」


「へっ、あ、ああ。そうそう。

 うん。何もないね、さ、集中しよっか」


 俺はズームした画面を元の距離からの映像に戻す。


「??」


 さもいえば不自然である俺に首をかしげるファルナ。


 うん。ファルナは穢れなき精霊だからね。

 パンチラとかいう邪悪な穢れの知識はきっと持ち合わせてないんだな。

 つまりはセーフ!

 ファルナはセーフ!

 じゃあ他はというと……。


 幸い、魔術士部職員と共有している映像は違う角度のものだった。

 危うく職員全員から盗撮男のレッテルが貼られるところだった。

 盗撮男よいやぁねぇ、と女性職員から後ろ指を指されずに済んでよかった……。


 とはいえキョウコの動作には注意を払っておく必要がある。

 つまりこれは不可抗力なのだ。

 たまに遠距離から白い布が見えても不可抗力なのだ。


 俺は再び画面を注視する。

 ふと画面の中のキョウコと目が合う。

 こちらを見透かされているような気がしてドキッとした。


「マスター! 攻撃来るのじゃ!」


 えっ!?


 ピュアな男心の一瞬の隙を付かれた。

 キョウコが手に持った大剣を振ったのだ。


「座標293、651、4996に魔法障壁を新規構築っ!」


 座標はファルナから脳内に直接送られてきたとおりだ。

 言われるがままに魔法障壁を構築したけど、あの画面からすると着弾場所は……。


 刹那、振動が俺の体を襲う。

 

 やっぱりここだ、事務棟だ!

 事務棟の横っ腹っ!


 展開した魔法障壁が衝撃波を抑えているが、展開が間に合った、とは言えない。

 事務棟の外壁は攻撃によって崩れてしまった。

 だけどそれ以降の侵入を許すわけには行かない。


「間に合ったっ、けど、ファルナ、これ……」


「うむ、防ぎきれん。予想以上の攻撃じゃ」


 げげげ、無敵の魔法障壁なんだろ?


「あと20秒ほどしか持たぬ。避難急がせよ」


 20秒!?

 いや、考える前に動け、俺!


『魔術士部の人、早くその場から離れて! 俺の魔法障壁でも持って数秒だ!』


 俺は魔法障壁による館内放送で退避を呼び掛ける。


 画面の一つを階下の三階の映像に切り替える。

 三階には窓から攻撃中だった多くの魔術士たちがいる。

 その中には指揮を執るエンリさんと、その補佐をしているハイネの姿もあった。


 ハイネが上方を見上げて何かを言ってるけど、そんなことしていないで逃げて逃げて!


「マスター、障壁が破壊される。お主も避難するのじゃ」


 しまった、現場はこの真下だった!


 どっせーい!

 俺は気合十分横っ飛びをかました。


 ぐふっ、膝を机にぶつけてしまった……。


 などと思っている間に、魔法障壁は音を立てて崩れ去り、キョウコの放った一撃は先刻まで俺が座っていた場所を呑み込み、天井を貫き建物の向こう側まで貫通した。


「いちち、ファルナ、大丈夫か?」


 物凄い揺れが起こった。俺が子供のころに経験した大地震以来の恐怖だ。


「わしは大丈夫じゃ。状況把握をするのじゃ」


「わかった」


 俺はマナセグメント内の生命反応の確認をする。

 どうやら奇跡的に犠牲者はいなかったようだ。

 一階に落下した魔術士がいるようだが、侵入者撃退用に床に用意していた柔らか魔法障壁がクッションになったので無事だったようだ。


「皆大丈夫のようじゃな。

 どうするのじゃマスター。次の攻撃に備えるのじゃ?」


 今木っ端微塵に破壊されたのは咄嗟に張った魔法障壁だ。

 準備しておいたテンプレートの障壁を展開したに過ぎない。


 ファルナが言っているのは攻撃が来る度に用意したテンプレートの魔法障壁を構築するのではなく、攻撃を受ける前からもっと強度の強い魔法障壁を構築しておくかどうかということだ。

 これは事前に打ち合わせしていたことでもある。


 その方法を採る場合、常に魔法障壁を展開することになる。

 つまり、今までどおり事務棟の内側から外側に向けて攻撃を行うことが出来なくなってしまう。


 エンリさんに相談せずに勝手に進めてもよいものだろうか。

 いや、緊急事態だから現場の判断でやるべきだろうか。


「いかん、あやつが動き始めたのじゃ」


「えっ!?」


 いくつも開いていた画面は先程の攻撃ですべて閉じてしまっている。

 俺はすぐに外の様子を映す画面を開くが、灰色の砂嵐が映しだされただけだ。

 この砂嵐画面、映像を送っている部分が破壊されたのだろう。

 急いで違う角度からの映像を映し出した。


 そこにはこの事務棟の外壁を軽やかな跳躍で登ってくるキョウコの姿が映しだされていた。


「侵入されたのじゃ。魔法障壁の展開はもう間に合わん」


 くそっ、俺がもたもたしていたばかりに……。


 俺は三階の画像を映し出そうとするが、その画像も途絶えており階下の状況を確認することができない。

 ちなみにこの部屋は防音魔法がかけられており、外からの音はまったく聞こえない。

 先ほど外壁の破壊音が聞こえなかったのもそのためだ。

 つまり床に穴が開いていても階下からの声は聞こえないため、音による情報を得ることが出来ない。


 こうなったら足元に開いた裂け目から下の様子を確認するしか……。


 こっそりと顔を出し、階下の様子をうかがう俺。


「どんな様子じゃ?」


「あっ、ファルナだめ、見つかっちゃう!」


 大胆にも裂け目の真上を浮かびながら様子を窺おうとしたファルナ。

 俺は慌ててファルナの手を引っ張る。


 すると、なぜかファルナは俺の背中の上にやって来て。


 ぐえっ、首が閉まる。

 俺の首に手を回し、俺の背中から下の様子を窺っている。


 それでもいいから大人しくしておいてくれよ?


 そうして俺は再度隙間から状況を窺う。


 あれが……生キョウコ。

 この位置からじゃ後姿しか見えないけど、綺麗な黒い髪だな。

 腰まである髪の毛の先端を束ねていてそこを赤いリボンでくくっているのは古風な雰囲気もするが、さも言えばそこがチャームポイントでもある。


 って、キョウコの前にいるのはエンリさん!?

 なんでそんなところにいるの?

 護衛はどうしたの?


 え、目を閉じて、魔法の詠唱!?

 ああっ、キョウコがエンリさんに切りかかった!


 ダメだ、守らないと!

 そう思った時にはすでに飛び出していた。

 四階の床、つまりは三階の天井部分を蹴り、凶刃からエンリさんを守るために。


お読みいただきありがとうございます!


ブクマ、評価、感想、レビュー等お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ