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第73話 side キョウコ その6

 炎、激流、稲妻、それらが飛び交う王城内。


 ファルナジーン王城内を守護するのは、魔術士部近衛課の職員達。

 それに加え、有事の際には戦闘を行う事と定められている近衛課以外の魔術士部の職員達もその中に混じっている。

 つまりは魔術士部の職員すべてであり、大臣などの補佐を行う魔術士部秘書課の職員も含まれる。


 有事の際を想定し、普段から訓練を積んでいる彼ら彼女ら。

 今朝もグラウンドに集合しその訓練を行っていたのだが、突如現れた精霊ファルナによって訓練は台無しになったようだ。


 ここは城門横に建てられた事務棟。

 広報部や経理部など魔術士部以外の部署も建物内に入っており、職員達が日夜業務に当たっている建物だ。

 現在は侵入者との戦闘中であり、すでに魔術士部以外の部署の非戦闘員の退避は済んでいる。


 事務棟を含めた王城内の建物は規則的な配置をされているように見えて、実は外敵を撃退するための工夫が随所に施されている。

 この事務棟も城壁に沿って建てられており、侵入者を挟撃する役目を負っている。


 つまりは今、王城への侵入者に対して事務棟の窓から対象に向けて魔法攻撃が行われている所だ。


 その合間に銃声も聞こえる。

 こちらは軍の法務・諜報部の兵士だ。

 法廷での裁判を行う際に彼らは魔術士部と交流があり、連携も取りやすい。

 彼らは軍の詰め所がある城壁から城内に向かって発砲している。


 どうしてこのような状況になっているのかと言うと。


 王城内に侵攻した恭子は、さてどこに行けば、と辺りを見回していたところ、近衛課の職員に見つかってしまい……彼らの連携により事務棟と城壁の間の細い道に誘い込まれてしまったのだ。

 そのため、現在この場所はさながら戦地のような状況になってしまっているという訳だ。


 恭子がガルガド将軍を一瞬にして切り伏せてしまったことはすでに伝わっており、職員達は近接戦闘を避け恭子に向かって遠距離攻撃を行っている。


 上下左右を含め、四方八方から攻撃されている恭子は防戦一方だ。

 包囲網を突破しようと考え包囲の薄い部分に移動しようとすると、そこを狙い撃ちするかのように魔法と銃弾の嵐が襲ってくる。

 建物や周囲への影響などお構いなしだ。

 ここを抜かれると王のいる王宮へは目と鼻の先であるため、建物の被害を構う余裕もなく全力で殲滅を図っているためだ。


 そんな嵐の様な攻撃が行われており、恭子が倒れるのも時間の問題かと思われたのだが……恭子はすました表情でまるで舞うようにステップを踏み、全ての攻撃を回避し続けている。

 その恭子の周りを回転する二つの耳飾も恭子を守るのに一役買っている。

 次第に鼻歌が混じり始め、笑みを浮かべる恭子。


 それとは対照的に、攻撃がまったく当たらない魔術士部の面々は徐々に焦りを見せ始める。


 有事に際しての訓練は積んできたのだ。

 軍隊とも互角に戦えるだけの自負はある。


 なのにいったいどういうことなのだ。

 たった一人の少女に手玉に取られているではないか……と。


『近衛課の人、せーので上方にマジックシールド張って!』


 そんな魔術士部の職員たちに呼びかける女性の声。

 この声は魔法による通信であり、恭子には聞こえていない。


『せーの!』


 地上で恭子の迎撃にあたっている近衛課職員が攻撃を止め一斉に上部に耐魔法用のシールドを展開する。


「サンダーストーム!」


 詠唱と共に、上空から幾筋もの稲妻が降り注いだ。


 恭子と対峙する近衛課職員ごと攻撃範囲内に入る広域殲滅魔法。

 それを使ったのは、魔術士長の補佐をしているハイネだ。

 彼女は事務棟三階から戦況を伺っており、膠着する戦況の打開を図ったのだ。


 激しい轟音と共に巻き起こった砂埃。

 それが晴れた際、そこには少女の姿はなかった。

 あまりの威力の前に塵一つ残さず消え去ったのだろうか。


「さすがにあれに当たると痛そうですね」

「おまっ……」


 突如聞こえた声に視線を向けた近衛課職員は、自身に密着するほどの距離にいる敵の姿に目を疑ったが……べちん、と剣の腹で顔を叩かれて台詞の途中で崩れ落ちた。


 稲妻が降り注ぐ直前、恭子は近衛課職員の懐に入り込み、彼の張ったシールドで広域殲滅魔法をやり過ごしたのだ。

 シールドを張るために上方に注意を向ける一瞬を狙ってのことだ。


 倒れた彼に続き、瞬く間に数人の近衛課職員がその剣の前に散る。


 だが混乱も一瞬だけだ。

 事態に気づいた他の近衛課職員が恭子の攻撃後の隙を狙い遠距離魔法を打ち込み始める。


 四方から襲い来る攻撃に対し華麗にバック転をきめ、近衛課職員から距離をとる恭子。


「今さっきの稲妻魔法はそこからですね」


 くるりくるり回っていた恭子だったが、先ほどの広域殲滅魔法詠唱の声の主の位置を特定し、そこに向けて手に持った大剣を大振りにし衝撃波を放つ。


 その威力は折り紙付きであり、重武装の兵士をなぎ倒し、石造りの尖塔をも切り裂く。


「やばっ、プロテクションシールド!」


 とっさにマナで作られた盾を作成するハイネ。

 プロテクションシールドは魔術士がよく使う物理防御用の魔法だ。

 術者の錬度により盾の硬度は左右され、国内でも上位の実力者であるハイネの生み出す盾はかなりの防御力を誇る。


 だが、いかに硬度のある盾であったとしても、全てを切断すると言われるバスターブレイダーの一撃を受けきることは出来ない。


 衝撃波が事務棟に接触し側面を切り裂き、勢い留まらずハイネの小さな盾に迫る。

 もはや避けきれない。

 ハイネが覚悟を決めて目を瞑ったところで、ハイネの眼前に発生した何かが衝撃波を遮る。


 激しく火花を散らしてぶつかりあう衝撃波とその何か。


『魔術士部の人、早くその場から離れて! 俺の魔法障壁でも持って数秒だ!』


 建物内アナウンスで事務棟内に男の声が響き渡る。


「サンキュー、ヒロ!」


 ハイネは階上に視線を向けアナウンスを行った者に対し礼を述べると、その場から少しでも遠くに距離をとるため廊下の奥に向かって転がるように飛び込んだ。


 近くの職員たちも同様に急ぎその場を離れる。


 数秒後、煎餅(せんべい)が割れるように魔法障壁が崩れ落ちる。

 魔法障壁を切り裂いた残撃は止まることなく事務棟を貫通し、3階と4階にかけて大きな裂け目を作った。


 その激しい衝撃により裂け目から落下する職員が何人かいたが、彼らは落下地点で目に見えない柔らかなものに救われ、事なきを得た。


「この(わたくし)の攻撃を僅かな時間とは言え防ぐとは……、もしかしてあそこに勇者が」


長く続いたサイドストーリーも次で最後となります。

いったい恭子はどうなってしまうのか。


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