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第66話 その子は勇者のお子さんですか?

 そのエンリさんはハイネの魔法の轟音を聞きつけて様子を見にやってきたのだろうけど、今は逆効果。

 そう、危険なんです。

 

 ほら、ファルナが進路を変えてエンリさんの方向に駆け出していった。

 走っているように見えて実は空中を滑っているのだが、今はそれは問題じゃない。


「逃げてくださーい、エンリさーん!」


 俺はありったけの声で危険を伝える。


「あら、勇者にハイネ。それにベルーナさん」


 俺達の事を認識したようだが、それよりも逃げてー!


 空気を切るかのように両腕を体の斜め後ろに伸ばして滑走するファルナ。

 唇を奪おうと企む幼女が状況把握中のエンリさんに迫る。


「あら、女の子。どうしてこんなところにいるのかしら」


 エンリさんもファルナの姿を見つけたようだが、その姿が諸悪の根源であるという認識は無さそうだ。

 もはや万事休すか……。


 そしてファルナが加速したかと思うと跳躍し、エンリさんへと飛びかかった。


「まあ」


 飛来するファルナを臆することなくしっかりと胸元で受け止めるエンリさん。 


 幼子を胸に抱くその姿はまさに大地母神の異名の通りだ。

 ありがとう神様、これはなんと尊い図なんだ。


「ほほう、これはすごいのじゃ。これなら沢山入るのじゃ」


 抱き留められたファルナは、エンリさんの胸に両手を当ててぽよぽよしている。


 なんてうらやま、いや、けしからんことをしてるんだ!

 

 俺はファルナがこれ以上悪戯を働くのを阻止するためにエンリさんの元にダッシュ中。

 決して、その揺れるメロンの様子を間近で見たいがために全力を出しているのではない。


「ふふふ、甘えんぼさんなのね。

 あなたはどこから来たのですか?」

 

「わしの名はファルナ。お主にも祝福をやろう」


――ぶっちゅー


 あああ、間に合わなかった。

 ぽよぽよをもう少し続けてくれたのなら間に合ったかもしれないのに。

 もちろん間に合うとはファルナの接吻を防ぐことであって、俺がメロンが揺れるさまを網膜に焼き付けることではない。


 あ、さすがのエンリさんも目をぱちくりさせている。


 エンリさんの元に辿り着いた俺達。

 俺は息を切らせているが、それでもその光景から目が離せない。

 城の男達皆の憧れエンリさんのキスシーンなんだ。


 キスの相手が男だったならNTRという新たな負の感情が湧くかもしれないが、相手は幼女で精霊。

 仮に、いや、そう思いたいが、エンリさんがファーストキスであるのなら、ファルナが相手なのでファーストキスは守られている!


「ヒロさん!」

「ヒロ!」


 いてっ、両側から二人に腕をつねられた。

 な、なんだよ二人とも。俺は最善を尽くしたぞ。

 この体勢になって祝福をキメられてはもう打つ手がない。

 俺達はあの小さな手が顔をホールドする強さを身をもって体験している。


「おい、ファルナそこまでだ。そこまで!」


 無理にはがすとファルナは爪を立てるからエンリさんに傷を負わせてしまう。

 呼び掛けることしか出来ないんだよ。

 わかってくれベルーナ、ハイネ。


 だが俺の呼びかけにも関わらずファルナは祝福を止めようとはしない。

 あ、エンリさんは目を閉じて抗ってる。


 数十秒後、やり切った表情のファルナと、その長い長い祝福から解放されて、くたっとなって倒れそうなエンリさんの姿があった。


 崩れ落ちるエンリさんをまるで戦闘用に改良された家庭用ロボット並みのスライディングを見せて抱き留める荒業を決めた俺の姿は必ずヒロノートに書き留めておこうと思う。


 ファルナは……これ以上悪さをしないように、しっかりとベルーナが捕獲している。


「なかなかのものじゃった。

 この人の子は良い魔法障壁管理者に成れるのじゃ」


 この幼女、自分が迷惑をかけているとはこれっぽっちも思っていないな?


「う、ううん……」


 色っぽい声をだしてエンリさんの意識が戻る。


「エンリさん大丈夫ですか、うちのファルナがご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 俺は腕の中のエンリさんに誠心誠意の謝罪を行う。


「きゃあ!」


 俺に体を預けていたエンリさんだったが、ぱっと起き上がると俺と距離を取ってしまった。


 うん、まあそんなに嫌がらないでもいいんじゃないかな。

 別にいやらしい思いがあったわけじゃないし、抱き留めたのも緊急の行為だったんだし。

 でも、いい匂いがした。


「あ、その、すみません……。

 眩暈がして倒れた所を勇者が介抱して下さったのですね。

 ご迷惑をおかけいたしました」


 俯いて謝罪の言葉を述べるエンリさん。

 いつも通り目は合わせてくれないのだよ。


「いえ、こちらこそすいませんでした。

 ファルナにはきちんと言って聞かせますので。

 ほらファルナ、エンリさんにごめんなさいしなさい」


「なんでなのじゃ。わしは祝福しただけなのじゃ。悪いことはしてないのじゃ」


 なんてことだ。すでに反抗期。


「あ、あの……その子は勇者のお子さんですか?」


「え゛っ!? ち、違います違います!

 ファルナは自称大精霊で俺に絡んでくるだけなんです!」


「そうですか、よかった……」


 小さな声でぽそりとつぶやいたエンリさん。

 ちょっと後半聞き取れなかったです。


 そんなこんなでこれまでの経緯をエンリさんに説明し……一通り説明が終わった所で再びエンリさんが口を開いた。

 

「そうでした。

 勇者よ、先日は停マナを解消していただきありがとうございます。

 魔術士部を代表して御礼申し上げます」


 深々と頭を下げるエンリさん。


「いえ、魔法障壁管理者として当然の事をしたまでです」


 いてっ、ベルーナ? つねらないで?

 えっと? もしかして魔法障壁管理()じゃなくて、魔法障壁管理()と言ったから怒ってるの?

 そうだね、ベルーナも一緒に頑張ったもんね。

 ごめんね。ちょっとだけエンリさんにいい恰好したかったんだ……。


「それに悪徳商人を捕まえて大活躍だった事、ネシャートさんからお聞きしています」


 おお、ファルナジーン商工会長のネシャートさんの名前が聞けるとは。

 魔術士部にも出入りしてるのね。


 ていうか、エンリさんが俺を褒めてくれてる。

 今までそんなこと無かったから嬉しいぞ。

 最悪の第一印象を与えてしまってから嫌われているものだとばかり思ってたけど、善行を積んできたから徐々に良い印象に変わってきたのかもしれない。


 照れ隠しで鼻を指でこする俺。


「さすがは勇者ですね。

 王の前で儀式を行った時から……あなたには何かこう、秘められたものがある。そう感じていました」


 ちょっとほめ過ぎじゃない?

 まさか、こ、これはエンリさんの褒め殺し!?

 裏が、きっと何かの裏があるに違いないよ?


「なんじゃおぬし、ヒロの事好いておるのか?」


「えっ!? 私ですか?」


「そうそうお主じゃ。

 ちょうどヒロも独り身のようじゃしな。

 つがいになるのもよかろうて」


 ちょっと、ファルナ!

 エンリさんになんてことを言うんだ。

 冗談にしては辛いネタだぞ。


 

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