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第64話 大人の方と健全な交際をしてください!

「ファルナのやつ、どこに行ったんだ……」


 大量のマナを体に送り込まれた俺とベルーナは、(むせ)こんだりふらふらしたりと大変だった。

 マナ酔いと呼ばれるらしいその状態をなんとか脱して、そして勢いよく魔法障壁管理部の階段を駆け上がってきた所だ。


 ちなみにやたらと体が軽い。

 さっきまで千鳥足であったのが嘘のようだ。

 おそらく大量に取り込んだマナが体を活性化させているのだろう。


 30代になると体に無理させると後々響くので、走るにしても力をセーブしながら走るのだが、今は違う。

 長い螺旋階段も全力疾走だよ!


「ヒロさんあそこを見てください!」


 太陽光に眼鏡をきらりと光らせたベルーナが宮殿の方向を指さしている。


「あれはまさか……行こうベルーナ!」


 その方向には地面に倒れているメイドの姿があったのだ。


 普通はメイドさんは道端で倒れたりしない。

 つまりは過労による貧血か、外敵に襲われたかだ!

 もちろん外敵とは自称大精霊のファルナなんだが……。

 

 俺達は急ぎメイドに駆け寄った。


 明らかに尋常な様子ではない。

 息も荒く、額には脂汗が見てとれる。

 普段から凛としているメイドさんたちが見せることのない有様。

 

「ベルーナ!」


「はい!」


 俺は阿吽の呼吸でベルーナに指示を出す。

 ベルーナは俺の意図をくみ取って、倒れているメイドさんに触れると状況を確認しだした。


 俺の意図というのは言うまでもなく、医療行為にかこつけたセクハラだと訴えられる事を避けることだ。

 ベルーナであれば女性同士なのでそんなことは起こり得ない。


 ちなみに病人を動かしてはいけない場合もあるので、その鉄則をきちんとベルーナは守っている。

 職員であれば必ずこの手の救急医療講習を受けることになっている。

 俺も生前きちんとやりました。


「う、うう……。女の子が急に……キスしてきて……、ごほっごほっ」


 目も虚ろなメイドさんがなんとか言葉を絞り出す。


「ヒロさん!」


 その言葉を聞くや否や、こちらを見上げるベルーナ。


「うん。やっぱりファルナの仕業か……。

 それで、気持ちの悪い所申し訳ないんだが、その女の子はどっちに行ったか教えて欲しいんだけど」


 ベルーナに支えられてながらヨロヨロと立ち上がったメイドさんは宮殿の中ではなく、王城の外側へと続く道を指差した。


 ・

 ・

 ・

 ・


 メイドさんの元を後にしファルナを追う俺達。


 ヒロさん速く速く、と言わんばかりに先を行くベルーナの後ろを追う俺。

 若さがまぶしい……。


「ヒロさん大変です!」


 先行するベルーナが声を上げる。

 遅れてその場に辿り着いた俺もその惨状を確認する。


 今度は女魔術士が倒れている。

 それも複数人。


 一人は仰向けに倒れており、その上にもう一人が覆いかぶさる様に倒れている。

 そしてもう一人が地面にうつ伏せに倒れている。 


 Y字路になっているそこに倒れていたのは3人の魔術士部の女職員。

 なぜ断定出来るのかと言うと、彼女たちが身につけているのは白色の制服に短いスカートとブーツ。

 魔術士部女性職員の制服なのだ。


 ベルーナがすぐさま介抱に向かう。


 うーむ、俺達も祝福を食らってその場に足止めされていたとはいえ、ファルナが魔法障壁管理部から出ていってからそう時間がたっているわけではない。

 そんな時間で4人の犠牲者だ。

 それに彼女たちの様子からすると、長めにぶっちゅーされて倒れているようだ。


 つまり近いぞ、ホシはこの近くにいる!


 俺は周辺を見回す。

 俺の推理通りならこの辺りにファルナはいるに違いない。


 すると俺の目に奇妙な光景飛び込んで来た。

 広いグラウンドの様な場所に一列に並ぶ男達の異様な姿。


「なんだあれは……?」


 あの制服は魔術士部の男性職員か。

 イベントか何かか?

 一体なんのイベントだ……、って!


「って、あー!!」


 俺は素っ頓狂な声を上げた。


 俺の奇声に一大事とばかりに駆け付けたベルーナ。

 そのベルーナも俺と同じ光景を目にしているに違いない。


「ファルナ様です! あの列の先にいるのは間違いありません」


 そう、俺達が目にしたのは黒色のワンピーススカートを着た銀髪の幼女。

 俺達が追うファルナの姿だった。


 だがファルナをただ見つけただけで素っ頓狂な声を上げるわけはない。

 その理由は、この男達の列はもしかして……と、俺の頭をある考えがよぎったからだ。


「さあ順番じゃ。一列に並ぶがよい。

 ほれ、さっさと並ばんか。

 きちんと出来た人の子から順番に祝福を与えてやるからの」


 男達の先で身振り手振り、威勢よく指示を出している銀髪の幼女。


 やっぱりー!!

 これ、ファルナの接吻待機列だ!!!!


 ・

 ・

 ・

 

 鼻息荒く列に並ぶ男達の横を全速力で駆け抜ける俺達。


 横から、はあはあ、幼女とキスできるなんて、はあはあ、という犯罪めいた発言が聞こえてきた。


 それが耳に入ったのか、ベルーナが加速する。

 まるで短距離選手の様な見事な走りだ。

 でも、ローブのすそを踏んでこけないように気を付けてね!


「よーしよし、わしは素直な人の子は好きじゃぞ。

 それ、お主からじゃ。屈むがよい」


 げげっ、もう接吻準備に入ってるぞ。急がないと。

 ごちになります、とか先頭のガタイのいい男が言ってる声が聞こえる距離だ。


「だめでぇぇぇぇぇす!!!!」


 ファルナの小さな手が角ばった男の顔に触れ、今まさに接吻が始まろうかと言う時。

 ラグビー選手がタックルをしてボールを奪うかのように、ベルーナがファルナの体を両腕で掴むと男の魔の手から救出した。


「こら、べるうな、何をするのじゃ!

 わしは今から人の子に祝福を施すところじゃったんじゃぞ。

 これだけたくさんの人の子じゃ。つまりは祝福祭りなのじゃ」


 数秒遅れて現地に到着した俺の耳に、ファルナの抗議の声が飛び込んできた。


「だ、だめですよファルナ様。それは犯罪です!

 い、いえ、ファルナ様は精霊ですので実際には犯罪じゃないのかもしれませんが、ここに並んでる大きな男の子たちは犯罪です!」


 ベルーナがどもるのも無理はない。

 俺はまだ信じてはいないが、この銀髪の幼女は自分の事を精霊だと言う。

 それが本当だとしたら人間同士じゃないので犯罪には当たらないのではないか、という事だ。

 とはいえ、見た目幼女なのでここは声を大にしてアウトだと言いたい。


「きみ、邪魔をしないで欲しいな。

 その子がいいと言ってるのだから合意の上なんだよ。

 部外者は黙っていて欲しいな。さあ、その子を返しなさい」


 獲物をかすめ取られた先頭の男。

 とても紳士的な話し方をするが、狙っているのは幼女の唇だ。

 騙されてはいけない。


「さあ、その幼女をこちらに。

 我々はその幼女を敬愛しているのだ

 愛を阻むのは無粋というものだよ」


 そうだそうだ、と列に並んでいた他の男たちも声を上げる。

 

「だめです!

 大人の方は大人の方と健全な交際をしてください!」


 とても正論。

 だがその言葉は正論故に男達の魂をえぐるのだ。


 俺はベルーナのセリフの対象外で関係ないはずだが、まるで自分の事のようにダメージを負った。

 

 ほら、その当事者たちはワナワナと体を震わせている。

 中には膝から崩れ落ち、涙している男もいるぞ。


 気持ちは分かる、分かるよ!

 大人の女性と清い交際ができるほどの力があればこうはなっていないのだから。


「俺は!」


 男の一人が自尊心を打ち砕かれた痛みを乗り越え声を上げる。


「大人の女性よりも幼女がいいんだ!

 それが俺の正義(ジャスティス)!」


 強い漢だ。

 俺はその魂の輝きに心を奪われた。

 その男の魂の叫びを受け取ったのか、他の男達も次々と目に光が戻ってくる。


「ひ、ヒロさん……」


 その様子におびえたのか、きゅっと俺の服の袖を引っ張るベルーナ。


 そうだ。俺はベルーナを守らなくてはならない。

 この男達には深い感銘を受ける部分もあるが、今は敵同士。

 心を鬼にしてお前たちと戦おう。


「ベルーナ、逃げるよ!」


 俺はファルナを肩に担ぐと一目散にその場から駆け出した。


「ま、まて、逃がすか! 俺達の青春を奪われてなるものか!」


 目を血走らせて俺達を追いかけてくる男達。

 その執念には尊敬の念を覚える。

 俺も一歩間違えていたらそちら側の人間だっただろう。


 え、今でもそちら側だって?

 チガウヨ、オレノストライクゾーンハ、モットタカイヨ!


 そう、あくまでも今俺が肩に担いでいるのは幼女。

 さすがの俺も幼女と所帯を持つつもりは無い。

 あと10年、いや8年後であればよろしくお願いいたします。


「こりゃ、離さぬか、おっ、おっ」


 背中辺りからファルナの声が聞こえる。

 離さぬかと言いつつ暴れたりはしないファルナ。

 おっ、おっ、言ってるのは俺の走る振動がファルナのおなかに伝わっているためだろう。


「おいてけ~、おいてけ~」


 もはやゾンビか何かのようにファルナだけを見据えて追いかけてくる男達。


 おれも全力疾走でそれに応える。

 ベルーナが見ているのだ。醜態をさらすわけには行かない。


 さっきまでベルーナの後ろを走るという醜態続きだったのに、今は何故男達から逃げきれているかというとだな。

 もちろん俺が本気を出しているのもあるが、ファルナは凄く軽い。

 幼女だという事を差し引いても、牛乳パック2本分くらいの重さしかない。


 とはいえ、もともとインドア派の俺が、戦場に出る場合に備えて訓練している魔術士部の男達にかなう訳が無い。


 じわじわとその差が縮まってきていた。


「おーい、ヒロじゃん。何やってるのさ?」


 俺達の進む先から聞き覚えのある声がする。

 視線を向けた先には、俺達を追う男達と同じく魔術士部所属のハイネの姿があった。

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