第63話 穴に突起を挿してしまう人々
下手な発言で自爆するのを恐れている俺。
これ以上ベルーナの信頼度を下げるわけにはいかない。
「んー、そう言われれば似ている気もするのう。
そこの眼鏡の人の子がわしに触れる感覚に似ておる」
「えっ、私ですか?」
急に話を振られて驚いているベルーナ。
「あの、私はファルナちゃん、いえファルナ様に触ったことなんてないんですが……」
私は っていうセリフが引っかかるよベルーナ!
俺もやってないからね!?
「はてな?
お主達人の子はわしに認められて初めて、わしの分身と言ってもよい魔法障壁に触れることができるのじゃ。
そうじゃな眼鏡の人の子よ」
「あの、私はベルーナと言います。ベルーナ=アシャンティです。
確かに私達魔法障壁操作権限者は精霊様に認めて頂かなくては魔法障壁の管理はできませんが……」
ベルーナは……完全に落ちたな……。
これはファルナを大精霊だと認めてる雰囲気だ。
幼女だよ? 首をかしげる仕草なんか幼女そのものだよ?
俺はまだ認めたわけじゃないよ。
「そうか、べるうなか。よかろう。
べるうなが毎日魔法障壁に触れている感覚は寝ているわしにも伝わっておる。
べるうなはなんか温かい感じじゃった」
「ほ、ほら、ログインだよ。ね、ベルーナもやってる事だよ。
だから俺が幼女をまさぐっているとか誤解だよ。
俺のストライクゾーンはもっと高いから!」
ベルーナの誤解を解くためだとは言え、何故に俺のストライクゾーンを公表しているのだろうか。
そんな羞恥プレイにも関わらず、ベルーナの疑いの眼差しが、私はまだ納得したわけではないと訴え掛けてくる。
「本当ですか? 本当にそうですか?
じゃあそれを証明するために、今度喫茶店でケーキをご馳走してください」
「わかった。ご馳走するよ。
ね? だから俺はロリコンじゃないって信じて」
「わかりました。でも約束ですよ?
ちゃんと二人きりで行きますからね?」
「うんうん、ちゃんとベルーナと二人で行く。
約束する。絶対だ」
やった、と呟いて小さくガッツポーズを決めているベルーナ。
どうやら機嫌は直してもらえそうだ。
ケーキをご馳走する事になったが、それでベルーナの機嫌が直って疑いが晴れるなら安いものだ。
「おほん。話を戻すのじゃ。
そこのヒロが現れて無理矢理わしを触り始めたころからしばらくして、7つの封印のうちのいくつかが消えたのじゃ。
わしを無理矢理使うようなマスターじゃ。
きっと封印をなんとかすると思っておった。
じゃがな、どうもヒロからはシャキッとした感じがしなかったから心配になってな。
死なれても困るので、様子を見ては何度か力を貸してやったというわけじゃ」
シャキッとした感じじゃないとか、ひどい言われようだ。
俺は俺で頑張ってたんだよ?
大体、力を貸してもらったとはいえ、ナイフを持った男3人を相手にするのは凄い事だと思うんだよね。
などという俺の心情はどうでもよいのか、ファルナは続きを話している。
「そしてようやく数日前にすべての封印が解けたのじゃ。
マナの流れは正常に戻り、封印される前と同じ状態にもどったのじゃ」
んんん、数日前……マナの流れ。
もしかして……。
「もしかしてその封印が解けたっていうのは、壊れた領域統制中核機を交換したことか?
あれはたしか魔法障壁に流れるマナを呼び込んでマナセグメントを作成する魔法機器だ」
それにあの時……
「壊れたマナボックスの設定、というか突起物の挿し方がおかしかったってベルーナ言ってたよね」
「はい。正しい挿し方ではなかったです。もしかして……」
「ああ、おそらく誰かが、それも20年ほど前の誰かがあの突起を間違って挿したことが原因だ」
「間違った場所に突起物を挿しことによって、マナラインループが発生して膨大な量のマナが魔法障壁内を循環してしまったんですね。
それに気づくなんて、さすがはヒロさんです!」
説明ありがとうベルーナ君!
そして、いつものさすヒロ(ベルーナによる尊敬の眼差しと、さすがはヒロさんです、の誉め言葉の2段構えの意)に気を良くする俺。
おほん。
マナラインループとは、本来魔法障壁内を一定の方向に流れるマナが何らかの理由で渦を巻くように流れて滞留してしまう現象のことだ。
……とベルーナ先生から教えてもらった。
そしてなぜ俺が誰かが挿したという推理に至ったかと言うと……
人間の中には挿込口があって挿し込むものがあったらそれを挿してしまう人が一定数の割合でいるのだ。
その行為は、何か理由があって抜け落ちてしまったのではないかという善意から来るものである場合が多いので、なおの事質が悪い。
前世でもそうだった。
ある日の会社のネットワーク。
LANケーブルが落ちていたし、機器にも挿し込む穴がまだ空いていたから挿しました、ということが原因でネットワークループが起こり……その結果辺りのネットワークが全く使い物にならなくなった。
これはもう確定だ。
ファルナは封印されたのではない。
そう、善意から来る悲しい事故だったんだ……。
「おほん、封印がじゃな」
どうしても封印されたことにしたいのね。
事実を受け入れるっていうのは辛いよね。
でもそれを受け入れてこそ大人になるんだぞファルナ。
「うぐっ……」
なんだ?
封印封印と言っていたファルナが喚き声を上げて、胸を押さえて……
そして、とさりと床に倒れてしまった。
「おいファルナ、どうした大丈夫か?」
「ファルナ様!」
床に倒れたファルナはビクビクと体を痙攣させている。
ただ事ではないと悟った俺達はすぐにファルナの体を抱き起こす。
「ひ、ヒロ……」
ぼんやりとした目をしたファルナ。
弱々しく震える手を俺の顔に伸ばしてくる。
一体どうしてしまったんだ、あんなに元気だったファルナがこんなに弱ってしまって。
その手を優しく握ろうとしたその瞬間。
――ぶっちゅー
!!!!!
な、なんだってー!?
おい、なんでここで接吻なんだよ!
隙を突かれた俺は再びファルナに唇を許してしまった。
何度も言うが、これは初キッスではない。
――ちゅ~~~~~~~~~~~~~~~っ
うげげ、な、長い。
最初の接吻よりも時間が長い。
まるで、ファルナの体内のマナをすべて排出せんというばかりである。
ぐふっ、マナが、マナが溜まっていく……。
「ぷはあ、次はべるうなじゃ」
「え?」
――ぶっちゅー
油断していたのか、ベルーナもファルナに捕まって精霊の祝福を受けてしまった。
――ちゅ~~~~~~~~~~~~~~~っ
こっちも長い。
ああ、ベルーナの目に涙が滲んでいる。
すまんベルーナ、俺も今の体勢を崩すとリバースしてしまいそうで助けてあげることは出来そうにない……。
「ぷはぁ。ダメじゃ。こんなものではダメじゃ。
溢れ出すマナが抑えきれん。
もっとじゃ。もっと人の子たちに祝福を与えるのじゃ」
そう言うと、ファルナはすーっと浮遊しながら宿直室を出て行ってしまった。
ま、まてファルナ。
この辛さを他所で振りまくんじゃない……。
俺とベルーナは内からこみ上げるものにむせ込み、初動が遅れてしまったのだった。




