第62話 どうあっても封印された事にしておきたいようだ
俺はピンと来たね。
ファルナはなんかやらかして封印されたんだと。
きっとそうに違いない。
大体、気持ちよく寝ている人を起こすなんていう暴挙が許されるはずがない。
俺はまだサマードリームハーレムに戻れなかった恨みは忘れてはいないぞ。
せめてファルナが幼女じゃなくて、以前に夢で見た銀髪ボンキュッボンのお姉ちゃんなら良かったのに。
あの時は金縛りにあったみたいに動けなくてお姉ちゃんの姿は確認できなかったけど、あの色気ボイスとサラサラ銀髪はボンキュッボンのお姉ちゃんに違いない。
ファルナとお姉ちゃん、銀髪なのは共通点なんだけどな。
と思いを馳せているうちにファルナの話が再開していた。
「そもそも魔法障壁というものはな、精霊が生み出すマナをその壁内に循環させることでその力を成しえておる。精霊が生み出すマナも精霊の個体差によって多かったり少なかったりするため、魔法障壁の規模も精霊の能力によって大小規模が異なるのじゃ」
ふむふむ。それで?
一体何をやらかしたのかなファルナちゃんは。
「これだけの規模の魔法障壁を見よ。
わしがどれだけ凄い大精霊なのかわかるじゃろ」
「……それと封印がどう関係あるんだ?」
なぜ話が脱線するのか。
「せっかちなヤツじゃのう。
これだけの規模の魔法障壁にマナを循環させるのは大変だと言っておるのじゃ。
例えば人の子が魔法で身の回りに障壁を作ったりするじゃろう。
あれは人の子にすれば大層上級な魔法で、人の身としては大量のマナを消費するらしいな?
それをこの規模、それこそ街ごと包んでいるのじゃ。
それだけ大量のマナが循環しているわけじゃな。
もちろん循環と言っても永久に回り続けているわけではない。
途中で消費されることもあるが、最終的にマナは外に出て行くのじゃ」
「ふーん。それで?」
「ここからが大事な話なのじゃ!
精霊がマナを生み出すとは言え、能力以上のマナを生み出し続けると精霊はやがて消えてしまう。つまり死んでしまうのじゃ。
わし程の大精霊になるとそうそう死にはせんのじゃが、ある時わしは封印されたのじゃ」
ようやく封印の話か。待ってましたよファルナちゃん。
そもそも話が長いんだよね。
もっとこう要点だけを話してくれればいいのに。
「封印がどのような意図で施されたのかはわしにはわからぬ。
ただわかることは、ある時点から急に魔法障壁のマナの消費量が増えたという事じゃ。
普段は循環して緩やかに外に排出されるマナなのじゃが、ある日突然、まるで渦を巻くかのように激しくマナが循環するようになったのじゃ。
それは1か所2か所と徐々に増えて行き、合計7か所にもなったのじゃ。
わしは大精霊じゃが、さすがにそんなに大量のマナを生み出すのには骨が折れるのじゃ。
かといって契約があるから無理してでもマナを循環させ続けなくてはいかんのじゃ。
それからというものの、実体化することも、思考することもかなわず、すべての力をマナの生成に使い続けたのじゃ。
その意図的に作られたであろう7つの封印によってな」
「7つの封印……。一体なんの理由で……」
んー、ベルーナもそう思う?
どうやら悪さをして封印されたというよりは、魔法障壁を使うためのエネルギー源として使うためのような。
その場合悪いのはファルナじゃなくて、城の人たち、いや魔法障壁管理者が悪いのか?
当人の、いや当精霊の話だけではモヤッとしてて掴めないけど。
マナが激しく循環するようになった、それも一気にではなくて段々と、っていう点がポイントのような気がするんだが。
「封印は1か所ずつ増えていったんだろ?
7か所全部揃うまでにファルナはなんとか出来なかったのか?」
「もちろん大精霊じゃから何とか出来たのじゃ。
じゃが最初のうちはちょっと気合を入れる程度で済むマナの量じゃったから、まあいいかなって思って放っておいたのじゃ。
そうしているうちにだんだんと封印が増えていって、何か月かたった時じゃったかな。
気づいたときにはもうどうにもならんかったのじゃよ」
うんうん、恐ろしいことなのじゃ、と言わんばかりのファルナ。
腕を組み目を閉じて一人で頷いている。
「封印が完成するまでに数か月の間があったってこと?
しかも本人が封印を解くことができる状態で。
それって本気で封印するんだとしたらかなりお粗末だよな。
もしかして封印じゃないんじゃないのか?」
自分の不手際について何故かしたり顔で説明しているファルナだが、これは突っ込むしかないだろ。
むしろここで突っ込まないなんて人の道から外れているといっても過言ではない。
「はい。私もそんな気がします。
私が熟読した師匠ノートにも封印の事は書いていませんでした。
それどころかむしろ精霊様への感謝の記載が多かったです」
確かに業務引き継ぎ書である師匠ノートには精霊様という単語は多く出てきた気がする。
俺は熟読してないけどな!
あ、読めないわけじゃないよ。
ちょくちょく間を見てはベルーナ先生に文字は教わってるからな。
「人の子達が何を考えてわしを封印したのかはわからぬ」
ここまで言ってみても、この幼女はどうあっても封印された事にしておきたいようだ。
おそらくは何かの手違いだと思うけど、今は封印されたことにしておこう。
どうやらベルーナもその雰囲気を感じ取ったようだ。
「およそ20年ほどか、その状態がずっと続いていたのじゃ。
その間わしはただただマナを生み出す機械のようなもんじゃった」
うっへ、20年か。
精霊の寿命はわからないけど、俺達人間からするとうんざりする長さだ。
こんな小さななりして辛い人生、いや精霊生を送ってきたんだな……。
「生み出す機械といっても、ずっと覚醒してて辛い思いをしてたわけじゃなく、半分寝ている感じじゃったので安心せい」
俺の表情に出ていたのか、ファルナがこちらを気遣うような発言をした。
思ったより大人なのかもしれない。
精霊に子供も大人もあるのかわからないけど。
「じゃが、少し前に転機が訪れたのじゃ。
生み出す機械として寝ている状態のわしを好き勝手に触るやからが現れたのじゃ。
それがお主じゃ!」
「え゛っ?」
ビシッと俺を指さす幼女。
ちょっと待ってその言い方、やばくない?
ほら、ベルーナが不審者を見る目をしているよ。
これまでの、さすがヒロさんです、の目と全然違うよ?
「待った待った!
俺はそんな事してないし、ロリコンでもない!」
そう言ったものの、ベルーナの疑いの目は晴れない。
さっきのむせそうになるほど辛い接吻、いや精霊の祝福の事でまだ疑われてるの!?
ほら、ベルーナもされたでしょ?
俺からしたんじゃないからね?
「何を言っておる。
お主に間違いないのじゃ。
エレメンタルリンク値にも残っておる。
身動きできないわしの体を強制的にまさぐって、無理矢理力を引き出させた犯人は」
魔法障壁の操作についてのすべての記録であるエレメンタルリンク値。
つまりファルナが言っていることは……
「その、それって魔法障壁へのログインだったりしますかね……」