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第6話 寝て起きたら勇者と呼ばれるようになりました

「おい、起きろ」

 なんだ? 煩いな。


「おい、起きろ勇者」

 んー? 勇者?

 おはよう勇者よ今日は16歳の誕生日ってやつ?

 まさか異世界転生じゃあるまいし……。


 なんか、最近似たようなことがあった気が、って!!


 がばっと体を起こす。

 学習能力が無いのか、やっぱり手枷と足枷のせいで床ペロしてしまった。


「起きたか勇者。さあ行くぞ」

 この人は牢番の兵士さん。

 毎朝ご苦労様です。俺なんかを起こしに来て。


 でも、……なんか違和感がある。


「どうした勇者。腹でも痛いのか?」

 ……勇者? 聞き間違いじゃないよね。

 この人さっきから勇者って言ってるよね。

 それも俺に向かって。


「あ、あの、勇者ってなんですか?」


「はぁ? 何を言ってるんだ勇者。勇者は勇者だろ」

 えーと、回答になってないんですが……。

 もしかして一晩で俺の評価変わっちゃった?


 兵士さんが、牢屋のカギを開けて牢の中に入ってくる。


「さあ勇者よ、枷をはずしてやろう」

 んー、枷を外してもらえるのはいいんだけど、まだ他にも違和感がある。

 なんなんだろう。


 どさどさ、と手を戒める事から解放された手枷が床に落ちる。

 続いて、鉄球の付いた足枷も外される。


「ふーっ、重りを付けたままでは100%の力は出せんな!!」

 久々の躍動感。

 壁に向かって回し蹴りをしてみる。


「っ……」

 いや、回し蹴りなんてやった事ないからね。

 素人がやるからこういう事になるんだよ。

 足が、つった……。


「なにやってるんだ勇者。さあ行くぞ」


「行くって、ちょっと待ってください。足がつって……」


「おいおい、王様がお待ちなんだ。足くらいハイリカバリーの魔法でちゃっちゃっと直してくれよな」


「なんすか、ハイリカバリーって?」


「隠すな隠すな。勇者の使える高位回復魔法だろ。子供のころからおとぎ話で聞いてきたんだ。ハイリカバリーはぶっちぎれた脚もつなぎ合わせるっていう話じゃないか」


 何それ、そんな魔法があるの?

 いや異世界なんだからあっても不思議じゃないけど。

 とと、なんとか痛みが治まってきた。


「お? 歩けるか。さすがハイリカバリーだな。さあいくぞ」

 ちょっと、ハイリカバリーじゃないから。あんたの目は節穴か。

 なにもしてないだろ。魔法使ったら、こう、ぽわーっと魔力が見えたりするんじゃないのか?

 それとも何か、この世界ではそんなの見えないってのか。


 そんなこんなやり取りをしながら牢獄生活から解放された。

 どうやら今から俺は王様に会うようだ。


 ・

 ・


「それではよろしくお願いします」

「はい。お勤めご苦労様です」


 牢から出て場内を少し歩いたところで、メイドと思われる女性が待っていた。

 今のは兵士とメイドのやり取りだ。


 兵士は俺の身柄をメイドに引き渡すと、元来た道を引き返していった。

 あばよ、2日間だけだったけど世話になったな。


 と感傷に浸っているところ。

「……」

 小柄なメイドがこちらを無言で見ている。


 何? そんなに見つめられるとちょっと恥ずかしいんだけど。

 ちなみに俺はおっさんだが背はそれなりに高い。180cmはあるぞ。

 故にメイドさんから見上げられている格好だ。


 このメイドさんもお城に使えているだけあってかわいい。

 金髪のくせっ毛をショートカットに纏めている。そして前髪で片眼が隠れている。

 つまり、目隠れ美少女ってやつだ!


「……。さあ行きましょう勇者よ」

 そういうと、踵を返して歩き始めた。


 ちょ、ちょっと待って。今の無言はなんだったの。

 良い意味なの、悪い意味なの?


「あ、待って」

 ちょっとぼーっとしてたら、すたすた歩いていくメイドに置いて行かれる俺。

 急いでメイドを追いかける。


「あの、王様に会うって聞いたんだけど」

 建物内に入ったところで俺はメイドに声をかけた。


「はいそう伺っています。ですのでこれから勇者にはふさわしい服装をしてもらいます」


 ふむ。王様に会うのにみすぼらしい布の服じゃあ失礼だよな。

 あ、ちなみにここでいう布の服は布素材の服を表しているのではなくって、庶民が着る安そうな服の総称だ。


 ・

 ・


「こちらにお入りください勇者よ」

 とある部屋に通される俺。

 部屋の中は豪華な装飾と所狭しと並べられた衣装たち、それにたくさんの大きな鏡が設置してある。

 ははーん、お着換え室ね。


 中には、ほかにメイドさんが3人スタンバっている。

 どの子もここまで案内してくれたメイドに負けず劣らずかわいい。


 ちなみに、俺も男子なので可愛い女の子が大好きだ。

 男についての感想が乏しいのはしかたがない。特に興味が無いからだ。

 それよりも、いかに女の子が可愛いのかを伝えたいと思ってる。

 つまり、俺の都合だ!


「お初お目にかかります勇者よ。着替えを担当させていただきます」

 3人のメイド達がペコリと礼をする。


 ようやく、さっきから感じていた違和感の正体が分かった。

 みんな俺のこと勇者って言うけど、勇者って言う時、上からな感じなんだよ。

 『勇者様』じゃなくって、『勇者よ』なんだよ。

 ほら、王様がよく勇者よ、って言うのはわかるんだけど、牢屋の兵士からメイドからみんな勇者よ、って言ってる。

 この世界では普通のことなのか?

 勇者ってすごい人のことなんだよね? だってぶっちぎれた脚つなげるほどの魔法つかえるんでしょ?


「どうしたんですか勇者。ぼーっとしてないで、両手を上げてください」

 メイドの一人が俺に呼び掛ける。

 はいはい、両手を上げるのね。それでどうするの?


 すぽーん、と布の服を脱がされた。

 ちょっと、説明してからやって!


 すっぱだかになる俺。

 かろうじてパンツは履いている。

 オンラインゲームで言うところの、装備を全部外した状態だ。

 パンツは装備に含まれないからね。


「うう、お嫁にいけない」

 恥ずかしそうにしながら胸を手で覆う俺。

 場を和ますための渾身ギャグだ。


「なにやってるんですか勇者よ。時間がありませんのでふざけないでください」

 あ、そうですね。怒られました。

 お仕事ですものね。すいません。

 可愛い子達に勇者勇者って言われて浮かれてましたすいません。


 その後は3人のメイド達のなすが儘にされていた俺。


 案内のメイドさんはお着換え隊には参加せず、部屋の入り口で待機している。

 着替えには着替え専用のメイドさんってわけね。


 ちらっと入口のほうを見たときに、案内のメイドさんと目があったのだが、ぎろりと睨まれた。


 おれ、そんなに嫌われてるの?

 おっさんだというだけで嫌われる要素があるんだけど、それじゃああまりにも世の中辛いよね。


 そんなこんなで着替えが終わった。

 俺の姿は、どうなったかと言うと。

 赤いマント、手足は茶色のグローブとブーツ、青色の布の服に腰にはベルト。

 そして頭には冠。真ん中に青い球が付いているやつだ。

 実は、髪の毛はつんつんに立てられている。

 こんな髪型したのは初めてだ。

 伸びていた無精ひげもそられてツルツル。

 遠目でみると20代には見えるかもしれないが、元の世界の人間が見るとコスプレをした痛いおっさんにしか見えない。


 こんな姿でいいの?

 ねえ、ちょっと。今にも吹き出しそうな顔してるよ?

 3人のメイドの一人が吹き出しそうなのを一生懸命こらえているのがわかる。


 じゃあどうしてこんな格好させたの……。


「よくお似合いですよ勇者」

 案内してくれた目隠れメイドが抑揚のない声でそう言う。

 なんか辛い。


 ちなみにこの世界に来て初めて鏡を見たけど、俺の顔、転生前と変わらずのフェイスだ。

 せっかく異世界転生したんだから年齢はともかく顔だけでも良くしてくれたらよかったのに。

 

 そんなこんなで着替え終わったので、3人のお着換えメイドの元を後にする。

 またまた、案内ちゃんと二人きりだ。


 案内してくれるメイドに「案内ちゃん」という愛称をつけてみた。

 もちろん心の中だけだ。

 そんな愛称で呼んだ日にはドン引きされるに違いない。


 さてさて、二人きりといっても、とりあえずこれ以上印象を下げたくないので、おとなしくしておこう。

 おっさんが何をやってもプラスのポイントは頂けまい。

 この年齢の子達はおっさんに厳しいのだ。


 ・

 ・


「勇者よ、この先で王がお待ちです」

 いくつかの角を曲がり階段を上がり、また歩き。

 そうしたところで案内ちゃんから説明があった。


 その先に視線を移すと、直線の廊下の行き止まり。

 重厚な扉の前に二人のフルアーマーの兵士が槍を持って立っている。


 ごくり、あの先に王様が……。


 ちょっと足が震えてきた。


「どうしました勇者。足が震えているようですが」

 うわっ、ばれてる。よく見てるねキミ。


「や、さすがに王様に会うのは緊張するな、って」


 って泣き言を言ったところ、無言のまま嘲笑された。

 この世界はおっさんに厳しい。

 いや、俺が情けないオッサンなのが原因なんだが。


 脚がガクガクしている。ちゃんと歩いてるつもりなんだけど。

 汗も出てきた。

 だって今から会うの王様だよ?

 会社の社長の前だって緊張するってのに、比べ物にならないくらいの偉い人だよ?


「勇者よ。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。あなたは勇者なのだから自信を持ちなさい」

 なんか優しい言葉をかけられた。

 この、ツンツンしているキャラからの不意を突いたやさしい言葉ってのは心に響くんだよね。解るでしょ?

 ちょっと涙目になる俺。


「さあ行きますよ。王様がお待ちです」

 そして王様の待つ部屋へと向かうのだった。

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