第59話 夏だ!海だ!水着回!
「さあヒロさん、バナナをどうぞ」
いつも俺の心を癒してくれる天使ベルーナ。
その手にはバナナが握られている。
もちろん食べやすいように皮は剥いてくれている。
緑色の髪の毛をいつもの通り左右後方でおさげにして、これまたいつもどおり少し大きめの眼鏡をかけているベルーナ。
普段は露出のほとんど無い控えめで地味な服を着ているベルーナだが、今は夏! そして海!
なんとその身には、白地に水玉模様の入ったワンピースの水着を着ているのだ!
可愛い系のその水着はベルーナにとても良く似合ってる。
良く似合っているのもさることながら、なんていうか、小柄なベルーナの華奢な体に物凄いマッチするその水着は……背徳的な感じさえするぞ。
とにかく、ベルーナは天使。
幼さを残した大天使(なんだそれは)が降臨したかの様な神々しさだ!
「いや、ヒロはこっちのほうが好きでしょ。はいミカン」
ミカンを皮ごと押し付けてくるのはハイネだ。
サラサラの金髪ショートカットのこの子は魔術士部に所属している。
ベルーナとは同い年か少し上くらいで、ちょこちょこ会ったりしているようだ。
普段の制服も白のミニスカで男性諸君らは目のやり場に困るのだが、今日の水着もビキニできわどい。
赤色のビキニと夏の日に焼けた小麦色の肌が、若くて健康であることをアピールしている。
最初は俺に対してよそよそしい感じだったが、最近は結構ちょっかいをかけてくるようになった。
知ってか知らずか、俺をからかうような、見えなさそうな、そんな……げふんげふん。
ともかく今日はそんなモヤモヤしたものじゃない。
ビ キ ニ!
つまりは見てくださいという、そういう目的で作られたお召し物。
おじさんうれしいよ。
あとミカンは剥いてくれたらもっと嬉しい。
「あらあらハイネ。ミカンは剥かなくてはいけませんよ。さあ勇者、このメロンをお食べください」
メロンというかメロン。俺の前にはメロンが揺れている。
薄い水色のような透き通った腰のあたりまである長い髪の毛。
白磁のように白く綺麗な肌に、髪色と対を成すかのように唇に引かれた薄青色のルージュ。
王妃様と見間違う美しさの女性、魔術士長のエンリさんだ。
いつもは体のラインの出ないゆったりとした魔術士長専用の制服を着ているのだが、ここは常夏の海!
その体を押さえつけるかのようにぴっちりとした濃紺のワンピース水着を着ている。
見ようによってはスクール水着に見えないこともないそれは、スクールガール達には縁の無い様なメロンと共にある。
エンリさん着やせするタイプだったんですね。
さすがに恥ずかしいのか、肩にはショールをかけているが、そんなものではご持参のメロンは隠しきれませんよ。
果物の話ばかりしてしまったが、エンリさんは美人で素敵なのだ。
肩のショールもそうだけど、淑女の嗜みというか白の清楚なハットをかぶっているエンリさん。
いつもかぶっているターバンの大きなようなふわっとした帽子も素敵ですけど、そのハットも素敵です!
「あらん、メロンもいいけどマ〇ゴーもいいわよね、マン〇ー」
いや、マンゴーって言うだけでなんで伏せてるんですかアマンダさん。
アマンダさんはファルナジーンの人ではなくて、マリアステラ聖教国のなんか偉い人。
うちの王様とも対等に話ができる実力者だ。
法廷で裁かれそうになった時はお世話になりました。
ていうかその水着エッチですね?
前から見るとワンピースだけど背中を見るとビキニを着てるかのように見える水着。
男心をくすぐる見事な水着だ。
日焼けではない元々の褐色肌と対比するかのような濃いめの黄色の水着が俺を攻めてくる。
胸のあたりまであるウェーブのかかった漆黒の髪をふぁさっとかき上げるアマンダさん。
その仕草に男達はメロメロになるだろう。
アマンダさんも先程のメロンに劣らず見事なものをお持ちで。
サイドから見えるそのボリュームの余波を俺の脳内にしっかりと焼き付けておく。
そんなナイスバディを惜しげもなくさらけ出している彼女もマリアステラ聖教の教えなのか、いつもと同じく顔はフェイスヴェールで覆っている。
相変わらずのミステリアスさが、更なる色気を醸し出しているのだ。
「旦那はん、すむぅじぃ好きなんやてねぇ。お飲みぃ」
そう言ってスムージーをずずいっと押し付けてくるのはファルナジーン商工会長のネシャートさん。
腕も足もスラっと細く長く、華奢な体型を惜しみなく見せつけるかのような露出の高いビキニを着ている。
今日はあの独特な袖をした服ではなく、ワンポイントのフリルのついたピンクのビキニ。
短くまとめた綺麗な栗色の髪の上には麦わら帽子を被り、肩からはクーラーボックスを下げている。
それ……商売ルックですよね?
メロンとは違った魅力を持つネシャートさんの水着姿は男たちの視線をくぎ付けにするだろう。
そういう意味で商売上手であることは疑いようもない。
「おい勇者、これ塩辛だ。甘いのだけでは飽きるだろう」
視線をこちらに向けずぶっきらぼうに塩辛を差し出しているのは、小柄だが出るところは出ているトランジスターグラマーのファーラ部隊長だ。
いつもはかっちりとした軍服で、今も見事に競泳水着だが、俺はそれが見たかった!
恥ずかしいのか俺とはまったく目を合わせてはくれない。
いつもの氷のように整った表情とはうって変わって、なんか初々しくて可愛い。
だがこれはチャンス。
視線を合わせていないという事は、俺がどこを見ているのかは分からないということ。
じっくりと水着姿を堪能しようではないか。
まずは御髪からだ。
ウエーブのかかった赤色の髪の毛はショートカットに整えられていてるのだが、後ろ髪は肩の少し下まで伸ばしていて髪留めで束ねている。
軍帽をかぶっていない部隊長も新鮮だ。
お待ちかねの水着はと……この世界にもあるんだ光が反射すると表面がうろこ状に見える黒色の水着。
軍で鍛えられたそのお尻と太股を包んで膝の上辺りまでが水着のタイプの競泳水着。
本来なら泳ぎを追求するための水着であるが、サマーでビーチでバカンスならそういう目で見ても仕方ないよね!
「さあヒロさん」
「ね、ヒロ」
「どうですか勇者」
「ヒ、ロ、く、ん」
「旦那はん」
「おい勇者」
夢の様な状況だ。
6人の美人に囲まれてバカンスを満喫できるなんて。
これが俺のハーレム!
だがしかしだ。
これで終わりにするほど男の子の欲望は小さなものじゃない。
もっと沢山美女を誘って、さらなるハーレム拡大を目指すのだ!
お、あそこにいるのは。
後姿で分かりにくいが、白いTシャツを着た下に黒のビキニタイプの水着を着ているラインが見て取れる。
下は……Tバックというかなんというか、そういうきわどい尻と水着のラインだけど……。
チラチラと白い前掛けのようなものが見えるあれは……まさかふんどし!?
いや、逆に良い!
6人とは異なる方向性の逸材!
ハーレム候補待った無しだ!
「そこのふんどしのおねーさーん、こっちに来て一緒に遊ばないかい?」
俺はハーレムを拡大するために積極的に行動を開始する。
男の子の欲望の前にはそれを阻む障害など存在しないのだ。
「ん? 私のことか?」
俺の声が届いたのか、ふんどしお姉ちゃんが振り向く。
どんな美人さんなのか早く見たい、と思ったのだが、何故か目だけを出した黒色のマスクを着用しているお姉ちゃん。
これでは顔は分からないぞ。
でも輪郭とか鼻筋とか、覆われた中でも得ることができる視覚情報から美人顔であることは分かる。
これは是非ともお近づきになりたいところだ。
黒色の短髪と黒色のマスク。
んんん、どこかで見た気がするぞ……。
「なんだお前、私の体に興味があるのか?
鍛え上げられたこの体に」
げげっ、思い出した。
この人、俺を殺そうとしていたアサシンじゃないか!
「え、えっと、結構です。すみませんでした!」
「なに、遠慮するな。体には自信がある」
モデルの様な歩き方で俺の方に近づいてくるアサシンさん。
確かにチラリと見える彼女のお腹には鍛え上げられた腹筋。
ムキムキという訳ではなく、男達の欲望を幅広く受けることができそうな体つきだ。
だけどね、その目。
目が獲物を狙う目をしているの。
白いTシャツの下にうっすらと浮き出たビキニの視覚的効果は最大だよ?
それに加えて下はふんどしという変わった組み合わせだよ?
だけど、命あっての物種だ。
「私も混ぜてもらうおうか、そのハーレムに。
もちろんお前の命は貰うけどな」
逃げる間もなく、アサシンさんにゼロ距離まで詰め寄られた。
ひぃぃ、細い指と鋭くとがった爪が俺の喉を撫でてる!
【……のじゃ】
「ヒロさんバナナ」
「ミカンミカン」
「たわわなメロン」
「マンゴーよ」
「銀貨1枚やよ」
「塩辛」
「ふんどし」
【……甘味】
ちょ、ちょっとまって、皆さんもうちょっと落ち着いて。
食べ物と、なぜかそれに合わせて体を押し付けてくる皆さん。
【こら、起きるのじゃ!】
――はっ!!
そこで意識が覚醒した。
目の前にはいつもの天井。
ガッデム!!
夢かよ、夢オチかよ!!
いや待てよ、まだ起きたところだ。今すぐ寝ればまた続きが見られるかもしれない。
夢でもいいんだ。あんなに幸せな世界に……ハーレムにゴーだ!
「こりゃ、二度寝しようとするんじゃないのじゃ!」
んー、誰だ俺の眠りを妨げるのは。
「聞いとるのか? こりゃ!」
頭の上の方から声が聞こえるな。
俺は眠い頭を動かして声の出所を探る。
……なんか仁王立ちしてる幼女がいる。
俺の視界の先には、両手を腰にあててどっしりと構えて立つ幼女の姿があった。
銀色の髪の幼女。腰まで伸びた髪はさらさらと流れる様だ。
黒色のワンピーススカートが何故か室内なのにひらひらとはためいている。
幼い顔立ちの彼女の表情からは、どうやらお怒りな様子がうかがえる。
だが俺は急いでいる。
「俺の射程外だから水着を着て出直してきな。それじゃあお休み」
射程外の幼女よりも夢のハーレムだ。
ストライクゾーンの美女6人とアサシン一人(美女)のほうが今の俺には重要だ。
「ばっかもん、わしを目の前にして二度寝など許されるはずがないわ」
ぶわっ、なんだ!?
目の前が急に真っ暗に。
あ、夢の続きに行けるのね、って苦しい!
「ぷはぁっ、な、何をするんだよ!」
俺は顔に押し付けられたのであろう幼女のスカートから脱出すると、その相手に対して苦情を申し立てる。
「何もカニもないのじゃ。
それはこっちのセリフなのじゃ。とりあえず正座するのじゃ」
「なんだよ、ったく……」
よく分からないけど正座させられる俺。
そして俺の前には再びポーズを決めて仁王立ちする幼女。
……だれ?
「で、お嬢ちゃんはどこの子?
なんでこんなところにいるのかな?」
迷子だろうか、とりあえず早く追い返そう。
まだすぐ寝ればハーレムドリームに辿り着けるかもしれない。
「ばっかもん! わしは迷子ではない!」
「わかったわかった。じゃあ憲兵の所まで送ってあげるから」
「何もわかっとらんのじゃ!
わしの名はファルナ。偉大なる精霊ファルナじゃ!」




