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第54話 甘味を倍なのじゃ

【うるさいのじゃ。だまれと言うておろう】


 はい、すいません。黙ります。

 なので力をお貸しください。何でもします。


【……何でもすると言ったのじゃ?】


 はい。毎日食堂にパシリに行ったりできます。

 甘いものとかお好きですか?


【ふむ。じゃあ毎日甘いものを貢ぐのじゃ。契約じゃ。わしとマスターとの契約】


 マスター?

 それって俺のこと?

 マスターって事は俺のほうが主人じゃないの?


【……言い間違えただけじゃ。いまさら契約は覆らんぞ。力は貸してやるのじゃ。使いこなせるかは別じゃがな】


 声の主が何者かも分からないし、契約がどうのこうの言ってるけど、今はそれどころではない。

 ともかくこれ、幼女の声に従おう。


【ほれ、あいつらを滅殺したいんじゃろ。お主の趣味にとやかく言うつもりはないが、滅殺はやりすぎじゃろ。半殺しくらいにしておくのじゃ】


 あ、はい……。

 滅殺したいとか思ったことはないけど。


【ぼーっとするんじゃないのじゃ。ほれ、手を前に出すのじゃ。とりあえず、そうじゃな。前の3人の足元に目標を集中する感じで】


 俺は言われたとおり手を前に出し、ターゲットに集中する。


「お、なんだおっさん、やろうってのか?」


「ハッタリだけは優秀なやつだな」


 ええい何とでも言え!


 今まで黙っていてくれたモブ、頭巾とスキンヘッドがここぞとばかりにセリフを突っ込んできた。


 ええと、声さん? 次はどうしたら。


【声さんじゃと? お主、わしが誰だか分かっておらんのか? むぅ、腹立たしいが、まあそれはそれで面白いじゃろ。わしのことはFと呼ぶんじゃな】


 よろしくお願いしますFさん。

 で、どうすれば?


【念じるのじゃ「崩落する壁ラグナロク」と】


 技名きた!

 とうとう俺にも必殺技がっ!!

 苦節10日くらい。一般職だと言われて蔑まれ、知名度の低い仕事をこつこつとやってきた俺に転機が!


 おっと、鼻血出そうなくらい興奮してるけど、クールだ、クール。

 今は命のやり取りの場。

 冷静さを欠いては相手の思う壺だからな、ふふふ。


 さあ、俺にやられるために現れたモブどもよ、死にさらすがいい!

 ぬぬぬ、 崩落する壁ラグナロク !!


 俺が力ある言葉を念じた途端、前方三人それぞれの目の前に、地面からせり上がるようにして壁が現れた。

 見た目、ブロック塀みたいな壁が3つ。

 縦3メートル、横1メートルほどのその壁が現れたことにより、俺からは3人の姿が見えなくなる。


 という感想を述べている間に、その壁は男たちに向かって倒れこんだ。


「ぎゃぁぁぁ」


 男たちのやられ声が聞こえる。

 いきなりそびえ立った壁が現れたので呆気に取られていたに違いない。

 こっちからは見えないが、そんな様子の男たちを容赦なく壁が押しつぶしたのだろう。


 壁が倒れる時すごい声したけど、死にはしないよね?

 滅殺は望んでないよ?

 

「お前何をしやがった、許せねえ!」


 残るは俺達の背後の大男。

 さすがに仲間がやられたことで怒ってやがる。

 しかし、お前もすぐに黙ることになる。

 この俺の手によってな!


 くらえ、 崩落する壁ラグナロク

 俺は振り向きざまに必殺技(壁攻撃)を繰り出す。


 大男の足元から先ほどと同じように壁が出現する。

 必勝パターンだ!


「ばかやろうが、そんな攻撃が通じるかよ」


 壁の裏から男がすっと姿を現した。


 えっ? 


 ガラガラ、と誰もいない場所に崩れていく壁。


 そ、そんなまさか!


 この必殺技は発動とダメージの間に一瞬のタイムラグ、つまり壁が倒れる前に僅かな時間が存在する。

 つまり、大男は壁が倒れこむ前にするりと身をかわしたのだ。


 この 崩落する壁ラグナロクは初見殺しではあるが、一度見てしまえば、俺のように鋭い者ならその弱点に気づくだろう。

 俺達と同じ方向、つまり俺達の後ろから技を見ていた大男が対処法を思いつくのは不思議じゃない。不思議じゃないけど……。


 ぐぬぬ、2発目にして必殺技が破られるなんて……。

 お前は女神のセイントかっ!


 Fさん、次! 次の必殺技頼みます!


【お主、使い方が悪いんじゃよ。あやつならもう少しうまく扱っておったものを】


 いや、そこを何とか!

 破られた必殺技の代わりに新必殺技を携えるのは主人公の宿命だから!


【うるさいのう。もう一つだけじゃよ。ほい、相手に手を向けて、念じるのじゃ。「壁は鈍器エクスカリバー」と】


 さすがF様、ホトケ様!

 太っ腹、惚れちゃう!


【世辞はいいのじゃ。甘味を倍なのじゃ。ほれさっさと蹴散らすのじゃよ】


 さらりと貢ぐ甘味が倍になったようだけど、それは置いといて俺は大男へと手を向ける。


 どんな必殺技か知らないが、くらいやがれ!

  壁は鈍器エクスカリバー


 ぎゃっ、ちょ、重い重い。


 相手に向けたおれの手。

 その手首から先1メートルくらいに石材のようなものが生み出された。

 拳をすっぽりと包むように生成された石柱。


 もちろん俺の手がその重さを支えられるわけもなく。

 ずぅぅん、という音と共に地面に石材がめり込んだ。


 俺の腕もその重さに引っ張られて、バランスを崩すと今にも体ごと床ペロしてしまいそう。


 ちょっとFさん、これ重くて使いこなせないです。

 もう少し方向性の違った必殺技を。


【ふぁぁぁぁ、もうだめなのじゃ。眠いのじゃ。もう寝るのじゃ。安心するのじゃ。あと3分くらいは力を使えるのじゃ。それじゃあ、忘れるんじゃないのじゃよ。毎日甘味。ふぁぁぁぁ】


 え、ええええ。ちょっと! Fさん?


【…………】


 返事はない。


「ヒロさん、危ない!」


 しまった、Fさんに気を取られてた!


 視界にはナイフで襲い掛かってくる大男の姿が映っている。

 重さで動けない俺に容赦なくその凶器を突き刺そうかというところで、ベルーナが俺の前に出た。


 ダメだベルーナ危ないから俺の後ろに、と口に出す暇もなかった。


「どいてなガキが、お前に傷が付くと値段が落ちる」


 ベルーナに傷をつけてはいけないと、ナイフの一撃をとめた大男。


「私だって戦えますよ。このっ!」


 ベルーナは持っていた杖を大きく振りかぶると、思いっきり大男のすねを殴り上げた。


「ぐっ、こ、この、下手にでてたら付け上がりやがって!」


 やばい、大男が怒った。

 ベルーナ逃げて!

 消さないと、まずこの重いの消さないと俺が動けない。

 

 早く消えて、早く!


「きゃぁっ」


 男がベルーナの手を掴んで乱暴に投げ飛ばした。


「ベルーナっ!」


 時は遅く、腕の重みが消えた。


「だ……大丈夫です」


 ゆっくりと体を起こすベルーナ。

 良かった。大きなけがはなさそうだ。

 肝を冷やした俺の心は、ベルーナの無事を確認すると落ち着きを取り戻していき、そして次に、熱い感情が込みあがってきた。


 おのれ、許さんぞ! よくもベルーナを!

 俺の可愛いベルーナに怪我をさせた事は許さん!

 そして、お前の汚い手でベルーナに触れたことも許さん!


「こんのぉぉぉぉぉ!」


 俺は野球のピッチャーが投げるときのように後ろを向くくらいまで腰をひねると、その溜めたひねりを力として、思いっきり右手を横なぎに振るう。

 そして、その遠心力の力を利用して!


壁は鈍器エクスカリバー だぁぁぁぁっ!」


 時間にして一瞬のことだ。

 俺の右腕に生成された壁は徐々に重さを増していったが、その重さは遠心力で更なる力となって男の即頭部を打ち付けた。


 ずうぅぅん、という音と共に、男は声を発する事もなく地面に倒れこむこととなった。


「よっし、やったぞっ!」


 勝利の雄たけびだ。

 前世でも喧嘩という喧嘩はしたことがなかったが、これが俺の初勝利だ!


 言葉だけで言うと格好いいシーンだが、実際は大男をぶちのめした後も遠心力が増して増して、今度はその重みに引っ張られるように俺の体が宙を舞ったのは内緒だ。


「ベルーナ、大丈夫か?」


 ガッツポーズもそこそこに、俺は倒れていたベルーナに駆け寄る。


「は、はい、何とか」


 大丈夫だというベルーナだが、腕をすりむいてたりするのを俺は見逃さない。

 俺がハイプリーストなら手足も繋げるというハイリカバリーで治してあげれるのに!


 そういえば儀式の時エンリさんはハイプリエステスっていう女性系で言ってたから、もしかして過去男でハイプリースト職に付いた人はいないのかも。


 と、そんなことはどうでもいい。

 傷の手当てを。


「ヒロさん!」


 急にベルーナが声を上げる。

 何? 何? 何かあったの?


「後ろです、商人が!」


 あわてて後ろを振り向く。

 壁につぶされて再起不能になったとばかり思っていた商人が、崩れた壁に挟まりながらも、こちらに銃口を向けていた。


 他の男達と違い、商人は小柄だから壁が崩れた際に出来たわずかな隙間のおかげでダメージが少なかったのか!


「このやろう、死ね!」


 ま、待って、ちょっとまって、魔法障壁魔法障壁!

 って、もう3分たった!

 何の力も感じないよ。

 あ、だめだ、間に合わない。せめてベルーナは!

 

 俺は銃口からベルーナをかばう様に抱きしめる。

 

 そして辺りに乾いた発砲音が響いた……。

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