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第51話 ヒロ、上司として

 俺はベルーナを刺激しないように、ゆっくりと彼女に近づく。


「横……座るよ」


 そして体育座りをしているベルーナの横、直ぐ横に腰かけた。


「ヒロさん……」


 小声で俺の名前を呼ぶベルーナ。

 お互いの呼吸音も聞こえそうなくらいのこの距離なら、彼女の一言一句を聞き洩らすことも無いだろう。


 ベルーナは抱えた膝の間から目線だけをこちらに向ける。

 俺はその様子を見届けて、視線を空に向けた。


「話してくれてありがとうベルーナ。

 ……あのね、人間っていうのは失敗をする生き物なんだよ。

 どんな人間だって失敗をしない人間なんかいやしない。

 王様でも失敗するし、当然のことながら俺なんかしょっちゅう失敗する。

 

 失敗してしまった時、あそこでこうしていれば、あの時ああしていれば……って、どうして失敗してしまったのかを考えることは大事な事だよ。 


 ……失敗してしまった事に対する反省は必要なんだけど、でもね、必要以上に反省していては先に進めない。


 大切なのは、まずは失敗してしまった事に対する対応。

 失敗が引き起こした問題に対してすぐにその問題を解決する事。

 完全に解決できなくても、少しでも問題を減らしたり被害を減らしたりする事。

 

 そしてその後、今後どうするかを考える。

 次に同じことが起こらないようにするにはどうすればいいのか考える、という事なんだ。


 つまりは、前に向いて進む。

 あの時どうしてあんなことをしてしまったのか、という後悔じゃなくて、次に同じことがあればこうしよう、と思う事。


 こんな風に、後ろを見続けている時間を前を向く時間に使うだけで、すごくいい循環が生まれるんだ」


「でもヒロさん……私は自信がありません……」


「ベルーナ、その気持ちは良く分かるよ。

 俺だって今まで何度も失敗をして、その度に本当に次はうまく出来るんだろうか……って思ってた。


 ……でもねベルーナ、何も自分一人で完璧にやらなければならない、という事は無いんだよ。


 ベルーナには俺が付いてる。

 ベルーナが出来ないところは俺が力を貸すし、俺が出来ないところはベルーナに力を貸して欲しい。


 だからベルーナが自信が無い部分は、俺のパワーで補うよ」


「ヒロさん……」


 ベルーナが顔を上げる。

 いつの間にか俺は空ではなくベルーナの方を向いていた。


「辛いときは泣いてもいい。愚痴ってもいい。

 俺はいつでもベルーナの力になるし、力になってあげたいと思ってる

 だから……俺を頼って欲しい」


「…………」


「なんてね、ちょっと格好つけすぎたかな。

 頼りないオッサンに言われても説得力無いかな」


 無言でじっとこちらの顔を見ているベルーナ。

 その視線に、俺は急に恥ずかしさを覚えてしまった。


 うまく言葉に出来た自信はないのだ。

 それでもベルーナの力になりたいという気持ちは伝えることが出来たと思う。


「……ヒロさん……少し後ろを向いてもらっていいですか……」


「え、うん……いいけど……?」


 少しの間をおいてベルーナが発した言葉の意味。

 それはよく分からないけど、俺は言われたとおりに背中をベルーナの方へと向ける。


「これでいいの?」


「…………」


 ベルーナ?


 反応の無いベルーナ。


 間違ったかな、って思った瞬間。


 がしっ、と背中を掴まれたかと思うと、ベルーナは俺の背中に顔を押し付け……そして程なく、後ろから大きな泣き声が聞こえてきたのだった……。


 ・

 ・

 ・

 ・


 ベルーナが落ち着いた後、俺達は遅めの食事を済ませて魔法障壁管理部に戻ってきた。

 食事は元気を出すために必要なものだし、なんせ俺は朝ごはんを食べていなかったからな!

 入院してポーションは投与されたキメられたけど、経口摂取じゃないと食べたことにはカウントしない。

 色々あったけど、ようやく一息付けた感じだ。


 そうこうして、魔法障壁管理部ただいまーという所で、入口でメモを見つけた。


 そのメモは先ほどの京都弁の女性が書き残したもので、悪徳商人のねぐらについての記載であり、まさに、次のイベントの始まりを告げるものだった。

 

 悪徳商人不正アクセス事件。

 情報漏洩は避けることが出来たので、重大な被害は無かったとも言えるけど、やはり組織人として報告はしておく必要がある。

 それに国家が絡んでいる可能性がある以上、このまま放置することは出来ない。

 もちろん今回の犯人を逃がすつもりもない。

 ベルーナを悲しませた罪はきっちり償ってもらうからな!


 俺達はまず衛兵さん、つまりこの城を警備している兵士に経緯を説明し、強力を求めた。


 衛兵とは言うものの彼ら彼女らは軍属ではなく、実は俺と同じ城勤めの職員である魔術士部近衛課の皆さんだ。


 この国の防衛機構というか抑止力については少しわかりにくい。


 まず一つは軍隊がある。

 軍隊は他国や外敵からの防衛を主な任務としている。


 そして二つ目が軍隊の中の憲兵部隊。

 こちらは主に街や村の治安維持を目的としている。

 地球で言う警察と似たようなものだ。軍内部の綱紀粛正も行っている。


 そして三つ目だが、先ほど述べた魔術士部近衛課の皆さん。

 ファルナジーンの城内の警備と防衛を行っている。


 俺が異世界転生初日に見つかって捕縛された、レオナルドとかいう衛兵は魔術士部近衛課の兵士さん。

 王の間に通じる扉を守っていたフルアーマーの衛兵さんも同じ。

 俺がベルーナと一緒に初仕事に出向いた際の城壁を警備している兵士さんもそうだ。

 

 軍属じゃないのに兵士って呼ぶのはおかしいんじゃないかって?


 いや、俺達パンピーの職員と違って魔術士部の職員は有事の際には軍と連携して戦うことが定められている。

 魔術士部はれっきとした戦闘組織なのだ。

 もちろん魔術士長のエンリさんやハイネも有事となれば戦いへと赴くことになる。

 なるべくそんな事態にならないことを祈るけど。


 そういうわけで、王城は魔術士部近衛課が、そのほかの国内つまりファルナジーン城下街を含めて王城以外は軍および憲兵部隊が治安を守っているわけだ。

 

 ちなみに、司法組織としては俺達魔法障壁管理部や経理部と同じく法務部が存在する。

 犯罪についてはこの法務部と軍の法務・諜報部隊が協力して裁判を行っている。

 俺が捕まって法廷で裁判にかけられた時がそれだ。

 魔族魔族とうるさかった爺さんは法務部の職員、銃を向けていたファーラ部隊長は軍の法務・諜報部隊の所属だ。


 説明が長くなったので話を元に戻すが、まず魔術士部近衛課に強力を求めたたけど情報漏洩の重要性は理解してもらえず、さらにシマ違いであるということで突っぱねられた。

 もちろん、上に掛け合えと言ったのだが、その衛兵さんに追っ払われてしまった。


 シマ違いとかさ……縦割り行政の不具合というか、分かりにくい役割分担の弊害というか、それらの被害者だよね俺達。


 だがしかし、衛兵さん達近衛課がダメなら警察機構の憲兵だ。

 この国の平和は君たち憲兵にかかっている!


 ということで憲兵にも相談したが、調査開始の資料作りに時間がかかるという回答で、これが一刻を争う事態だと理解してもらえ無かった。


 どうなってるんだこの国は。

 薄々感じてはいたけど、魔法障壁についての重要性がまったく理解されていない。

 防衛の要なんだよ!?


 人数も予算もないし、どうなってるんだ!!

 せめて協力くらいしてくれ!


 と、今不満を言っても仕方がない。


 ベルーナの話を聞く限り、悪徳商人は背の低い老人らしいから、見つけさえすれば俺たち二人でも何とかなるだろう。


 あとは時間との戦いだ。

 相手は魔法障壁の重要性を理解している。

 もちろん通常の国・・・・なら即ガサ入れが始まるので、急いで今回の証拠の隠滅を図り、その上でこの国からトンズラするに違いない。


 だが、悪徳商人は移動のしやすい露天ではなく店を構えていたこと。

 ベルーナが買いに来ることは事前に知らなかったはずなので準備万端でベルーナに機器を売りつけたわけではないこと。

 その2点から、トンズラの準備にも時間がかかると思われる。


 それでも日をまたいでは逃走を許してしまうかも知れない。

 つまりは今日中。

 メモに書かれた場所に向かい今日中に捕まえる必要があるだろう。


 ちなみに、あの女性の素性は知れないが、潜伏先にまったく心当たりがないためこの情報を信じるほかないという状況だ。

 ……別に京言葉の美人だからという理由じゃないぞ。


 とにかくいろいろめんどくさいので捕まえてから考える。

 金貨150枚は返してもらうからな!


ファルナジーンの防衛機構について描写がふわっとしていたり統一性が無かったので、改めて本文中に記載しました。

ヒロがなんか説明口調だったのはそのせいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 悲しみと悔しさにくれるベルーナちゃんに上司らしい気遣いと親愛の情を内包した言葉をかけるヒロ 男前でしたね 「ベルーナには俺が付いてる。ベルーナが出来ないところは俺が力を貸すし、俺が出来ないと…
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