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第5話 謎の「のじゃ」声と艶めかしいお姉様

「はっ。全員構えろ。相手は魔族だ、遠慮はいらん。撃ち殺せ」

 ファーラ部隊長と呼ばれた女性が部下に合図をする。

 やばい、これは本気だ。


 まじ、まじ、どうしたら。

 どうしよもないのか。この檻の中で銃弾の嵐に散るのか。


「ヒロさん!!」

 観覧席から身を乗り出して、悲痛な面持ちでベルーナがこちらを見ている。

 あぁベルーナ。もうすぐハチの巣だよ。

 どこで対応を間違ったのか……。


【身動きできないわしの体を強制的にまさぐった輩もここまでか。あっけない幕切れじゃったな。】


 なんだ!? 頭の中に声が響く。

 誰だ!?


【少しは期待しておったんじゃがな。ほれ、お主の力そこまでか?】


 俺の力ってなんだ、教えてくれ!


【ふぁーぁ、眠いのじゃ…………。】


 それ以降、頭の中の声が聞こえなくなる。


「おい、ちょっと、なんだよ」

 訳も分から無い事を好き勝手言って終わりなの?

 助けてくれないのか!?


 無意識に手を伸ばしたが、両手にはめられた手枷がそれを邪魔した。

 だけど、何かに触れた、という感覚はある。


『コネクション確認。IDとパスワードの入力をどうぞ。』


 なんだ、さっきの声と違う声だ。

 でもこの機械音は聞き覚えがある。

 昨日の夜と同じだ。

 IDとパスワード、IDとパスワード

 って、覚えてるか!! 忘れたわ。


 あ……、なんか、銃から弾が飛んできてるのがわかる。

 でも遅いな。

 もしかしてこれが走馬灯ってやつ?


『IDとパスワードの入力をどうぞ。』

 昨日はどうやってIDとパスワードを入れたっけ。

 そういえば、あの見えない壁に書いてあったんだよな。

 でも、ここには壁なんか……。


 とか思っていたら、頭の中に壁のイメージが現れた。

 昨日の見えない壁とは別の壁だ。頑強な石の色をしている。

 もしかしてこれに……。

 頭の中の壁にIDとパスワードが書いていないか探してみる。

 実際に見ているわけではなく、想像しながらなんだが。

 ビンゴだ!

 あったぞ、IDとパスワード書いてある。

 急げ、入力だ。


『認証しました。管理者権限を実行できます。どうしますか?』

 どうもこうも助けて。なんとかして。


『了解しました。周囲に魔法障壁を展開します。』


 瞬間、飛来して来た弾と魔法障壁が接触し、爆発音を上げた。


 俺はというと、頭を抱えてしゃがみこんでいる。

 爆発音が断続的に続く。

 ひいい。

 でも、痛くないってことは何とかなってるってことだよな。

 頭を上げる勇気もなく、状況を確認することはできない。


 しばらく後、爆発音がやんだ。

 指の隙間からそっと様子をうかがってみる。


「そんな、あれだけの銃弾を……」

 ファーラ部隊長が驚いている。

 ということは助かったのか。


 ほっと胸をなでおろす。

 生きた心地しなかったよ。


「魔族め、なんと恐ろしい。ファーラ部隊長、何をしている撃たんか」


 爺さんが発狂している。

 机から体を乗り出して、俺のほうを指さしながら手を上下に振っている。

 もうやめてくれよ。さっきの見ただろ。銃は通じないよ。

 ほら、ファーラ部隊長さんも困っているじゃないか。


「待ってください! 審問官、今のを見て分からないのですか。あれはこの城の魔法障壁。この城の守護精霊に認められたものだけが使うことのできる魔法障壁なんですよ」


 ベルーナの援護が入る。


「なんじゃと、そんなものは知らん。魔族ならあれくらい当然じゃろ!」


 くそう、あのジジイ聞く耳もっちゃいねえ。


「おいっ、あ……」


 あ?

 ってなんだ?

 なんだ、爺さんぐったりしてるぞ。持病か?


「皆様失礼しますわ。このじじい、もとい、審問官は持病で錯乱しているようです。今お黙りになられましたわ」

 女性だ。

 紫色のドレスを着た女性が、いつのまにか審問官のじいさんの横にいる。


「何者だ」

 兵士たちが一斉に彼女に銃口を向ける。


 女性が、ドレスのスリットからスラっとした足を出した。

 その動作の一つ一つが艶めかしい。

 前世では会う機会は無かったけど、あれが妖艶な女性ってやつか。


「さっきその子が言ったことは本当よ。まほう、しょ、う、へ、き」


 声が脳に染み渡る。しゃべり方もそうだが、声も中毒性がある。

 もしかしてなにかのスキルか?

 いや、この世界にスキルが存在するのか知らないけど。


「あ、あの足の紋章は、まさか」

 んー、なんか兵士が呟いてる。

 ここからじゃよく見えないけど、なに? 紋章?


「ああ、マリアステラ聖教国のアマンダ様だ……。銃を下ろせ」

 ファーラ部隊長の指示で兵士たちが銃を下ろした。


 よく分からないが、注意は俺からあっちに移ったようだ。

 しばらく様子を見よう。


「わかっていただけましたかしら? あなた方はすこーし、守護精霊と魔法障壁について無知が過ぎるんじゃないかしら」


「それで、アマンダ様ともあろう方がどうしてこの場所に?」


「所用よ、しょ、よ、う」

 アマンダと呼ばれた女性が片眼でウィンクした。

 えっと、だれに? もしかして俺?


 アマンダはフェイスヴェールって言うの? 口元を覆うアラビアンな雰囲気のものを纏っている。

 それに頭もローブというか、ひらひらのヴェールを着けているため、顔は目だけが露出している。

 わずかな隙間から見える褐色の肌と吸い込まれるような赤色の目。


「御冗談を。ここは我が国の法廷です。他国のお方は退席願います」


「あーらごめんなさい。昨日から私の直感がね、訴えてるの。それでここに何かあるって思って忍び込ませてもらったの。そしたら凄いじゃない。なんと異世界転生者にお目にかかれるなんて」


 ん? 今異世界転生者って言った?

 もしかしてこの国では知られていないだけで、他所ではメジャーなの?


「異世界転生者……。さきほどこやつもそのように申しておりましたが、何者なのですか」


「異世界転生者を知らないのね。ざ、ん、ね、ん。人生の半分は損してるわよ」


 え、異世界転生者ってそんなに楽しい単語なの!?


「お戯れを」

 そんなアマンダさんの様子を、ファーラ部隊長はさらっと切り捨てたぞ。


「うふふ、私がその人の身元引受人になるわ」


 な、なんですとー!?

 つまり俺の保護者になってくれるってこと?

 あの艶めかしいお姉さんが?

 うん。多分お姉さん。

 35歳の俺よりも少し年上のはずだ。俺の勘がそう言っている。


 処刑も回避できそうだし、これは願ったりかなったりだぞ。


「だめです! ヒロさんの身元引受人には私がなります!」

 今まで沈黙を守っていたベルーナが声を上げた。


 なに、もしかしてモテモテ?

 とうとう俺にもモテ期がやってきたのね。


「あーら、あなた。ベルーナって言ったっけ。ふふふ、私と張り合おうっていうの? このアマンダと」


 にこやかだった目が、蛇のような目つきに変わった……。

 ちょっと怖い。

 でも、その目を睨み返しているベルーナがいる。

 これが女の争い……。

 男には踏み込めない領域ね。


「アマンダ様、お引き取りください。この男は重要人物です。簡単に引き渡しを行うことはできません」


 え、だめなの?

 アマンダさんって偉い人なんでしょ?

 ねえ、ファーラ部隊長さん、そんなこと言わずに。お願いします。


「あら、残念。私の申し出を断るというのなら、その男性にはそれなりの待遇を与えるべきですわよ。あなた方は気づいていないかもしれませんが、それだけの人物ですのよ」


「ご高説痛み入ります」


「ま、いいわ。今日は挨拶だけにしておくわ。それじゃあまた会いましょう、オオサカ=ヒロ」


 そう言うと俺に向かって投げキッスをして、二階の奥へと消えていった。


 綺麗なお姉さんが行ってしまった……。


 そこにも出入り口あるんだ。

 別に出入り口がどこにあろうがいいんですけどね。

 どうせ俺は出られないし、お姉さんの後も追えないし。

 お姉さんが去ったのが残念なだけで、拗ねてないですよ。


 おや、観客席の人たちがざわついている。

 話の流れからアマンダさんはかなり高名な人のようだ。

 その人が俺のことを厚遇しろと言ってくれたんだ。

 動揺が広がるのも無理はないのか。


「法廷は閉廷とする。この男の処遇は王に一任することとする。それでは解散だ」


 ファーラ部隊長が高らかに宣言する。

 観衆達も二階の奥からぞろぞろと退出していき、残ったのは兵士たちとベルーナだけ。


「部隊長様。ヒロさんはこの後どうなるんでしょうか」

 ベルーナが心配そうに部隊長に尋ねる。


「先ほども言ったとおりだ。処遇は王に一任すると。それまではまた牢で生活してもらうことになる」


「そんな、私が身元引受人になります。だからせめて牢からは出していただけませんか」


「ベルーナ=アシャンティ。君の身分ではそこまでの権限を与えることはできない。話は終わりだ。連れていけ」


「はっ。了解しました」


 俺の四方を覆っていた牢が空中へと吊り上げられていく。

 そして、ここに入ってきた時と同じように、二人の兵士が俺の前後につく。


「ヒロさん!」

 ベルーナの声だ。


「ベルーナ。大丈夫だ。俺は何もやましいことはしてない。きっと王様にもわかってもらえるさ」

 ベルーナを心配させないように、笑顔、笑顔。


 だけど、自分でもわかるけど、ぎこちない笑顔だ。

 もっと普通に笑えよ。と、お思いかもしれないが、命の危機を脱したすぐ後だし。

 それになんか超展開もあって、思考がついてきてないのだ。


「おい、そこまでだ。行くぞ」

 槍の柄で突かれた。

 気分は犯罪者。冤罪だけどね。

 いや、無許可で城にいるだけで罪になるのかな。


 ベルーナにはああ言ったものの、俺の心は汚れててやましい気はする。命の危険があっても色気には勝てないのだ。

 この世界で唯一信じられる少女ベルーナ。

 艶めかしい色気の塊の女性アマンダ。

 それにツン属性軍人のファーラ部隊長。


 ファーラ部隊長も美人なんだよ。

 軍帽をかぶり、赤髪を後ろで束ねていたな。

 白い肌に切れ長の眉と細目の目が、美人であることを印象づけているのだ。

 それに、ほとんど表情が崩れることはなかった。その氷のような表情も惚れそうだ。


 軍服を身に着けた姿はとてもかっこいい。

 女性の中でも小柄に違いないその体は、サイズが小さいのではないかという軍服により、はち切れんばかりに女性であることを主張していた。

 トランジスタグラマーってやつだ。

 一応弁明しておくが、トランジスタグラマーって言葉は俺の若いころにはすでに死語だったからな。


 そういえば、周囲の男性兵士の背が高いので一層小柄に見えたなぁ。


 つまり、異世界の女性万歳!!


 でも、俺はただのオッサン。

 布の服とパンしか持ってないオッサンって。

 唯一の所有物だったパンは昨日牢に入れられるときに取り上げられた。

 あれ、返してもらえるんだろうか。


 そんなこんなで、また牢屋に逆戻りになったのだった。

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